【マツダ3 SKYACTIV-X 新型試乗】これまでにない加速を実感するも、あえて選ぶ理由が見えにくい…御堀直嗣
◆ガソリンでの高圧縮比を実現した独自技術「SPCCI」
マツダは、2012年の『CX-5』導入からはじまった新世代商品群の主力パワーユニットとして、SKYACTIVエンジンを搭載している。コモンアーキテクチャーといって、燃焼に対する共通概念に従い、ガソリンとディーゼルの両エンジンを開発し、その究極の姿としてHCCI(予混合圧縮)を目指してきた。そして2017年夏に、マツダ独自のSPCCI(火花点火制御圧縮着火)により、HCCIに近づけた実用エンジンの道筋を示したのであった。それが、SKYACTIV‐Xとして量産市販に移される。
HCCIとは、燃料にガソリンを使いながら、ディーゼルのように点火プラグを使わず、混合気の圧縮により生じる熱を利用して燃焼させる技術である。高い圧縮比で燃焼させるディーゼルエンジンが高効率で燃費が良いのは知られるところであり、それをガソリンでやろうという挑戦だ。世界の自動車メーカーがHCCIを開発したが、軽油に比べ揮発性の高いガソリンで圧縮比を高くするとノッキングと呼ばれる異常燃焼を起こすため実現が難しかった。
SPCCIは、混合気への着火こそ点火プラグに依存するが、そこからはディーゼルと同じように高温高圧によって燃焼室全域で圧縮着火する。そもそもSKYACTIV‐Gでは、従来のガソリンエンジンを超える高圧縮比となる14を実現し、これはいまだにほかの自動車メーカーで実現できていない。さらにSKYACTIV‐XではSPCCIによって、圧縮比14を超える15(欧州仕様は16.3)という、ディーゼルエンジン並みの高圧縮比と、理論空燃比14.7の約2倍となる空燃比30の希薄燃焼により、超低燃費を達成している。
◆世界に先駆けた新しい技術を試乗で体感
新たな新世代商品群とされる『マツダ3』からSKYACTIV‐Xは搭載され、国内での試乗会がようやく開催された。当初は、今年10月にも発売が予定されていたが、12月発売へと導入が遅れた背景には、使用ガソリンのレギュラーからプレミアムへの変更がある。
SKYACTIV‐Xは、走りだしの低回転域から手ごたえのあるトルクを発生し、そのまま高回転域まで伸びやかに回転を上げていく。あえて例えるなら、ディーゼルターボエンジンのトルク感覚と、ガソリンエンジンの高回転への伸びを併せ持ったような特性で、なおかつ、よどみない加速はこれまでのガソリンエンジンともディーゼルエンジンとも違った持ち味を備えている。世界に先駆けた新しい技術を体感した。また、SKYACTIV‐Xでは、モーター機能付発電機(ISG)を用いたマイルドハイブリッドを活用し、アイドリングストップからのエンジン再始動と、シフトアップの変速時にエンジンを素早く適切な回転数へ下げる回生の活用が行われることにより、加速中に変速ショックをほぼ感じない滑らかな速度の伸びを体験することができる。
アイドリングストップからの振動の少ない再始動と、変速ショックを覚えさせない加速の様子は、メルセデスベンツが直列6気筒ガソリン過給エンジンにISGを搭載した特性に似て、エンジン車がより上質で洗練されたクルマへ進化する様子を実感できる。それはあたかも、電気自動車(EV)の発進・加速感覚に近いものだ。ただし、エンジン車なので排気音のするところが、EVと異なる。その排気音は、心地よい音を調整したとの説明で、確かに透き通った音色には感じたが、マツダ3自体が静粛性を含め上質な乗り味を特徴としていることもあり、ロードスターならいいかもしれないが、ややうるさい印象もある。
◆販売価格と燃料代の差をどう考えるか
SKYACTIV‐X搭載車両(ハッチバック車)は、販売価格が314万~362万1400円となる。これに対し、ガソリンエンジン車は218万1000~271万9000円、ディーゼルエンジン車は274万~322万1400円の値付けである。同排気量(2L)のガソリンエンジン車比較で67万円の差だ。排気量は1.8Lだが、ディーゼル車との比較でも40万円高となる。なおかつSKYACTIV‐Xは、プレミアムガソリンを使用するので、燃料代が高い。
マツダは、ガソリンエンジン車よりSKYACTIV‐Xは20%以上燃費が良いので、レギュラーガソリンとプレミアムガソリンの価格差は相殺されるという。
