VW T-Roc 新型試乗 これぞVWが作りたかった「現代の国民車」…中村孝仁
◆VWらしい質実剛健で使い勝手の良いSUV
SUV花盛りである。ロールスロイスまでもがSUV作りに手を染めるのだから、最早一過性の現象とは言えまい。
VWと言えば、有名な『ビートル』に始まり、これまでもずっとドイツ人のための国民車を作り続けてきたメーカーである。そして生みの苦しみの果てに『ゴルフ』という、これまたビートルを凌駕する国民車を作り上げた。そしてどちらのモデルもドイツ人のみならず、世界の人々に愛用されて数多くを輸出したモデルでもある。
ゴルフ以降もVWは多くのクルマを輩出しているが、残念ながらゴルフを上回る評価のモデルが出てきたかと言えば、それは無いと思う。如何にビートル、ゴルフが優れたクルマで俗に言うベンチマークとなったクルマであるかがわかる。
ベンチマークのクルマというのは、市場が成熟する前に投入するから、後から出るクルマがそれを真似て作りこんでくる…そんなクルマを指すと思う。だから、そうした点では今回試乗したVW『T-Roc』は決してベンチマークになり得るモデルではないのだが、それでもVWらしさをふんだんにちりばめて、質実剛健で使い勝手の良いクルマに仕上がっていると思った。
◆T-Rocはまさに現代のファミリーカー
ビートルはセダンとは言えないけれど、あの車が誕生した当時としては、セダンの範疇、というよりもファミリーカーであった。そしてゴルフはハッチバックというあの時代のファミリーカーを最もよく体現したモデルだったと言って過言ではない。今度のT-Rocはまさに現代のファミリーカー、すなわちVWが最も作りたかったクルマではないかと思うわけである。
ビートルの時代はフェルディナント・ポルシェという稀代の名エンジニアの名がクルマの背景にいた。ゴルフの場合はジョルジェット・ジウジアーロというこれまた稀代の名デザイナーがそのデザインを仕上げた。そうした一人の名工の名前こそないが、T-Rocは何となくVWが総力を挙げて作り出したモデルという印象を受ける。まあ、その割には存在感が薄いのだが、その理由は前後に『Tクロス』と『ティグアン』という似通ったSUVが存在するからだと思う。
T-RocはまさにこのTクロスとティグアンの間に投入されたモデル。ボディサイズも全長4240×全幅1825×全高1590mm。ゴルフより僅かに短く、ゴルフより僅かに幅広い。まあ車高はだいぶ高いのだが、専有面積で言えばほとんど変わるところはないモデルだ。デザイン的にはだいぶ色気を出していて、どちらかと言えばアウディのクルマかと見紛うばかり。VWにしてはかなりキリッとして質実剛健というよりも、かなりはっきりと魅力を出しているスタイルだ。
一つ下の同じTで始まるモデルに比べたら、言っちゃ悪いが圧倒的に魅力的に映る。クーペスタイルだというが、メルセデスやBMWが作る猫背のクーペ風ではないから、とりあえず十分なラゲッジスペースを確保しているし、そもそも、それほどクーペと公言するほどのスタイルではない。このあたりにVWらしさが出ているような気がする。
◆2つの「泣き所」
「R-Line」はT-Rocのトップモデル。アダプティブシャシーコントロール(DCC)を標準装備し、唯一19インチホイールを装備することが大きな特徴である。全部で4グレード用意されているが、装備を見る限りベーシックグレードのスタイルを除けば、必要と思われる装備はすべて含んでいて、最新鋭のインフォテイメントやADASを装備して、オプションを追加する必要がほとんどないことを考えると、389万4000円~453万9000円という車両本体価格はまあ妥当と言えば妥当。今回の試乗車もオプションは3万6300円のフロアマットだけだ。
エンジンはEA288の名を持つ2リットルのターボディーゼル。目下VWが持つ唯一のディーゼルユニットだが、こいつは少々古い。他の日本に導入されているVWディーゼルのすべてがこのエンジン。間もなく登場する新しいゴルフにはこれを進化させたEA288evoの名を持つ最新ユニットが搭載されるのだが、残念ながらまだ旧型で我慢しなければならないところが、少し泣き所と言えば泣き所。このためライバルのディーゼルと比較してお世辞にもパワフルとはいえないし、何よりも遮音性能が悪い。まあうるさい。
このうるさいという言葉は本当に色々あって、漢字で書くと煩い、五月蠅いとあり、同じ意味を持つ言葉として喧しいもある。こちらの言葉はやかましいとも読むし、かまびすしいとも読む。一番近いのは五月蠅いなのかなとも思うが、少し我慢せざるを得ない。
DCCを装備しているからなのか、元々の資質が優れているからなのか乗り心地の重厚感が高いのもこのクルマの魅力。まあシャープという動きではないが、大方のユーザーはこの運動性能には満足できると思う。VWは何故か他のドイツ車と比較してもシートの前後長が長く、チビにはつらい。多くの小柄な女性ドライバーにも多分お尻とシートバックとの間にはこぶしひとつ以上の隙間が空いてしまうはず。気にならなければ良いが、個人的には長距離はつらい。泣き所はこのシートと前述したエンジンだった。
しかし、VWらしいバランスの取れた性能とVWらしくない色気のあるスタイリング、それに絶妙なサイズ感は間違いなく現代社会に向けてVWが作り上げた国民車だと感じた。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来43年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。
