マツダのEV試作車に試乗、モーター駆動は人馬一体の理想を叶える最強のアイテムとも言える
東京モーターショーで量産BEV(電気自動車、以下EV)を世界初公開すると発表したマツダ。『マツダ3』『CX-30』につづく新世代商品の第3弾となり、マツダが内燃機関にだけこだわっているわけではなく電動化へもしっかり取り組んでいることを印象付けるものとなりそうだが「マツダの開発哲学である人間中心の設計思想を基に、EVならではの特性を最大限に活かすことで、ドライバーが自然に、心から運転を楽しむことができる走りを実現しています」とアナウンスしているのが興味深い。
言い換えれば多くのユーザーがマツダに期待している走りの一体感や楽しさをエンジン車と同等かそれ以上に実現しているということ。俄には信じがたいという人もいるかもしれないが、EVの技術検証車、「e-TPV(Technology Prove-out Vehicle)」への試乗でそれは誇張でもなんでもなく、想像していたよりもずっと高い次元でEVならではのポテンシャルを引き出していることを確認した。
◆加速はあくまで自然に、ドライバーの意志に忠実
EVで走りの楽しさというと大容量バッテリーとハイパワーモーターをもつテスラ、あるいはそれに触発されて猛追をはじめた欧州プレミアム勢のハイパフォーマンス・モデルが頭に浮かぶが、e-TPVはそういった類いではない。マツダはLCA(ライフサイクルアセスメント=生産から走行、廃棄まで総合的にCO2排出量を評価)でマツダ3のエンジン車よりもCO2排出量が低くできるCセグメントのEVのバッテリー容量は35.5kWhと試算(電源構成は2016年の欧州平均、バッテリーは16万kmで交換する想定)。EVは走行中のCO2排出量は低く抑えられるものの、おもにバッテリーの生産時に多くなるので90kWh級などの大容量は不利なのだ。
そのバッテリー容量でCセグメントカーを過不足なく走らせるべくモーターのスペックは最高出力142PS、最大トルク265Nmとなった。だから、e-TPVは驚くほど速いというわけではない。もちろんモーターは低回転から太いトルクを発生するのが得意だからモーターペダル(マツダは電動車のアクセルをこう呼ぶ)をグッと踏み込めば、エンジン車よりも頼もしく、まったくレスポンス遅れを感じさせずに加速していく。それでいて、トルクの太さをいたずらに強調するようなことがなく、あくまで自然に、ドライバーの意志に忠実に加速してくれるのが、最新世代のマツダらしいところだ。
モーターペダルを戻したときの回生の効き方も自然。これを強くすることもEVだから当然できるのだが、いまのところはあえて取り入れていないという。ある程度以上の減速度になったら、ブレーキペダルを踏んだほうがドライバーの姿勢が安定するからだ。とはいえ、回生の強弱を自在に調整できるのもEVの魅力ではあるので、ドライビングモードの切り替えやパドルシフト操作での回生コントロールを盛り込むことは視野に入れているという。
◆造り込まれたサウンドが特徴
他のEVと違うのはサウンドを造り込んでドライバーに聞かせていることだ。それも、ちょっとした遊び心で官能的なエンジン風味にしました、というようなものではない。人間は力の大きさや向きを、音からも知覚していることに注目し、ほぼ無音のEV向けにサウンドを研究・開発したという。
発進すると、まずはそれほど大きくはない低い音が聞こえ始め、モーターペダルを踏み込んでいって速度があがっていくほどに高めの音が折り重なり、音量も高まっていく。それはたしかに加速に自然な感覚をもたらしていた。まさに、人間中心の発想であり、加速・減速の人馬一体を高めるものだ。エンジン音がなくなるからロードノイズや風切り音がかえって気になるEVの課題に対しても、かなり有効な手段と言える。もともと新世代商品はノイズやバイブレーションを低く抑えているが、e-TPVで造り込んだサウンドが加わると耳の心地よさが増大する。
◆パワートレイン以上に感心させられたシャシー性能
パワートレーンだけでも、マツダが造るとEVも一味違うと思わせてくれたが、それ以上にシャシー性能に感心させられた。試乗したノルウェーのフィヨルド沿いのワインディングロードは、自然の地形に合わせてアスファルトを敷いただけで、カントの変化は大きく道幅はタイトでアップダウンを常時繰り返すような難しいステージだったが、e-TPVはここで絶品のハンドリングを見せた。
