ランドローバー ディフェンダー 新型試乗 もはや“ディフェンダー”ならぬ“オールラウンダー”…河西啓介
1948年に誕生、以来70年あまりの歴史を持つランドローバー『ディフェンダー』が新型へとモデルチェンジ。日本国内初のオフロード試乗を含むテストドライブに参加した。
◆受け継がれた“ディフェンダー感”
ジープ『ラングラー』、“ゲレンデ”ことメルセデス『Gクラス』、そしてこのランドローバー ディフェンダー。この3台こそ世界を代表するレジェンダリーなクロカン4WDと言って間違いないだろう。いずれも軍用車などに採用されていたという“本物”であるという出自を持つ。あ、トヨタの『ランクル』も忘れてはいけないが。
3台のうちラングラーとGクラスは改良やモデルチェンジを受けながら連綿と生産され続けているが、いっぽうディフェンダーは2016年に生産終了となり、1948年の誕生以来続いた歴史に幕を下ろした。最新の衝突安全基準や排ガス規制に対応することが難しくなった……というのがその理由だが、なにしろ基本設計が70年近く前のクルマゆえ、それもむべなるかな。
だがディフェンダーは、世界で唯一の“プレミアム4WDだけをつくるメーカー”、ランドローバー社の始祖たるモデル。多くのファンがその復活を待望し、メーカーも次世代のディフェンダー開発を抜かりなく進めていた。そして1年前の2019年9月、フランクフルトモーターショーにて発表されたのがこの新型である。
ラングラーやGクラスは、オリジナルモデルのデザインやコンセプトを“変えない”という手法でモデルチェンジされてきたが、対する新型ディフェンダーはその姿を大きく変えて登場した。まずラダーフレーム構造だったボディをアルミ製モノコックとして一気にモダナイズ。いかにも“道具”然としていた先代に比べ、新型はデザインも質感もまさに「現代のプレミアムSUV」という雰囲気になった。
いっぽうで「上手いなぁ」と思うのは、随所にちゃんと“ディフェンダー感”を残していることだ。丸目2灯のヘッドランプ、直線基調のデザイン、リアに背負ったスペアタイヤ、ルーフの左右に開けられたアルパインウィンドウ。散りばめられた先代へのオマージュは、クルマ好き、ランドローバー・ファンが“萌える”ツボを抑えている。そしてどこか“チョロQ”的なカッコかわいいスタイリングは、きっと“女子ウケ”も悪くないだろうなと思わせる。
◆レンジローバーを思わせる乗り心地
今回、その新型ディフェンダーにいちはやく試乗することができた。モデルバリエーションとしては3ドアのショートボデイ「90」と5ドアのロングボディ「110」があるが、乗ることができたのは「110」のみ。全長4945mm×全幅1995mm×全高1970mmで、3列シートを備えている。ちなみに「110(ヒャクトー)」の呼び名は初代のホイールベースが110インチ(2794mm)だったことによるが、新型のホイールベースはずっと長くて3020mmもある。
日本仕様に用意されるパワートレインは2リットル直列4気筒のガソリンエンジンに8速ATの組み合わせのみ。本国には3リットル直6ターボのガソリンエンジン+マイルドハイブリッド搭載モデルもあるが日本には輸入されない。だがこのサイズとキャラクターからして、ディーゼルエンジンを待望する人は多いだろう。本国では2リットルのディーゼルターボも設定されるが、現時点での日本導入は未定だ。
市街地から地方国道を通り、山あいを抜けるワインディングロードを含む道のりだったが、まず感心したのは乗り心地のよさだった。先代のいかにもクロカン4WD然とした、フワフワ、ヒョコヒョコとした感じは微塵もなく、むしろランドローバー一族のフラッグシップである『レンジローバー』を思わせるしなやかなライド感。
この110の足まわりはフロント/ダブルウィッシュボーン、リア/マルチリンクにエアサスペンションが標準装備となっている(90はコイルサスペンションが標準)。試乗車にはブロックの大きなオールテレインタイヤ(グッドイヤー・ラングラー・オールテレーン・アドベンチャー)が装着されていたが、これをサマータイヤに交換すればさらにスムーズかつ静かになるだろう。
エンジンパワーは必要にして十分だ。最高出力300ps/5500rpm、最大トルク400Nm/2000rpmの2 リットルガソリンエンジンは、8速ATと協調して2280kgというヘビー級ボディをストレスなく走らせる。またハンドリングも非常にニュートラルで扱いやすいもの。大柄なボディゆえ最小回転半径こそ6.1mと大きいが、カーブの連続する道でも身のこなしは軽やかで、走りを楽しむことができた。
◆やっぱり“本物”のクロカン4WD
オフロードコースに場所を移し、悪路での走破性能を試した。元はゴルフ場だったと思しき場所につくられた起伏に富んだコースで、まさにディフェンダーの真価を体感することができた。
