VW Tクロス 新型試乗 16インチ装備の「1st」に乗って改めて感じたのは…中村孝仁
◆「1st」と「1st plus」の違い
このクルマの試乗会が開催されたのは昨年も押し迫った頃。その時試乗したのは「1st plus」というモデルだった。実はVW『Tクロス』は2種のモデルが導入されている。そのもう1種が今回試乗した「1st」である。
この2台の差は装備とタイヤ/ホイールで、エンジンやトランスミッションなどの違いはない。ではその価格差はと言うと、1st plusが335万9000円に対し、1stは299万9000円と、後者は寸止めな感じで300万円を切る。
その差36万円なわけだが、では何が装備されていないかと言うと、まずシートがスポーツコンフォートシートというものではなく普通のシートになっている点。パドルシフトが無い点。ハイビームアシスト、レーンキープアシストと言った若干安全装備と言える範疇のものが付かない点。それにアンビエントライトやシルバーのルーフレールが付かない点などで、まあ人にもよるのだろうが、僕にとっては全然無くても良いものばかりである。
そして一番大きな違いがタイヤ/ホイールで、高い方は色の異なる3種の7Jx18ホイールに215/45R18が装備されるのに対し、1stはロチェスターと名付けられた6Jx16ホイールに205/60R16を装着し、ホイールの色は選べない。
18インチから一気に16インチに引き下げられるから、ホイールアーチの隙間もさぞや大きいかと思いきや、サイドビューの写真を見比べてみても、それほど大きな差は感じない。そのあたりは扁平率の違いからくるのだろうか。とにかくこのタイヤの差が乗り味には顕著に影響をしているはずである。
◆気になったのはシートとDSG
とは言うものの、2台を取っ換えひっかえ比べたわけではなく、ほとんど2か月以上の間が空いてしまっているので、正直厳密な差はわからなかった。ただ、乗り心地以前に問題があった。それはシートだ。
VWのシートは全般的に座面長の長いものが多く、短足だと膝の裏側あたりに座面の先端が来てしまって、長時間乗っていると、そのあたりが痺れてくる。結果として腰をずらしてお尻とシートの背もたれの間に空間を作って体を前にずらさないと、その痺れが解決できないのである。5年乗ったVW『ゴルフ』でこれを嫌というほど経験した。
今回試乗した1stのTクロスのシートは明らかに座面長が長いようで、背の高い(足の長い)人にとっては膝の手前までシートがしっかりとサポートしてくれる快適なシートなのだろうが、チビにはそうはいかない。結果として着ていたハーフコートを上手く折りたたんで背もたれに追加することで、ようやくその膝裏の痺れから解放される。女性などではこうした経験をするVWオーナーがいるのではないかと、とても気になる。
もう一つ気になったポイントが…。それはやはり乾式DSGだった。試乗会の際はstop and goがほとんど無かった関係で、意図的にそうした運転をして様子を見てみたのだが、今回はクルマを6日間お借りして街中を走り回ってみたが、やはりDSGの悪癖はあった。
簡単に言うとブレーキを離してアクセルを踏むまで一呼吸置くような余裕がある時は、スムーズに発進できるのだが、つい隣と競争するように早い発進をしようとすると、かなり唐突なクラッチの繋がりを見せる。しかも気まぐれで、それが無い時もある。また気をつけて発進したつもりでも、かなりの衝撃を伴った発進になることもある。というわけで、この乾式DSGはブレーキからアクセルへの踏みかえに相当に気を使わないとスムーズな発進が出来ない。
◆16インチと18インチ、選ぶポイントは
気になったのはこの2点だけ。それを除けばこのクルマはまさに優等生だ。とりわけ一旦走り出してしまえばスムーズなことこの上なく、都内の雑踏でもあっという間に5速に上り詰める。7速DSGの上二つは恐らく(確かではない)オーバードライブレシオだろうから、街中では直結前のすべてのギアが普通に使えるということになる。
3気筒ユニットは低速でも十分にトルキーで、そもそも1500rpm付近で常に走るから、3気筒であることを意識させない。流石に5000rpmを超えるようなところまで回すと3気筒的悲鳴を上げるが、息苦しさは全くなく実にスムーズで軽快なピックアップを持っている。
ご存知の通りベースは『ポロ』だ。お値段はやはりポロよりも少し高い。でもその使い勝手の良さと1台で何でもこなそうとするユーザーなら断然こちらが便利だと感じるハズである。地味ぃ~な感じのVWらしいインテリアもこれぞVW!を感じさせてくれる。シートをもう少し小さめにして、DSGを改良して頂ければ、小さなドライバーにも優しい、とても素敵なクルマになる。
肝心な16インチと18インチの差であるが、やはり乗り心地に重きを置くドライバーだと16インチが良いと思う。一方でコーナーを見るとついアクセルを開けたくなるようなドライバーは18インチの方が安心感が高いだろうが、精々飛ばしてもたかが知れている日本でその差は感じないかもしれない。個人的には16インチ派である。メーカーもわかっていて、18インチをチョイスする人はほとんどそのスタイルの良さから18インチを選ぶらしい。まあ、スタイルは肝心だ。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来42年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。 また、現在は企業向け運転講習の会社、ショーファーデプト代表取締役も務める。
(レスポンス 中村 孝仁)
