シトロエン C3 新型試乗 地味めのフェイスリフトとはいわせない…南陽一浩
◆シトロエンC3が底上げ気味に改良されてきた件について
近年のシトロエンでグローバルだけでなく、日本市場でも大ヒット作となった『C3』が、年初よりマイナーチェンジ版へと切り替わっていた。先代モデルが7年弱で国内6500台弱だったところを、現行は3年ちょっとで7600台を超えたのだから、日本でのハイペースな売れ行きが窺えるだろう。
それにしても、昨年から動意づいている欧州Bセグ・ハッチバックの一角を占める一台とはいえ、同門のプジョー『208』や『DS 3 クロスバック』らがCMP、同じくフランス車のルノー『ルーテシア5』がCMF-Bという新世代プラットフォームに基づいているのに対し、シトロエンC3はもはや懐かしのPF1のまま。プラットフォームとしては先代の208との共通性が高く、初出は『206』の時代にまで遡るので、今更いったい、どこをどう改良するというのか?という疑念を抱えたまま、試乗車の「C3シャイン」に相対した。「ブラン バンキーズ(氷山の白)」ボディに「エメラルド」のツートンカラー仕様だ。
ルーフ色はエメラルドと名はついているものの、ニュアンス的には昨今、インテリアで流行色のひとつだった孔雀の羽のような青緑で、シートやダッシュボードにも水平基調アクセントとして効いている。さりげなくトレンド感を採り入れるのはさすがシトロエンだ。ツートンを選べる国産車も増えてきたとはいえ、大抵は自販機のように四角いトールバンかモノスペースだし、ルーフ色も白黒か分かりやすくフェミニンなパステル系に終始する嫌いがあるので、「受け容れられやすい冒険度」というか、そんな設定自体の高度な巧さを、意識しておきたい。
外観のシルエットこそ前期型と変わりないが、細部にはけっこう変わっている。まずヘッドライトはマトリックス照射ではないが、ハロゲンから改められてLEDヘッドライトが標準化され、明るさでも相当の改善を見た。また中央のシトロエン・ロゴたるダブル・シュヴロンからクロームのラインが左右端へ拡がるグリル形状は、次期C4が初採用した新しいシトロエン顔。精悍さが増して2.5枚目風になったマスクに合わせ、従来型や兄弟車『C4カクタス』のボディサイドで大きな特徴となっていたエアバンプは、横長のカタチへとバランスを取り直した。
「新しいシトロエン顔」を新型『C4』の登場まで出し惜しみしないのは意外だったが、前期型C3の頃からデザイン・ディレクターが代替わりしていることが大きいだろう。ファニーな3枚目顔だったあのデザインをまとめたアレクサンドル・マルヴァル氏は数年前にメルセデス・ベンツに移籍し、後任として現在スティル・シトロエンの指揮を執るのはBMWとヒュンダイを経験したベルギー人デザイナー、ピエール・ルクレルク氏だ。
通常、他人のデザインを途中から受け継ぐと窮屈な仕上がりになるものだが、彼は最小限の手際でC3の違う一面を巧みに引き出したといえる。ところが、新しさは外観だけではなく、ひとたび車内に乗り込めば、今回のフェイスリフトのメインコースといえる変化を、肌で感じることになる。
◆「モエルゥ」な座り心地とは?
それは上位機種の『C5エアクロス』からもたらされた、「アドバンストコンフォートシート」だ。キルティングのステッチによるグラフィックこそ近未来的だが、分厚いクッションに覆われたシートはウールのような素材感といい、一人掛けソファのようにクラシックな趣さえある。何でもスポンジ厚は、従来の2mmから15mmへと増したとか。そこに身体を預けると、大昔の『BX』のシートが思い出された。旧車ほどではないが今どきの新車にはありえないソフトさで、たっぷり沈み込むクッション・ストロークの先で、身体がピタリと浮くように受け止められるのだ。
それは単純に、アンコがひたすら甘やかに柔いのではない。沈んだ先で極上のホールド感が得られるところが、旧き佳き(でも新しい)フランス車らしさ。それこそフランス語なら「moelleux(モエルゥ)」という形容詞が充てられるが、オムレツやチョコレートの焼き菓子にも用いられる通り、トロリとしたところからカリッとした部分までのグラデーションをも含む、そういう柔らかさだ。
3気筒の1.2リットルターボ、ピュアテックの110ps仕様は、プジョー208のガソリンより+10psだが、205Nmというトルクは同じだし、さして力強いとか、より速い感じはしない。しかしトランスミッションが8速でなく6速ATのため、2000rpmで早々と積極的にシフトアップするでなく、3000rpmまで引っ張り上げないと上のギアに入らない。そこで結果的とはいえ、エンジンをより朗らかに、よりブン回して走る実感がある。
いわゆるSDGs優等生な味つけではないが、エンジンの制御プログラムは一新されていて、前期型の準拠するJC08モード比較では約15%も燃費は改善されたとか。WLTPモードでも17.2km/リットルだし、フランス車の肌感覚でいけば、長距離走行なら20km/リットルは堅い。
そこに、熟々に熟し切った柔らかな足回りとスロー過ぎないステアリングフィールが加わる。当然、前述のアドバンストコンフォートシートの柔らかさも快適性のブースト要素だ。なぜかホールド性もよくて骨盤を奥で立てていれば、身体がシート上で泳ぐこともないので、ゆっくり街乗りする分には優しい乗り心地だが、その気になれば活発で楽しくも走らせられる。
