ホンダ S2000 20周年記念アイテム装着車に試乗、快感の走りを再び感じた…木下隆之
「20thアニバーサリー」その文字を目にして、思わぬ郷愁が芽生えた。ホンダ『S2000』はもう、デビューしてから20年という月日を積み重ねたことになるのか…。時間の経過の速さに驚きつつ、進化の歩みの遅さに驚かされる。
◆デビュー当時のS2000は、クルマというよりマシンと呼ぶのがふさわしい
S2000がデビューした時の激震ともいえるニュースは瞬く間にクルマ好きに伝播し、巷の話題になった。2リットルNAエンジンは、まるでレーシングエンジンと同様に9000回転を許容したし、パチンとパチンと弾けるその特性に腰を抜かしかけた思い出がある。
試乗会は確か箱根のホテルを起点に開催されたのだと記憶している。そのVTECサウンドは箱根の山々に響いた。仙石原から芦ノ湖スカイラインを巡る試乗コースを、飽きるまで往復した。ただし、エンジン特性は扱いづらかった。低中回転域のトルクは細かったから、瞬間的であっても回転をドロップさせてしまうと、カメのように勢いを失った。回転計の針を高回転域でさまよわせておかなければ、その勢いは持続しなかったのだ。つまり、レーシングエンジンのそれである。
操縦性も刺激的だった。ホンダが長い沈黙を破って産み出したFRは、恐ろしいほどピーキーな特性だったのだ。強烈なパワーがおぞましいほど過激なアンダーステアを誘いつつ、それでいて獰猛なテールスライドを見舞った。ほぼニュートラルのバランスをキープするのは、タイトローブを駆け抜けるような曲芸師のようなテクニックが求められた。
乗会が箱根で開催されたことを恨んだ。とてもじゃないけれど、サーキット以外でこのマシンの(そう、クルマというよりマシンと呼ぶのがふさわしい)、限界特性を覗くのは不可能に近かったのだ。
ただし、縁あって僕がこのマシンでレースをすることになると、S2000は表情をガラリと変えた。スーパー耐久シリーズを戦うと、その猛獣の牙のような特性は影を潜め、従順なマシンになったのだ。今でもあの速さは目に焼き付いている。ST4クラスで挑んだ僕は、訳あって予選で最後尾に沈んだ。だが、スタート直後から次のトライバーにタスキをつなぐ前に、トップにまで上り詰めることができたのである。
S2000というマシンは、オリジナルの状態ではアンコントロールである。だが、ひとたびサスペンションや空力に手を加えれば、敵知らずのパフォーマンスを披露することを知ったのだ。
◆記念モデルはサーキットを縦横無尽に駆け抜けたS2000のよう
今回、生誕20周年を記念するモデルをドライブすることになった。ホンダアクセスの純正アクセサリーを装着したクルマだ。試乗ステージは奇しくも箱根のワインディングである。そこで味わったS2000は、試乗会場で手を焼いたあのS2000ではなく、サーキットを縦横無尽に駆け抜けたS2000のように感じた。
最高出力250psのパワーは、さすがに500psや600psが珍しくはない現代では非力と言えるのかもしれない。だが、回転の上昇に比例して馬力を積み重ねていくその特性は、今では味わうことのできない快感である。
例の頑固なアンダーステアには陥らなかったのは、強化されたサスペンションが絶妙なバランスを保っているからだろう。それが前後の空力パーツの効果なのか否かを断言することはできないが、おそらく高速域では効いているだろうと想像した。リアには、ウイングではなくダックテールが組み込まれている。リアのストレーキは、見えない空気を整流しているに違いないのだ。それにしても、S2000の走りは快感である。これほどまでの高回転エンジンをもう目にすることはないのかもしれないと思うと、感傷的な気持ちになった。
実は2週間ほど前に、僕はS2000のチューニングモデルに出会っている。とあるレーシングスクールの講師に招かれ、そこである一台の、参加者が所有していたS2000をドライブしているのだ。「どうしてS2000を購入したの?」…その参加者に僕が質問すると、彼はこう答えた。「もっとも走りが学べるFRマシンだと思ったんです」。20年前、僕も確かそう感じた記憶がある。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★★
木下隆之| モータージャーナリスト
プロレーシングドライバーにして、大のクルマ好き。全日本GT選手権を始め、海外のレースでも大活躍。一方でカー・オブ・ザ・イヤー選考委員歴は長い。『ジェイズな奴ら』を上梓するなど、作家の肩書きも。
(レスポンス 木下隆之)
