マツダ MX-30 新型試乗 再びマツダが息を吹き返す起爆剤となりそう…中村孝仁
折角の試乗会なのに雨である。それも時折雨粒が写真に映り込むだろうなぁ…という程度の。気を取り直して撮影ポイントを探しがてら、乗り出してみた。
マツダ『MX-30』はスカイアクティブ・ヴィークル・アーキテクチャという新しいプラットフォームの元に構築されたモデル。同じアーキテクチャを使うのは『マツダ3』、『CX-30』に続いてこれが3車種目だ。
口さがないジャーナリストの中には、そのリアサスペンションの構造に対してずいぶんと批判をする人もいる。もちろん、トーションビームアクスルというその構造に対して、古い構造だということなのだ。確かにこの構造はには短所があるし、リソースをふんだんに持った開発陣ならもしかすると採用しなかった構造かもしれないのだが、一方で低コスト、省スペースといった特徴もあって、今も最新のヨーロッパ製コンパクトFWDではこの構造が使われている。
前出の2台、即ちマツダ3とCX-30に関していえば、どちらかというとこのサスペンションの負の側面がクローズアップされてしまった点が大きく、特にCX-30はリアサスペンションの突き上げ感が強く、乗り心地は決して褒められたクルマではなかった。
◆乗り出した直後から遮音性の高さと乗り心地に驚かされた
そんなわけで正直なところ乗り心地に関してはほぼ期待せずに走り出したのだが、冒頭の雨の試乗に話しを戻すと、乗り出した直後からその遮音性の高さと乗り心地の良さに驚かされた。気のせいかと思って何度もわざとマンホールに乗ってみたり、目地のありそうな路面を選んで走ってみたのだが、その往なし方は正直想像をはるかに超えたものだった。
試乗会の場所が都会の交通渋滞の起きやすい場所でのことだったので、あまり運動性能についての言及はできない。しかし、そうした中でも適当と思える場所を見つけてステアフィールや挙動などをチェックしてみたが、とても素直で好感触のものだった。
すでにロータリーエンジンをレンジエクステンダーとして使用するモデルが2022年初頭には登場すると、社長の丸本氏が公言しているので、MX-30に対する期待は別な意味でも広がるのだが、とりあえず今回デビューしたモデルは2リットルのスカイアクティブGエンジンと24Vのマイルドハイブリッド技術を組み合わせたハイブリッド車。来年1月にはBEVの登場も控えているが、正直航続距離が200km程度とあっては、ファーストカーてして使うには少々難があるから、当面はこのHVが主流と考えて良いと思う。
個人的には少なくともそのスタイリングや質感については申し分ない。メカ的に優れたクルマはいくらでもあるし、性能の良いクルマもたくさんある。MX-30は冒頭のトーションビームアクスルを含め、メカ的に非常に面白みがあるかと言えば、残念ながらそれは無いし、性能についてもエンジンのパフォーマンスは少し物足りなかったし、燃費性能も目が飛び出るほどのことはなかった(あくまで車載コンピューターによる)。しかし情緒的な良さという点ではある意味で傑作だと思う。
◆コーディネイトの上手さで一歩抜き出ている
マツダは1920年に創業した東洋コルク工業がそのルーツである。今回はそれをヘリテージ素材として内装に採用したり、リサイクルファブリックを使用したりとインテリアのコーディネイトも中々興味深い。
特にリサイクルファブリックの触感は個人的にはとても新鮮で良いものであったし、何より近年マツダが力を入れているカラーコーディネーションが非常に共感の得られるものであったことなどが、この情緒的な良さに繋がっている。こうした各コーディネイトの上手さでは日本のメーカーとしてマツダは完全に他を圧し、一歩抜き出ている印象が強い。この点では近年特に質感が落ち始めているドイツ系メーカーよりは確実に上だ。
その上で今回試乗した4WDモデルはオプション合計49万3880円を含んだ車両合計価格が315万380円で収まっている。この中にはインダストリアルクラシックパッケージというブラウンの合皮とデニム調のクロス地を組み合わせたシートが装備され、その上質さは相当なもの。合皮と言えば聞こえは悪いのだが、その作り込みの良さは是非実際にショールームを訪れて確認して欲しいものである。
