シトロエン ベルランゴ 新型試乗 走りと安全装備のベルランゴか、遊び心のカングーか…内田俊一
ついにルノー『カングー』の刺客が登場した。同じくフランスはシトロエンの『ベルランゴ』だ。カングーと同様、フランスなど欧州ではその多くが商用車として活躍しているが、日本ではアクティビティビークルとして人々に愛されそうだ。早速400kmほど走らせてみた。
◆遊び心溢れる室内
「大きいな」それがクルマを受け取った時の第一印象だ。カングーも初代から現行に変わった際に“デカングー”などと呼ばれていたが、その比ではないくらい大きく感じる。実際の数字では全長4403mm×全幅1848mm×全高1844mmと、カングーの4280mm×1830mm×1810mm(同順)よりも少しずつ大きく高いが、それ以上に感じるのはボンネットの高さからくるものだろう。
ドアを開けて室内に乗り込むと意外にも質感が高いことに驚いた。もっと商用車然としてプラスチッキーかと思いきやそんなことはないのだ。さらに「モジュトップ」と呼ばれるパノラミックガラスルーフと多機能ルーフストレージが一体になった不思議な空間が頭上に広がる。
中央の多機能ルーフストレージは半透明で外光をあまり遮らずにそこにモノが置ける仕組みだ。ただ、多分そこにはモノは置かないし、きっとほこりなどが入り込んであまりきれいに使えないような気もする。また、仕切りがないため置いたモノがあちこちに移動してしまいそうだ。しかし、こういうところにも収納があるという“夢”が大事で、ここに何を入れようかなと楽しい気持ちにさせてくれる。
収納といえば最後端のルーフ上に室内からも外からも取り出し可能な収納ボックスも取り付けられており、そこへのアクセスはリアオープニングガラスハッチ(テールゲートのガラス部分も開閉できる)からも可能なので、きっと便利に使えるだろう。こういったアイディアはカングーにもあり、ルーフ周りに収納ボックスが用意されている。フランス人はルーフ周りを上手く収納に使うアイディアをふんだんに持っているに違いない。
◆左前方の位置がつかみにくい
搭載されるエンジンは、1500cc4気筒ディーゼルターボは最高出力130ps/3750rpm、最大トルク300Nm/1750rpmを発揮するので、低速トルクが厚いディーゼルエンジンならではのしっかりとした加速が味わえる。しかも全体的にギア比はローギアードなのでさらに強調される。
特に1速と2速は中々シフトアップせず、引っ張り気味なセッティングになっていた。つまり、フルに積載しても痛痒なく走れるセッティングなのだ。それは8速ATにも表れており、大人しくそっと走らせるのは苦手なようだ。燃費などを気にせず積極的にアクセルを踏んで走らせるとシフトショックは減り、スムーズな走りになる傾向にあった。
街中ではきびきびと走るベルランゴだが、気になる点もある。それは車幅感覚。特に左側が非常につかみにくいのだ。結構寄せたつもりでもルームミラーに表示されるサイドカメラモニターを見ると、タイヤ1本以上開いていることがままあった。さらに、短いボンネットフードの先端も見えないため、短いノーズを有効活用できないのだ。これは太いAピラーも大きな要因で、もう少し何とかしてほしいと感じた。
視界でいえば、ドア周りに気になるところがある。サイドウインドウグラフィックを見るとフロントドア後端からキックアップしてスライドドアにつながったところで下がるようなモチーフが取られている。これを室内側から見ると、黒い障害物がフロントドア後端とスライドドア前端に覗いており、特に左側部分が視界の端に入って、何か障害物がある、あるいは、クルマがいるのではないかと走行中にドキッとすることが何度もあった。確かに慣れの部分ではあるがもう少し工夫が欲しいし、鉄板上の黒いモノがウインドウ下端から飛び出しているのはあまり気持ちがいいものでもない。
◆荷物を積んでも良く走る
乗り心地はこういった商用車ベースにしては上々だ。一度荷室に100kg近い荷物を積載(乗員は一人)したのだが、リアが若干下がったくらいで乗り心地に影響がなかったのは高く評価できよう。またそういった時でもハンドリングに影響が出ないのも優秀だ。一方で、空荷状態でコーナーに段差などがあるとリアが跳ねる傾向にあった。
シートは長距離でも疲れを感じさせない形状で、いくらでも走っていけそうだ。高速では直進安定性もよく、こういったボディ形状にしては横風にも強いのでアクティブクルーズコントロールを利用して淡々と走ることが出来るだろう。
やはりこういったクルマなので郊外へドライブに行きたくなる。そうするとワインディングなども走ることになるだろうが、その時は若干重心が高いことが気になった。もちろんコーナーを楽しむようなクルマではないのだが、最近のSUVなどに慣れた人にとってはワンテンポ遅れてぐらっと来るので注意が必要だ。
◆ダイヤル式シフトセレクトは?
