【シトロエン ベルランゴ 新型試乗】瞬殺で完売した理由、そしてカングーとの違いは…中村孝仁
◆5時間半で完売したシトロエン・ベルランゴ
20020年2月1日付で新たにグループPSAジャパンと社名を変更したPSA、即ちプジョー・シトロエン。昨年から販売が好調で今年もニューモデルを大胆に投入しそうだ。
そんな中で昨年発表だけしてとりあえず、「デビューエディション」と称する限定モデルが少数導入されたのが、シトロエン『ベルランゴ』である。ネット申し込みだったが、驚いたことに僅か5時間半で完売。追加投入するも瞬殺で完売したと聞く。
いずれにしてもこのPSA製のいわゆるMPVを待ち焦がれていた人が、少なからずいるという証拠である。かつて、日本国内でルノー『カングー』が大流行りし始めた時、当時のPSAの人に何故ベルランゴや当時のプジョー『パートナー』を導入しないのか?と尋ねたことがあるが、答えはATが存在しなかったから。しかし、新しいベルランゴと車名を『リフター』と変えたプジョー版のモデルにはようやくATが用意されて、それが導入のきっかけとなったことは間違いない。
その瞬殺で完売したベルランゴの貴重な1台の広報車を、贅沢にも1週間使わせていただいた。昨年、実は個人的にルノー・カングーを購入直前まで行ったことがある。しかしそれを思いとどまらせたのは、「中村さん、ちょっと待った方が良いよ」の一言だった。敢えてどなたがそう言ったかは伏せるが、今回ベルランゴに試乗して、待ちは正解だったように感じる。
◆ルノー・カングーとの違いは
カングーはありとあらゆる点で今我が家のクルマのニーズに合っているものだった。即ち大容量の荷物が積めて、サイドドアがスライド式。そこそこのサイズで軽快に走れる。これをすべて叶えてくれる。ただ、カングーで引っかかったのはそのかなりのプリミティブさ。少なくともADAS系は全く装備されておらず、今時キーシリンダーに鍵を差し込んで捻ってエンジンをかける。そんなことどうでもいいじゃん?って思うかもしれないが、そんなクルマはほかにうちにあるので、せめて普段使いはもっと楽に乗れるクルマがいいと思っていた。
その点新しいベルランゴは、例えば駐車の際はリアカメラで後方が確認できるし、四隅はセンサーで危なくなると知らせてくれる。キーはもちろんカバンに放り込んでいるだけでドアノブを触れば開錠施錠が可能だし、エンジンはプッシュボタン式でいちいち再びカバンからキーを取り出す必要はない…等々、完全に現代風に仕上がっている。
もう一つ、ベルランゴに傾いた理由が、後席が3席独立したシートであること。カングーは6:4分割可倒で、これだとチャイルドシートは左右に振り分けで装着する必要があり、大人が真ん中に座ることになるのだが、3席独立ならチャイルドシートをどこに付けようがOKという大きな利点があった(あくまでも我が家)。
使い勝手というものは、購入する人がどのようにそのクルマを使うかで大きく異なる。例えば単純にいっぱい荷物を運びたい…そう思えばラゲッジスペースがだいぶ大きいカングーの方が有利である。また、運転を思うぞんぶ愉しみたいと思ったらやはりマニュアルの用意があるカングーで決まりだ。だから、プリミティブでもカングーにメリットが無いわけでは決してないのである。
◆シトロエンの例に洩れず、快適なことこの上ない
という前提でベルランゴのお話をしよう。全長こそ4.4mほどだから大したサイズではないが、全幅は1.85m近くあってこれはだいぶ大きい。もっともカングーもサイズは似たようなものだ。カングーとだいぶ違っていたのは左前の車両感覚がとても掴みづらかった点。路肩に結構いっぱい寄せたつもりでも自分の感覚より30cmは余計に離れていた。まあ、その分擦らないで済むと考えればよいが、すれ違いなどでは何度か窮したことがあった。
ATはアイシン製の8速AT。しかも操作はダイヤルタイプのセレクターで行う。そして組み合わされるエンジンはプジョー『308』に搭載されているのと同じ、1.5リットルターボディーゼルだ。今回は横浜から栃木、群馬の山の中を巡り、往復を東北道でつないだルート。おおよそ450kmを走った総平均の燃費は16.9km/リットルである。ボディサイズを考えればかなり優秀だ。
そしてシトロエンの例に洩れず、快適なことこの上ない。特に高速上のフラット感は絶妙で、かつて2台のハイドロ、シトロエンを所有した経験から言させてもらうと、正直最もハイドロの乗り味に近いのがこのクルマのような気がする。リバウンド時の車体の持ちあがり感など、「おっ!ハイドロっぽい」と思ったものだ。
さすがに重たいディーゼルユニットを搭載しているためか、ヒラヒラ感は希薄だ。この点は明らかにルノーが上。おまけにかなり軽めに設定したパワーステアリングの影響もあって、路面からのインフォメーションも希薄だが、言っちゃ悪いが所詮は商用ベース、あるいは純然たるファミリーカーだから、スポーティーな運動性能を求める方が間違い。これでいいのだ…と思う。
テールゲートはガラスハッチを持つデュアルオープン方式。例えばコートだけ入れるというようなケースでは、ルーフについているボックスに収納すれば服も汚れず便利そうだった。
このところクルマで遊ぶのはクラシックカーと決めているから、実用車はこの手がいい。スポーツカーが恋しくないと言えば嘘になるけど、3台は持てないし…。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来42年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業向け運転講習の会社、ショーファーデプト代表取締役も務める。
