【GRヤリス プロトタイプ試乗】完全リア駆動も!?「勝つ」ためのマシンは何もかもが違う…大谷達也
次期型『ヤリス』のプロトタイプに試乗した興奮もまだ冷めやらないというのに、今度はそのハイパフォーマンス版というべき『GRヤリス・プロトタイプ』を味見するチャンスが巡ってきた。こんなに早いタイミングでGRヤリスを作り上げた意図はどこにあったのか? まずはそこを考えてみよう。
◆「WRCで勝つ」ために生まれたGRヤリス
トヨタは2017年に世界ラリー選手権(WRC)への参戦を再開。ここで世界の強豪に挑むためにトヨタがトミ・マキネン・レーシングと共同で作り上げたのが「ヤリスWRC」だった。その戦闘力は高く、参戦2年目の2018年にはマニュファクチュアラーズ・タイトルを獲得。2019年はトヨタ・ヤリスを走らせるオット・タナック選手がドライバーズ・チャンピオンに輝いた。
いっぽう、その基本となる量産モデルのヤリス(かつてのヴィッツ)は先ごろフルモデルチェンジを受け、2019年10月にお披露目がされた。ということは、WRCを戦う競技車も新型に切り替わるわけだが、そのためには新型ヤリスを2万5000台以上、ベースモデル(この場合はGRヤリス)を2500台以上、連続する12か月間に販売しなければいけない。さもなければ型遅れのモデルでWRCを戦うことになるので、参戦によるプロモーション効果は半減。そこで、WRCカーのベースとなるGRヤリスの開発が急がれたというわけだ。
ところで、実際にWRCを戦うWRカー(つまりヤリスWRC)はベースモデルから一定範囲の改造が許されるが、ベースモデルのパフォーマンスが高ければWRカーの戦闘力も自然と高くなり、WRCでの好成績が期待できる。とはいえ、ベースモデルといえども2500台を量産しなければいけないので、普通はそれほどコストをかけられない。ところがトヨタは新型GRヤリスに市販型ヤリスとは大きく異なる技術を惜しみなく投入。これによって次期型WRCヤリスの優位性をさらに引き上げようとしている。つまり、トヨタは今後も本気で「WRCでの勝ち」を狙っているのだ。
◆完全リア駆動も!? ノーマルヤリスとは何もかも違う
では、新型GRヤリスのどこがどれほど特別なのか? 今回の試乗会ではそのごく概略しか示されなかったが、それでも通常の量産モデルには存在しない3ドアを、軽量化と空力特性のためにわざわざ用意するとともに、主に空力特性のためにより低いルーフ形状を採用。さらにこのルーフをカーボンコンポジットの一種であるSMC製にしたという。
エンジンは新開発の1.6リットル直3ターボを搭載。3気筒と聞くと軽自動車用と思われるかもしれないが、小型軽量なうえに4気筒と違って排気干渉が置きにくく、エグゾーストパイプをレイアウトする際の自由度が増すメリットがある。
さらに特徴的なのが4WDの駆動系で、詳細は明かされなかったものの前後のトルク配分を100:0から0:100まで可変できるというから驚く。電子制御で前後のトルク配分ができる4WDの場合、前輪駆動ベースのモデルではF:R=100:0~50:50で可変できるのが一般的。これでF:R=0:100を実現しようとすると、通常は直結されているフロントへの駆動力を断ち切る機構が必要になるが、そこまで複雑なメカニズムを採用した量産4WDモデルを私は知らない。
その詳細は2020年1月10日に予定されているGRヤリスの正式発表で明らかになるはずなので、楽しみに待ちたい。
◆オフロードで体感したリニアなエンジンフィール
今回の試乗会は3つのステージで行われた。ひとつはラリーコースを模したグラベル路面、あとふたつは舗装路上にパイロンを並べたハンドリングコースである。試乗車のスペックはそれぞれのコースで微妙に異なっていて、グラベル路面ではラリー用のセッティングが施されたラリー・タイヤ装着車で、メカニズムは新型だが外観は旧型という“ハイブリッドモデル”。ふたつあるハンドリングコースの片方でも、タイヤやセッティングはオンロード用に改められたものの同じくハイブリッドモデルを使用し、残る1か所のハンドリングコースでは外観も新型のGRヤリスに試乗できた。
では、その印象はどうだったのか? 最初に試したオフロードコースでは低速域から力強いトルクを生み出すエンジンのパフォーマンスにまず心を奪われた。レスポンス自体は驚くほど鋭いとはいわないものの、スロットル操作に対するリニアリティが確保されていて非常に扱い易いと感じた。
肝心の4WD機構は手元のスイッチでノーマル、スポーツ、トラックの3段階に切り替え可能で、ノーマルではスロットルオフなどでセンターデフがオープンになり、トラックでは常時固定の状態。スポーツではその中間的な設定になるという。
