シトロエン C5エアクロスSUV 新型試乗 往年のハイドロ「っぽさ」もあるが…井元康一郎
フランスの自動車ブランド、シトロエンの中型クロスオーバーSUV『C5 AIRCROSS(エアクロス)SUV』を2時間ほどテストドライブする機会があったので、ショートインプレッションをお届けする。
◆プジョー3008と5008のちょうど中間サイズ
ドライブの前にC5エアクロスSUVはどんなクルマか、簡単に紹介する。クラス分けとしては、SUVの世界的な売れ筋であるCDセグメント(CセグメントとDセグメントのクロスオーバー帯。ヨーロッパでのマーケットリーダーは日産『キャシュカイ』)。全幅1850mm、全高1710mmは競合モデルと近似している一方で、全長が4500mmと同クラスでは短めなのが特徴的な部分と言える。
グループ内ではプジョーブランドに2列シートの『3008』、3列シートの『5008』の2つのクロスオーバーSUVがあるが、C5エアクロスSUVはサイズ、室内容積の両面でその中間となっており、ブランド間の共食いを回避している。
駆動方式は純内燃機関車はFWD(前輪駆動)で、AWD(4輪駆動)は欧州で販売中のPHEV(プラグインハイブリッド)のみ。日本では2リットルターボディーゼル(177ps)と1.6リットルターボガソリン(180ps)の2種類が導入。ほか、本国には1.2リットルターボガソリン(131ps)、1.5リットルターボディーゼル(131ps)がある。
ガソリンのほうは6速手動変速機のみとの組み合わせのため日本導入はないだろうが、ディーゼルは8速ATとも組み合わせられるため、将来的には導入があるかもしれない。
もともとC5エアクロスSUVは中国市場攻略を目指し、コンセプトカー、市販車ともプレミアは中国であったが、ロングボディ好きな中国人にはあまりウケなかったのか空振り気味。反対にショートボディ好きの多いヨーロッパでは販売絶好調という結果となっている。
◆往年のハイドロ「っぽい」乗り味を実現した
では、実際のドライブフィールに入っていこう。試乗車は2リットルターボディーゼル+8速AT。
C5エアクロスSUVのシャシーの最大の特徴は、ショックアブゾーバーに「プログレッシブ・ハイドローリック・クッション」なるものを初採用していること。これはショックアブゾーバーの中にもう一つ小さなショックアブゾーバーを組み込んだような構造のもの。
それ自体はルノースポールモデルなどいろいろなカーメーカーが好んで使っており特段新しいものではないが、シトロエン関係者によればサブダンパーの役割をストロークの位置に関わらず微小振動を吸収することに全振りしたとのこと。それによって、シトロエンの往年の看板技術であったハイドロニューマチックサスペンションのような乗り味を実現したという。
そういうことを言われると、最大の関心事は当然ながら走り味とならざるを得ない。綺麗な舗装路、ひび割れだらけの荒れた舗装路、未舗装路と、限られた時間の中で3種類の路面を試してみた印象は、これをトータルでハイドロのようと言うには無理があるが、部分的にはたしかにハイドロっぽいというものだった。
◆イメージギャップとは恐ろしいものである
ハイドロっぽいのは未舗装路やガタガタな舗装路における、振幅が小さくホイールの上下動のスピードが速い入力のいなし。未舗装路をある程度のスピードで走ると通常はグリップ感が希薄になってくるのだが、C5エアクロスSUVのサスペンションは結構な速度でもタイヤが路面に食いついている感覚が失われず、実際のロードホールディングも良好。舗装路でもコーナリングでロールしているところにアンジュレーション(路面のうねり)やギャップを踏んでも、それを上下動で綺麗に受け流すような動きを見せた。
それに対し、乗り心地やクルーズ感はハイドロっぽくはなく、ごく普通の金属サスペンションという印象にとどまった。緩やかなうねりを通過するときの車体の揺らめきをヌルッと止めるような往年のシトロエン『エグザンティア』のような動きはなく、大入力を受けたときにサスペンションが摩擦を失ったかのようにスルッっと動くフィールもなかった。
もちろん1.6トン台の重量で柔らかいサスペンションを大地に押し付けるような鷹揚なフィールはあるし、ハーシュネスカットも優秀な部類だった。ハイドロニューマチックと言われてボルテージが上がった状態でなければ、もっとポジティブに見たことだろう。イメージギャップとは恐ろしいものである。
◆活発に走る2リットルターボディーゼル+8速AT
今回は試乗距離が短かったため、細かい特性や燃費についてはわからなかったが、2リットルターボディーゼル+8速ATのパワートレインは1.6トン台のボディを十分以上に活発に走らせた。スペース重視のクロスオーバーSUVというキャラを考えれば本国にある131ps版1.5リットルディーゼルでも転がすに足るくらい。