(レスポンス 中村 孝仁)
SUV花盛りである。ロールスロイスまでもがSUV作りに手を染めるのだから、最早一過性の現象とは言えまい。
VWと言えば、有名な『ビートル』に始まり、これまでもずっとドイツ人のための国民車を作り続けてきたメーカーである。そして生みの苦しみの果てに『ゴルフ』という、これまたビートルを凌駕する国民車を作り上げた。そしてどちらのモデルもドイツ人のみならず、世界の人々に愛用されて数多くを輸出したモデルでもある。
ゴルフ以降もVWは多くのクルマを輩出しているが、残念ながらゴルフを上回る評価のモデルが出てきたかと言えば、それは無いと思う。如何にビートル、ゴルフが優れたクルマで俗に言うベンチマークとなったクルマであるかがわかる。
ベンチマークのクルマというのは、市場が成熟する前に投入するから、後から出るクルマがそれを真似て作りこんでくる…そんなクルマを指すと思う。だから、そうした点では今回試乗したVW『T-Roc』は決してベンチマークになり得るモデルではないのだが、それでもVWらしさをふんだんにちりばめて、質実剛健で使い勝手の良いクルマに仕上がっていると思った。
◆T-Rocはまさに現代のファミリーカー
ビートルはセダンとは言えないけれど、あの車が誕生した当時としては、セダンの範疇、というよりもファミリーカーであった。そしてゴルフはハッチバックというあの時代のファミリーカーを最もよく体現したモデルだったと言って過言ではない。今度のT-Rocはまさに現代のファミリーカー、すなわちVWが最も作りたかったクルマではないかと思うわけである。
ビートルの時代はフェルディナント・ポルシェという稀代の名エンジニアの名がクルマの背景にいた。ゴルフの場合はジョルジェット・ジウジアーロというこれまた稀代の名デザイナーがそのデザインを仕上げた。そうした一人の名工の名前こそないが、T-Rocは何となくVWが総力を挙げて作り出したモデルという印象を受ける。まあ、その割には存在感が薄いのだが、その理由は前後に『Tクロス』と『ティグアン』という似通ったSUVが存在するからだと思う。
T-RocはまさにこのTクロスとティグアンの間に投入されたモデル。ボディサイズも全長4240×全幅1825×全高1590mm。ゴルフより僅かに短く、ゴルフより僅かに幅広い。まあ車高はだいぶ高いのだが、専有面積で言えばほとんど変わるところはないモデルだ。デザイン的にはだいぶ色気を出していて、どちらかと言えばアウディのクルマかと見紛うばかり。VWにしてはかなりキリッとして質実剛健というよりも、かなりはっきりと魅力を出しているスタイルだ。
一つ下の同じTで始まるモデルに比べたら、言っちゃ悪いが圧倒的に魅力的に映る。クーペスタイルだというが、メルセデスやBMWが作る猫背のクーペ風ではないから、とりあえず十分なラゲッジスペースを確保しているし、そもそも、それほどクーペと公言するほどのスタイルではない。このあたりにVWらしさが出ているような気がする。
◆2つの「泣き所」
「R-Line」はT-Rocのトップモデル。アダプティブシャシーコントロール(DCC)を標準装備し、唯一19インチホイールを装備することが大きな特徴である。全部で4グレード用意されているが、装備を見る限りベーシックグレードのスタイルを除けば、必要と思われる装備はすべて含んでいて、最新鋭のインフォテイメントやADASを装備して、オプションを追加する必要がほとんどないことを考えると、389万4000円~453万9000円という車両本体価格はまあ妥当と言えば妥当。今回の試乗車もオプションは3万6300円のフロアマットだけだ。
エンジンはEA288の名を持つ2リットルのターボディーゼル。目下VWが持つ唯一のディーゼルユニットだが、こいつは少々古い。他の日本に導入されているVWディーゼルのすべてがこのエンジン。間もなく登場する新しいゴルフにはこれを進化させたEA288evoの名を持つ最新ユニットが搭載されるのだが、残念ながらまだ旧型で我慢しなければならないところが、少し泣き所と言えば泣き所。このためライバルのディーゼルと比較してお世辞にもパワフルとはいえないし、何よりも遮音性能が悪い。まあうるさい。
このうるさいという言葉は本当に色々あって、漢字で書くと煩い、五月蠅いとあり、同じ意味を持つ言葉として喧しいもある。こちらの言葉はやかましいとも読むし、かまびすしいとも読む。一番近いのは五月蠅いなのかなとも思うが、少し我慢せざるを得ない。
DCCを装備しているからなのか、元々の資質が優れているからなのか乗り心地の重厚感が高いのもこのクルマの魅力。まあシャープという動きではないが、大方のユーザーはこの運動性能には満足できると思う。VWは何故か他のドイツ車と比較してもシートの前後長が長く、チビにはつらい。多くの小柄な女性ドライバーにも多分お尻とシートバックとの間にはこぶしひとつ以上の隙間が空いてしまうはず。気にならなければ良いが、個人的には長距離はつらい。泣き所はこのシートと前述したエンジンだった。
しかし、VWらしいバランスの取れた性能とVWらしくない色気のあるスタイリング、それに絶妙なサイズ感は間違いなく現代社会に向けてVWが作り上げた国民車だと感じた。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来43年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。
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