マツダ3 SKYACTIV-X 新型試乗 まだまだ道半ば。完成形が楽しみだ…中村孝仁
世界的にCO2削減が叫ばれ、多くの国で電動化したクルマを普及させる施策が発表されている。しかし、物事はそれほど単純ではない。
全部電気自動車になれば良いかといえば、ならば電気を作る時にCO2は発生しないかと言うと現状は大いに発生する。特に日本は。それに電気自動車の重要な要素であるバッテリーを作る時だってCO2は発生するから、単純に内燃機関を止めれば良いというわけではないことは、少し考えれば誰にでもわかること。
CO2の発生を減らすには内燃機関の熱効率を高めることがとても有効であるという観点から、マツダは理想的内燃機関に近づこうと、SPCCIという技術を作り出した。これが「SKYACTIV-X(スカイアクティブX)」エンジンである。
◆「夢のエンジン」がアップデート
発売からすでに1年少々、商品改良と称したこのSKYACTIV-Xの手直しが行われた。今回試乗したのは『マツダ3』だ。変更点は数値に現れる部分として、最高出力が10ps向上した190psに。最大トルクが16Nm向上した240Nmに引き上げられたこと。一方で数値に表れないところではほぼすべての回転域で出力、トルクが向上されていることや、トランスミッションのソフトウェア変更。さらにはサスペンションのチューニング見直しなどが挙げられる。
視覚的な変更はボディサイドのエンブレムおよびリアのスカイアクティブエンブレムの変更だけで、見た目の変化はない。このSKYACTIV-Xはエンジニアにとっては夢の内燃機関と言われるもので、当初そんなものが現実になるんだと、話を聞いている側、即ち我々が勝手に高いハードルを作ってしまった。
しかし、その夢のエンジンは実際に出来上がってみると既存ガソリンエンジンよりちょっとはいいかな?程度の出来で、一方ではガソリンエンジン車比で70万円近く高い価格を考えると、どう見ても費用対効果はないと判断して、まだ道半ばの技術とデビューした時点では書いた。
今回はデビュー時よりも一歩その歩みを進めたわけだが、日本の自動車市場に風穴を開けることになるかもしれない要素もある。というのは今回、パワーアップに関してはすべて制御系のアップデートだけで対応している。しかも、まだ申請段階だがこれが許可されれば、マツダは既存のSKYACTIV-Xユーザーに対してもそのアップデートを提供する用意があるというのだ。
これはこれで、実に興味深い話であって、持っているクルマの性能が途中で変えられるとなると、アップデートを希望するユーザーは当然いるはずで、しかもマツダは今そのアップデートを無償提供することを検討中だという。こうしたことが出来るようになると、自動車を保有する意欲も湧くというものだ。
◆数値の向上は体感できるのか?
さて、その肝心要のアップデートである。数値的には確かに引き上げられているのだが、それを体感するシーンがどれだけあるかと言われると、残念ながら少々心もとない。前回『CX-5』の時も感じたが、確かに良くなっているのだろうが、なかなか実感しずらいという難点があって、今回のエンジン性能も目を見張るほど良くなったとは言えない。確かに言われてみるとそうかな?程度の違いである。勿論、新旧のモデルを乗り比べた上での話だ。
マツダ3はマツダのいうところのスモールアーキテクチャと称する、横置きFWD用のプラットフォームを用いているのだが、現在このプラットフォームを用いるのは、マツダ3の他に『CX-30』と『MX-30』があるが、MX-30を除くと乗り心地という点であまり良い点が付けられないでいた。その部分にも今回は踏み込んで手直しをしたということだった。
具体的には前後サスペンションのバネのバランスを変更し、特にフロントサスペンションのバネレートを引き上げている。縮み側の減衰力を引き上げたのだそうだ。これははっきりとした実感として乗り心地にフラット感が増したと感じさせる効果をもたらしている。
さらにマツダ3はラジエーターに取り込むエアの流量を変えるアクティブエアシャッターを装備しているのだが、これを開いた時と閉じた時ではフロントのリフト量が変わるということで、Gベクタリングコントロールを用いて、そのゲインを調節するという細やかなチューニングを施している。流石にその印象は?と聞かれた時は素直に「わかりませんでした」と答えたのだが、当然開発している人々は数値としてその違いを持っているわけで、要するにマツダ3は今もなお、日々進化を遂げているわけである。
◆目に見えない進化の行く末は
新たなマツダ3の主査である谷本智弘氏に、SKYACTIV-Xのゴールはどこですかと尋ねてみたものの、数値的なゴールはお答えできませんとのことだったが、まだまだ日々進化させていることだけは教えてくれた。
こうした目に見えず、体感も出来ない進化というのは、オーディオに例えるとわかり易いかもしれない。アナログのレコードから音楽がCDに移行した時、実は多くの音が消えたと言われた。それはさらにCDから圧縮音源のMP3で取り込んでコンピューターで聴く音でも同じことが言える。普通ならこれで十分と思って聴いているMP3音源でも、圧縮量を変えてより容量の大きな音源を聞いてみると、その違いに驚かされることがある。
つまり、単体での小さな進化には気が付かないが、完成形となった時、そのデビュー時のものと乗り比べてみると、恐らくその進化は顕著にわかるというようなものではないかということだ。まだまだ道半ば。マツダ3は完成形がとても楽しみなクルマだ。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来43年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。