当然のことながらノーマルではアンダーステア傾向がもっとも強まるが、それでもエンジンのあまりあるパワーを用いればテールスライドに持ち込むのは簡単。ただし、一度滑らせたあとでオーバーステアの状態を保ち続けるのは容易ではなかった。それが、スポーツ、トラックとモードを切り替えていくたびにコントロール性が高まり、スロットル操作でスライド量を操る余地が次第に広がっていくことが確認できた。
◆想像以上にアンダーステア傾向に躾けられていた
続いてオンロードのパイロンコースでの試乗に移る。おそらくはタイヤや駆動系を痛めないための措置として路面はウェット状態に保たれていたが、テールスライドなどを誘発するならむしろこのほうが都合がいい。そう思って走り始めたのだが、ただステアリングを切ってスロットルペダルを踏み込むだけではアンダーステアになるばかりでテールスライドは引き出せない。そこであの手この手を使ってみたところ、横Gが限界付近に達したところでやや強めにブレーキペダルを踏むとオーバーステアの態勢を作り出せた。
ただし、その状態からスロットルペダルを踏み込んでもオーバーステアを維持できず、むしろリアのグリップが回復するような傾向が見受けられた。また、4WDのモード設定についていえば基本的にはトラックがいちばんコントロールしやすいものの、ほかのモードとの差はオフロード走行時ほど感じなかった。
実は、状況次第でリアのトルク配分が100%になると聞いた段階で、スロットルオンで容易にオーバーステアが引き出せるセッティングなのかと想像していたが、現実には、私が予想していた以上にアンダーステア傾向に躾けられていた。もちろん、これは私のドライビングスキルが不足しているためかもしれないが、無闇にオーバーステアにしないセッティングは、そのほうがすべりやすい路面でも確実にトラクションを得るために必要な措置かもしれない。
もっとも、実際の製品版はこれから発売されるまでにまだまだ開発が行われることだろう。そのときにどんなセッティングに仕上げられるのか、いまから楽しみだ。
大谷達也|自動車ライター
元電気系エンジニアという経歴を持つせいか、最近は次世代エコカーとスーパースポーツカーという両極端なクルマを取材す ることが多い。いっぽうで「正確な知識に基づき、難しい話を平易な言葉で説明する」が執筆活動のテーマでもある。以前はCAR GRAPHIC編集部に20年間勤務し、副編集長を務めた。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本モータースポーツ記者会会長。
(レスポンス 大谷達也)
◆「WRCで勝つ」ために生まれたGRヤリス
トヨタは2017年に世界ラリー選手権(WRC)への参戦を再開。ここで世界の強豪に挑むためにトヨタがトミ・マキネン・レーシングと共同で作り上げたのが「ヤリスWRC」だった。その戦闘力は高く、参戦2年目の2018年にはマニュファクチュアラーズ・タイトルを獲得。2019年はトヨタ・ヤリスを走らせるオット・タナック選手がドライバーズ・チャンピオンに輝いた。
いっぽう、その基本となる量産モデルのヤリス(かつてのヴィッツ)は先ごろフルモデルチェンジを受け、2019年10月にお披露目がされた。ということは、WRCを戦う競技車も新型に切り替わるわけだが、そのためには新型ヤリスを2万5000台以上、ベースモデル(この場合はGRヤリス)を2500台以上、連続する12か月間に販売しなければいけない。さもなければ型遅れのモデルでWRCを戦うことになるので、参戦によるプロモーション効果は半減。そこで、WRCカーのベースとなるGRヤリスの開発が急がれたというわけだ。
ところで、実際にWRCを戦うWRカー(つまりヤリスWRC)はベースモデルから一定範囲の改造が許されるが、ベースモデルのパフォーマンスが高ければWRカーの戦闘力も自然と高くなり、WRCでの好成績が期待できる。とはいえ、ベースモデルといえども2500台を量産しなければいけないので、普通はそれほどコストをかけられない。ところがトヨタは新型GRヤリスに市販型ヤリスとは大きく異なる技術を惜しみなく投入。これによって次期型WRCヤリスの優位性をさらに引き上げようとしている。つまり、トヨタは今後も本気で「WRCでの勝ち」を狙っているのだ。
◆完全リア駆動も!? ノーマルヤリスとは何もかも違う
では、新型GRヤリスのどこがどれほど特別なのか? 今回の試乗会ではそのごく概略しか示されなかったが、それでも通常の量産モデルには存在しない3ドアを、軽量化と空力特性のためにわざわざ用意するとともに、主に空力特性のためにより低いルーフ形状を採用。さらにこのルーフをカーボンコンポジットの一種であるSMC製にしたという。