だが、2012年の新世代商品群第1弾のCX‐5登場から、マツダはディーゼル車がガソリン車と遜色ない性能でありながら、安い軽油の燃料代で乗れると経済性を主張してきた。ならば、今回のSKYACTIV‐Xの経済性に関しては、ディーゼル車との比較での車両価格差や、燃料代の経済性で比較されるべきではないだろうか。
また、ハイブリッド車のトヨタ『プリウス』は、実用燃費において25km/リットルはほぼ出せる実力を持ち、その燃料はレギュラーガソリンである。対してSKYACTIV‐Xは、カタログ燃費で17km/リットル強であり、車両の持ち味や商品性の違いはあるものの、環境性能と経済性の視点からすると、あえて高価なSKYACTIV‐X車を選ぶ理由は、必ずしも明確ではない。
マツダは、ウェル・トゥ・ホイールの視点で、高効率のエンジン車は火力発電に依存するEVと環境性能で差が少ないという。だが、EVを購入した人が自宅に太陽光発電を設置するようになれば全く勝負にならない。EVを買うと起こるそうした消費者心理を、念頭に入れていない。過去のデータを基準とした既存の電力網しか考慮しないウェル・トゥ・ホイール論は、技術の潜在能力を必ずしも示していないのだ。世界が到達できなかったエンジン技術への挑戦と努力、そしてこれまでにない運転感覚をもたらすエンジン特性は素晴らしい。しかし商品として選ぶ理由がSKYACTIV‐Xに見えにくいのである。
■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★
御堀直嗣|フリーランス・ライター
玉川大学工学部卒業。1988~89年FL500参戦。90~91年FJ1600参戦(優勝1回)。94年からフリーランスライターとなる。著書は、『知らなきゃヤバイ!電気自動車は市場をつくれるか』『ハイブリッドカーのしくみがよくわかる本』『電気自動車は日本を救う』『クルマはなぜ走るのか』『電気自動車が加速する!』『クルマ創りの挑戦者たち』『メルセデスの魂』『未来カー・新型プリウス』『高性能タイヤ理論』『図解エコフレンドリーカー』『燃料電池のすべてが面白いほどわかる本』『ホンダトップトークス』『快走・電気自動車レーシング』『タイヤの科学』『ホンダF1エンジン・究極を目指して』『ポルシェへの頂上作戦・高性能タイヤ開発ストーリー』など20冊。
(レスポンス 御堀直嗣)
マツダは、2012年の『CX-5』導入からはじまった新世代商品群の主力パワーユニットとして、SKYACTIVエンジンを搭載している。コモンアーキテクチャーといって、燃焼に対する共通概念に従い、ガソリンとディーゼルの両エンジンを開発し、その究極の姿としてHCCI(予混合圧縮)を目指してきた。そして2017年夏に、マツダ独自のSPCCI(火花点火制御圧縮着火)により、HCCIに近づけた実用エンジンの道筋を示したのであった。それが、SKYACTIV‐Xとして量産市販に移される。
HCCIとは、燃料にガソリンを使いながら、ディーゼルのように点火プラグを使わず、混合気の圧縮により生じる熱を利用して燃焼させる技術である。高い圧縮比で燃焼させるディーゼルエンジンが高効率で燃費が良いのは知られるところであり、それをガソリンでやろうという挑戦だ。世界の自動車メーカーがHCCIを開発したが、軽油に比べ揮発性の高いガソリンで圧縮比を高くするとノッキングと呼ばれる異常燃焼を起こすため実現が難しかった。
SPCCIは、混合気への着火こそ点火プラグに依存するが、そこからはディーゼルと同じように高温高圧によって燃焼室全域で圧縮着火する。そもそもSKYACTIV‐Gでは、従来のガソリンエンジンを超える高圧縮比となる14を実現し、これはいまだにほかの自動車メーカーで実現できていない。さらにSKYACTIV‐XではSPCCIによって、圧縮比14を超える15(欧州仕様は16.3)という、ディーゼルエンジン並みの高圧縮比と、理論空燃比14.7の約2倍となる空燃比30の希薄燃焼により、超低燃費を達成している。
◆世界に先駆けた新しい技術を試乗で体感
新たな新世代商品群とされる『マツダ3』からSKYACTIV‐Xは搭載され、国内での試乗会がようやく開催された。当初は、今年10月にも発売が予定されていたが、12月発売へと導入が遅れた背景には、使用ガソリンのレギュラーからプレミアムへの変更がある。
