【VW シャランTDI 新型試乗】フル乗車で輝くディーゼル、骨格の古さは致し方なし…中村孝仁

VW シャランTDI(ディーゼル)
◆本国デビューから9年目のシャラン

現行の『シャラン』がデビューしたのは、日本市場では2011年のこと。もっとも本国での発表発売はそれを1年さかのぼる。つまりすでに今年で9年目を迎えたある意味モデル末期のクルマだ。

古いと言っても細かいアジャストを施しながら今日まで来ているわけで、基本構造そのものは古いのだが、そもそもミニバンに何を求めるか?という点になるとそれは快適性であったり、安全性であったり、機能性であったりするわけで、決して運動性能を特に求めるようなクルマではないから、必ずしも最新の骨格であったり、駆動システムの技術が必要だというわけではない。


ところが、シャランの凄いところはそれが例えば1人乗りの時の運動性能と大の大人7人がフルで乗車した時の運動性能にほとんど変わりがないところ。ヨーロッパではミニバンのことをピープルムーバーとよく言うが、人を沢山乗せて高速で移動できるということが、この種のクルマをチョイスする一つの大きな決め手なのである。だから前述した運動性能という点について手を抜いていない。

今回の試乗は1人乗車で、がらんどうの室内を見渡すと結構寂しい思いをしたが、以前ガソリン車でフル乗車と高速移動を体験し、その運動性能の高さに思い知らされたから、シャランの良さについては十分に承知しているつもりである。

◆走りが最も快適なのは1人乗車時よりもフル乗車時


そのシャランに今回はディーゼルが搭載された。これでフル乗車でもトルクフルに走れるし、燃費が気になることもないはずだから、常に大人数で高速を長距離移動する…なんて言うことをクルマに求める人にとってはうってつけなのである。

そのTDI。VWのEA288の名を持つディーゼルユニットを搭載する。このEA288、チューンのバリエーションが結構多く、日本市場でも『ゴルフ』用、『パサート』用、そしてこのシャラン用と異なるチューニングが施されていて、シャラン用は177ps、380Nmという性能を持っている。250Nmしかなかったガソリン車の時でもスイスイグイグイ走ったのだから、380Nmの威力は押して知るべしというところがあるのだが、基本的に大人数を前提に作っていて、自動車が負うべき重量もその時によって大きく変わるこの種のクルマでは、恐らくどのあたりに最良の運動性能や乗り心地の頂点を持って来たら良いのか、作り手も結構悩むのではないかと思う。

何故なら、やはりたった1人乗車の時は、決してその乗り心地が良いとは感じられないからで、特に下からの突き上げ感は少々気になるところ。これがフル乗車になるとまるで感じられずとても快適だったことを思うと、やはり前提となる条件はフル乗車なのかもしれない。また、今回のディーゼル車の場合、ガソリンエンジンと比べて相当にフロントの軸荷重が増しているはずで、1人乗車でも突き上げ感を強く感じたのは、そのあたりのバランスの違いもあるのかもしれない。

◆機能性や空間設計がVWは上手い


デッカイドンガラは2列目も3列目もシートが床下へ収納できるため、最大で2297リットルという“アリエヘン”空間を生み出してくれる。シートはすべてが独立しているので、戸別に畳むことも可能。だから移動する人間と持って行く荷物を勘案しながらうまい空間レイアウトを可能にしている。こうした機能性だったり、空間設計だったりはVWがある意味最も得意としているところで、こうしたクルマを作らせるとやはりVWは上手い。

古さを感じさせるのは、やはり骨格。流石に10年選手に近くなると、最新鋭と違って骨格の緩さを感じさせる。まあこれは致し方のないところで、大きなスライドドアだったリ、テールゲートだったりと開いてしまうスペースを考えればやむを得ない部分もある。

問題は世界的にミニバンの乗用が低下している現状で、次があるのか?という点。考えてみれば初代シャランは15年も作られたから、まだ当分はしぶとく生き残るのかもしれない。



■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来42年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める

(レスポンス 中村 孝仁)

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