ホンダ N-ONE 新型試乗 今や全速度域で辛い思いをせずに済む軽…中村孝仁
日本の自動車販売の6割近くを占めている軽自動車。必然的に作り出す自動車メーカーの力の入れようも高くなり、切磋琢磨の結果クルマの出来は年を追うごとに良くなっている。
日本の自動車メーカーは大抵の場合フルモデルチェンジを施すとガラッと姿を変えることが多いのだが、軽自動車の場合はそれがなかなか難しい。理由は軽自動車枠の中で如何に最大限の空間を作り出すかといったような効率重視主義で、デザインが大きく制約を受けるからであって、特に俗に言う背の高いトールワゴン系ではどれもこれも似たようなスタイルになっている。
そうした中ではセミトール系だった『N-ONE』は比較的面デザイン面の自由度は高いはずなのだが、8年目にして初のフルチェンジを受けた2代目のN-ONEは見事なほどのキープコンセプトを貫いた。
しかしその外見とは裏腹に出来具合は冒頭述べたように日々進化して、今ではその乗り心地やハンドリングに関しては下手に手が抜かれた感満載の普通車の小型モデルよりもずっと良くできていて、その昔軽自動車に抱いていた我慢を強いられるクルマというイメージは今や皆無。室内空間にしても普通車よりもずっと広い(前後長だけ)ものだってざらにある。
8年前の記憶なんてトンとご無沙汰だから、先代がどうだったか正直覚えていないが一番直近で乗ったホンダの軽自動車は昨年の『N-WGN』。その時にも書いたが最早軽自動車という概念を飛び越えた走りの性能を見せつけてくれた。
◆驚くべきロール剛性の高さ
今回はN-ONEの中でも最もベーシックなグレードとなる「オリジナル」というモデル。ホイールは14インチのテッチンホイールで、タイヤはダンロップ・エナセーブ155/65R14である。一時、軽自動車といえども扁平率がどんどん下がる傾向にあったが65扁平と聞くと何となくホッとする気分である。
これが作用しているかどうかはわからないが、乗り心地はとても快適でしかもどっしり感がある。路面からの突き上げ感も非常に軽微で、このあたりは昨年感じた軽の概念を飛び越えて今や普通車と遜色ないと断言できるレベルになっている。
それよりも今回のN-ONEにはこのオリジナルをベースに「プレミアム」、「RS」と3つのグレードが存在するが、後に乗ったプレミアムと比較しても上下関係がない。確かにテッチンホイールかもしれないが、逆にお洒落に見えるような仕掛けもしてあるし、装備差は皆無だから、TPOで選べるグレード展開になっている。
驚くべきだったのはロール剛性の高さである。広報資料を読み込んでみると、何とFF車の場合は前後のアクスルにスタビライザーを標準装備とある。軽の場合はリアのスタビを取り付けないクルマが多いのだが、N-ONEはそれを取り付けただけでなく、リアのコンプライアンスブッシュも大型化したそうだ。ロール剛性が高く感じられたのは恐らくこれが理由であろう。
◆「待ち」の運転が出来れば余裕のNAエンジン
エンジンは昨年N-WGNに搭載されたのと同じS-07Bと称するもので、先代よりもさらにロングストローク化しているのが特徴だ。ところがこれ、走り出してみるとどうもうるさい。といって、定常走行に入ると今度は驚くほど静かになる。軽自動車のNAエンジンはどうしても交通の流れに乗りたくて、発進からアクセルを少し開け気味で走ることが多く、どうやらそれがうるさい原因のようだ。一方で逆に高速道路などでフル加速をする際、エンジンはほとんど7000rpm近くまで回るが、その時はまるでうるさいとは感じないのである。
要はそのスピード域、即ち高速の80km/hあるいは100km/hの時点では、エンジンをはじめとしたドライブトレーンの透過音よりも、ロードノイズや風切り音をはじめとした外的要因の方が大きいから、うるさいとは感じないわけである。逆に市街地で走行すると、ロードノイズや風切り音は音源としては小さく、もっぱらエンジン音やギアノイズなどが音源の主役となるというだけのこと。そしてCVT独特の加速はアクセルのオン/オフに対してより敏感に反応してノイジーにしてしまう悪癖がある。
