マツダ MX-30 EV 新型試乗 「走りが退屈?」という心配は杞憂に終わった…片岡英明

  • マツダ MX-30 EV(Highest Set)
2050年時点のカーボンニュートラル実現に向けて、マツダが採った戦略が「マルチソリューション」である。製造後、販売後のCO2排出量だけでなく、燃料の採掘や精製、製造、物流、使用、廃棄、リサイクルに至る、クルマ(製品)のライフサイクル全体における環境負荷を、定量的に把握して影響を評価する新しい考え方、これがマルチソリューションだ。この戦略に基づいて企画され、送り出されたのがマツダ『MX-30』である。

その最初の作品は多くの人が慣れ親しんでいるマイルドハイブリッド車だった。これに続く第2弾がバッテリーEV(電気自動車)で、2021年1月に秘密のベールを脱いでいる。EV化にあたっては、バッテリーパックを骨格として活かした高い剛性やボディを強化したマツダの新世代車両構造技術「SKYACTIV-ビークル アーキテクチャー」を採用し、これに電動化技術の「e-SKYACTIV」を組み合わせた。

◆ライフサイクル全体を考えたバッテリー容量

注目のe-SKYACTIVは、モーター、高電圧バッテリー、インバーター、DC-DCコンバーター、AC普通充電器などの高電圧部品などで構成されている。交流同期モーターの最高出力は107kW(145ps)/4500~11,000rpm、最大トルクは270Nm(27.5kg-m)/0~3243rpmだ。気になるリチウムイオンバッテリーの容量は35.5kWhと、奇しくも『ホンダe』と同じである。

『リーフ』などよりバッテリー容量を少なめにしているのは、先に述べたようにEVは製造過程では内燃機関のクルマ以上にCO2を排出するからだ。ライフサイクル全体でCO2排出量を見て、環境負荷を小さく抑えようと35.5kWhに決めた。また、この容量なら必要以上にクルマは重くならないし、コストを引き下げられる。ちなみに一充電走行距離は、WLTCモードで256kmだ。ホンダeアドバンスと大差ない。

◆スムーズさと軽やかさが際立つ走り

走り出す前は、上質な走行フィールのMX-30の乗り味が変わってしまうのでは、走りが退屈なのでは、という危惧を感じていた。だが、この心配は杞憂に終わっている。マツダらしい人間中心の設計哲学は変わっていなかったし、乗り味も操作フィールもマイルドハイブリッド方式のMX-30と同じだった。違和感なくフツーに運転できることが、より洗練された大人の走行感覚へとつながっていたのである。

アクセルを踏み込むとタイムラグなしに一気にパワーとトルクが盛り上がり、グッと頭を押さえつけられる、というのが多くのEVの乗り味だ。だが、MX-30は違う。発進からの加速はジェントルで、気ぜわしさがない。自然にスッとクルマが前に出る。車重がマイルドハイブリッド車より200kgほど重くなっているが、モーターは瞬発力が鋭いし、シームレスな加速だから、その気になればなかなかの俊足を見せてくれた。

マツダが提唱する「躍度」に基づいて最適に味付けしているのだろう。パンチ力やダイレクト感よりスムーズさと軽やかさが際立っている。これが他のEVと大きく違うところだ。無駄にエネルギーを消費せず、無駄に踏みすぎてアクセルを戻すということがない。誰にでも違和感なく運転できるクルマに仕上がっている。もちろん、静粛性は高級リムジン並みだ。同行させたマイルドハイブリッド車のエンジン音がノイジーと感じるほど、静粛性は高い。クルージング時はもちろん、加速時も驚くほど静かだ。インバーターなどの雑音も耳障りではない。不快な振動が出ないのも魅力のひとつと言えるだろう。