逆に208やDS 3クロスバックの経験に比して、フロア周りからやや大きめのノイズが入ってくるし、ボディ剛性や密閉感、操舵のリニア感や応答性という点では、新世代のあちらに軍配が上がる。でもC3の良さはもう、新車であって新車らしからぬところにある。どういうことか。
◆エントリーカーにして上がりの一台にもなる
ADASについては前期モデルとほとんど変わりはない。とはいえ5~80km/hで作動するという被害軽減ブレーキ、車線はみ出し警告、カメラ読み取りの制限速度情報表示など、ヘンにクルマ任せに運用できない範囲で、必要ミニマムな運転支援機能はきっちり充実している。レベル2なら付いていても付いていなくても一緒という、自立した、もしくは自律的なドライバーには、十分な内容だ。
いわばシトロエンC3はもはや、新車嫌いのための新車、逆説的かもしれないが、そんな一台として練り上げられ、実際に究めている。誰に勧められるか?といえば、PF1という熟成プラットフォームの磨き上げられた信頼性もあるだろうし、輸入車が初めての人、あるいは免許取り立てのヤングが、少し背伸びして新しい楽しみを発見するのに、格好のエントリーモデルとなるだろう。
また余計な高機能は要らないベテランのドライバーが、上がりで選ぶにも相応しい一台といえる。そういう、乗り手の世代を選ばないユーティリティというか道具性の高さが、時代は違っても「今の2CVっぽさ」というか、GSやBXの末裔であるがゆえんだ。
それに、今回の撮影車であるエメラルド・ツートン仕様のシャインは259万5000円である通り、輸入車ながら乗り出し300万円で収まりそうな価格設定もいい。日本ではもっと安い選択肢はいくらでもあるが、「フツーの生活感」的なスタンダードの高さというかフランスのそれが、今だかくも高いことを体現しているところが、シトロエンC3の底力にして魅力でもあるのだ。ライバルはある意味、セグメントは違うがルノー『トゥインゴ』しかいない。
■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★★★
南陽一浩|モータージャーナリスト
1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。
近年のシトロエンでグローバルだけでなく、日本市場でも大ヒット作となった『C3』が、年初よりマイナーチェンジ版へと切り替わっていた。先代モデルが7年弱で国内6500台弱だったところを、現行は3年ちょっとで7600台を超えたのだから、日本でのハイペースな売れ行きが窺えるだろう。
それにしても、昨年から動意づいている欧州Bセグ・ハッチバックの一角を占める一台とはいえ、同門のプジョー『208』や『DS 3 クロスバック』らがCMP、同じくフランス車のルノー『ルーテシア5』がCMF-Bという新世代プラットフォームに基づいているのに対し、シトロエンC3はもはや懐かしのPF1のまま。プラットフォームとしては先代の208との共通性が高く、初出は『206』の時代にまで遡るので、今更いったい、どこをどう改良するというのか?という疑念を抱えたまま、試乗車の「C3シャイン」に相対した。「ブラン バンキーズ(氷山の白)」ボディに「エメラルド」のツートンカラー仕様だ。
ルーフ色はエメラルドと名はついているものの、ニュアンス的には昨今、インテリアで流行色のひとつだった孔雀の羽のような青緑で、シートやダッシュボードにも水平基調アクセントとして効いている。さりげなくトレンド感を採り入れるのはさすがシトロエンだ。ツートンを選べる国産車も増えてきたとはいえ、大抵は自販機のように四角いトールバンかモノスペースだし、ルーフ色も白黒か分かりやすくフェミニンなパステル系に終始する嫌いがあるので、「受け容れられやすい冒険度」というか、そんな設定自体の高度な巧さを、意識しておきたい。
外観のシルエットこそ前期型と変わりないが、細部にはけっこう変わっている。まずヘッドライトはマトリックス照射ではないが、ハロゲンから改められてLEDヘッドライトが標準化され、明るさでも相当の改善を見た。また中央のシトロエン・ロゴたるダブル・シュヴロンからクロームのラインが左右端へ拡がるグリル形状は、次期C4が初採用した新しいシトロエン顔。精悍さが増して2.5枚目風になったマスクに合わせ、従来型や兄弟車『C4カクタス』のボディサイドで大きな特徴となっていたエアバンプは、横長のカタチへとバランスを取り直した。
「新しいシトロエン顔」を新型『C4』の登場まで出し惜しみしないのは意外だったが、前期型C3の頃からデザイン・ディレクターが代替わりしていることが大きいだろう。ファニーな3枚目顔だったあのデザインをまとめたアレクサンドル・マルヴァル氏は数年前にメルセデス・ベンツに移籍し、後任として現在スティル・シトロエンの指揮を執るのはBMWとヒュンダイを経験したベルギー人デザイナー、ピエール・ルクレルク氏だ。
通常、他人のデザインを途中から受け継ぐと窮屈な仕上がりになるものだが、彼は最小限の手際でC3の違う一面を巧みに引き出したといえる。ところが、新しさは外観だけではなく、ひとたび車内に乗り込めば、今回のフェイスリフトのメインコースといえる変化を、肌で感じることになる。
◆「モエルゥ」な座り心地とは?