低重心で重量配分も良く、バッテリーケースの安全対策のおかげでボディ剛性も有利だからハンドリングが望外にいいのは多くのEVに共通するところだが、e-TPVはもうワンランク上をいっている。おそらく、マツダお得意のGVC(Gベクタリングコントロール)の効果も大きいのだろう。エンジン車のGVCはステアリングを切り込んでいくと前輪に荷重をのせて曲がりやすくしていたが、EVではステアリングを戻していったときには後輪荷重となるモードが加わっている。そもそもエンジンよりも緻密に素早くトルクコントロールできるモーターは、GVCに持ってこいのパワートレーン。回生側でも同じようにコントロールできるのはエンジンでは成し得ないことだ。
GVCはそれとわかるほど作動をドライバーに知らせる類いのシステムではないが、エンジン車で体験すると、まるで手を路面で触っているかのような印象を前輪から受けていた。それがe-TPVでは、足で路面を蹴っているかのような印象までも後輪から受ける。つまり4輪の接地感が濃厚で、コーナーでの人馬一体感が極めて高いのだ。
マツダは3代目『プレマシー』から動きの統一感を唱え始め、GVCの導入などで徐々に進化していったが、e-TPVでは一つの完成形をみたようにさえ思える。モーター駆動は人馬一体の理想を叶える最強のアイテムとも言えるのだ。
石井昌道|モータージャーナリスト
自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。
(レスポンス 石井昌道)
言い換えれば多くのユーザーがマツダに期待している走りの一体感や楽しさをエンジン車と同等かそれ以上に実現しているということ。俄には信じがたいという人もいるかもしれないが、EVの技術検証車、「e-TPV(Technology Prove-out Vehicle)」への試乗でそれは誇張でもなんでもなく、想像していたよりもずっと高い次元でEVならではのポテンシャルを引き出していることを確認した。
◆加速はあくまで自然に、ドライバーの意志に忠実
EVで走りの楽しさというと大容量バッテリーとハイパワーモーターをもつテスラ、あるいはそれに触発されて猛追をはじめた欧州プレミアム勢のハイパフォーマンス・モデルが頭に浮かぶが、e-TPVはそういった類いではない。マツダはLCA(ライフサイクルアセスメント=生産から走行、廃棄まで総合的にCO2排出量を評価)でマツダ3のエンジン車よりもCO2排出量が低くできるCセグメントのEVのバッテリー容量は35.5kWhと試算(電源構成は2016年の欧州平均、バッテリーは16万kmで交換する想定)。EVは走行中のCO2排出量は低く抑えられるものの、おもにバッテリーの生産時に多くなるので90kWh級などの大容量は不利なのだ。
そのバッテリー容量でCセグメントカーを過不足なく走らせるべくモーターのスペックは最高出力142PS、最大トルク265Nmとなった。だから、e-TPVは驚くほど速いというわけではない。もちろんモーターは低回転から太いトルクを発生するのが得意だからモーターペダル(マツダは電動車のアクセルをこう呼ぶ)をグッと踏み込めば、エンジン車よりも頼もしく、まったくレスポンス遅れを感じさせずに加速していく。それでいて、トルクの太さをいたずらに強調するようなことがなく、あくまで自然に、ドライバーの意志に忠実に加速してくれるのが、最新世代のマツダらしいところだ。
モーターペダルを戻したときの回生の効き方も自然。これを強くすることもEVだから当然できるのだが、いまのところはあえて取り入れていないという。ある程度以上の減速度になったら、ブレーキペダルを踏んだほうがドライバーの姿勢が安定するからだ。とはいえ、回生の強弱を自在に調整できるのもEVの魅力ではあるので、ドライビングモードの切り替えやパドルシフト操作での回生コントロールを盛り込むことは視野に入れているという。
◆造り込まれたサウンドが特徴
他のEVと違うのはサウンドを造り込んでドライバーに聞かせていることだ。それも、ちょっとした遊び心で官能的なエンジン風味にしました、というようなものではない。人間は力の大きさや向きを、音からも知覚していることに注目し、ほぼ無音のEV向けにサウンドを研究・開発したという。