◆デビュー当時のS2000は、クルマというよりマシンと呼ぶのがふさわしい
S2000がデビューした時の激震ともいえるニュースは瞬く間にクルマ好きに伝播し、巷の話題になった。2リットルNAエンジンは、まるでレーシングエンジンと同様に9000回転を許容したし、パチンとパチンと弾けるその特性に腰を抜かしかけた思い出がある。
試乗会は確か箱根のホテルを起点に開催されたのだと記憶している。そのVTECサウンドは箱根の山々に響いた。仙石原から芦ノ湖スカイラインを巡る試乗コースを、飽きるまで往復した。ただし、エンジン特性は扱いづらかった。低中回転域のトルクは細かったから、瞬間的であっても回転をドロップさせてしまうと、カメのように勢いを失った。回転計の針を高回転域でさまよわせておかなければ、その勢いは持続しなかったのだ。つまり、レーシングエンジンのそれである。
操縦性も刺激的だった。ホンダが長い沈黙を破って産み出したFRは、恐ろしいほどピーキーな特性だったのだ。強烈なパワーがおぞましいほど過激なアンダーステアを誘いつつ、それでいて獰猛なテールスライドを見舞った。ほぼニュートラルのバランスをキープするのは、タイトローブを駆け抜けるような曲芸師のようなテクニックが求められた。
乗会が箱根で開催されたことを恨んだ。とてもじゃないけれど、サーキット以外でこのマシンの(そう、クルマというよりマシンと呼ぶのがふさわしい)、限界特性を覗くのは不可能に近かったのだ。
ただし、縁あって僕がこのマシンでレースをすることになると、S2000は表情をガラリと変えた。スーパー耐久シリーズを戦うと、その猛獣の牙のような特性は影を潜め、従順なマシンになったのだ。今でもあの速さは目に焼き付いている。ST4クラスで挑んだ僕は、訳あって予選で最後尾に沈んだ。だが、スタート直後から次のトライバーにタスキをつなぐ前に、トップにまで上り詰めることができたのである。
S2000というマシンは、オリジナルの状態ではアンコントロールである。だが、ひとたびサスペンションや空力に手を加えれば、敵知らずのパフォーマンスを披露することを知ったのだ。
◆記念モデルはサーキットを縦横無尽に駆け抜けたS2000のよう
今回、生誕20周年を記念するモデルをドライブすることになった。ホンダアクセスの純正アクセサリーを装着したクルマだ。試乗ステージは奇しくも箱根のワインディングである。そこで味わったS2000は、試乗会場で手を焼いたあのS2000ではなく、サーキットを縦横無尽に駆け抜けたS2000のように感じた。
最高出力250psのパワーは、さすがに500psや600psが珍しくはない現代では非力と言えるのかもしれない。だが、回転の上昇に比例して馬力を積み重ねていくその特性は、今では味わうことのできない快感である。
例の頑固なアンダーステアには陥らなかったのは、強化されたサスペンションが絶妙なバランスを保っているからだろう。それが前後の空力パーツの効果なのか否かを断言することはできないが、おそらく高速域では効いているだろうと想像した。リアには、ウイングではなくダックテールが組み込まれている。リアのストレーキは、見えない空気を整流しているに違いないのだ。それにしても、S2000の走りは快感である。これほどまでの高回転エンジンをもう目にすることはないのかもしれないと思うと、感傷的な気持ちになった。
実は2週間ほど前に、僕はS2000のチューニングモデルに出会っている。とあるレーシングスクールの講師に招かれ、そこである一台の、参加者が所有していたS2000をドライブしているのだ。「どうしてS2000を購入したの?」…その参加者に僕が質問すると、彼はこう答えた。「もっとも走りが学べるFRマシンだと思ったんです」。20年前、僕も確かそう感じた記憶がある。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★
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フットワーク:★★★★★
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木下隆之| モータージャーナリスト
プロレーシングドライバーにして、大のクルマ好き。全日本GT選手権を始め、海外のレースでも大活躍。一方でカー・オブ・ザ・イヤー選考委員歴は長い。『ジェイズな奴ら』を上梓するなど、作家の肩書きも。
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