それは上位機種の『C5エアクロス』からもたらされた、「アドバンストコンフォートシート」だ。キルティングのステッチによるグラフィックこそ近未来的だが、分厚いクッションに覆われたシートはウールのような素材感といい、一人掛けソファのようにクラシックな趣さえある。何でもスポンジ厚は、従来の2mmから15mmへと増したとか。そこに身体を預けると、大昔の『BX』のシートが思い出された。旧車ほどではないが今どきの新車にはありえないソフトさで、たっぷり沈み込むクッション・ストロークの先で、身体がピタリと浮くように受け止められるのだ。
それは単純に、アンコがひたすら甘やかに柔いのではない。沈んだ先で極上のホールド感が得られるところが、旧き佳き(でも新しい)フランス車らしさ。それこそフランス語なら「moelleux(モエルゥ)」という形容詞が充てられるが、オムレツやチョコレートの焼き菓子にも用いられる通り、トロリとしたところからカリッとした部分までのグラデーションをも含む、そういう柔らかさだ。
3気筒の1.2リットルターボ、ピュアテックの110ps仕様は、プジョー208のガソリンより+10psだが、205Nmというトルクは同じだし、さして力強いとか、より速い感じはしない。しかしトランスミッションが8速でなく6速ATのため、2000rpmで早々と積極的にシフトアップするでなく、3000rpmまで引っ張り上げないと上のギアに入らない。そこで結果的とはいえ、エンジンをより朗らかに、よりブン回して走る実感がある。
いわゆるSDGs優等生な味つけではないが、エンジンの制御プログラムは一新されていて、前期型の準拠するJC08モード比較では約15%も燃費は改善されたとか。WLTPモードでも17.2km/リットルだし、フランス車の肌感覚でいけば、長距離走行なら20km/リットルは堅い。
そこに、熟々に熟し切った柔らかな足回りとスロー過ぎないステアリングフィールが加わる。当然、前述のアドバンストコンフォートシートの柔らかさも快適性のブースト要素だ。なぜかホールド性もよくて骨盤を奥で立てていれば、身体がシート上で泳ぐこともないので、ゆっくり街乗りする分には優しい乗り心地だが、その気になれば活発で楽しくも走らせられる。
逆に208やDS 3クロスバックの経験に比して、フロア周りからやや大きめのノイズが入ってくるし、ボディ剛性や密閉感、操舵のリニア感や応答性という点では、新世代のあちらに軍配が上がる。でもC3の良さはもう、新車であって新車らしからぬところにある。どういうことか。
◆エントリーカーにして上がりの一台にもなる
ADASについては前期モデルとほとんど変わりはない。とはいえ5~80km/hで作動するという被害軽減ブレーキ、車線はみ出し警告、カメラ読み取りの制限速度情報表示など、ヘンにクルマ任せに運用できない範囲で、必要ミニマムな運転支援機能はきっちり充実している。レベル2なら付いていても付いていなくても一緒という、自立した、もしくは自律的なドライバーには、十分な内容だ。
いわばシトロエンC3はもはや、新車嫌いのための新車、逆説的かもしれないが、そんな一台として練り上げられ、実際に究めている。誰に勧められるか?といえば、PF1という熟成プラットフォームの磨き上げられた信頼性もあるだろうし、輸入車が初めての人、あるいは免許取り立てのヤングが、少し背伸びして新しい楽しみを発見するのに、格好のエントリーモデルとなるだろう。
また余計な高機能は要らないベテランのドライバーが、上がりで選ぶにも相応しい一台といえる。そういう、乗り手の世代を選ばないユーティリティというか道具性の高さが、時代は違っても「今の2CVっぽさ」というか、GSやBXの末裔であるがゆえんだ。
それに、今回の撮影車であるエメラルド・ツートン仕様のシャインは259万5000円である通り、輸入車ながら乗り出し300万円で収まりそうな価格設定もいい。日本ではもっと安い選択肢はいくらでもあるが、「フツーの生活感」的なスタンダードの高さというかフランスのそれが、今だかくも高いことを体現しているところが、シトロエンC3の底力にして魅力でもあるのだ。ライバルはある意味、セグメントは違うがルノー『トゥインゴ』しかいない。
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