このクルマの試乗会が開催されたのは昨年も押し迫った頃。その時試乗したのは「1st plus」というモデルだった。実はVW『Tクロス』は2種のモデルが導入されている。そのもう1種が今回試乗した「1st」である。
この2台の差は装備とタイヤ/ホイールで、エンジンやトランスミッションなどの違いはない。ではその価格差はと言うと、1st plusが335万9000円に対し、1stは299万9000円と、後者は寸止めな感じで300万円を切る。
その差36万円なわけだが、では何が装備されていないかと言うと、まずシートがスポーツコンフォートシートというものではなく普通のシートになっている点。パドルシフトが無い点。ハイビームアシスト、レーンキープアシストと言った若干安全装備と言える範疇のものが付かない点。それにアンビエントライトやシルバーのルーフレールが付かない点などで、まあ人にもよるのだろうが、僕にとっては全然無くても良いものばかりである。
そして一番大きな違いがタイヤ/ホイールで、高い方は色の異なる3種の7Jx18ホイールに215/45R18が装備されるのに対し、1stはロチェスターと名付けられた6Jx16ホイールに205/60R16を装着し、ホイールの色は選べない。
18インチから一気に16インチに引き下げられるから、ホイールアーチの隙間もさぞや大きいかと思いきや、サイドビューの写真を見比べてみても、それほど大きな差は感じない。そのあたりは扁平率の違いからくるのだろうか。とにかくこのタイヤの差が乗り味には顕著に影響をしているはずである。
◆気になったのはシートとDSG
とは言うものの、2台を取っ換えひっかえ比べたわけではなく、ほとんど2か月以上の間が空いてしまっているので、正直厳密な差はわからなかった。ただ、乗り心地以前に問題があった。それはシートだ。
VWのシートは全般的に座面長の長いものが多く、短足だと膝の裏側あたりに座面の先端が来てしまって、長時間乗っていると、そのあたりが痺れてくる。結果として腰をずらしてお尻とシートの背もたれの間に空間を作って体を前にずらさないと、その痺れが解決できないのである。5年乗ったVW『ゴルフ』でこれを嫌というほど経験した。
今回試乗した1stのTクロスのシートは明らかに座面長が長いようで、背の高い(足の長い)人にとっては膝の手前までシートがしっかりとサポートしてくれる快適なシートなのだろうが、チビにはそうはいかない。結果として着ていたハーフコートを上手く折りたたんで背もたれに追加することで、ようやくその膝裏の痺れから解放される。女性などではこうした経験をするVWオーナーがいるのではないかと、とても気になる。
もう一つ気になったポイントが…。それはやはり乾式DSGだった。試乗会の際はstop and goがほとんど無かった関係で、意図的にそうした運転をして様子を見てみたのだが、今回はクルマを6日間お借りして街中を走り回ってみたが、やはりDSGの悪癖はあった。
簡単に言うとブレーキを離してアクセルを踏むまで一呼吸置くような余裕がある時は、スムーズに発進できるのだが、つい隣と競争するように早い発進をしようとすると、かなり唐突なクラッチの繋がりを見せる。しかも気まぐれで、それが無い時もある。また気をつけて発進したつもりでも、かなりの衝撃を伴った発進になることもある。というわけで、この乾式DSGはブレーキからアクセルへの踏みかえに相当に気を使わないとスムーズな発進が出来ない。
◆16インチと18インチ、選ぶポイントは
気になったのはこの2点だけ。それを除けばこのクルマはまさに優等生だ。とりわけ一旦走り出してしまえばスムーズなことこの上なく、都内の雑踏でもあっという間に5速に上り詰める。7速DSGの上二つは恐らく(確かではない)オーバードライブレシオだろうから、街中では直結前のすべてのギアが普通に使えるということになる。
3気筒ユニットは低速でも十分にトルキーで、そもそも1500rpm付近で常に走るから、3気筒であることを意識させない。流石に5000rpmを超えるようなところまで回すと3気筒的悲鳴を上げるが、息苦しさは全くなく実にスムーズで軽快なピックアップを持っている。
ご存知の通りベースは『ポロ』だ。お値段はやはりポロよりも少し高い。でもその使い勝手の良さと1台で何でもこなそうとするユーザーなら断然こちらが便利だと感じるハズである。地味ぃ~な感じのVWらしいインテリアもこれぞVW!を感じさせてくれる。シートをもう少し小さめにして、DSGを改良して頂ければ、小さなドライバーにも優しい、とても素敵なクルマになる。
肝心な16インチと18インチの差であるが、やはり乗り心地に重きを置くドライバーだと16インチが良いと思う。一方でコーナーを見るとついアクセルを開けたくなるようなドライバーは18インチの方が安心感が高いだろうが、精々飛ばしてもたかが知れている日本でその差は感じないかもしれない。個人的には16インチ派である。メーカーもわかっていて、18インチをチョイスする人はほとんどそのスタイルの良さから18インチを選ぶらしい。まあ、スタイルは肝心だ。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、その後ドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来42年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。 また、現在は企業向け運転講習の会社、ショーファーデプト代表取締役も務める。
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