こうしたクルマの特性を掴んで、走り出しからのアクセル開度を少し絞り、開度一定でスピードが乗ってくるのを待つ運転をすれば、このクルマはとても静かに走ることが出来る。人生もハーフターンして下り坂に差し掛かると、「若い時は」という言葉を堂々と使えるようになるが、考えてみると若い時はこうした「待ち」の運転が出来なかった。だから、この種のクルマの原稿は常に「お金があるなら、ターボを買っとけ」だったように思う。しかもつい最近まで。
ところが、色々乗り方を工夫できるようになると、NAでも何ら苦痛を感じなくなる。もっともそれがフルチェンジしたクルマの新たな性能といってしまえばそれまでかもしれないが、高速もこのNAのN-ONEは全く苦にならなかった。
確かにそれなりのスピードに到達するには少し時間が必要だが、ここでも「待ち」の運転が出来ればどうということはない。新東名の120km/h区間だって余裕を持ってこなせる。しかもエンジンが悲鳴を上げて回ることもない。因みにエンジン回転は100km/hで3500rpm。120km/hでも4500rpmで、普通車の場合は高回転だろうが、軽自動車ではこの回転域はある意味で常用回転域である。
◆全速度域で辛い思いをせずに済む軽自動車
というわけで、今や全速度域で辛い思いをせずに済む軽自動車が出来上がった。リアシートに座る機会はなかったが、フロントシートにいる限り快適で疲れ知らずのドライブを可能にしている。
因みにドライビングポジションは、少し昔のイタリア車風の手長猿スタイルを強いられる。足を合わせると少しリーチが遠い。腕を合わせると今度は足が近くなる。チルトはあるがテレスコピックは装備されない。テレスコピックの装備があれば問題ないのだが…。
■5つ星評価
パッケージング ★★★★
インテリア居住性 ★★★★
パワーソース ★★★★
フットワーク ★★★★
おすすめ度 ★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来43年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める
日本の自動車メーカーは大抵の場合フルモデルチェンジを施すとガラッと姿を変えることが多いのだが、軽自動車の場合はそれがなかなか難しい。理由は軽自動車枠の中で如何に最大限の空間を作り出すかといったような効率重視主義で、デザインが大きく制約を受けるからであって、特に俗に言う背の高いトールワゴン系ではどれもこれも似たようなスタイルになっている。
そうした中ではセミトール系だった『N-ONE』は比較的面デザイン面の自由度は高いはずなのだが、8年目にして初のフルチェンジを受けた2代目のN-ONEは見事なほどのキープコンセプトを貫いた。
しかしその外見とは裏腹に出来具合は冒頭述べたように日々進化して、今ではその乗り心地やハンドリングに関しては下手に手が抜かれた感満載の普通車の小型モデルよりもずっと良くできていて、その昔軽自動車に抱いていた我慢を強いられるクルマというイメージは今や皆無。室内空間にしても普通車よりもずっと広い(前後長だけ)ものだってざらにある。
8年前の記憶なんてトンとご無沙汰だから、先代がどうだったか正直覚えていないが一番直近で乗ったホンダの軽自動車は昨年の『N-WGN』。その時にも書いたが最早軽自動車という概念を飛び越えた走りの性能を見せつけてくれた。
◆驚くべきロール剛性の高さ
今回はN-ONEの中でも最もベーシックなグレードとなる「オリジナル」というモデル。ホイールは14インチのテッチンホイールで、タイヤはダンロップ・エナセーブ155/65R14である。一時、軽自動車といえども扁平率がどんどん下がる傾向にあったが65扁平と聞くと何となくホッとする気分である。