◆滑らかなパワーフィールが印象的なパドルシフト

ステアリングの裏側には右と左にパドルシフト(「ステアリングホイールパドル」)が付いている。これはアクセルを緩めた時にバッテリーに充電する回生ブレーキの強さをドライバーの意思によって変えられる装備だ。左側のパドルを引くと回生減速度は強まり、右側のパドルを引くと回生を弱め、加速度が高まる。全部で5段階に調整できるのだが、MX-30はモーターの制御が絶妙で、減速度を最大限に利かせればブレーキを強く踏んだ時のように減速感は強めだ。ただし、スムーズさが際立っているから、減速度やコースティングに物足りなさを感じてしまう場面もあった。錯覚するほど滑らかなパワーフィールが印象的だ。

EVにはワンペダルドライブを採用するクルマが多い。これはブレーキを使わないで走る運転のしやすさを追求したものだが、MX-30は頭が揺れず、体のバランスを取りやすい止まり方にこだわっている。ドライバーだけでなく同乗者も安心感があり、快適に止まれるブレーキを目指しているから、ワンペダルドライブは採用しなかった。これも違和感のないドライブフィールに大きく貢献しているのだろう。その分、パドルシフトを使う機会は多くなるが、パドルシフトを使えば、高速走行や登坂路、下り坂などでスピードをコントロールしやすいはずだ。

◆e-GVC Plusと低重心が滑らかなコーナリングに貢献

サスペンションはフロントがマクファーソンストラット、リアはトーションビームである。タイヤは215/55R18と、同じサイズだが、こちらはブリヂストンのトランザを履いていた。ボディなどの剛性アップなどの違いに加え、特筆できる技術としては「エレクトリック G-ベクタリング コントロール プラス(e-GVC Plus)」が挙げられる。これは操舵した時にモーターのトルクを最適に制御する技術だ。ドライバーのステアリング操作に合わせてコンピューターがモーターのトルクを上手に調整し、滑らかなコーナリングを実現する。

パワーステアリングはスッキリとした操舵フィールで、軽く扱いやすい。路面の凹凸に合わせてサスペンションはしなやかに動く。ボディも驚くほどしっかりしている。e-GVC+の採用と相まって狙ったラインに乗せやすいし、コントロールできる領域も広い。また、重いバッテリーをフロア下に敷き詰めていることもあり、重心が低いから、一体感のある自然なロール感の気持ちいいコーナリングを見せた。

連続するコーナーを走り抜けても揺れの収まりは速やかだ。今回は試す機会がなかったが、雪道などの滑りやすい路面では、背の高さを意識させない軽やかなコーナリングと優れたコントロール性を披露してくれるはずである。乗り心地も上質だ。前席だけでなく後席に座っても不快な突き上げに悩まされない。クルマは重くなっているが、ブレーキ性能とペダルのストローク量も自然な感覚だった。MX-30に加わったEVモデルは、洗練度が驚くほど高い。だからリラックスした気分で長い距離の移動を楽しむことができるだろう。

◆航続距離を考えると街乗り中心の使い方になるが…

キャビンは前席だけでなく後席もラゲッジルームもマイルドハイブリッド車と同等の空間を確保している。観音開きのフリースライドドアも大きく開く。最初は戸惑うが、慣れてしまえば乗り降りに苦労することはない。ちなみに撮影した時の電費は、ちょっと荒っぽく運転したし、寒かったから4km/KWh+アルファにとどまった。これだと実際の航続距離は150kmほどだから街乗り中心の使い方になる。

航続距離が心配、という人には2022年に投入が計画されているレンジエクステンダーがいいだろう。これはエンジンを使って発電し、走れる距離を延ばす安心感のあるEVだ。マツダはロータリーエンジンを使って発電を行うようだから、ロータリーエンジン派にとっても魅力的な存在と感じるはず。今後の発展と進化に大いに期待したい。


■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★

片岡英明|モータージャーナリスト
自動車専門誌の編集者を経てフリーのモータージャーナリストに。新車からクラシックカーまで、年代、ジャンルを問わず幅広く執筆を手掛け、EVや燃料電池自動車など、次世代の乗り物に関する造詣も深い。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。
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  • マツダ MX-30 EVと片岡英明氏
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