発進すると、まずはそれほど大きくはない低い音が聞こえ始め、モーターペダルを踏み込んでいって速度があがっていくほどに高めの音が折り重なり、音量も高まっていく。それはたしかに加速に自然な感覚をもたらしていた。まさに、人間中心の発想であり、加速・減速の人馬一体を高めるものだ。エンジン音がなくなるからロードノイズや風切り音がかえって気になるEVの課題に対しても、かなり有効な手段と言える。もともと新世代商品はノイズやバイブレーションを低く抑えているが、e-TPVで造り込んだサウンドが加わると耳の心地よさが増大する。
◆パワートレイン以上に感心させられたシャシー性能
パワートレーンだけでも、マツダが造るとEVも一味違うと思わせてくれたが、それ以上にシャシー性能に感心させられた。試乗したノルウェーのフィヨルド沿いのワインディングロードは、自然の地形に合わせてアスファルトを敷いただけで、カントの変化は大きく道幅はタイトでアップダウンを常時繰り返すような難しいステージだったが、e-TPVはここで絶品のハンドリングを見せた。
低重心で重量配分も良く、バッテリーケースの安全対策のおかげでボディ剛性も有利だからハンドリングが望外にいいのは多くのEVに共通するところだが、e-TPVはもうワンランク上をいっている。おそらく、マツダお得意のGVC(Gベクタリングコントロール)の効果も大きいのだろう。エンジン車のGVCはステアリングを切り込んでいくと前輪に荷重をのせて曲がりやすくしていたが、EVではステアリングを戻していったときには後輪荷重となるモードが加わっている。そもそもエンジンよりも緻密に素早くトルクコントロールできるモーターは、GVCに持ってこいのパワートレーン。回生側でも同じようにコントロールできるのはエンジンでは成し得ないことだ。
GVCはそれとわかるほど作動をドライバーに知らせる類いのシステムではないが、エンジン車で体験すると、まるで手を路面で触っているかのような印象を前輪から受けていた。それがe-TPVでは、足で路面を蹴っているかのような印象までも後輪から受ける。つまり4輪の接地感が濃厚で、コーナーでの人馬一体感が極めて高いのだ。
マツダは3代目『プレマシー』から動きの統一感を唱え始め、GVCの導入などで徐々に進化していったが、e-TPVでは一つの完成形をみたようにさえ思える。モーター駆動は人馬一体の理想を叶える最強のアイテムとも言えるのだ。
石井昌道|モータージャーナリスト
自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。
(レスポンス 石井昌道)
最新ニュース
-
-
日産『ノートオーラ』、新グレード「AUTECH SPORTS SPEC」登場…パフォーマンスダンパーをヤマハと共同開発
2024.12.20
-
-
-
トヨタ『bZ4X』、最大6000ドル価格引き下げ…EV初の「ナイトシェード」も設定
2024.12.20
-
-
-
トムス、アルミ削り出し鍛造プレミアムホイール「TWF03」に60系『プリウス』サイズを追加
2024.12.20
-
-
-
トヨタ『タコマ』のオフロード性能さらにアップ! 冒険志向の「トレイルハンター」2025年モデルに
2024.12.19
-
-
-
佐藤琢磨が往年のホンダF1で走行、エンジン始動イベントも…東京オートサロン2025
2024.12.19
-
-
-
レクサス『LC500』が一部改良、床下ブレース採用でボディ剛性を向上…1488万円から
2024.12.19
-
-
-
「ネーミング通りの雰囲気」トヨタの新型電動SUV『アーバンクルーザー』発表に、日本のファンも注目
2024.12.19
-
最新ニュース
-
-
日産『ノートオーラ』、新グレード「AUTECH SPORTS SPEC」登場…パフォーマンスダンパーをヤマハと共同開発
2024.12.20
-
-
-
トヨタ『bZ4X』、最大6000ドル価格引き下げ…EV初の「ナイトシェード」も設定
2024.12.20
-
-
-
トムス、アルミ削り出し鍛造プレミアムホイール「TWF03」に60系『プリウス』サイズを追加
2024.12.20
-
-
-
トヨタ『タコマ』のオフロード性能さらにアップ! 冒険志向の「トレイルハンター」2025年モデルに
2024.12.19
-
-
-
佐藤琢磨が往年のホンダF1で走行、エンジン始動イベントも…東京オートサロン2025
2024.12.19
-
-
-
レクサス『LC500』が一部改良、床下ブレース採用でボディ剛性を向上…1488万円から
2024.12.19
-
MORIZO on the Road