BMW 4シリーズ 新型試乗 時代に抗う反逆児!「五感で愉しめるクルマ」は久々だ…中村孝仁
◆『440i xDrive』は時代に抗う反逆児
久々に乗った。何を?と言われれば、「五感で愉しめるクルマ」だ。元々、自動車は五感で楽しむ乗り物だった。でも今はそもそも自動車が愉しむ乗り物ではなくなってしまっている。
まあ言わずもがなだが、五感とは味覚、触覚、嗅覚、視覚、聴覚の5つ。このうち味覚は自動車には無関係かもしれないが、それ以外の4感は少なくとも昔は大いに関係があった。
触覚はステアリングやシフトレバーなどの握り具合だったり、あるいは座面から伝わる路面の感覚だったり。嗅覚はオイルの匂いだったリガソリンの匂いだったり、あるいは鞣革の独特な匂いだったり。視覚はドライバーから見える景色、飛び込むレブカウンターの針、そして何よりうっとりするエクステリアスタイリング等々。そして聴覚はエンジンが奏でるサウンド、路面から伝わるロードノイズ、エクゾーストの豪快な咆哮など。感じ取れるものはそれこそいくらでもあった。
しかし今、自動車はそうした人間が感じ取るものを極力排除して、追い求めるのは安全性と快適性、それに燃費などにシフトされた印象がとても強い。
もちろんそうした要素は時代が求めるもので致し方ないし、それが自動車の進むべき方向であることは間違いないのかもしれないが、それとは別にほんの少しだけマジョリティーの流れに抗って、古き良き時代を懐古したいと思う心がある。
BMW『440i xDrive』は、どことなくそんな時代に抗った反逆児的な要素をふんだんに持ったクルマのように感じた。
◆キドニーグリルの巨大化も「面白い」
もっともそれを象徴しているのは、賛否というよりも否の方がはるかに多そうな例のキドニーグリルのデザインだ。まさに反逆児である。キドニーの形は、時代時代で色々変わってきた。出始めは縦に細長いものから始まった。その時代は長く続き、やがてグリル全体が薄くなると、今度は横に広がった。かと思うと最近は巨大化が始まっている。まあ少し迷走しているところもあるようだが、個人的には新しいこのキドニーは、それほど否定的ではない。むしろ何度も言うが反逆児的で面白い。
新しいメーターレイアウトを含め、このクルマはかなり視覚に訴えかけている。触覚という点ではスターターボタンの位置が以前と違ってシフトレバーのすぐ隣に来た。新時代のレイアウトは、ことクルマを動かすための小道具がすべて1か所にまとめられた印象が強く、この点も個人的には好ましく思えた。もしかするとドライブモード切り替えと間違えてスタート/ストップボタンを押してしまうというコンプレインが出るかもしれないが、まあどう出るかは今後の愉しみである。
残念ながら嗅覚に訴える部分はない。今時オイルの匂いだのガソリンの匂いだの、はたまた本革シートの匂いがあったりしたら、それはクルマが壊れている、もしくは自動車に相応しくない行程で作られた革シートとして文句が出てしまうかもしれない。
◆真の自動車ファンに訴えかけるものを存分に持っている
そして最後の聴覚。今回の440iはある意味でこいつが肝である。スムーズで滑らかな6気筒エンジンと、ドスの効いたエクゾーストが奏でるコンサートは乗っていてついついアクセルを余計目に踏み込んで楽しみたくなる。低速でもわけもなく、低いギアを使ってエンジン回転を上げたくなる。そんな時、スピードは関係ない。低速でもこのクルマは真の自動車ファンに訴えかけるものを存分に持っているといえよう。
走りの素晴らしさは既に根底にある。CLARと呼ばれる2015年から始まったBMWのモジュラープラットフォームだが、着実に進化していて今回、同じCLARを使った初期のモデルにも試乗してみたが、G22のコードネームを持つこの440iの方が明らかにどしっとした安定感が上であった。
その差は微妙といえば微妙であるのだが、特に横方向の乱れた入力が入った時の車両の安定感という点でこのG22の方が上だったのである。いずれにせよ、BMWという自動車メーカーの持つ走りのDNAがこのクルマの良さを際立たせている。
そんなわけで久々に試乗の大半の行程をパドルを使ったマニュアルシフトで楽しんだ。道の状況さえ許せば、自動車を操るのはクルマがプリミティブであればあるほど楽しい。これ、道理である。それをどのあたりで妥協させるか。即ち「安全・快適・静か」と、うっとりするサウンド、豪快なハンドリング、面倒なギアシフトによる操る感覚をどのように融合させその分岐点を作るか…である。
そもそも今回乗って、ドアが2枚しかないクーペで立派な後席がある場合は、やはり乗降性に不便さを感じた。そして一方ではクーペにしか作れない美しいエクステリアデザインがあることもしかり。これらの分水嶺で当分の間大いに悩ましい思考が続きそうだ。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来43年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。
久々に乗った。何を?と言われれば、「五感で愉しめるクルマ」だ。元々、自動車は五感で楽しむ乗り物だった。でも今はそもそも自動車が愉しむ乗り物ではなくなってしまっている。
