アウディ e-tronスポーツバック 新型試乗 移動中の心地よさは『A8』に匹敵する…塩見智
◆EVを評価するうえでパワースペックは重要ではない
箱根の山道でアウディ『e-tronスポーツバック』に乗った。ここのところ市販EVが増え、そろそろEVのスムーズな挙動と高い静粛性というだけでは驚かなくなってきたが、e-tronにはそうしたEVの優位性に加え、動的にも静的にもアウディならではの質感の高さが感じられた。
フロアに総電力量95kWhのリチウムイオンバッテリーが敷き詰められ、前後の車軸にモーターが配置される。つまりアウディお得意のクワトロ(4WD)だ。ただし常時4輪が駆動しているのではなく、低負荷時には後輪駆動、必要に応じて前輪も駆動する。
AER(1充電での航続可能距離)は405km(WLTCモード)。日本で使うと実質320km前後か。これを十分と感じるかどうかは人によるが、帰宅後に充電できる環境があるならば十分以上だろう。
最高出力265kW、最大トルク561Nm、ブーストモード使用時には同300kW、同664Nmのパワーを発揮する。と、一応長年のくせもあって書いたものの、従来我々が内燃機関車の動力性能を推し量るのに用いてきた最高出力と最大トルクの値は、EVを評価するうえでは大して重要ではない。EVは総じて十分に力強いからだ。
◆移動中の心地よさは『A8』に匹敵する
過去に市販されてきたEVで動力性能に不満のあったモデルはない。特に車両価格が1000万円内外の、テスラが切り拓いてきたラグジュアリーEVにおいては、どれも十分以上の動力性能をもっている。ジャガー『I-PACE』しかり、メルセデスベンツ『EQC』しかり。モーターの特性上、発進と同時に最大トルクが発生するため、必然的に鋭い加速力が備わるのだ。
ちなみにe-tronの0-100km/h加速は5.7秒だ。内燃機関車にもそれより速いモデルはいくつも存在するが、0-50km/h加速となるとe-tronにかなうモデルはがくんと減り、0-30km/hともなるとほとんどのモデルがe-tronにかなわないはずだ。EV特有の発進直後の鋭い加速を内燃機関車で実現するには不可能ではないが、とんでもなく高価になる。
ラグジュアリーEVのなかでは、e-tronの加速力はおとなしい部類に入る。「これくらいで十分でしょう」と諭されているように感じる速さだ。加速力のみならず乗り心地も上品そのもの。路面からの入力を上手に吸収してくれ、車内は常に快適。静粛性の高さもあいまって、移動中の心地よさは同社のフラッグシップの『A8』に匹敵するレベルだ。一番の重量物が車体中央の低い位置にあるので、車高が高いわりに不快なぐらつきも一切ない。加速中に変速がないのもよい。
◆クルマづくりがうまいメーカーはエンジンのないクルマもうまい
e-tronは「2025年までに4割のモデルを電動化する」と宣言するアウディの、あいさつがわりの技術ショーケース的存在だ。価格1300万円超のこのクルマそのものをたくさん売ろうとしているわけではなく、同社が今後発表を予定している30車種の電動モデル(うち20車種がEV)に期待を寄せてほしいわけだ。
そして今回e-tronに乗って僕自身が感じたことは、クルマづくりがうまいメーカーはエンジンのないクルマをつくらせてもうまいんだなということ。電動時代もアウディはやっぱりこれまで同様の存在感を示すだろう。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★
塩見智|AJAJ会員/モータージャーナリスト
1972年生まれ。岡山県出身。地方紙記者、自動車専門誌編集者を経てフリーランス・ライターおよびエディターへ。専門的で堅苦しく難しいテーマをできるだけ平易に面白く表現することを信条とする。文章はたとえツッコミ多め、自虐的表現多め。自動車専門誌、ライフスタイル誌、ウェブサイトなど、さまざまなメディアへ寄稿中。趣味ゴルフ。日本カーオブザイヤー選考委員(2018-2019)
箱根の山道でアウディ『e-tronスポーツバック』に乗った。ここのところ市販EVが増え、そろそろEVのスムーズな挙動と高い静粛性というだけでは驚かなくなってきたが、e-tronにはそうしたEVの優位性に加え、動的にも静的にもアウディならではの質感の高さが感じられた。
フロアに総電力量95kWhのリチウムイオンバッテリーが敷き詰められ、前後の車軸にモーターが配置される。つまりアウディお得意のクワトロ(4WD)だ。ただし常時4輪が駆動しているのではなく、低負荷時には後輪駆動、必要に応じて前輪も駆動する。
AER(1充電での航続可能距離)は405km(WLTCモード)。日本で使うと実質320km前後か。これを十分と感じるかどうかは人によるが、帰宅後に充電できる環境があるならば十分以上だろう。
最高出力265kW、最大トルク561Nm、ブーストモード使用時には同300kW、同664Nmのパワーを発揮する。と、一応長年のくせもあって書いたものの、従来我々が内燃機関車の動力性能を推し量るのに用いてきた最高出力と最大トルクの値は、EVを評価するうえでは大して重要ではない。EVは総じて十分に力強いからだ。
◆移動中の心地よさは『A8』に匹敵する
過去に市販されてきたEVで動力性能に不満のあったモデルはない。特に車両価格が1000万円内外の、テスラが切り拓いてきたラグジュアリーEVにおいては、どれも十分以上の動力性能をもっている。ジャガー『I-PACE』しかり、メルセデスベンツ『EQC』しかり。モーターの特性上、発進と同時に最大トルクが発生するため、必然的に鋭い加速力が備わるのだ。
ちなみにe-tronの0-100km/h加速は5.7秒だ。内燃機関車にもそれより速いモデルはいくつも存在するが、0-50km/h加速となるとe-tronにかなうモデルはがくんと減り、0-30km/hともなるとほとんどのモデルがe-tronにかなわないはずだ。EV特有の発進直後の鋭い加速を内燃機関車で実現するには不可能ではないが、とんでもなく高価になる。
ラグジュアリーEVのなかでは、e-tronの加速力はおとなしい部類に入る。「これくらいで十分でしょう」と諭されているように感じる速さだ。加速力のみならず乗り心地も上品そのもの。路面からの入力を上手に吸収してくれ、車内は常に快適。静粛性の高さもあいまって、移動中の心地よさは同社のフラッグシップの『A8』に匹敵するレベルだ。一番の重量物が車体中央の低い位置にあるので、車高が高いわりに不快なぐらつきも一切ない。加速中に変速がないのもよい。
◆クルマづくりがうまいメーカーはエンジンのないクルマもうまい
e-tronは「2025年までに4割のモデルを電動化する」と宣言するアウディの、あいさつがわりの技術ショーケース的存在だ。価格1300万円超のこのクルマそのものをたくさん売ろうとしているわけではなく、同社が今後発表を予定している30車種の電動モデル(うち20車種がEV)に期待を寄せてほしいわけだ。
そして今回e-tronに乗って僕自身が感じたことは、クルマづくりがうまいメーカーはエンジンのないクルマをつくらせてもうまいんだなということ。電動時代もアウディはやっぱりこれまで同様の存在感を示すだろう。
■5つ星評価
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