これが作用しているかどうかはわからないが、乗り心地はとても快適でしかもどっしり感がある。路面からの突き上げ感も非常に軽微で、このあたりは昨年感じた軽の概念を飛び越えて今や普通車と遜色ないと断言できるレベルになっている。
それよりも今回のN-ONEにはこのオリジナルをベースに「プレミアム」、「RS」と3つのグレードが存在するが、後に乗ったプレミアムと比較しても上下関係がない。確かにテッチンホイールかもしれないが、逆にお洒落に見えるような仕掛けもしてあるし、装備差は皆無だから、TPOで選べるグレード展開になっている。
驚くべきだったのはロール剛性の高さである。広報資料を読み込んでみると、何とFF車の場合は前後のアクスルにスタビライザーを標準装備とある。軽の場合はリアのスタビを取り付けないクルマが多いのだが、N-ONEはそれを取り付けただけでなく、リアのコンプライアンスブッシュも大型化したそうだ。ロール剛性が高く感じられたのは恐らくこれが理由であろう。
◆「待ち」の運転が出来れば余裕のNAエンジン
エンジンは昨年N-WGNに搭載されたのと同じS-07Bと称するもので、先代よりもさらにロングストローク化しているのが特徴だ。ところがこれ、走り出してみるとどうもうるさい。といって、定常走行に入ると今度は驚くほど静かになる。軽自動車のNAエンジンはどうしても交通の流れに乗りたくて、発進からアクセルを少し開け気味で走ることが多く、どうやらそれがうるさい原因のようだ。一方で逆に高速道路などでフル加速をする際、エンジンはほとんど7000rpm近くまで回るが、その時はまるでうるさいとは感じないのである。
要はそのスピード域、即ち高速の80km/hあるいは100km/hの時点では、エンジンをはじめとしたドライブトレーンの透過音よりも、ロードノイズや風切り音をはじめとした外的要因の方が大きいから、うるさいとは感じないわけである。逆に市街地で走行すると、ロードノイズや風切り音は音源としては小さく、もっぱらエンジン音やギアノイズなどが音源の主役となるというだけのこと。そしてCVT独特の加速はアクセルのオン/オフに対してより敏感に反応してノイジーにしてしまう悪癖がある。
こうしたクルマの特性を掴んで、走り出しからのアクセル開度を少し絞り、開度一定でスピードが乗ってくるのを待つ運転をすれば、このクルマはとても静かに走ることが出来る。人生もハーフターンして下り坂に差し掛かると、「若い時は」という言葉を堂々と使えるようになるが、考えてみると若い時はこうした「待ち」の運転が出来なかった。だから、この種のクルマの原稿は常に「お金があるなら、ターボを買っとけ」だったように思う。しかもつい最近まで。
ところが、色々乗り方を工夫できるようになると、NAでも何ら苦痛を感じなくなる。もっともそれがフルチェンジしたクルマの新たな性能といってしまえばそれまでかもしれないが、高速もこのNAのN-ONEは全く苦にならなかった。
確かにそれなりのスピードに到達するには少し時間が必要だが、ここでも「待ち」の運転が出来ればどうということはない。新東名の120km/h区間だって余裕を持ってこなせる。しかもエンジンが悲鳴を上げて回ることもない。因みにエンジン回転は100km/hで3500rpm。120km/hでも4500rpmで、普通車の場合は高回転だろうが、軽自動車ではこの回転域はある意味で常用回転域である。
◆全速度域で辛い思いをせずに済む軽自動車
というわけで、今や全速度域で辛い思いをせずに済む軽自動車が出来上がった。リアシートに座る機会はなかったが、フロントシートにいる限り快適で疲れ知らずのドライブを可能にしている。
因みにドライビングポジションは、少し昔のイタリア車風の手長猿スタイルを強いられる。足を合わせると少しリーチが遠い。腕を合わせると今度は足が近くなる。チルトはあるがテレスコピックは装備されない。テレスコピックの装備があれば問題ないのだが…。
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