DS 3 クロスバックE-TENSE 新型試乗 乗れば居心地よし、走れば「普通」…中村孝仁
新しい電気自動車を『E-TENSE(Eテンス)』と名付けたDSオートモビルの根幹を成すフィロソフィーについて、発表会の冒頭にとても熱心に語ってくれた広報氏にまずは感謝!
昨今、自動車を一体どうやって選んだらよいやら困る状況になりつつある。勿論要素はいくらでもあって、それは値段だったり、性能(あらゆる)だったり、あるいは使い勝手だったりするのだが、どれをとってもドングリの背比べ的でしかない。
まな板の上に並べたライバルと思しきモデルの数々は、皆似たり寄ったり。結局は対応の良かった営業マンのところで購入…そんな経験をした読者は少なくないのではないだろうか。
昔と違って自動車は本当に没個性的になった。グローバル化と称してモノが世界的に流通するようになると、お国自慢も御当地自慢もあったものではない。みんな横並び平均的で「まあどれをとっても似たようなもんですが…」という昔聞いたフレーズですべてが語りつくされてしまうほど最近はクルマ選びにわくわく感がない。唯一あるとすればそれはデザインとセンスの良さだ。
そんな状況にあってDSというクルマのモノ作り感を冒頭の広報氏がいくつかのキーワードで紹介してくれた。
◆「他と違う」を体現したDS 3 クロスバックE-TENSE
個人的に一番響いたのはオートクチュールである。ファッション業界で使われる言葉で簡単に言えば、既製服に対する誂えの仕立服とでも言おうか。要するにイギリスのクルマが良く使う、ビスポークのフランス版と解釈した。といって、DSのクルマが本当に誂えかというとそういうわけではない。その心意気で作っているということ。
もう一つのワードはクルドパリと呼んでいた。こいつはカッティングの技法で、時計などで良く使われるギョーシェ彫りの技法の一つのようである。パリの石畳にヒントを得て施される装飾である。そしてこれらを総じて、DS的美学として「サヴォアーフェール」と表現していたが、この言葉の真の意味は分からない。(ウェブでは=匠の技と表現されているが)
ただ全体を通して流れるのは、如何に他のブランドと差別化するかを念頭に置いたクルマ作りをしていると強く訴えたわけである。確かに『DS 3 クロスバック』は同じBセグメントのモデルと比較した時に、中々個性的で室内の設えも高級感に溢れる。今回のEテンスはそれをさらに1歩進めて、その設えは実にフランス的で優雅である。
居心地はすこぶる良い。自動車は外で…つまり外観を愛でて感じ取る部分もあるだろうが、大半の場合は室内がどれだけ居心地が良いかで大きく左右される。まさに素敵なセンスの良いリビングが良いか、便利でコストコンシャスな100均で買ったあれやこれやが並んだリビングとどちらが良いか…もちろん人にもよるかもしれないが、それなりの対価を支払うわけだから、センスが良い方が良いに決まっている気がする。
そうした点ではDS 3 クロスバックEテンスは「他と違う」を体現しているように思えるわけである。
◆ガソリンエンジン搭載車との違いは
肝心の中身。即ち自動車として走るための運動能力であるが、ズバリこれは同メーカー内のプジョー『e-208』のそれと全く同じ。満充電でどれくらい走れるかとか、どのくらいの加速性能があるかとか、こと性能面に関する話はあえて触れないが、ではDS 3 クロスバックにはガソリンエンジン搭載車もあるので、それとの違いについて触れてみると、まず発進から加速に至るプロセスが圧倒的にスムーズで快適である。
トランスミッションのないシームレスな走りを電気軌自動車はするのである程度は想像も付くだろうし、予想も出来る。音もないからこと電気自動車になった場合、少なくとも現状では同じセグメントのモデルであったら、走りに大きな差を生じさせることはとても難しいと個人的には感じている。だからこと走りに関していえば、普通である。他の電気自動車と比べてあそこが良いだのここが良いだのとは言えない。
ガソリン車と比べた場合は上述の通りで、それ以外の差はほとんど感じなかった。確か300kgほど重いはずだが、まあ、それによる弊害もないし、運動性能は街中を走る限りにおいては生じていない。だから、スムーズであることとやはり加速性能などの面でガソリン車とはだいぶ違うが、ならば同じ値段を支払って購入できるガソリンエンジン車を凌駕するスムーズさだったり加速性能を持つかというと、やはりそうでもないような気がするのである。
因みにこのDS 3 クロスバック Eテンスのお値段は「グランシック」というグレードで534万円。確かに補助金などでだいぶ安くなるようだが、500万円以上出せば結構なガソリン車が買えてしまうから、要はそこと比較された時にどうか?という話である。
電気自動車を否定する気は毛頭ないし、CO2の罰金制度に対応しなければならないメーカーの戦略も十分承知しているのだが、BEVはさすがにもろ手を挙げて大賛成というわけにはいかない。もし仮にこのEテンスと同じ内装を持ったDS 3 クロスバックのガソリン車があれば、やはり僕はそちらをチョイスしてしまう。きっともっと安いだろうし。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来43年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める