インテリアでは大型のタッチスクリーンが目に留まる。基本的な動作、ラジオのチューニングをはじめ、ナビ操作などはここで行うのだが、フィードバックのないタッチスクリーンなので実際に操作が出来たかどうかはついつい目視してしまうので、注意が必要だ。そういう点では空調関係はセンタークラスターに物理スイッチがあり、ブラインドタッチによって安全かつ確実な操作が可能だ。
もう一点、ダイヤル式のシフトセレクトスイッチはあまり扱いやすいとはいえない。DとRを繰り返す際に、ついPに入ってしまったり、あるいはPに入れたつもりがまだRだったということもあった。スペースを有効に使いたいからこのダイヤル式を選んだのであれば、メルセデスのようにステアリングコラムから生やすなどの方がスペース的には有効と思われた。
◆サイズとしては良好な燃費
今回の燃費は、
・市街地:14.4km/リットル
・郊外:15.8km/リットル
・高速:22.2km/リットル
という結果だった。いずれのシーンでも渋滞にはほとんど遭遇しなかったため、特に市街地と郊外での差はつかなかったと思われる。また、高速ではクルマの性格もあり80km/hから100km/hほどでの流れに乗って走ったためかなり伸びたようだ。因みに第2東名などの120km/h制限でそこまでスピードを上げると、瞬間燃費計は15km/リットルから17km/リットル程度まで悪化したので、大きなボディによる空気抵抗がかなりの影響を及ぼしているようだ。
◆余裕のある走りは魅力
低床による荷物の積み下ろしのしやすさや、比較的フラットな荷室は様々な荷物を運ぶのにとても便利だ。テールゲートは跳ね上げ式で、開閉には後方にそれなりのスペースが必要となるが、いざとなれば前述のオープニングガラスハッチを使えばそのスペースはわずかで済む。
カングーと比較をすると、走りの面においては明らかにベルランゴに分がある。絶対的にパワーとトルクがあり、ディーゼルであることも走りや燃費には有利だ。さらに、安全運転支援システムもベルランゴは充実しているのに対し、カングーはほとんど装備されていない。
当然価格差もあって、ベルランゴは325万円(すぐに売り切れたデビューエディション)に対しカングーは264.7万円とかなりの差がある。どこまで何をクルマに求めるか。必要最低限の装備があれば十分と考えるか、あるいは、ベルランゴのように必要にして十分な安全運転支援システムを含めた装備とエンジンを求めるか。そこがポイントとなるが、個人的にはベルランゴの装備とディーゼルの余裕の走りからこちらを取りたい。
やはり荷物満載、人も4人乗って遊びに出かける時、非力だとちょっと寂しくなるではないか。ただし、ボディカラーの遊び心はカングーの方が楽しそうなので、悩ましい選択である。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★★
内田俊一(うちだしゅんいち)
日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員
1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。
(レスポンス 内田俊一)
◆遊び心溢れる室内
「大きいな」それがクルマを受け取った時の第一印象だ。カングーも初代から現行に変わった際に“デカングー”などと呼ばれていたが、その比ではないくらい大きく感じる。実際の数字では全長4403mm×全幅1848mm×全高1844mmと、カングーの4280mm×1830mm×1810mm(同順)よりも少しずつ大きく高いが、それ以上に感じるのはボンネットの高さからくるものだろう。
ドアを開けて室内に乗り込むと意外にも質感が高いことに驚いた。もっと商用車然としてプラスチッキーかと思いきやそんなことはないのだ。さらに「モジュトップ」と呼ばれるパノラミックガラスルーフと多機能ルーフストレージが一体になった不思議な空間が頭上に広がる。
中央の多機能ルーフストレージは半透明で外光をあまり遮らずにそこにモノが置ける仕組みだ。ただ、多分そこにはモノは置かないし、きっとほこりなどが入り込んであまりきれいに使えないような気もする。また、仕切りがないため置いたモノがあちこちに移動してしまいそうだ。しかし、こういうところにも収納があるという“夢”が大事で、ここに何を入れようかなと楽しい気持ちにさせてくれる。
収納といえば最後端のルーフ上に室内からも外からも取り出し可能な収納ボックスも取り付けられており、そこへのアクセスはリアオープニングガラスハッチ(テールゲートのガラス部分も開閉できる)からも可能なので、きっと便利に使えるだろう。こういったアイディアはカングーにもあり、ルーフ周りに収納ボックスが用意されている。フランス人はルーフ周りを上手く収納に使うアイディアをふんだんに持っているに違いない。
◆左前方の位置がつかみにくい
搭載されるエンジンは、1500cc4気筒ディーゼルターボは最高出力130ps/3750rpm、最大トルク300Nm/1750rpmを発揮するので、低速トルクが厚いディーゼルエンジンならではのしっかりとした加速が味わえる。しかも全体的にギア比はローギアードなのでさらに強調される。
