アウディ A1スポーツバック 新型試乗 プレミアムとコストの間で悩む「おしゃれ優等生」…南陽一浩
待望の1.0リットルの3気筒バージョンの追加が発表されながら、2020年的な状況がために上陸の遅れていたアウディ『A1スポーツバック 25 TFSI』。ついにこの11月より全国のディーラー店頭に行き渡るそうだ。今回「Sライン」「アドヴァンスト」ではない、車両価格294万円のエントリーモデルに乗ることが叶った。
◆「映え」を狙わない、飾らない質実剛健さ
小粒とはいえ、シングルフレームグリルに代表されるアウディとしての「らしさ」、丁寧なプレスラインから醸される精緻な質感は外観から伝わってくる。ただし、自動で照射範囲をコントロールするLEDヘッドライトやリアコンビランプといった、ライト類のLED化はオプションで16万円。またアドバンストキーやリアビューカメラ、前席シートヒーターといった日常の使い勝手にジワるであろう快適パッケージも19万円となる。
インテリアに目を向けると、3スポークのステアリングホイール上のマルチファンクションは、ナビゲーションパッケージ32万円とのセット。またよく見ると、メーターパネル内やシフトコンソール周りなど、クロームのインサートが省かれていたりもする。
すると「Sライン」や「アドヴァンスト」の方がお得では…的な、トッピング思考も頭をもたげてくるが、エントリーモデルのA1スポーツバック 25 TFSIの足元は、16インチでも17インチでもない、15インチホイールに185/65R15のエコピアを履く。1リットルのベーシックなパワートレインとの相性はもちろん、維持&使用コストに効いてくる実のある仕様。最初から「盛って」「映え」を狙うことはせず、飾らない質実剛健さがウリの仕様なのだ。
エンジンスタート時にプルルンという不快な揺れもなく、カシャシャッと軽やかな機械音。あまり3気筒っぽさを感じないまま、Dレンジに入れて走り出した。
◆ビート感あるエンジンに落ち着いた足さばき
直噴3気筒DOHC 12Vの999cc、インタークーラー付ターボのエンジンは74.5×76.4mmのボアストローク比を与えられている。対して既存の「35 TFSI」、直4の1.5リットルターボはボアは同じだがストロークは85.9mm。つまり1リットルの方は、1気筒少ないだけでなくショートストロークでもあるのだ。
確かにトルクで約3割ほど優る後者に、街乗りのキビキビ感で譲るところはあるが、その分、25 TFSIは車両重量で50kg軽いのでかったるさは感じない。むしろ手元やフロアに伝わってくる振動の少なさ、アイドルストップと再スタート時の静かなマナー、「ガサツさゼロ」なところに感心しさえする。不足感より満たされ感の方が先に立つ感覚だ。
これがワインディング道にもち込むと、充足感に変わる。アクセルを踏み込むとギュイーンと金属質のエキゾーストノートが盛り上がり、7速Sトロニックがパワーバンドを丁寧に使い切っては、素早く繋ぐ。登り坂では決して速さやパワフルさは感じないが、ステアリングフィールはアウディらしく相対的に軽いながら前輪側が突っ張らず、しなやかな荷重変化とロールを伝えてくれる。
弱アンダーステアとはいえ、タイヤに頼って水平方向に動くのでなく、抑え気味とはいえ車体全体の姿勢変化で曲がる軽快さが、心地いいのだ。ギャップの上で強めのブレーキ制動や加速をしても、接地や駆動が安定しているので、下りでも楽しめた。
◆プレミアム性とコスト感のジレンマも
アウディはプレミアム・ブランドになって久しいとはいえ、「素にして上質」な下支えの分厚さというか、古くはラリーなどを通じてロバスト性(頑強性)を高めてきたメーカーとしての強味が失われていないことを、改めて思い知った。VW『ポロ』と共有するMQBプラットフォームは登場から時間を経て、成熟を迎えていることは確かだ。
ただ時間が経って償却も進んだであろう分、プレミアムブランドとしてエントリーモデルの内装とはいえ、シートファブリックの素材感は、もっと艶っぽくあるべきだった。今年、Bセグのハッチバックは各社からニューモデルが相次いでおり、生活車ゆえにお洒落感とのバランス、プレミアム性とコスト感のジレンマは、そのままユーザーの選択に表れるところなのだ。
■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★