(レスポンス 中村 孝仁)
20020年2月1日付で新たにグループPSAジャパンと社名を変更したPSA、即ちプジョー・シトロエン。昨年から販売が好調で今年もニューモデルを大胆に投入しそうだ。
そんな中で昨年発表だけしてとりあえず、「デビューエディション」と称する限定モデルが少数導入されたのが、シトロエン『ベルランゴ』である。ネット申し込みだったが、驚いたことに僅か5時間半で完売。追加投入するも瞬殺で完売したと聞く。
いずれにしてもこのPSA製のいわゆるMPVを待ち焦がれていた人が、少なからずいるという証拠である。かつて、日本国内でルノー『カングー』が大流行りし始めた時、当時のPSAの人に何故ベルランゴや当時のプジョー『パートナー』を導入しないのか?と尋ねたことがあるが、答えはATが存在しなかったから。しかし、新しいベルランゴと車名を『リフター』と変えたプジョー版のモデルにはようやくATが用意されて、それが導入のきっかけとなったことは間違いない。
その瞬殺で完売したベルランゴの貴重な1台の広報車を、贅沢にも1週間使わせていただいた。昨年、実は個人的にルノー・カングーを購入直前まで行ったことがある。しかしそれを思いとどまらせたのは、「中村さん、ちょっと待った方が良いよ」の一言だった。敢えてどなたがそう言ったかは伏せるが、今回ベルランゴに試乗して、待ちは正解だったように感じる。
◆ルノー・カングーとの違いは
カングーはありとあらゆる点で今我が家のクルマのニーズに合っているものだった。即ち大容量の荷物が積めて、サイドドアがスライド式。そこそこのサイズで軽快に走れる。これをすべて叶えてくれる。ただ、カングーで引っかかったのはそのかなりのプリミティブさ。少なくともADAS系は全く装備されておらず、今時キーシリンダーに鍵を差し込んで捻ってエンジンをかける。そんなことどうでもいいじゃん?って思うかもしれないが、そんなクルマはほかにうちにあるので、せめて普段使いはもっと楽に乗れるクルマがいいと思っていた。
その点新しいベルランゴは、例えば駐車の際はリアカメラで後方が確認できるし、四隅はセンサーで危なくなると知らせてくれる。キーはもちろんカバンに放り込んでいるだけでドアノブを触れば開錠施錠が可能だし、エンジンはプッシュボタン式でいちいち再びカバンからキーを取り出す必要はない…等々、完全に現代風に仕上がっている。
もう一つ、ベルランゴに傾いた理由が、後席が3席独立したシートであること。カングーは6:4分割可倒で、これだとチャイルドシートは左右に振り分けで装着する必要があり、大人が真ん中に座ることになるのだが、3席独立ならチャイルドシートをどこに付けようがOKという大きな利点があった(あくまでも我が家)。
使い勝手というものは、購入する人がどのようにそのクルマを使うかで大きく異なる。例えば単純にいっぱい荷物を運びたい…そう思えばラゲッジスペースがだいぶ大きいカングーの方が有利である。また、運転を思うぞんぶ愉しみたいと思ったらやはりマニュアルの用意があるカングーで決まりだ。だから、プリミティブでもカングーにメリットが無いわけでは決してないのである。
◆シトロエンの例に洩れず、快適なことこの上ない
という前提でベルランゴのお話をしよう。全長こそ4.4mほどだから大したサイズではないが、全幅は1.85m近くあってこれはだいぶ大きい。もっともカングーもサイズは似たようなものだ。カングーとだいぶ違っていたのは左前の車両感覚がとても掴みづらかった点。路肩に結構いっぱい寄せたつもりでも自分の感覚より30cmは余計に離れていた。まあ、その分擦らないで済むと考えればよいが、すれ違いなどでは何度か窮したことがあった。
ATはアイシン製の8速AT。しかも操作はダイヤルタイプのセレクターで行う。そして組み合わされるエンジンはプジョー『308』に搭載されているのと同じ、1.5リットルターボディーゼルだ。今回は横浜から栃木、群馬の山の中を巡り、往復を東北道でつないだルート。おおよそ450kmを走った総平均の燃費は16.9km/リットルである。ボディサイズを考えればかなり優秀だ。
そしてシトロエンの例に洩れず、快適なことこの上ない。特に高速上のフラット感は絶妙で、かつて2台のハイドロ、シトロエンを所有した経験から言させてもらうと、正直最もハイドロの乗り味に近いのがこのクルマのような気がする。リバウンド時の車体の持ちあがり感など、「おっ!ハイドロっぽい」と思ったものだ。
さすがに重たいディーゼルユニットを搭載しているためか、ヒラヒラ感は希薄だ。この点は明らかにルノーが上。おまけにかなり軽めに設定したパワーステアリングの影響もあって、路面からのインフォメーションも希薄だが、言っちゃ悪いが所詮は商用ベース、あるいは純然たるファミリーカーだから、スポーティーな運動性能を求める方が間違い。これでいいのだ…と思う。
テールゲートはガラスハッチを持つデュアルオープン方式。例えばコートだけ入れるというようなケースでは、ルーフについているボックスに収納すれば服も汚れず便利そうだった。
このところクルマで遊ぶのはクラシックカーと決めているから、実用車はこの手がいい。スポーツカーが恋しくないと言えば嘘になるけど、3台は持てないし…。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来42年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業向け運転講習の会社、ショーファーデプト代表取締役も務める。
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