昨今、自動車を一体どうやって選んだらよいやら困る状況になりつつある。勿論要素はいくらでもあって、それは値段だったり、性能(あらゆる)だったり、あるいは使い勝手だったりするのだが、どれをとってもドングリの背比べ的でしかない。
まな板の上に並べたライバルと思しきモデルの数々は、皆似たり寄ったり。結局は対応の良かった営業マンのところで購入…そんな経験をした読者は少なくないのではないだろうか。
昔と違って自動車は本当に没個性的になった。グローバル化と称してモノが世界的に流通するようになると、お国自慢も御当地自慢もあったものではない。みんな横並び平均的で「まあどれをとっても似たようなもんですが…」という昔聞いたフレーズですべてが語りつくされてしまうほど最近はクルマ選びにわくわく感がない。唯一あるとすればそれはデザインとセンスの良さだ。
そんな状況にあってDSというクルマのモノ作り感を冒頭の広報氏がいくつかのキーワードで紹介してくれた。
◆「他と違う」を体現したDS 3 クロスバックE-TENSE
個人的に一番響いたのはオートクチュールである。ファッション業界で使われる言葉で簡単に言えば、既製服に対する誂えの仕立服とでも言おうか。要するにイギリスのクルマが良く使う、ビスポークのフランス版と解釈した。といって、DSのクルマが本当に誂えかというとそういうわけではない。その心意気で作っているということ。
もう一つのワードはクルドパリと呼んでいた。こいつはカッティングの技法で、時計などで良く使われるギョーシェ彫りの技法の一つのようである。パリの石畳にヒントを得て施される装飾である。そしてこれらを総じて、DS的美学として「サヴォアーフェール」と表現していたが、この言葉の真の意味は分からない。(ウェブでは=匠の技と表現されているが)
ただ全体を通して流れるのは、如何に他のブランドと差別化するかを念頭に置いたクルマ作りをしていると強く訴えたわけである。確かに『DS 3 クロスバック』は同じBセグメントのモデルと比較した時に、中々個性的で室内の設えも高級感に溢れる。今回のEテンスはそれをさらに1歩進めて、その設えは実にフランス的で優雅である。
居心地はすこぶる良い。自動車は外で…つまり外観を愛でて感じ取る部分もあるだろうが、大半の場合は室内がどれだけ居心地が良いかで大きく左右される。まさに素敵なセンスの良いリビングが良いか、便利でコストコンシャスな100均で買ったあれやこれやが並んだリビングとどちらが良いか…もちろん人にもよるかもしれないが、それなりの対価を支払うわけだから、センスが良い方が良いに決まっている気がする。
そうした点ではDS 3 クロスバックEテンスは「他と違う」を体現しているように思えるわけである。
◆ガソリンエンジン搭載車との違いは
肝心の中身。即ち自動車として走るための運動能力であるが、ズバリこれは同メーカー内のプジョー『e-208』のそれと全く同じ。満充電でどれくらい走れるかとか、どのくらいの加速性能があるかとか、こと性能面に関する話はあえて触れないが、ではDS 3 クロスバックにはガソリンエンジン搭載車もあるので、それとの違いについて触れてみると、まず発進から加速に至るプロセスが圧倒的にスムーズで快適である。
トランスミッションのないシームレスな走りを電気軌自動車はするのである程度は想像も付くだろうし、予想も出来る。音もないからこと電気自動車になった場合、少なくとも現状では同じセグメントのモデルであったら、走りに大きな差を生じさせることはとても難しいと個人的には感じている。だからこと走りに関していえば、普通である。他の電気自動車と比べてあそこが良いだのここが良いだのとは言えない。
ガソリン車と比べた場合は上述の通りで、それ以外の差はほとんど感じなかった。確か300kgほど重いはずだが、まあ、それによる弊害もないし、運動性能は街中を走る限りにおいては生じていない。だから、スムーズであることとやはり加速性能などの面でガソリン車とはだいぶ違うが、ならば同じ値段を支払って購入できるガソリンエンジン車を凌駕するスムーズさだったり加速性能を持つかというと、やはりそうでもないような気がするのである。
因みにこのDS 3 クロスバック Eテンスのお値段は「グランシック」というグレードで534万円。確かに補助金などでだいぶ安くなるようだが、500万円以上出せば結構なガソリン車が買えてしまうから、要はそこと比較された時にどうか?という話である。
電気自動車を否定する気は毛頭ないし、CO2の罰金制度に対応しなければならないメーカーの戦略も十分承知しているのだが、BEVはさすがにもろ手を挙げて大賛成というわけにはいかない。もし仮にこのEテンスと同じ内装を持ったDS 3 クロスバックのガソリン車があれば、やはり僕はそちらをチョイスしてしまう。きっともっと安いだろうし。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来43年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める
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