SKYACTIV‐Xは、走りだしの低回転域から手ごたえのあるトルクを発生し、そのまま高回転域まで伸びやかに回転を上げていく。あえて例えるなら、ディーゼルターボエンジンのトルク感覚と、ガソリンエンジンの高回転への伸びを併せ持ったような特性で、なおかつ、よどみない加速はこれまでのガソリンエンジンともディーゼルエンジンとも違った持ち味を備えている。世界に先駆けた新しい技術を体感した。また、SKYACTIV‐Xでは、モーター機能付発電機(ISG)を用いたマイルドハイブリッドを活用し、アイドリングストップからのエンジン再始動と、シフトアップの変速時にエンジンを素早く適切な回転数へ下げる回生の活用が行われることにより、加速中に変速ショックをほぼ感じない滑らかな速度の伸びを体験することができる。
アイドリングストップからの振動の少ない再始動と、変速ショックを覚えさせない加速の様子は、メルセデスベンツが直列6気筒ガソリン過給エンジンにISGを搭載した特性に似て、エンジン車がより上質で洗練されたクルマへ進化する様子を実感できる。それはあたかも、電気自動車(EV)の発進・加速感覚に近いものだ。ただし、エンジン車なので排気音のするところが、EVと異なる。その排気音は、心地よい音を調整したとの説明で、確かに透き通った音色には感じたが、マツダ3自体が静粛性を含め上質な乗り味を特徴としていることもあり、ロードスターならいいかもしれないが、ややうるさい印象もある。
◆販売価格と燃料代の差をどう考えるか
SKYACTIV‐X搭載車両(ハッチバック車)は、販売価格が314万~362万1400円となる。これに対し、ガソリンエンジン車は218万1000~271万9000円、ディーゼルエンジン車は274万~322万1400円の値付けである。同排気量(2L)のガソリンエンジン車比較で67万円の差だ。排気量は1.8Lだが、ディーゼル車との比較でも40万円高となる。なおかつSKYACTIV‐Xは、プレミアムガソリンを使用するので、燃料代が高い。
マツダは、ガソリンエンジン車よりSKYACTIV‐Xは20%以上燃費が良いので、レギュラーガソリンとプレミアムガソリンの価格差は相殺されるという。
だが、2012年の新世代商品群第1弾のCX‐5登場から、マツダはディーゼル車がガソリン車と遜色ない性能でありながら、安い軽油の燃料代で乗れると経済性を主張してきた。ならば、今回のSKYACTIV‐Xの経済性に関しては、ディーゼル車との比較での車両価格差や、燃料代の経済性で比較されるべきではないだろうか。
また、ハイブリッド車のトヨタ『プリウス』は、実用燃費において25km/リットルはほぼ出せる実力を持ち、その燃料はレギュラーガソリンである。対してSKYACTIV‐Xは、カタログ燃費で17km/リットル強であり、車両の持ち味や商品性の違いはあるものの、環境性能と経済性の視点からすると、あえて高価なSKYACTIV‐X車を選ぶ理由は、必ずしも明確ではない。
マツダは、ウェル・トゥ・ホイールの視点で、高効率のエンジン車は火力発電に依存するEVと環境性能で差が少ないという。だが、EVを購入した人が自宅に太陽光発電を設置するようになれば全く勝負にならない。EVを買うと起こるそうした消費者心理を、念頭に入れていない。過去のデータを基準とした既存の電力網しか考慮しないウェル・トゥ・ホイール論は、技術の潜在能力を必ずしも示していないのだ。世界が到達できなかったエンジン技術への挑戦と努力、そしてこれまでにない運転感覚をもたらすエンジン特性は素晴らしい。しかし商品として選ぶ理由がSKYACTIV‐Xに見えにくいのである。
■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★
御堀直嗣|フリーランス・ライター
玉川大学工学部卒業。1988~89年FL500参戦。90~91年FJ1600参戦(優勝1回)。94年からフリーランスライターとなる。著書は、『知らなきゃヤバイ!電気自動車は市場をつくれるか』『ハイブリッドカーのしくみがよくわかる本』『電気自動車は日本を救う』『クルマはなぜ走るのか』『電気自動車が加速する!』『クルマ創りの挑戦者たち』『メルセデスの魂』『未来カー・新型プリウス』『高性能タイヤ理論』『図解エコフレンドリーカー』『燃料電池のすべてが面白いほどわかる本』『ホンダトップトークス』『快走・電気自動車レーシング』『タイヤの科学』『ホンダF1エンジン・究極を目指して』『ポルシェへの頂上作戦・高性能タイヤ開発ストーリー』など20冊。
(レスポンス 御堀直嗣)
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