パワーウェイトレシオ9.26kg/psの2リットル版で痛痒感を覚えるはずもない。ただし、静粛性、低振動ではプジョー『308』などに積まれている新鋭の1.5リットルターボディーゼルに後れを取っていた。
ちなみにこれは同じプジョー・シトロエンのDセグメントサルーン『508』に乗った時に抱いた印象なのだが、1.6リットルガソリンターボ+8速ATは柔らかにパワフルというなかなか素晴らしいフィールを持っており、静粛性は秀逸で燃費も悪くない。年間走行距離が1万km程度であれば、より価格の安いガソリンターボが魅力的に思えるかもしれない。
◆見た目以上にルーミーでゆとりある室内
ユーティリティ、室内スペースはかなりのゆとりがある。荷室は容量自体は580リットルと、3列目シートを畳んだ状態のプジョー『5008』の762リットルには遠く及ばないが、『3008』の520リットルは大きくしのぐ。特徴は側壁がビッタリと垂直にデザインされていること。
実際に使ってみたわけではないが、過去の経験に照らし合わせると旅行用トランクやクーラーボックス、アウトドア用品などを整理して載せるのには非常に適しているように見受けられた。後席は3分割となっており、それぞれシートバック可倒&独立スライド可能となっており、貨物積載の自由度は高い。ちなみに3席とも全部前にスライドさせたときの荷室容量は670リットルになるという。
通常のシートレイアウトでは車内はルーミー。ウィンドウはパッと見、それほど広いようには感じられないが、Cピラーにまでしっかりとした面積の窓ガラスが張られるなどキャビンをガラスが一蹴するようなグラフィックを持っており、採光性は非常に良い。室内の色使いは地味だが、その採光性に助けられ、開放感はなかなか良好だった。
フロントシートは座面、背面ともしっかりと、それでいて柔らかくサイドサポートするように設計されており、走っていて心地よいと感じられる水準にしっかり仕立てられていた。後席は静止状態で座ってみただけだが、座面の身体支持がしっかりしている一方でシートバックがやや平板という印象を受けた。
◆最安値のガソリンターボにするのも大いに「あり」
このC5エアクロスSUV、トリムレベルは本拠地ヨーロッパでは最上位の「Shine(シャイン)」のみで、ガソリン、ディーゼル、ディーゼル+ナッパレザーの3種類。魅力的装備のひとつに広大な面積の可動式グラストップがあるが、ディーゼル+ナッパレザーのみに標準で装備され、他はオプションでも付けられないのがちょっと残念なところ。
日本ではディーゼルが売れ筋になるであろうが、文中でも触れたように1.6リットルガソリンターボは非常に好フィールなので、ロングランをしょっちゅうやるのでなければ415万円という最安値のガソリンターボにするのも大いにありだろう。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★
(レスポンス 井元康一郎)
◆プジョー3008と5008のちょうど中間サイズ
ドライブの前にC5エアクロスSUVはどんなクルマか、簡単に紹介する。クラス分けとしては、SUVの世界的な売れ筋であるCDセグメント(CセグメントとDセグメントのクロスオーバー帯。ヨーロッパでのマーケットリーダーは日産『キャシュカイ』)。全幅1850mm、全高1710mmは競合モデルと近似している一方で、全長が4500mmと同クラスでは短めなのが特徴的な部分と言える。
グループ内ではプジョーブランドに2列シートの『3008』、3列シートの『5008』の2つのクロスオーバーSUVがあるが、C5エアクロスSUVはサイズ、室内容積の両面でその中間となっており、ブランド間の共食いを回避している。
駆動方式は純内燃機関車はFWD(前輪駆動)で、AWD(4輪駆動)は欧州で販売中のPHEV(プラグインハイブリッド)のみ。日本では2リットルターボディーゼル(177ps)と1.6リットルターボガソリン(180ps)の2種類が導入。ほか、本国には1.2リットルターボガソリン(131ps)、1.5リットルターボディーゼル(131ps)がある。
ガソリンのほうは6速手動変速機のみとの組み合わせのため日本導入はないだろうが、ディーゼルは8速ATとも組み合わせられるため、将来的には導入があるかもしれない。
もともとC5エアクロスSUVは中国市場攻略を目指し、コンセプトカー、市販車ともプレミアは中国であったが、ロングボディ好きな中国人にはあまりウケなかったのか空振り気味。反対にショートボディ好きの多いヨーロッパでは販売絶好調という結果となっている。
◆往年のハイドロ「っぽい」乗り味を実現した
では、実際のドライブフィールに入っていこう。試乗車は2リットルターボディーゼル+8速AT。
C5エアクロスSUVのシャシーの最大の特徴は、ショックアブゾーバーに「プログレッシブ・ハイドローリック・クッション」なるものを初採用していること。これはショックアブゾーバーの中にもう一つ小さなショックアブゾーバーを組み込んだような構造のもの。