まあ言わずもがなだが、五感とは味覚、触覚、嗅覚、視覚、聴覚の5つ。このうち味覚は自動車には無関係かもしれないが、それ以外の4感は少なくとも昔は大いに関係があった。
触覚はステアリングやシフトレバーなどの握り具合だったり、あるいは座面から伝わる路面の感覚だったり。嗅覚はオイルの匂いだったリガソリンの匂いだったり、あるいは鞣革の独特な匂いだったり。視覚はドライバーから見える景色、飛び込むレブカウンターの針、そして何よりうっとりするエクステリアスタイリング等々。そして聴覚はエンジンが奏でるサウンド、路面から伝わるロードノイズ、エクゾーストの豪快な咆哮など。感じ取れるものはそれこそいくらでもあった。
しかし今、自動車はそうした人間が感じ取るものを極力排除して、追い求めるのは安全性と快適性、それに燃費などにシフトされた印象がとても強い。
もちろんそうした要素は時代が求めるもので致し方ないし、それが自動車の進むべき方向であることは間違いないのかもしれないが、それとは別にほんの少しだけマジョリティーの流れに抗って、古き良き時代を懐古したいと思う心がある。
BMW『440i xDrive』は、どことなくそんな時代に抗った反逆児的な要素をふんだんに持ったクルマのように感じた。
◆キドニーグリルの巨大化も「面白い」
もっともそれを象徴しているのは、賛否というよりも否の方がはるかに多そうな例のキドニーグリルのデザインだ。まさに反逆児である。キドニーの形は、時代時代で色々変わってきた。出始めは縦に細長いものから始まった。その時代は長く続き、やがてグリル全体が薄くなると、今度は横に広がった。かと思うと最近は巨大化が始まっている。まあ少し迷走しているところもあるようだが、個人的には新しいこのキドニーは、それほど否定的ではない。むしろ何度も言うが反逆児的で面白い。
新しいメーターレイアウトを含め、このクルマはかなり視覚に訴えかけている。触覚という点ではスターターボタンの位置が以前と違ってシフトレバーのすぐ隣に来た。新時代のレイアウトは、ことクルマを動かすための小道具がすべて1か所にまとめられた印象が強く、この点も個人的には好ましく思えた。もしかするとドライブモード切り替えと間違えてスタート/ストップボタンを押してしまうというコンプレインが出るかもしれないが、まあどう出るかは今後の愉しみである。
残念ながら嗅覚に訴える部分はない。今時オイルの匂いだのガソリンの匂いだの、はたまた本革シートの匂いがあったりしたら、それはクルマが壊れている、もしくは自動車に相応しくない行程で作られた革シートとして文句が出てしまうかもしれない。
◆真の自動車ファンに訴えかけるものを存分に持っている
そして最後の聴覚。今回の440iはある意味でこいつが肝である。スムーズで滑らかな6気筒エンジンと、ドスの効いたエクゾーストが奏でるコンサートは乗っていてついついアクセルを余計目に踏み込んで楽しみたくなる。低速でもわけもなく、低いギアを使ってエンジン回転を上げたくなる。そんな時、スピードは関係ない。低速でもこのクルマは真の自動車ファンに訴えかけるものを存分に持っているといえよう。
走りの素晴らしさは既に根底にある。CLARと呼ばれる2015年から始まったBMWのモジュラープラットフォームだが、着実に進化していて今回、同じCLARを使った初期のモデルにも試乗してみたが、G22のコードネームを持つこの440iの方が明らかにどしっとした安定感が上であった。
その差は微妙といえば微妙であるのだが、特に横方向の乱れた入力が入った時の車両の安定感という点でこのG22の方が上だったのである。いずれにせよ、BMWという自動車メーカーの持つ走りのDNAがこのクルマの良さを際立たせている。
そんなわけで久々に試乗の大半の行程をパドルを使ったマニュアルシフトで楽しんだ。道の状況さえ許せば、自動車を操るのはクルマがプリミティブであればあるほど楽しい。これ、道理である。それをどのあたりで妥協させるか。即ち「安全・快適・静か」と、うっとりするサウンド、豪快なハンドリング、面倒なギアシフトによる操る感覚をどのように融合させその分岐点を作るか…である。
そもそも今回乗って、ドアが2枚しかないクーペで立派な後席がある場合は、やはり乗降性に不便さを感じた。そして一方ではクーペにしか作れない美しいエクステリアデザインがあることもしかり。これらの分水嶺で当分の間大いに悩ましい思考が続きそうだ。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
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1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来43年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。
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