ただし、MX-30はベースモデルが242万円と非常に廉価なところからスタートしているのだが、この素のクルマを買って満足する人は恐らく皆無だと思う。その場合当然オプションを装着するのだが、正直このオプションのチョイスが複雑で、説明を受けないとわかりづらいしモノによってはパッケージオプションで被っているものもあるから、もう少しわかり易いチョイス方法を採用して欲しかったと思う。
◆4ドアよりもむしろ好都合かもしれない
フリースタイルドアについても話をしよう。後席に常に人を乗せるという状況の人にとっては、このドアは甚だ都合が良くない。しかし、考えを変えて2ドアクーペよりはましだと思えば違う展開が見えてくる。4ドア車で後席に荷物を積もうとしたら、コーチドアでない限り、自分の立ち位置を変えて載せなくてはならない。たとえジャケットを脱いでそれを載せるのでもその必要性がある。
一方でフリースタイルドアの場合は、前のドアを開けて同じ立ち位置でフリースタイルドアを開け、そのままカバンでもジャケットでも後席に放り込める。こう考えるとほとんどのケースで2人以上で使わないようなユーザーにとっては、4ドアよりもむしろ好都合かもしれないのである。実際に4ドア車と後席の荷物の出し入れを比較したら、やはりフリースタイルドアの方が便利であった。
最後に試乗していて気になった点をひとつ。シフトゲートが、R-N-Dを直線状に配し、PへはRからドライバー側に横にずらして入れる形状となっているが、L字型のゲートが正解であったとは思いにくい。実際リバースに入れるつもりでPに放り込んでしまったケースがあり、少々使いづらいと感じた。Pは多くのヨーロッパ車も採用しているプッシュボタン方式で良いのではないかと感じた次第である。
4WD車と2WD車を比較すると乗り心地の点で4WD車が好ましかった。もっとも短時間の試乗であったので、2WD車については改めて報告する。MX-30は再びマツダが息を吹き返す起爆剤となりそうなクルマである。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来43年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。
マツダ『MX-30』はスカイアクティブ・ヴィークル・アーキテクチャという新しいプラットフォームの元に構築されたモデル。同じアーキテクチャを使うのは『マツダ3』、『CX-30』に続いてこれが3車種目だ。
口さがないジャーナリストの中には、そのリアサスペンションの構造に対してずいぶんと批判をする人もいる。もちろん、トーションビームアクスルというその構造に対して、古い構造だということなのだ。確かにこの構造はには短所があるし、リソースをふんだんに持った開発陣ならもしかすると採用しなかった構造かもしれないのだが、一方で低コスト、省スペースといった特徴もあって、今も最新のヨーロッパ製コンパクトFWDではこの構造が使われている。
前出の2台、即ちマツダ3とCX-30に関していえば、どちらかというとこのサスペンションの負の側面がクローズアップされてしまった点が大きく、特にCX-30はリアサスペンションの突き上げ感が強く、乗り心地は決して褒められたクルマではなかった。
◆乗り出した直後から遮音性の高さと乗り心地に驚かされた
そんなわけで正直なところ乗り心地に関してはほぼ期待せずに走り出したのだが、冒頭の雨の試乗に話しを戻すと、乗り出した直後からその遮音性の高さと乗り心地の良さに驚かされた。気のせいかと思って何度もわざとマンホールに乗ってみたり、目地のありそうな路面を選んで走ってみたのだが、その往なし方は正直想像をはるかに超えたものだった。
試乗会の場所が都会の交通渋滞の起きやすい場所でのことだったので、あまり運動性能についての言及はできない。しかし、そうした中でも適当と思える場所を見つけてステアフィールや挙動などをチェックしてみたが、とても素直で好感触のものだった。
すでにロータリーエンジンをレンジエクステンダーとして使用するモデルが2022年初頭には登場すると、社長の丸本氏が公言しているので、MX-30に対する期待は別な意味でも広がるのだが、とりあえず今回デビューしたモデルは2リットルのスカイアクティブGエンジンと24Vのマイルドハイブリッド技術を組み合わせたハイブリッド車。来年1月にはBEVの登場も控えているが、正直航続距離が200km程度とあっては、ファーストカーてして使うには少々難があるから、当面はこのHVが主流と考えて良いと思う。