南陽一浩|モータージャーナリスト
1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。
◆「映え」を狙わない、飾らない質実剛健さ
小粒とはいえ、シングルフレームグリルに代表されるアウディとしての「らしさ」、丁寧なプレスラインから醸される精緻な質感は外観から伝わってくる。ただし、自動で照射範囲をコントロールするLEDヘッドライトやリアコンビランプといった、ライト類のLED化はオプションで16万円。またアドバンストキーやリアビューカメラ、前席シートヒーターといった日常の使い勝手にジワるであろう快適パッケージも19万円となる。
インテリアに目を向けると、3スポークのステアリングホイール上のマルチファンクションは、ナビゲーションパッケージ32万円とのセット。またよく見ると、メーターパネル内やシフトコンソール周りなど、クロームのインサートが省かれていたりもする。
すると「Sライン」や「アドヴァンスト」の方がお得では…的な、トッピング思考も頭をもたげてくるが、エントリーモデルのA1スポーツバック 25 TFSIの足元は、16インチでも17インチでもない、15インチホイールに185/65R15のエコピアを履く。1リットルのベーシックなパワートレインとの相性はもちろん、維持&使用コストに効いてくる実のある仕様。最初から「盛って」「映え」を狙うことはせず、飾らない質実剛健さがウリの仕様なのだ。
エンジンスタート時にプルルンという不快な揺れもなく、カシャシャッと軽やかな機械音。あまり3気筒っぽさを感じないまま、Dレンジに入れて走り出した。
◆ビート感あるエンジンに落ち着いた足さばき
直噴3気筒DOHC 12Vの999cc、インタークーラー付ターボのエンジンは74.5×76.4mmのボアストローク比を与えられている。対して既存の「35 TFSI」、直4の1.5リットルターボはボアは同じだがストロークは85.9mm。つまり1リットルの方は、1気筒少ないだけでなくショートストロークでもあるのだ。
確かにトルクで約3割ほど優る後者に、街乗りのキビキビ感で譲るところはあるが、その分、25 TFSIは車両重量で50kg軽いのでかったるさは感じない。むしろ手元やフロアに伝わってくる振動の少なさ、アイドルストップと再スタート時の静かなマナー、「ガサツさゼロ」なところに感心しさえする。不足感より満たされ感の方が先に立つ感覚だ。
これがワインディング道にもち込むと、充足感に変わる。アクセルを踏み込むとギュイーンと金属質のエキゾーストノートが盛り上がり、7速Sトロニックがパワーバンドを丁寧に使い切っては、素早く繋ぐ。登り坂では決して速さやパワフルさは感じないが、ステアリングフィールはアウディらしく相対的に軽いながら前輪側が突っ張らず、しなやかな荷重変化とロールを伝えてくれる。
弱アンダーステアとはいえ、タイヤに頼って水平方向に動くのでなく、抑え気味とはいえ車体全体の姿勢変化で曲がる軽快さが、心地いいのだ。ギャップの上で強めのブレーキ制動や加速をしても、接地や駆動が安定しているので、下りでも楽しめた。
◆プレミアム性とコスト感のジレンマも
アウディはプレミアム・ブランドになって久しいとはいえ、「素にして上質」な下支えの分厚さというか、古くはラリーなどを通じてロバスト性(頑強性)を高めてきたメーカーとしての強味が失われていないことを、改めて思い知った。VW『ポロ』と共有するMQBプラットフォームは登場から時間を経て、成熟を迎えていることは確かだ。
ただ時間が経って償却も進んだであろう分、プレミアムブランドとしてエントリーモデルの内装とはいえ、シートファブリックの素材感は、もっと艶っぽくあるべきだった。今年、Bセグのハッチバックは各社からニューモデルが相次いでおり、生活車ゆえにお洒落感とのバランス、プレミアム性とコスト感のジレンマは、そのままユーザーの選択に表れるところなのだ。
■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★
南陽一浩|モータージャーナリスト
1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。
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