エンジンは新開発の1.6リットル直3ターボを搭載。3気筒と聞くと軽自動車用と思われるかもしれないが、小型軽量なうえに4気筒と違って排気干渉が置きにくく、エグゾーストパイプをレイアウトする際の自由度が増すメリットがある。
さらに特徴的なのが4WDの駆動系で、詳細は明かされなかったものの前後のトルク配分を100:0から0:100まで可変できるというから驚く。電子制御で前後のトルク配分ができる4WDの場合、前輪駆動ベースのモデルではF:R=100:0~50:50で可変できるのが一般的。これでF:R=0:100を実現しようとすると、通常は直結されているフロントへの駆動力を断ち切る機構が必要になるが、そこまで複雑なメカニズムを採用した量産4WDモデルを私は知らない。
その詳細は2020年1月10日に予定されているGRヤリスの正式発表で明らかになるはずなので、楽しみに待ちたい。
◆オフロードで体感したリニアなエンジンフィール
今回の試乗会は3つのステージで行われた。ひとつはラリーコースを模したグラベル路面、あとふたつは舗装路上にパイロンを並べたハンドリングコースである。試乗車のスペックはそれぞれのコースで微妙に異なっていて、グラベル路面ではラリー用のセッティングが施されたラリー・タイヤ装着車で、メカニズムは新型だが外観は旧型という“ハイブリッドモデル”。ふたつあるハンドリングコースの片方でも、タイヤやセッティングはオンロード用に改められたものの同じくハイブリッドモデルを使用し、残る1か所のハンドリングコースでは外観も新型のGRヤリスに試乗できた。
では、その印象はどうだったのか? 最初に試したオフロードコースでは低速域から力強いトルクを生み出すエンジンのパフォーマンスにまず心を奪われた。レスポンス自体は驚くほど鋭いとはいわないものの、スロットル操作に対するリニアリティが確保されていて非常に扱い易いと感じた。
肝心の4WD機構は手元のスイッチでノーマル、スポーツ、トラックの3段階に切り替え可能で、ノーマルではスロットルオフなどでセンターデフがオープンになり、トラックでは常時固定の状態。スポーツではその中間的な設定になるという。
当然のことながらノーマルではアンダーステア傾向がもっとも強まるが、それでもエンジンのあまりあるパワーを用いればテールスライドに持ち込むのは簡単。ただし、一度滑らせたあとでオーバーステアの状態を保ち続けるのは容易ではなかった。それが、スポーツ、トラックとモードを切り替えていくたびにコントロール性が高まり、スロットル操作でスライド量を操る余地が次第に広がっていくことが確認できた。
◆想像以上にアンダーステア傾向に躾けられていた
続いてオンロードのパイロンコースでの試乗に移る。おそらくはタイヤや駆動系を痛めないための措置として路面はウェット状態に保たれていたが、テールスライドなどを誘発するならむしろこのほうが都合がいい。そう思って走り始めたのだが、ただステアリングを切ってスロットルペダルを踏み込むだけではアンダーステアになるばかりでテールスライドは引き出せない。そこであの手この手を使ってみたところ、横Gが限界付近に達したところでやや強めにブレーキペダルを踏むとオーバーステアの態勢を作り出せた。
ただし、その状態からスロットルペダルを踏み込んでもオーバーステアを維持できず、むしろリアのグリップが回復するような傾向が見受けられた。また、4WDのモード設定についていえば基本的にはトラックがいちばんコントロールしやすいものの、ほかのモードとの差はオフロード走行時ほど感じなかった。
実は、状況次第でリアのトルク配分が100%になると聞いた段階で、スロットルオンで容易にオーバーステアが引き出せるセッティングなのかと想像していたが、現実には、私が予想していた以上にアンダーステア傾向に躾けられていた。もちろん、これは私のドライビングスキルが不足しているためかもしれないが、無闇にオーバーステアにしないセッティングは、そのほうがすべりやすい路面でも確実にトラクションを得るために必要な措置かもしれない。
もっとも、実際の製品版はこれから発売されるまでにまだまだ開発が行われることだろう。そのときにどんなセッティングに仕上げられるのか、いまから楽しみだ。
大谷達也|自動車ライター
元電気系エンジニアという経歴を持つせいか、最近は次世代エコカーとスーパースポーツカーという両極端なクルマを取材す ることが多い。いっぽうで「正確な知識に基づき、難しい話を平易な言葉で説明する」が執筆活動のテーマでもある。以前はCAR GRAPHIC編集部に20年間勤務し、副編集長を務めた。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本モータースポーツ記者会会長。
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