【VW Tクロス 新型試乗】時代は変わった!リッターカー今昔物語…中村孝仁
VWのコンパクトSUV、『Tクロス』が日本に導入された。このクルマ、『ポロ』をベースにSUV化したモデルで、そのサイズ感とユーティリティーの高さから日本市場でもポロを食ってしまうのでは?という印象すらある。
ところでこのクルマに搭載されているエンジンは1リットル3気筒ターボ。今ではこのセグメントでは世界的に当たり前のエンジンでもある。しかしおよそ40年前、この1リットル3気筒エンジンはまだまだ稀有なエンジンであった。
◆リッターカー今昔物語
そもそも排気量が1リットルであることからリッターカーと呼ばれていた時代。その先鞭をつけたのは日本ではダイハツ『シャレード』であった。そもそも4サイクル3気筒エンジンはとても稀少だった。3気筒はそれ以前からサーブやDKWなどヨーロッパのメーカーが作っていたが、いずれも2サイクルのエンジンである。
4サイクルで採用されなかった理由は振動の問題。敢えて3気筒にする必然性もなかったのかもしれない。初期シャレードのエンジンは55ps、76Nm。ターボを装備したモデルでも72ps、102Nmに過ぎなかった。時代が変わり、今Tクロス用の3気筒ターボは116ps、200Nmである。200Nmと言えば2リットル級NAエンジンのトルク値だ。だから時代は変わったものである。
それに当時のシャレードは5平米カーと呼ばれていた。床面積が5平方メートルを意味する。翻ってTクロス、その床面積はおおよそ7.3平方メートルだから、当時と比べてだいぶ大型化している。リッターカーはある意味では我慢のクルマだったが、今のリッターカーはいやいや、堂々としたものである。
◆久々にVWらしいVWに乗った気がした
昔だったら、キーを受け取って試乗に…と書くところだが、最近試乗車のキーはクルマの中に放り込まれているケースがほとんど。そもそも、キーなどというものが無くなっているから昔とは違う。で、走り始めて思ったことだが、VWというメーカーはこのサイズのコンパクトカーを作らせたらやっぱり抜きん出た実力を発揮するということ。正直久々にVWらしいVWに乗った気がした。
じゃあポロや『ゴルフ』にVWらしさはないのか?と突っ込まれそうだが、もちろんある。ただ、ポロにしてもそうだがどうも上級移行しようという色気みたいなものを感じてしまって、本来のVWが持っていたような質実剛健さよりも、豪華さとか華麗さを売りにした印象が強くて、それは何となくVWの領域とは少し違うんじゃないか?というような勝手な違和感を持っていたものだから、このTクロスの気取りのない、というか外連味のないイメージにとても好感が持てたのである。
◆ユーティリティーが高く、装備も相当に充実
それに何よりもユーティリティーが高い。ポロと比べて縦横高さともに拡大しているから、室内の居住空間だけでなくラゲッジスペースも拡大している。その容量はリアシートを使った状態で385~455リットル。この違いが何かと言うと、リアシート全体が前後に140mm動かせるためにこの差が出来る。
シートを畳んだ最大容量は1281リットルだ。ポロの350~1125リットルに比べると明らかに大きいし、それを状況に応じて乗員優先か荷物優先かに使い分けることが出来るところがうれしい。少し前まではコンパクトカーにはこの種の可動リアシートが付いているハッチバックはよくあったのだが、最近そんな便利なモデルがすっかりなくなった。
装備も相当に充実している。今回の試乗車は「TSI 1st Plus」という一応導入記念特別仕様車ということにはなっているが、広報の説明では限定と言っても数を指定しているわけでもないし、比較的長くこの仕様を販売するということなので、今のところはこのTSI 1st PlusとよりベーシックなTSI 1stという仕様しかない。そして、そのどちらにもACCをはじめとした各種安全デバイスやLEDヘッドライトなどが標準装備となる。
◆コンパクト市場はハッチバックからクロスオーバーへ
前述したが、最大トルクは200Nm/2000~3500rpmである。車両重量はそこそこ重い1270kgだが、例え3気筒と言えども力不足は全く感じない。まあ、一人乗車なので乗車人数が増えていった時はこの限りではないかもしれないが、一人乗車では実に軽快で俊敏な走りをする。
例によって、非常に速くシフトアップして低回転域で作動させるVW独特のドライブトレーンは、精々50km/h程度の速度域までは常に1500rpm前後で推移し、静粛性に恩恵を与える。急ぐ旅ではないと割り切ってしまえば恐らく相当な燃費を稼げるはずである。
少し気になっていた乾式7速DSGのいわゆる渋滞状況内での走りであるが、今回の試乗コースに渋滞はなかったので、意図的にそのような走りをしてみたが個人的には大いに改善されていて、不都合は感じなかった。
お値段は299万9000円から335万9000円。ポロの価格はつい最近引き上げられて262万3000円~306万9000円(1リットルエンジン搭載車のみ)だから、ハッチバックからクロスオーバーに流れる可能性は特にこのコンパクトなクルマの市場では考えられると思う。
■5つ星表k