全部電気自動車になれば良いかといえば、ならば電気を作る時にCO2は発生しないかと言うと現状は大いに発生する。特に日本は。それに電気自動車の重要な要素であるバッテリーを作る時だってCO2は発生するから、単純に内燃機関を止めれば良いというわけではないことは、少し考えれば誰にでもわかること。
CO2の発生を減らすには内燃機関の熱効率を高めることがとても有効であるという観点から、マツダは理想的内燃機関に近づこうと、SPCCIという技術を作り出した。これが「SKYACTIV-X(スカイアクティブX)」エンジンである。
◆「夢のエンジン」がアップデート
発売からすでに1年少々、商品改良と称したこのSKYACTIV-Xの手直しが行われた。今回試乗したのは『マツダ3』だ。変更点は数値に現れる部分として、最高出力が10ps向上した190psに。最大トルクが16Nm向上した240Nmに引き上げられたこと。一方で数値に表れないところではほぼすべての回転域で出力、トルクが向上されていることや、トランスミッションのソフトウェア変更。さらにはサスペンションのチューニング見直しなどが挙げられる。
視覚的な変更はボディサイドのエンブレムおよびリアのスカイアクティブエンブレムの変更だけで、見た目の変化はない。このSKYACTIV-Xはエンジニアにとっては夢の内燃機関と言われるもので、当初そんなものが現実になるんだと、話を聞いている側、即ち我々が勝手に高いハードルを作ってしまった。
しかし、その夢のエンジンは実際に出来上がってみると既存ガソリンエンジンよりちょっとはいいかな?程度の出来で、一方ではガソリンエンジン車比で70万円近く高い価格を考えると、どう見ても費用対効果はないと判断して、まだ道半ばの技術とデビューした時点では書いた。
今回はデビュー時よりも一歩その歩みを進めたわけだが、日本の自動車市場に風穴を開けることになるかもしれない要素もある。というのは今回、パワーアップに関してはすべて制御系のアップデートだけで対応している。しかも、まだ申請段階だがこれが許可されれば、マツダは既存のSKYACTIV-Xユーザーに対してもそのアップデートを提供する用意があるというのだ。
これはこれで、実に興味深い話であって、持っているクルマの性能が途中で変えられるとなると、アップデートを希望するユーザーは当然いるはずで、しかもマツダは今そのアップデートを無償提供することを検討中だという。こうしたことが出来るようになると、自動車を保有する意欲も湧くというものだ。
◆数値の向上は体感できるのか?
さて、その肝心要のアップデートである。数値的には確かに引き上げられているのだが、それを体感するシーンがどれだけあるかと言われると、残念ながら少々心もとない。前回『CX-5』の時も感じたが、確かに良くなっているのだろうが、なかなか実感しずらいという難点があって、今回のエンジン性能も目を見張るほど良くなったとは言えない。確かに言われてみるとそうかな?程度の違いである。勿論、新旧のモデルを乗り比べた上での話だ。
マツダ3はマツダのいうところのスモールアーキテクチャと称する、横置きFWD用のプラットフォームを用いているのだが、現在このプラットフォームを用いるのは、マツダ3の他に『CX-30』と『MX-30』があるが、MX-30を除くと乗り心地という点であまり良い点が付けられないでいた。その部分にも今回は踏み込んで手直しをしたということだった。
具体的には前後サスペンションのバネのバランスを変更し、特にフロントサスペンションのバネレートを引き上げている。縮み側の減衰力を引き上げたのだそうだ。これははっきりとした実感として乗り心地にフラット感が増したと感じさせる効果をもたらしている。
さらにマツダ3はラジエーターに取り込むエアの流量を変えるアクティブエアシャッターを装備しているのだが、これを開いた時と閉じた時ではフロントのリフト量が変わるということで、Gベクタリングコントロールを用いて、そのゲインを調節するという細やかなチューニングを施している。流石にその印象は?と聞かれた時は素直に「わかりませんでした」と答えたのだが、当然開発している人々は数値としてその違いを持っているわけで、要するにマツダ3は今もなお、日々進化を遂げているわけである。
◆目に見えない進化の行く末は
新たなマツダ3の主査である谷本智弘氏に、SKYACTIV-Xのゴールはどこですかと尋ねてみたものの、数値的なゴールはお答えできませんとのことだったが、まだまだ日々進化させていることだけは教えてくれた。
こうした目に見えず、体感も出来ない進化というのは、オーディオに例えるとわかり易いかもしれない。アナログのレコードから音楽がCDに移行した時、実は多くの音が消えたと言われた。それはさらにCDから圧縮音源のMP3で取り込んでコンピューターで聴く音でも同じことが言える。普通ならこれで十分と思って聴いているMP3音源でも、圧縮量を変えてより容量の大きな音源を聞いてみると、その違いに驚かされることがある。
つまり、単体での小さな進化には気が付かないが、完成形となった時、そのデビュー時のものと乗り比べてみると、恐らくその進化は顕著にわかるというようなものではないかということだ。まだまだ道半ば。マツダ3は完成形がとても楽しみなクルマだ。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
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