電子式のセレクターで「Lowレンジ」を選び、「クリアサイト・グランドビュー」と呼ばれる車体の下の路面状況を確認できるモニターを頼りに、ハンドルとアクセル、ブレーキを慎重に操作すれば、ドライバーのスキルは関係なく、およそどんな路面でもクルマはグイグイと進んでいく。見た目はモダンなSUV然となったが、やはり出自は軍用や警察車両として活躍した究極の“実用車”なのだと感心した。
あらためて車体を真横から見ると、前後オーバーハングが相当に切り詰められているのがわかる。38度のアプローチアングル、40度のデパーチャーアングルが確保され、登坂できる最大傾斜角45度。水深90mmまでの渡河性能も備え、そのスペックを見ればやはりこのクルマの本性は優雅なSUVではなく、ガチなクロスカントリー4WDなのだ、ということがわかる。
もうひとつ、オフロードコースを走って感心させられたのはボディ剛性の高さ。ゴロゴロと岩が転がるガレ場も、崖のような急勾配も、その巨体はミシリとも音を立てず走破していく。ランドローバーによれば「先代のラダーフレームの3倍のねじり剛性をもつ」という新開発の「D7x」プラットフォームは、今後レンジローバーやレンジローバースポーツにも使われる予定のものであり、そう考えればこの新型ディフェンダーがレンジと遜色ない乗り心地やオンロード走行性能を備えているのも頷ける。
ひとつ気になったのは、新型ディフェンダーがここまで洗練されてしまうと、果たしてレンジローバーやスポーツ、ディスカバリーなどとの“棲み分け”はどうなるのか?ということ。つまりそんな心配をさせるほど、この新型はオンでもオフでも高い走行性能と快適性を備える、まさにディフェンダーならぬ“オールラウンダー”なモデルに進化していた、ということなのだ。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース/★★★
フットワーク/★★★★★
オススメ度/★★★★
河西啓介|編集者/モータージャーナリスト
自動車雑誌『NAVI』編集部を経て、出版社ボイス・パブリケーションを設立。『NAVI CARS』『MOTO NAVI』『BICYCLE NAVI』の編集長を務める。現在はフリーランスとして雑誌・ウェブメディアでの原稿執筆のほか、クリエイティブディレクター、ラジオパーソナリティ、テレビコメンテーターなどとしても活動する。
(レスポンス 河西啓介)
◆受け継がれた“ディフェンダー感”
ジープ『ラングラー』、“ゲレンデ”ことメルセデス『Gクラス』、そしてこのランドローバー ディフェンダー。この3台こそ世界を代表するレジェンダリーなクロカン4WDと言って間違いないだろう。いずれも軍用車などに採用されていたという“本物”であるという出自を持つ。あ、トヨタの『ランクル』も忘れてはいけないが。
3台のうちラングラーとGクラスは改良やモデルチェンジを受けながら連綿と生産され続けているが、いっぽうディフェンダーは2016年に生産終了となり、1948年の誕生以来続いた歴史に幕を下ろした。最新の衝突安全基準や排ガス規制に対応することが難しくなった……というのがその理由だが、なにしろ基本設計が70年近く前のクルマゆえ、それもむべなるかな。
だがディフェンダーは、世界で唯一の“プレミアム4WDだけをつくるメーカー”、ランドローバー社の始祖たるモデル。多くのファンがその復活を待望し、メーカーも次世代のディフェンダー開発を抜かりなく進めていた。そして1年前の2019年9月、フランクフルトモーターショーにて発表されたのがこの新型である。
ラングラーやGクラスは、オリジナルモデルのデザインやコンセプトを“変えない”という手法でモデルチェンジされてきたが、対する新型ディフェンダーはその姿を大きく変えて登場した。まずラダーフレーム構造だったボディをアルミ製モノコックとして一気にモダナイズ。いかにも“道具”然としていた先代に比べ、新型はデザインも質感もまさに「現代のプレミアムSUV」という雰囲気になった。
いっぽうで「上手いなぁ」と思うのは、随所にちゃんと“ディフェンダー感”を残していることだ。丸目2灯のヘッドランプ、直線基調のデザイン、リアに背負ったスペアタイヤ、ルーフの左右に開けられたアルパインウィンドウ。散りばめられた先代へのオマージュは、クルマ好き、ランドローバー・ファンが“萌える”ツボを抑えている。そしてどこか“チョロQ”的なカッコかわいいスタイリングは、きっと“女子ウケ”も悪くないだろうなと思わせる。
◆レンジローバーを思わせる乗り心地