それ自体はルノースポールモデルなどいろいろなカーメーカーが好んで使っており特段新しいものではないが、シトロエン関係者によればサブダンパーの役割をストロークの位置に関わらず微小振動を吸収することに全振りしたとのこと。それによって、シトロエンの往年の看板技術であったハイドロニューマチックサスペンションのような乗り味を実現したという。
そういうことを言われると、最大の関心事は当然ながら走り味とならざるを得ない。綺麗な舗装路、ひび割れだらけの荒れた舗装路、未舗装路と、限られた時間の中で3種類の路面を試してみた印象は、これをトータルでハイドロのようと言うには無理があるが、部分的にはたしかにハイドロっぽいというものだった。
◆イメージギャップとは恐ろしいものである
ハイドロっぽいのは未舗装路やガタガタな舗装路における、振幅が小さくホイールの上下動のスピードが速い入力のいなし。未舗装路をある程度のスピードで走ると通常はグリップ感が希薄になってくるのだが、C5エアクロスSUVのサスペンションは結構な速度でもタイヤが路面に食いついている感覚が失われず、実際のロードホールディングも良好。舗装路でもコーナリングでロールしているところにアンジュレーション(路面のうねり)やギャップを踏んでも、それを上下動で綺麗に受け流すような動きを見せた。
それに対し、乗り心地やクルーズ感はハイドロっぽくはなく、ごく普通の金属サスペンションという印象にとどまった。緩やかなうねりを通過するときの車体の揺らめきをヌルッと止めるような往年のシトロエン『エグザンティア』のような動きはなく、大入力を受けたときにサスペンションが摩擦を失ったかのようにスルッっと動くフィールもなかった。
もちろん1.6トン台の重量で柔らかいサスペンションを大地に押し付けるような鷹揚なフィールはあるし、ハーシュネスカットも優秀な部類だった。ハイドロニューマチックと言われてボルテージが上がった状態でなければ、もっとポジティブに見たことだろう。イメージギャップとは恐ろしいものである。
◆活発に走る2リットルターボディーゼル+8速AT
今回は試乗距離が短かったため、細かい特性や燃費についてはわからなかったが、2リットルターボディーゼル+8速ATのパワートレインは1.6トン台のボディを十分以上に活発に走らせた。スペース重視のクロスオーバーSUVというキャラを考えれば本国にある131ps版1.5リットルディーゼルでも転がすに足るくらい。
パワーウェイトレシオ9.26kg/psの2リットル版で痛痒感を覚えるはずもない。ただし、静粛性、低振動ではプジョー『308』などに積まれている新鋭の1.5リットルターボディーゼルに後れを取っていた。
ちなみにこれは同じプジョー・シトロエンのDセグメントサルーン『508』に乗った時に抱いた印象なのだが、1.6リットルガソリンターボ+8速ATは柔らかにパワフルというなかなか素晴らしいフィールを持っており、静粛性は秀逸で燃費も悪くない。年間走行距離が1万km程度であれば、より価格の安いガソリンターボが魅力的に思えるかもしれない。
◆見た目以上にルーミーでゆとりある室内
ユーティリティ、室内スペースはかなりのゆとりがある。荷室は容量自体は580リットルと、3列目シートを畳んだ状態のプジョー『5008』の762リットルには遠く及ばないが、『3008』の520リットルは大きくしのぐ。特徴は側壁がビッタリと垂直にデザインされていること。
実際に使ってみたわけではないが、過去の経験に照らし合わせると旅行用トランクやクーラーボックス、アウトドア用品などを整理して載せるのには非常に適しているように見受けられた。後席は3分割となっており、それぞれシートバック可倒&独立スライド可能となっており、貨物積載の自由度は高い。ちなみに3席とも全部前にスライドさせたときの荷室容量は670リットルになるという。
通常のシートレイアウトでは車内はルーミー。ウィンドウはパッと見、それほど広いようには感じられないが、Cピラーにまでしっかりとした面積の窓ガラスが張られるなどキャビンをガラスが一蹴するようなグラフィックを持っており、採光性は非常に良い。室内の色使いは地味だが、その採光性に助けられ、開放感はなかなか良好だった。
フロントシートは座面、背面ともしっかりと、それでいて柔らかくサイドサポートするように設計されており、走っていて心地よいと感じられる水準にしっかり仕立てられていた。後席は静止状態で座ってみただけだが、座面の身体支持がしっかりしている一方でシートバックがやや平板という印象を受けた。
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■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★
(レスポンス 井元康一郎)
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