VW ゴルフGTI TCR 新型試乗 日常使いもOK!「能ある鷹」系ホットハッチ…中村孝仁
◆群雄割拠のCセグ・ホットハッチ
何故か、Cセグメントのハッチバック車にはスポーツ性能を重視するモデルが多い。今回試乗したVW『ゴルフGTI TCR』をはじめ、猛者がゴマンといる。
ざっと上げてみてもライバルはルノー『メガーヌRSトロフィー』、プジョー『308GTI by プジョースポール』 、それに日本ではホンダ『シビックタイプR』などだ。しかもそのパワーは多くが300ps近くを標榜し、シビックに至っては320ps!である。
まあ、伝統的にホットハッチという高性能車を送り出してきたセグメントだけに、普通に高性能がいるのだが、プジョーを除けば他のモデル群はズバリ、レギュラーモデルというよりも限定モデル的要素が強い。ゴルフGTI TCRにしても600台の限定車だ。
ではこの末尾に付く「TCR」は一体何?ということになるのだが、要はツーリングカーレースWTCRのTCRの頭文字だ。もっとも最初のTCは“ツーリングカー”の略で、WTCRの日本語訳は“世界ツーリングカー選手権”なのだが最後のRはわからない。本来は“ワールド・ツーリングカー・カップ”と呼ばれるレースでWTCCなら合点がいくのだが…。
◆「能ある鷹」を感じさせる
そんなことはともかくとしてこのTCR、既存のゴルフGTIのパフォーマンスを60psも引き上げ、290psに。最大トルクも30Nm引き上げ380Nmと、Cセグメントとしては凄まじいパフォーマンスだ。さぞかし扱いづらいかと思いきや、トランスミッションはDSGだし、引き締められているとはいえ足のセッティングは街中でも十分快適に走れる範疇に抑えられているので、およそレーシングカー的乗り味とは程遠いものだった。
だから、少々拍子抜けしてしまった。今はどうか知らないが、初代ホンダ・シビックタイプRなど、とてもじゃないが街中では無理!というほど足が硬く往生した記憶があるので、この何十年かの技術的進歩を改めて感じてしまう。
それにしても、シビックタイプRを見ると、これでもかというほど派手なリアウィングなどを装備して如何にも高性能を全体で表現しているが、ヨーロッパ製は何故かそれが大人しい。ゴルフGTI TCRにしても対向車がすぐにそれと気づくレベルにはなく、仔細に眺めないとその差に気付きにくい。
例えばフロントは既存のGTIとほとんど区別はつかないし、サイドに回ってもTCRのロゴを見ないとそれとは気づかないレベル。一方のリアは専用のディフューザーが装備されたり、本格的なチタンマフラーが装備されるなど「ここは違うな」という装備が施されるが、さほどはっきりとした差が付けられてない。このあたりに「能ある鷹」を感じさせる。
◆加速以上に高い減速能力があることに価値を感じる
タイヤは19インチのピレリPゼロである。そしてブレーキはGTIのロゴ入りキャリパーにドリルホールの開くディスクを備える。どこ製という文言は使われていないが、まあ、「あそこ」ではないかと思える。それは後々痛感することになった。
エンジンはアクセル開度にとても従順で、ゆっくりと開けばごく普通の大人しいクルマである。それが少しだけ開き方を速めてやると、2000rpmを少し超えたあたりから体がグイッとシートに押し付けられる感覚を明確に示すようになる。さらにアクセル開度を速めてやると一気にレブリミットまで駆け上がる。この時体はシートにガッチリと固定されて身動きが取れないし、非常にホールド性の良いシートに包まれて、一種の快感さえ覚えてしまう。
高速のように周囲からの邪魔が入らないケースでこれは試さないといけないが、普通に走っていても危険がいっぱいの一般道で、実は不意の飛び出しに遭遇してしまった。この時前述したブレーキの強力さを身をもって体感したのだが、クルマは加速以上に高い減速能力があることにその価値を感じるのはまさにこんな時だ。TCRのブレーキ性能はかなり凄いと思う。
◆日常的にも「こりゃイイぜ!」と思わせるモデル
もう一つこのクルマが凄いと感じたのはステアフィールだ。かなりダイレクト感が高く、とりわけ低速域でのターンインにおけるノーズの入りがシャープである。勿論高速でこのようなシャープさを持っていると少々問題だが、高速はそれがスムーズで決してナーバスなものではない。だから、このクルマのステアフィールはたとえ40km/hの走行でも、その潜在能力を感じさせてくれるのであった。
この種の高性能車はとかく絶対性能を持て余し気味になって、いわゆる食い足りなさを日本の道路では感じてしまう。宝の持ち腐れ感が非常に強いのだが、このクルマに限って言えば、日常的に使っても鋭いステアフィールだったり、強力なブレーキの効き具合だったり、その恩恵と性能を感じさせてくれる部分が多い。
とかく絶対的パフォーマンスに目が行きがちだが、日常的にもこりゃイイぜ!と思わせるモデルだった。すでにニューモデルが出ている状況だが、これはこれで十分納得のいく買い物が出来ると確信する。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来42年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業向け運転講習の会社、ショーファーデプト代表取締役も務める。
(レスポンス 中村 孝仁)
