「冬ボルボ」の恐るべき実力は「何も起きない」こと…北の大地であれこれ試してみた
意外ながら、日本市場での雪上試乗会は久々というボルボ。ラインナップを新世代プラッフォームで揃えた今、氷雪路は北欧メーカーとしての本領を知らしめる最高の舞台なのだ。
◆「何も起きない」ことの凄み
2019年は1万8564台と、着実に日本市場で販売台数を積み上げているボルボ。温かみあるスカンジナビアン・デザインと安全性に加え、ハイエンド系ドイツ車とアプローチの異なる高効率プラットフォームが高く評価されているが、北欧の厳しい冬の環境に鍛えられた安全性には無論、パッシブ・セーフティだけでなくダイナミック・セーフティ、つまり能動的安全性が含まれている。
1月末日、北海道でクローズド・コース上にて、最新のボルボの実力を試す機会に恵まれた。試乗車は『V60CC(クロスカントリー)』、タイヤは横浜ゴムの「アイスガード6」で、日本の降雪地帯で装着率の高い、標準的なスタッドレス銘柄仕様といえる。
まず雪道でよくある悪条件として、短い急坂の上り下り、片側づつ轍が不規則に深く掘れたモーグル路、そして約22度の片バンクを走破するプログラムを試した。
結論から先にいえば、AWDのV60CCは、この悪路をあまりに易々と、何事もなかったかのようにこなしてしまう。こうした条件では「最初から何も起きない」ほどの、賛辞と成功はない。急坂の上りや片バンクは簡単なようで、重量配分や基本的なメカニカル・グリップのなっていないクルマだと、接地の足りない車輪が要らぬスリップを起こして、トラクションコントロールの世話になったりするものだ。
わざとモーグル路の真ん中で、フロント片輪を穴にやや浮かせ気味に停止すると、V60CCはようやく空転してスタックするが、それも束の間。ドライブモードが「Off Road」なら、後車軸が軽くデフロックして、あっさり難を逃れる。そもそも立ち往生する前に、少し後進するオプションもあるし、地上最低高も210mmあって亀の子状態になりづらい。加えてサスペンション・ストロークが長く、深い凹凸路の乗り心地すら快適なほどだ。
ちなみにOff Roadモードで急坂を下る際は、ヒルディセント機能が自動的に作動し、メーターパネル内にインジケーターが点灯する。すると車速を10km/h以下に抑えつつ、ブレーキ制御はクルマ任せでドライバーはステアリング操作に集中して、坂を下れるのだ。
◆雪上でもセーフティ面は盤石
続いては通常の「Comfort」モードのまま、短いオーバルコースをオーバースピード気味に回ってみた。よほどステアリングを荒く切り込むか突っ込み過ぎない限り、フロントがリアより先にブレークすることはない。リアの出方も遠慮気味にやや角度がつく程度で、AWDゆえ修正舵もほぼ要らず、行きたい方向に舵を切ってアクセルを踏めば、V60CCは再び安定を取り戻す。
ただし圧雪路の下に覗くアイスバーンにのって、横方向に流れるような場面では当然、グリップが回復するまで為す術はない。そんな時は、3段階で効くシートベルト・テンショナーがキュキュッと、最大限に乗員を締め上げる。来たるべきインパクトに対するエアバッグ作動や衝撃吸収に備え、車外放出を防ぐ手立てだ。アクティブからパッシブへ、セーフティ制御と対策の移行はきわめてスムーズといえる。
ボルボのESC(エレクトロニック・スタビリティ・コントロール)は完全OFFにはできない代わり、スポーツモードESCを選択すれば、ドライバーの意志で横方向へのスライド量を増やすことは許容する。そこでオーバルコースや定常円旋回では、タッチスクリーン内の車両設定から、ESCを通常モードからスポーツモード側に切り替えた。
すると明らかに先ほどの安定志向とはうって代わって、ステアリング操舵に対してリアのスライド・アングルが増え、アクセルオンの際にも駆動力の間引きより、リア側の駆動力で積極的に押し出される感覚が増す。後車軸側への駆動力配分は最大50%だが、V60CCのハルデックス式AWDは平常時からリア側に80Nmのトルクをかけているそうで、駆動力が立ち上がるまでのラグをまるで感じさせない。
とりわけ、タイトコーナーを小回りして登り気味の坂を立ち上がるようなシーンでは、氷雪路ドライビングなのに安定した、しかし充実したドライビング感覚を味わえる。
◆「冬ボルボ」の本領
とはいっても、V60CCの車重は1880kgと、それなりに重いことは確かだ。40km/h程度の直進走行からフルブレーキでABSを作動させる場では、タイヤは雪道を掴み続け、無駄にロックしてポンピング動作をドライバーに強いはせず、制動距離が無駄に伸びることはない。それでも、少しでも踏み込みが遅れると、最終的な停止位置がパイロンで印された目標ラインをオーバーすることはあった。
つまり節度と自制の中で雪上ドライビングを楽しむ限り、ボルボには指名買いすべきほどの挙動、そして制御デバイス動作の安定感が備わっている。それは氷雪路で長距離をこなすなら、ドライバーの疲労の少なさや、車内での安心感へと、ダイレクトに繋がる類のものだ。それこそが「冬ボルボ」の本領にしてソフトパワーといえるだろう。
南陽一浩|モータージャーナリスト