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来42年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。 また、現在は企業向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。
(レスポンス 中村 孝仁)
ところでこのクルマに搭載されているエンジンは1リットル3気筒ターボ。今ではこのセグメントでは世界的に当たり前のエンジンでもある。しかしおよそ40年前、この1リットル3気筒エンジンはまだまだ稀有なエンジンであった。
◆リッターカー今昔物語
そもそも排気量が1リットルであることからリッターカーと呼ばれていた時代。その先鞭をつけたのは日本ではダイハツ『シャレード』であった。そもそも4サイクル3気筒エンジンはとても稀少だった。3気筒はそれ以前からサーブやDKWなどヨーロッパのメーカーが作っていたが、いずれも2サイクルのエンジンである。
4サイクルで採用されなかった理由は振動の問題。敢えて3気筒にする必然性もなかったのかもしれない。初期シャレードのエンジンは55ps、76Nm。ターボを装備したモデルでも72ps、102Nmに過ぎなかった。時代が変わり、今Tクロス用の3気筒ターボは116ps、200Nmである。200Nmと言えば2リットル級NAエンジンのトルク値だ。だから時代は変わったものである。
それに当時のシャレードは5平米カーと呼ばれていた。床面積が5平方メートルを意味する。翻ってTクロス、その床面積はおおよそ7.3平方メートルだから、当時と比べてだいぶ大型化している。リッターカーはある意味では我慢のクルマだったが、今のリッターカーはいやいや、堂々としたものである。
◆久々にVWらしいVWに乗った気がした
昔だったら、キーを受け取って試乗に…と書くところだが、最近試乗車のキーはクルマの中に放り込まれているケースがほとんど。そもそも、キーなどというものが無くなっているから昔とは違う。で、走り始めて思ったことだが、VWというメーカーはこのサイズのコンパクトカーを作らせたらやっぱり抜きん出た実力を発揮するということ。正直久々にVWらしいVWに乗った気がした。
じゃあポロや『ゴルフ』にVWらしさはないのか?と突っ込まれそうだが、もちろんある。ただ、ポロにしてもそうだがどうも上級移行しようという色気みたいなものを感じてしまって、本来のVWが持っていたような質実剛健さよりも、豪華さとか華麗さを売りにした印象が強くて、それは何となくVWの領域とは少し違うんじゃないか?というような勝手な違和感を持っていたものだから、このTクロスの気取りのない、というか外連味のないイメージにとても好感が持てたのである。
◆ユーティリティーが高く、装備も相当に充実
それに何よりもユーティリティーが高い。ポロと比べて縦横高さともに拡大しているから、室内の居住空間だけでなくラゲッジスペースも拡大している。その容量はリアシートを使った状態で385~455リットル。この違いが何かと言うと、リアシート全体が前後に140mm動かせるためにこの差が出来る。
シートを畳んだ最大容量は1281リットルだ。ポロの350~1125リットルに比べると明らかに大きいし、それを状況に応じて乗員優先か荷物優先かに使い分けることが出来るところがうれしい。少し前まではコンパクトカーにはこの種の可動リアシートが付いているハッチバックはよくあったのだが、最近そんな便利なモデルがすっかりなくなった。
装備も相当に充実している。今回の試乗車は「TSI 1st Plus」という一応導入記念特別仕様車ということにはなっているが、広報の説明では限定と言っても数を指定しているわけでもないし、比較的長くこの仕様を販売するということなので、今のところはこのTSI 1st PlusとよりベーシックなTSI 1stという仕様しかない。そして、そのどちらにもACCをはじめとした各種安全デバイスやLEDヘッドライトなどが標準装備となる。
◆コンパクト市場はハッチバックからクロスオーバーへ
前述したが、最大トルクは200Nm/2000~3500rpmである。車両重量はそこそこ重い1270kgだが、例え3気筒と言えども力不足は全く感じない。まあ、一人乗車なので乗車人数が増えていった時はこの限りではないかもしれないが、一人乗車では実に軽快で俊敏な走りをする。
例によって、非常に速くシフトアップして低回転域で作動させるVW独特のドライブトレーンは、精々50km/h程度の速度域までは常に1500rpm前後で推移し、静粛性に恩恵を与える。急ぐ旅ではないと割り切ってしまえば恐らく相当な燃費を稼げるはずである。
少し気になっていた乾式7速DSGのいわゆる渋滞状況内での走りであるが、今回の試乗コースに渋滞はなかったので、意図的にそのような走りをしてみたが個人的には大いに改善されていて、不都合は感じなかった。
お値段は299万9000円から335万9000円。ポロの価格はつい最近引き上げられて262万3000円~306万9000円(1リットルエンジン搭載車のみ)だから、ハッチバックからクロスオーバーに流れる可能性は特にこのコンパクトなクルマの市場では考えられると思う。
■5つ星表k
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