何故か、Cセグメントのハッチバック車にはスポーツ性能を重視するモデルが多い。今回試乗したVW『ゴルフGTI TCR』をはじめ、猛者がゴマンといる。
ざっと上げてみてもライバルはルノー『メガーヌRSトロフィー』、プジョー『308GTI by プジョースポール』 、それに日本ではホンダ『シビックタイプR』などだ。しかもそのパワーは多くが300ps近くを標榜し、シビックに至っては320ps!である。
まあ、伝統的にホットハッチという高性能車を送り出してきたセグメントだけに、普通に高性能がいるのだが、プジョーを除けば他のモデル群はズバリ、レギュラーモデルというよりも限定モデル的要素が強い。ゴルフGTI TCRにしても600台の限定車だ。
ではこの末尾に付く「TCR」は一体何?ということになるのだが、要はツーリングカーレースWTCRのTCRの頭文字だ。もっとも最初のTCは“ツーリングカー”の略で、WTCRの日本語訳は“世界ツーリングカー選手権”なのだが最後のRはわからない。本来は“ワールド・ツーリングカー・カップ”と呼ばれるレースでWTCCなら合点がいくのだが…。
◆「能ある鷹」を感じさせる
そんなことはともかくとしてこのTCR、既存のゴルフGTIのパフォーマンスを60psも引き上げ、290psに。最大トルクも30Nm引き上げ380Nmと、Cセグメントとしては凄まじいパフォーマンスだ。さぞかし扱いづらいかと思いきや、トランスミッションはDSGだし、引き締められているとはいえ足のセッティングは街中でも十分快適に走れる範疇に抑えられているので、およそレーシングカー的乗り味とは程遠いものだった。
だから、少々拍子抜けしてしまった。今はどうか知らないが、初代ホンダ・シビックタイプRなど、とてもじゃないが街中では無理!というほど足が硬く往生した記憶があるので、この何十年かの技術的進歩を改めて感じてしまう。
それにしても、シビックタイプRを見ると、これでもかというほど派手なリアウィングなどを装備して如何にも高性能を全体で表現しているが、ヨーロッパ製は何故かそれが大人しい。ゴルフGTI TCRにしても対向車がすぐにそれと気づくレベルにはなく、仔細に眺めないとその差に気付きにくい。
例えばフロントは既存のGTIとほとんど区別はつかないし、サイドに回ってもTCRのロゴを見ないとそれとは気づかないレベル。一方のリアは専用のディフューザーが装備されたり、本格的なチタンマフラーが装備されるなど「ここは違うな」という装備が施されるが、さほどはっきりとした差が付けられてない。このあたりに「能ある鷹」を感じさせる。
◆加速以上に高い減速能力があることに価値を感じる
タイヤは19インチのピレリPゼロである。そしてブレーキはGTIのロゴ入りキャリパーにドリルホールの開くディスクを備える。どこ製という文言は使われていないが、まあ、「あそこ」ではないかと思える。それは後々痛感することになった。
エンジンはアクセル開度にとても従順で、ゆっくりと開けばごく普通の大人しいクルマである。それが少しだけ開き方を速めてやると、2000rpmを少し超えたあたりから体がグイッとシートに押し付けられる感覚を明確に示すようになる。さらにアクセル開度を速めてやると一気にレブリミットまで駆け上がる。この時体はシートにガッチリと固定されて身動きが取れないし、非常にホールド性の良いシートに包まれて、一種の快感さえ覚えてしまう。
高速のように周囲からの邪魔が入らないケースでこれは試さないといけないが、普通に走っていても危険がいっぱいの一般道で、実は不意の飛び出しに遭遇してしまった。この時前述したブレーキの強力さを身をもって体感したのだが、クルマは加速以上に高い減速能力があることにその価値を感じるのはまさにこんな時だ。TCRのブレーキ性能はかなり凄いと思う。
◆日常的にも「こりゃイイぜ!」と思わせるモデル
もう一つこのクルマが凄いと感じたのはステアフィールだ。かなりダイレクト感が高く、とりわけ低速域でのターンインにおけるノーズの入りがシャープである。勿論高速でこのようなシャープさを持っていると少々問題だが、高速はそれがスムーズで決してナーバスなものではない。だから、このクルマのステアフィールはたとえ40km/hの走行でも、その潜在能力を感じさせてくれるのであった。
この種の高性能車はとかく絶対性能を持て余し気味になって、いわゆる食い足りなさを日本の道路では感じてしまう。宝の持ち腐れ感が非常に強いのだが、このクルマに限って言えば、日常的に使っても鋭いステアフィールだったり、強力なブレーキの効き具合だったり、その恩恵と性能を感じさせてくれる部分が多い。
とかく絶対的パフォーマンスに目が行きがちだが、日常的にもこりゃイイぜ!と思わせるモデルだった。すでにニューモデルが出ている状況だが、これはこれで十分納得のいく買い物が出来ると確信する。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来42年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業向け運転講習の会社、ショーファーデプト代表取締役も務める。
(レスポンス 中村 孝仁)
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