1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。
(レスポンス 南陽一浩)
◆「何も起きない」ことの凄み
2019年は1万8564台と、着実に日本市場で販売台数を積み上げているボルボ。温かみあるスカンジナビアン・デザインと安全性に加え、ハイエンド系ドイツ車とアプローチの異なる高効率プラットフォームが高く評価されているが、北欧の厳しい冬の環境に鍛えられた安全性には無論、パッシブ・セーフティだけでなくダイナミック・セーフティ、つまり能動的安全性が含まれている。
1月末日、北海道でクローズド・コース上にて、最新のボルボの実力を試す機会に恵まれた。試乗車は『V60CC(クロスカントリー)』、タイヤは横浜ゴムの「アイスガード6」で、日本の降雪地帯で装着率の高い、標準的なスタッドレス銘柄仕様といえる。
まず雪道でよくある悪条件として、短い急坂の上り下り、片側づつ轍が不規則に深く掘れたモーグル路、そして約22度の片バンクを走破するプログラムを試した。
結論から先にいえば、AWDのV60CCは、この悪路をあまりに易々と、何事もなかったかのようにこなしてしまう。こうした条件では「最初から何も起きない」ほどの、賛辞と成功はない。急坂の上りや片バンクは簡単なようで、重量配分や基本的なメカニカル・グリップのなっていないクルマだと、接地の足りない車輪が要らぬスリップを起こして、トラクションコントロールの世話になったりするものだ。
わざとモーグル路の真ん中で、フロント片輪を穴にやや浮かせ気味に停止すると、V60CCはようやく空転してスタックするが、それも束の間。ドライブモードが「Off Road」なら、後車軸が軽くデフロックして、あっさり難を逃れる。そもそも立ち往生する前に、少し後進するオプションもあるし、地上最低高も210mmあって亀の子状態になりづらい。加えてサスペンション・ストロークが長く、深い凹凸路の乗り心地すら快適なほどだ。
ちなみにOff Roadモードで急坂を下る際は、ヒルディセント機能が自動的に作動し、メーターパネル内にインジケーターが点灯する。すると車速を10km/h以下に抑えつつ、ブレーキ制御はクルマ任せでドライバーはステアリング操作に集中して、坂を下れるのだ。
◆雪上でもセーフティ面は盤石
続いては通常の「Comfort」モードのまま、短いオーバルコースをオーバースピード気味に回ってみた。よほどステアリングを荒く切り込むか突っ込み過ぎない限り、フロントがリアより先にブレークすることはない。リアの出方も遠慮気味にやや角度がつく程度で、AWDゆえ修正舵もほぼ要らず、行きたい方向に舵を切ってアクセルを踏めば、V60CCは再び安定を取り戻す。
ただし圧雪路の下に覗くアイスバーンにのって、横方向に流れるような場面では当然、グリップが回復するまで為す術はない。そんな時は、3段階で効くシートベルト・テンショナーがキュキュッと、最大限に乗員を締め上げる。来たるべきインパクトに対するエアバッグ作動や衝撃吸収に備え、車外放出を防ぐ手立てだ。アクティブからパッシブへ、セーフティ制御と対策の移行はきわめてスムーズといえる。
ボルボのESC(エレクトロニック・スタビリティ・コントロール)は完全OFFにはできない代わり、スポーツモードESCを選択すれば、ドライバーの意志で横方向へのスライド量を増やすことは許容する。そこでオーバルコースや定常円旋回では、タッチスクリーン内の車両設定から、ESCを通常モードからスポーツモード側に切り替えた。
すると明らかに先ほどの安定志向とはうって代わって、ステアリング操舵に対してリアのスライド・アングルが増え、アクセルオンの際にも駆動力の間引きより、リア側の駆動力で積極的に押し出される感覚が増す。後車軸側への駆動力配分は最大50%だが、V60CCのハルデックス式AWDは平常時からリア側に80Nmのトルクをかけているそうで、駆動力が立ち上がるまでのラグをまるで感じさせない。
とりわけ、タイトコーナーを小回りして登り気味の坂を立ち上がるようなシーンでは、氷雪路ドライビングなのに安定した、しかし充実したドライビング感覚を味わえる。
◆「冬ボルボ」の本領
とはいっても、V60CCの車重は1880kgと、それなりに重いことは確かだ。40km/h程度の直進走行からフルブレーキでABSを作動させる場では、タイヤは雪道を掴み続け、無駄にロックしてポンピング動作をドライバーに強いはせず、制動距離が無駄に伸びることはない。それでも、少しでも踏み込みが遅れると、最終的な停止位置がパイロンで印された目標ラインをオーバーすることはあった。
つまり節度と自制の中で雪上ドライビングを楽しむ限り、ボルボには指名買いすべきほどの挙動、そして制御デバイス動作の安定感が備わっている。それは氷雪路で長距離をこなすなら、ドライバーの疲労の少なさや、車内での安心感へと、ダイレクトに繋がる類のものだ。それこそが「冬ボルボ」の本領にしてソフトパワーといえるだろう。
南陽一浩|モータージャーナリスト
1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。
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