今回、その新型ディフェンダーにいちはやく試乗することができた。モデルバリエーションとしては3ドアのショートボデイ「90」と5ドアのロングボディ「110」があるが、乗ることができたのは「110」のみ。全長4945mm×全幅1995mm×全高1970mmで、3列シートを備えている。ちなみに「110(ヒャクトー)」の呼び名は初代のホイールベースが110インチ(2794mm)だったことによるが、新型のホイールベースはずっと長くて3020mmもある。
日本仕様に用意されるパワートレインは2リットル直列4気筒のガソリンエンジンに8速ATの組み合わせのみ。本国には3リットル直6ターボのガソリンエンジン+マイルドハイブリッド搭載モデルもあるが日本には輸入されない。だがこのサイズとキャラクターからして、ディーゼルエンジンを待望する人は多いだろう。本国では2リットルのディーゼルターボも設定されるが、現時点での日本導入は未定だ。
市街地から地方国道を通り、山あいを抜けるワインディングロードを含む道のりだったが、まず感心したのは乗り心地のよさだった。先代のいかにもクロカン4WD然とした、フワフワ、ヒョコヒョコとした感じは微塵もなく、むしろランドローバー一族のフラッグシップである『レンジローバー』を思わせるしなやかなライド感。
この110の足まわりはフロント/ダブルウィッシュボーン、リア/マルチリンクにエアサスペンションが標準装備となっている(90はコイルサスペンションが標準)。試乗車にはブロックの大きなオールテレインタイヤ(グッドイヤー・ラングラー・オールテレーン・アドベンチャー)が装着されていたが、これをサマータイヤに交換すればさらにスムーズかつ静かになるだろう。
エンジンパワーは必要にして十分だ。最高出力300ps/5500rpm、最大トルク400Nm/2000rpmの2 リットルガソリンエンジンは、8速ATと協調して2280kgというヘビー級ボディをストレスなく走らせる。またハンドリングも非常にニュートラルで扱いやすいもの。大柄なボディゆえ最小回転半径こそ6.1mと大きいが、カーブの連続する道でも身のこなしは軽やかで、走りを楽しむことができた。
◆やっぱり“本物”のクロカン4WD
オフロードコースに場所を移し、悪路での走破性能を試した。元はゴルフ場だったと思しき場所につくられた起伏に富んだコースで、まさにディフェンダーの真価を体感することができた。
電子式のセレクターで「Lowレンジ」を選び、「クリアサイト・グランドビュー」と呼ばれる車体の下の路面状況を確認できるモニターを頼りに、ハンドルとアクセル、ブレーキを慎重に操作すれば、ドライバーのスキルは関係なく、およそどんな路面でもクルマはグイグイと進んでいく。見た目はモダンなSUV然となったが、やはり出自は軍用や警察車両として活躍した究極の“実用車”なのだと感心した。
あらためて車体を真横から見ると、前後オーバーハングが相当に切り詰められているのがわかる。38度のアプローチアングル、40度のデパーチャーアングルが確保され、登坂できる最大傾斜角45度。水深90mmまでの渡河性能も備え、そのスペックを見ればやはりこのクルマの本性は優雅なSUVではなく、ガチなクロスカントリー4WDなのだ、ということがわかる。
もうひとつ、オフロードコースを走って感心させられたのはボディ剛性の高さ。ゴロゴロと岩が転がるガレ場も、崖のような急勾配も、その巨体はミシリとも音を立てず走破していく。ランドローバーによれば「先代のラダーフレームの3倍のねじり剛性をもつ」という新開発の「D7x」プラットフォームは、今後レンジローバーやレンジローバースポーツにも使われる予定のものであり、そう考えればこの新型ディフェンダーがレンジと遜色ない乗り心地やオンロード走行性能を備えているのも頷ける。
ひとつ気になったのは、新型ディフェンダーがここまで洗練されてしまうと、果たしてレンジローバーやスポーツ、ディスカバリーなどとの“棲み分け”はどうなるのか?ということ。つまりそんな心配をさせるほど、この新型はオンでもオフでも高い走行性能と快適性を備える、まさにディフェンダーならぬ“オールラウンダー”なモデルに進化していた、ということなのだ。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース/★★★
フットワーク/★★★★★
オススメ度/★★★★
河西啓介|編集者/モータージャーナリスト
自動車雑誌『NAVI』編集部を経て、出版社ボイス・パブリケーションを設立。『NAVI CARS』『MOTO NAVI』『BICYCLE NAVI』の編集長を務める。現在はフリーランスとして雑誌・ウェブメディアでの原稿執筆のほか、クリエイティブディレクター、ラジオパーソナリティ、テレビコメンテーターなどとしても活動する。
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