個人的には少なくともそのスタイリングや質感については申し分ない。メカ的に優れたクルマはいくらでもあるし、性能の良いクルマもたくさんある。MX-30は冒頭のトーションビームアクスルを含め、メカ的に非常に面白みがあるかと言えば、残念ながらそれは無いし、性能についてもエンジンのパフォーマンスは少し物足りなかったし、燃費性能も目が飛び出るほどのことはなかった(あくまで車載コンピューターによる)。しかし情緒的な良さという点ではある意味で傑作だと思う。
◆コーディネイトの上手さで一歩抜き出ている
マツダは1920年に創業した東洋コルク工業がそのルーツである。今回はそれをヘリテージ素材として内装に採用したり、リサイクルファブリックを使用したりとインテリアのコーディネイトも中々興味深い。
特にリサイクルファブリックの触感は個人的にはとても新鮮で良いものであったし、何より近年マツダが力を入れているカラーコーディネーションが非常に共感の得られるものであったことなどが、この情緒的な良さに繋がっている。こうした各コーディネイトの上手さでは日本のメーカーとしてマツダは完全に他を圧し、一歩抜き出ている印象が強い。この点では近年特に質感が落ち始めているドイツ系メーカーよりは確実に上だ。
その上で今回試乗した4WDモデルはオプション合計49万3880円を含んだ車両合計価格が315万380円で収まっている。この中にはインダストリアルクラシックパッケージというブラウンの合皮とデニム調のクロス地を組み合わせたシートが装備され、その上質さは相当なもの。合皮と言えば聞こえは悪いのだが、その作り込みの良さは是非実際にショールームを訪れて確認して欲しいものである。
ただし、MX-30はベースモデルが242万円と非常に廉価なところからスタートしているのだが、この素のクルマを買って満足する人は恐らく皆無だと思う。その場合当然オプションを装着するのだが、正直このオプションのチョイスが複雑で、説明を受けないとわかりづらいしモノによってはパッケージオプションで被っているものもあるから、もう少しわかり易いチョイス方法を採用して欲しかったと思う。
◆4ドアよりもむしろ好都合かもしれない
フリースタイルドアについても話をしよう。後席に常に人を乗せるという状況の人にとっては、このドアは甚だ都合が良くない。しかし、考えを変えて2ドアクーペよりはましだと思えば違う展開が見えてくる。4ドア車で後席に荷物を積もうとしたら、コーチドアでない限り、自分の立ち位置を変えて載せなくてはならない。たとえジャケットを脱いでそれを載せるのでもその必要性がある。
一方でフリースタイルドアの場合は、前のドアを開けて同じ立ち位置でフリースタイルドアを開け、そのままカバンでもジャケットでも後席に放り込める。こう考えるとほとんどのケースで2人以上で使わないようなユーザーにとっては、4ドアよりもむしろ好都合かもしれないのである。実際に4ドア車と後席の荷物の出し入れを比較したら、やはりフリースタイルドアの方が便利であった。
最後に試乗していて気になった点をひとつ。シフトゲートが、R-N-Dを直線状に配し、PへはRからドライバー側に横にずらして入れる形状となっているが、L字型のゲートが正解であったとは思いにくい。実際リバースに入れるつもりでPに放り込んでしまったケースがあり、少々使いづらいと感じた。Pは多くのヨーロッパ車も採用しているプッシュボタン方式で良いのではないかと感じた次第である。
4WD車と2WD車を比較すると乗り心地の点で4WD車が好ましかった。もっとも短時間の試乗であったので、2WD車については改めて報告する。MX-30は再びマツダが息を吹き返す起爆剤となりそうなクルマである。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
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パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★★
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