特に1速と2速は中々シフトアップせず、引っ張り気味なセッティングになっていた。つまり、フルに積載しても痛痒なく走れるセッティングなのだ。それは8速ATにも表れており、大人しくそっと走らせるのは苦手なようだ。燃費などを気にせず積極的にアクセルを踏んで走らせるとシフトショックは減り、スムーズな走りになる傾向にあった。
街中ではきびきびと走るベルランゴだが、気になる点もある。それは車幅感覚。特に左側が非常につかみにくいのだ。結構寄せたつもりでもルームミラーに表示されるサイドカメラモニターを見ると、タイヤ1本以上開いていることがままあった。さらに、短いボンネットフードの先端も見えないため、短いノーズを有効活用できないのだ。これは太いAピラーも大きな要因で、もう少し何とかしてほしいと感じた。
視界でいえば、ドア周りに気になるところがある。サイドウインドウグラフィックを見るとフロントドア後端からキックアップしてスライドドアにつながったところで下がるようなモチーフが取られている。これを室内側から見ると、黒い障害物がフロントドア後端とスライドドア前端に覗いており、特に左側部分が視界の端に入って、何か障害物がある、あるいは、クルマがいるのではないかと走行中にドキッとすることが何度もあった。確かに慣れの部分ではあるがもう少し工夫が欲しいし、鉄板上の黒いモノがウインドウ下端から飛び出しているのはあまり気持ちがいいものでもない。
◆荷物を積んでも良く走る
乗り心地はこういった商用車ベースにしては上々だ。一度荷室に100kg近い荷物を積載(乗員は一人)したのだが、リアが若干下がったくらいで乗り心地に影響がなかったのは高く評価できよう。またそういった時でもハンドリングに影響が出ないのも優秀だ。一方で、空荷状態でコーナーに段差などがあるとリアが跳ねる傾向にあった。
シートは長距離でも疲れを感じさせない形状で、いくらでも走っていけそうだ。高速では直進安定性もよく、こういったボディ形状にしては横風にも強いのでアクティブクルーズコントロールを利用して淡々と走ることが出来るだろう。
やはりこういったクルマなので郊外へドライブに行きたくなる。そうするとワインディングなども走ることになるだろうが、その時は若干重心が高いことが気になった。もちろんコーナーを楽しむようなクルマではないのだが、最近のSUVなどに慣れた人にとってはワンテンポ遅れてぐらっと来るので注意が必要だ。
◆ダイヤル式シフトセレクトは?
インテリアでは大型のタッチスクリーンが目に留まる。基本的な動作、ラジオのチューニングをはじめ、ナビ操作などはここで行うのだが、フィードバックのないタッチスクリーンなので実際に操作が出来たかどうかはついつい目視してしまうので、注意が必要だ。そういう点では空調関係はセンタークラスターに物理スイッチがあり、ブラインドタッチによって安全かつ確実な操作が可能だ。
もう一点、ダイヤル式のシフトセレクトスイッチはあまり扱いやすいとはいえない。DとRを繰り返す際に、ついPに入ってしまったり、あるいはPに入れたつもりがまだRだったということもあった。スペースを有効に使いたいからこのダイヤル式を選んだのであれば、メルセデスのようにステアリングコラムから生やすなどの方がスペース的には有効と思われた。
◆サイズとしては良好な燃費
今回の燃費は、
・市街地:14.4km/リットル
・郊外:15.8km/リットル
・高速:22.2km/リットル
という結果だった。いずれのシーンでも渋滞にはほとんど遭遇しなかったため、特に市街地と郊外での差はつかなかったと思われる。また、高速ではクルマの性格もあり80km/hから100km/hほどでの流れに乗って走ったためかなり伸びたようだ。因みに第2東名などの120km/h制限でそこまでスピードを上げると、瞬間燃費計は15km/リットルから17km/リットル程度まで悪化したので、大きなボディによる空気抵抗がかなりの影響を及ぼしているようだ。
◆余裕のある走りは魅力
低床による荷物の積み下ろしのしやすさや、比較的フラットな荷室は様々な荷物を運ぶのにとても便利だ。テールゲートは跳ね上げ式で、開閉には後方にそれなりのスペースが必要となるが、いざとなれば前述のオープニングガラスハッチを使えばそのスペースはわずかで済む。
カングーと比較をすると、走りの面においては明らかにベルランゴに分がある。絶対的にパワーとトルクがあり、ディーゼルであることも走りや燃費には有利だ。さらに、安全運転支援システムもベルランゴは充実しているのに対し、カングーはほとんど装備されていない。
当然価格差もあって、ベルランゴは325万円(すぐに売り切れたデビューエディション)に対しカングーは264.7万円とかなりの差がある。どこまで何をクルマに求めるか。必要最低限の装備があれば十分と考えるか、あるいは、ベルランゴのように必要にして十分な安全運転支援システムを含めた装備とエンジンを求めるか。そこがポイントとなるが、個人的にはベルランゴの装備とディーゼルの余裕の走りからこちらを取りたい。
やはり荷物満載、人も4人乗って遊びに出かける時、非力だとちょっと寂しくなるではないか。ただし、ボディカラーの遊び心はカングーの方が楽しそうなので、悩ましい選択である。
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