マツダ3 のSKYACTIV-Xエンジンがアップデート、試乗で感じた内燃機関に対するこだわり…松田秀士
◆ソフトウェアの変更で走りはどう変わるのか?
普通、アップデートというと何がしかのハードウェアである場合が多いけれども、今回はソフトウェアとのこと。それがどの程度『マツダ3』SKYACTIV-Xの走りを変えるのか注目するところ。
まず現行モデルのATで走り→アップデートモデルのATで走る。次に現行MT→アップデートMTと走行する、というパターンなので差は分かりやすい。コースは旧レースコースだったMINE(現マツダテストコース)のメインコースとコース周辺の観客移動用だった通路。実際この通路がほぼ一般路のワインディングに近く、アップデートを体感するのにぴったりだった。
なお、アップデート版のSKYACTIV-Xエンジンを採用したマツダ3は来年初頭に発売予定。既存オーナーに対して無償でのアップデートも検討しているという。
◆低中速の実用域で力強く、かつ扱いやすく進化
現行モデルはこれまでにも試乗しているので、普通に良く走るしセンターディスプレーに映し出される4気筒ピストンのシルエットがグリーン点灯しSPCCI(火花点火制御圧縮着火)による圧縮着火していることが確認できる。アクセルOFF時と5000rpm以上は薄いレッド表示に代わりプラグ点火着火になる。アクセルOFF時は燃料を供給しないから当然で、5000rpm以上は要求パワーが大きいと判断してプラグ点火を行うのだ。
同じAT車のアップデート車に乗り換える。メインコースをピットアウトする時の加速感がスムーズだ。4000rpmあたりの排気音も心なし甲高く聞こえ、ちょっとレーシーな雰囲気。その4000rpm前後のトルクフィール、トルクの山なんてボクらは言い方をするけれども、そのあたりのトルク感が厚くなった印象。そのためか5000rpmを超えてトップエンドの6400rpmあたりまでの勢いが現行モデルより弱い感じ。こういうのはよくある話で、トップエンドは同じパワーなのにそこに至るまでのトルクがアップしていると当然ピックアップが鋭くなるから、かえってトップエンドの勢いを感じなくなるもの。
つまりアップデートモデルは低中速のほとんど実用域で力強く、かつ扱いやすくなっている。「滑らか+瞬発力=踏力に応じたパワー」とアップデートをマツダは表現しているが、確かにその通りと感じる。特に移動用通路にある登坂路では明らかにトルクキャラクターに変化を感じ取り、余裕のある加速を感じた。
◆より違いを感じたMTモデル
しかし、より違いを感じたのがMTモデル。シフトアップ時のギクシャク感がないに等しいくらいにクラッチミートが決まる。アップシフト時のクラッチを踏み込んだ時の回転落ちも早くなり、クイックシフトを行ってもミート時の意図しない加速がない。普通のタイミングでのシフトも、アップダウンと共にスムーズにつながるのだ。トルクアップに関してSKYACTIV-Xはルーツ式のスーパーチャージャーを採用しているから過給圧を上げたのか? というと、そうではなくアクセルコントロールに合わせて過給をコントロールできるようにしたとのこと。またEGRのコントロールも最適化しているのだ。
もう一つ、e-SKYACTIVは24Vのマイルドハイブリッドを採用しているが、この駆動モーターにもなる発電機はエンジンの1500rpm強までモーターアシストする。これが発進時の強い味方となってヘルプする。ちなみにMTの5速ホールドで700rpmという超低回転からアクセルを踏み込んでみたが、まったくギクシャクせずトルクの乗る2000rpmあたりからはスムーズに加速した。しかもどのような状況でもSPCCI燃焼を行っているグリーンサインは、現行モデルと同じように点灯していた。
◆ハイブリッド技術と並行した内燃機関の技術革新は必須
一通りの試乗を終えて思うのは、マツダの内燃機関に対するこだわりだ。SPCCIの開発には多大な予算と開発人員を割いている。ホンダはF1を辞めて次世代環境車の開発に取り組むと明言したが、かねてからのマツダのこの取り組みを誰がきちんと評価しているだろうか?
政府の2050年CO2排出ゼロの取り組みにEV化は必須だろうが、リチウムイオンバッテリーを中国任せでCO2排出ゼロを30年後に実現することは可能なのか? EVが増えれば発電も今以上に増やす必要があり、すべて原子力に出来るのか? すべて自然発電に出来るのか? インフラの整備は可能なのか?
