今、あえてMT車を選ぶ理由とは? トヨタ ヤリス と マツダ2、MT車を比較試乗してわかったこと

トヨタ ヤリス とマツダ2、同じBセグメントでMT車を設定する2台を比較した
◆今、あえてMT車を選ぶ理由とは?

コンパクトカーこそMTでキビキビと走らせて楽しいものである。MTがどんなに進化しても、この方程式は揺るぎないものかも知れない。今回、『ヤリス』と『マツダ2』の2台のMT車に乗って、この気持ちが確かになった。

かつて、MTを選ぶ理由は数多くあった。ひとつはMT車のほうがAT車よりも価格が安かったことにある。クルマに乗りたいけど、出費を抑えたい若者はMT車に乗ったものだった。さらにMT車のほうが耐久性が高かったこともある。

昔のATは大出力に弱く、また長期使用では劣化が早かった。またMT車のほうが速く走れる(走れそう)という考えも強く存在した。しかし現代は異なる。MTだからクルマが安いということも少なく、ATの耐久性が悪いということもない。運転操作に集中できるATは(運転スキルが低い人の場合はとくに)かえって速く走れることもある。


そうしたなか、あえてMTを選ぶ理由は何か? 答はふたつあるように思える。ひとつはMTでなければ運転しにくいと感じる人への対応。そしてもうひとつが、走りを楽しむためにMTに乗るという選択だ。この記事に興味があって今読んでくれている人の多くは後者であるはずと思っている。

それを前提としてヤリスとマツダ2、2車種のMT車についてのインプレッションをお届けしたい。

今回試乗したのは、ヤリスが1.5リットルガソリンエンジンの「Z」、マツダ2も同じく1.5リットルガソリンエンジンの「15S プロアクティブ」だ。


◆シフトフィールへのこだわりは、さすがマツダ

まず結論から書かせてもらう。乗って楽しいのはマツダ2である。その理由となった大きな要因は、シフト操作の正確さと楽しさにある。

まず、マツダ2とヤリスのシフトストロークを比べてみると、マツダ2のほうが短い。手持ちのメジャーで測った数字なので、正確ではないが、マツダ2の前後ストロークは約9cm、対してヤリスは12cmと長い。また、シフトレバーの長さもブーツ取り付け部からでマツダ2が15cm、ヤリスが17cmと長い(正確な長さはブーツ内のリンク部から計るべきではあるが)。

クラッチペダルの重さはほぼ同じだがどちらかといえばヤリスのほうがほんの少しだけ重いという印象。ヤリスが145Nm、マツダ2が141Nmの最大トルク値なので、ヤリスのクラッチ容量が大きく、ペダル踏力が若干重くても不思議はない。


ヤリスのMTは操作時に「よっこいしょ」と動かす感じがある。ストロークが長いだけに、操作にも時間を要する。この操作を速く行おうとすると操作ミスを起こしやすくなる。シフトフィールそのものは正確なのだが、シフトレバーをキッチリポジションまで入れてやる必要がある。一方、マツダ2のMTを操作するときの雰囲気は「よしっ」という感じ。シフトしたいポジションに向かってレバーを動かして行くと、レバーが吸い込まれるようにポジションに入って行き操作が決まるのだ。

思えば、マツダは『ロードスター』を30年に渡って作り続けていて、そのシフトフィールにこだわり続けてきたメーカー。そうした考えやノウハウがしっかりと詰め込まれている印象がある。

両車ともにリバースは左上に位置する。ヤリスはリバースを選ぶ際にリングを引き上げるタイプだが、マツダ2はそのまま倒す。ATはリバースを選んだ際にアラーム音が発せられるが、MTではそれがない。ならばリバースを選ぶ際にはヤリスのようにリングを引き上げるなどのワンアクションがあったほうが安全性が高まる。この点はヤリスの素晴らしい点だといえる。


◆「トヨタっぽい」走りのヤリスと、素材のよさが光るマツダ2

次は総合的な走りだ。シフトフィールだけで、クルマの優劣を決めるわけにはいかない……が、これも大きな差が存在した。ヤリスはトップに『GRヤリス』というモデルがあり、WRCにも参戦しているので走りにはかなり期待はしていたのだが、すごくトヨタのコンパクトカーっぽい走りに終止するのだ。ただ、これはより幅広い年齢層や用途を想定しての設定とも考えられるので、必ずしも悪いというわけではない。

今回の試乗より少し前に同じ個体に乗る機会があったのだが、そのときからどうしてもグニャッとした乗り味を不思議に感じていた。試乗車のヤリスに装着されていたタイヤはオプションの185/55R16サイズなので、このタイヤのグリップが高すぎてサスペションが追いつかないのか? という憶測も湧いたのだが、以前同時に試乗した同サイズのタイヤを履くCVTモデルではそうした印象もなかったので、これはもう個体差なのだと思うことにした。


一方のマツダ2は全体的にバランスの取れたハンドリング特性を示す。「Gベクタリングコントロールプラス」の働きもあり、コーナリングの安定感は優れたものだ。とくに流れにのったような速度でのコーリングでは、Gベクタリングコントロールプラスの効果は大きく、クルマの動きは非常に素直で安定している。

さらにこの領域を超えて、速度が高くなり積極的に荷重移動を行いながらのコーナリングでも、素材のよさは光り、キビキビした走りが可能だ。


◆MT車にもACCが装着できる点はヤリスが上

走りの面ではマツダ2が優れている感じを受けたが、たとえばナビの使いやすさや性能で言えばヤリスのほうがはるかに上だ。また、ヤリスはMTでもACCの装着が可能で、マツダ2はATにしかACCは装着できないなどの差もある。

各メディアでヤリスのリヤシートが狭いという記述を見かけることもあるが、リヤシートそのものの狭さはさほどなく、両車ともにコンパクトカーとしては十分な性能を持つ。ただしヤリスはリヤドアが小さく、また開口部の形状が悪い(もっとも広い位置が低い)ため乗降性が悪く、それが印象を悪くしているのかも知れない。




諸星陽一|モータージャーナリスト
自動車雑誌の編集部員を経て、23歳でフリーランスのジャーナリストとなる。20歳代後半からは、富士フレッシュマンレースなどに7年間参戦。サーキットでは写真撮影も行う、フォトジャーナリストとして活動中。趣味は料理。

(レスポンス 諸星陽一)

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