冷静に考えれば、ハイブリッド技術と並行した内燃機関の技術革新は必須なのだ。30年というスパンの中で、すぐにすべてを解決できるはずがないのだから。その意味で、どのメーカーが真摯にこのことを睨んで開発しているのだろうか? という疑問が沸く。
SKYACTIV-Xはかつてハリウッド俳優がハイブリッドの『プリウス』に乗ってブームが起きた時と同じように、地球環境と真面目に向き合った、他のどのエンジンにもない威厳のあるエンジンだ。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★
松田秀士|レーシングドライバー/モータージャーナリスト/僧侶
成仏する直前まで元気でクルマを運転できる自分でいたい。「お浄土までぶっ飛ばせ!」をモットーに、スローエイジングという独自の健康法を実践しスーパーGT最年長55歳の現役レーサー。これまでにINDY500に4度出場し、ルマンを含む世界4大24時間レース全てに出場経験を持つ。メカニズムにも強く、レースカーのセットアップや一般車の解析などを得意とする。専門誌等への寄稿文は分かりやすさと臨場感を伝えることを心がけている。
普通、アップデートというと何がしかのハードウェアである場合が多いけれども、今回はソフトウェアとのこと。それがどの程度『マツダ3』SKYACTIV-Xの走りを変えるのか注目するところ。
まず現行モデルのATで走り→アップデートモデルのATで走る。次に現行MT→アップデートMTと走行する、というパターンなので差は分かりやすい。コースは旧レースコースだったMINE(現マツダテストコース)のメインコースとコース周辺の観客移動用だった通路。実際この通路がほぼ一般路のワインディングに近く、アップデートを体感するのにぴったりだった。
なお、アップデート版のSKYACTIV-Xエンジンを採用したマツダ3は来年初頭に発売予定。既存オーナーに対して無償でのアップデートも検討しているという。
◆低中速の実用域で力強く、かつ扱いやすく進化
現行モデルはこれまでにも試乗しているので、普通に良く走るしセンターディスプレーに映し出される4気筒ピストンのシルエットがグリーン点灯しSPCCI(火花点火制御圧縮着火)による圧縮着火していることが確認できる。アクセルOFF時と5000rpm以上は薄いレッド表示に代わりプラグ点火着火になる。アクセルOFF時は燃料を供給しないから当然で、5000rpm以上は要求パワーが大きいと判断してプラグ点火を行うのだ。
同じAT車のアップデート車に乗り換える。メインコースをピットアウトする時の加速感がスムーズだ。4000rpmあたりの排気音も心なし甲高く聞こえ、ちょっとレーシーな雰囲気。その4000rpm前後のトルクフィール、トルクの山なんてボクらは言い方をするけれども、そのあたりのトルク感が厚くなった印象。そのためか5000rpmを超えてトップエンドの6400rpmあたりまでの勢いが現行モデルより弱い感じ。こういうのはよくある話で、トップエンドは同じパワーなのにそこに至るまでのトルクがアップしていると当然ピックアップが鋭くなるから、かえってトップエンドの勢いを感じなくなるもの。
つまりアップデートモデルは低中速のほとんど実用域で力強く、かつ扱いやすくなっている。「滑らか+瞬発力=踏力に応じたパワー」とアップデートをマツダは表現しているが、確かにその通りと感じる。特に移動用通路にある登坂路では明らかにトルクキャラクターに変化を感じ取り、余裕のある加速を感じた。
◆より違いを感じたMTモデル
しかし、より違いを感じたのがMTモデル。シフトアップ時のギクシャク感がないに等しいくらいにクラッチミートが決まる。アップシフト時のクラッチを踏み込んだ時の回転落ちも早くなり、クイックシフトを行ってもミート時の意図しない加速がない。普通のタイミングでのシフトも、アップダウンと共にスムーズにつながるのだ。トルクアップに関してSKYACTIV-Xはルーツ式のスーパーチャージャーを採用しているから過給圧を上げたのか? というと、そうではなくアクセルコントロールに合わせて過給をコントロールできるようにしたとのこと。またEGRのコントロールも最適化しているのだ。
もう一つ、e-SKYACTIVは24Vのマイルドハイブリッドを採用しているが、この駆動モーターにもなる発電機はエンジンの1500rpm強までモーターアシストする。これが発進時の強い味方となってヘルプする。ちなみにMTの5速ホールドで700rpmという超低回転からアクセルを踏み込んでみたが、まったくギクシャクせずトルクの乗る2000rpmあたりからはスムーズに加速した。しかもどのような状況でもSPCCI燃焼を行っているグリーンサインは、現行モデルと同じように点灯していた。
◆ハイブリッド技術と並行した内燃機関の技術革新は必須
一通りの試乗を終えて思うのは、マツダの内燃機関に対するこだわりだ。SPCCIの開発には多大な予算と開発人員を割いている。ホンダはF1を辞めて次世代環境車の開発に取り組むと明言したが、かねてからのマツダのこの取り組みを誰がきちんと評価しているだろうか?
政府の2050年CO2排出ゼロの取り組みにEV化は必須だろうが、リチウムイオンバッテリーを中国任せでCO2排出ゼロを30年後に実現することは可能なのか? EVが増えれば発電も今以上に増やす必要があり、すべて原子力に出来るのか? すべて自然発電に出来るのか? インフラの整備は可能なのか?
冷静に考えれば、ハイブリッド技術と並行した内燃機関の技術革新は必須なのだ。30年というスパンの中で、すぐにすべてを解決できるはずがないのだから。その意味で、どのメーカーが真摯にこのことを睨んで開発しているのだろうか? という疑問が沸く。
SKYACTIV-Xはかつてハリウッド俳優がハイブリッドの『プリウス』に乗ってブームが起きた時と同じように、地球環境と真面目に向き合った、他のどのエンジンにもない威厳のあるエンジンだ。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★
松田秀士|レーシングドライバー/モータージャーナリスト/僧侶
成仏する直前まで元気でクルマを運転できる自分でいたい。「お浄土までぶっ飛ばせ!」をモットーに、スローエイジングという独自の健康法を実践しスーパーGT最年長55歳の現役レーサー。これまでにINDY500に4度出場し、ルマンを含む世界4大24時間レース全てに出場経験を持つ。メカニズムにも強く、レースカーのセットアップや一般車の解析などを得意とする。専門誌等への寄稿文は分かりやすさと臨場感を伝えることを心がけている。
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