ランドローバー ディフェンダー 雪上試乗「クロカン系SUV」の存在意義に気付かされる…中谷明彦
温暖化の影響もあってか全世界的に気候的災害が頻発している中で、悪路走破性に優れる「クロスカントリー系SUV」の存在が見直されている。身近ないつもの道が、いつ災害に見舞われ大雨による濁流や豪雪で身動きがとれなくなるか予測がつきにくい状況が多くなってきている。
今冬も北陸や北海道などでホワイトアウト現象に見舞われ、有料の高速道路でさえも立ち往生して数日間を車内で過ごさなければならないような状況が報道された。
そんな現代では「積極的に命を守る行動」としてクロスカントリー系SUVを選択することも重要と考えられる。実際、筆者は日本カー・オブ・ザ・イヤーの選考委員メンバーの一人として、毎年その年を代表するクルマを選出しているが、2019~2020年にはジープ『ラングラー』に、2020~2021年度の昨年はランドローバー『ディフェンダー』に最高点数を配してきた。
市街地ユースに主眼をおいたクロスオーバー系SUVがブームとなっているが、クロスカントリー系SUVの真の実力を知ると、その魅力と頼もしさに魅了され、改めて存在意義に気付かされるのだ。
◆2.1トンにおよぶ巨体が2リットルのエンジンで十分なのか
そこで、今回は『ディフェンダー110 SE』で豪雪地域の雪道走破性を試してみることにした。
ディフェンダーはスタイリッシュで逞しさが表現された外観が魅力的だ。110 SEは4ドアのロングボディ仕様で、そのディメンションは全長4945mm、全幅1995mm、全高1970mmという巨体だ。ホイールベース(車軸間距離・HB)は3020mm、車両重量は2.1トンにおよぶ。
ランドローバー社には上位カテゴリーにレンジローバーがラインアップされているが、そのディメンションは全長5005mmと僅かに長いが、全幅は1985mm、全高は1965mm、HB2910mmで、ディフェンダーの方が寸法的に上回っている。
ディフェンダー110SEのパワートレインは2リットル直4直噴ガソリンターボに8速ATが組み合わされている。パワースペックは最高出力300ps/5500回転、最大トルクは400Nm/2000回転だ。ジープ・ラングラーの2リットルターボもそうだったが、これほどの巨体がターボ過給されているとはいえ僅か2リットルのエンジンで十分なのか、いよいよ雪山に踏み入れる。
◆舗装路のごとく安定し、パワーが有効に路面に伝わる
今回、試乗車が装着しているのは日本ではあまり馴染みのない北欧フィンランドのノキアン社製スタッドレスタイヤ「ハッカペリッタR2SUV」だ。275/55R20という同社のカタログにも掲載のないディフェンダーの20インチ専用タイヤでスノーフレークの刻印を受けた高速道路でのスノータイヤ規制下でも走行可能な仕様のものだ。
雪山の常で、まずは登りステージから山奥に進んでいく。ATはロックアップが作動しトルコンのスリップロスが感じられずトルクを有効に伝えていく。フルタイム4WDシステムはセンターとリアデフに電子制御デファレンシャルロック機能が備わっていて、路面の状況変化にきめ細かく反応しロック、アンロック、中間拘束力を繰り返しているのがモニターからも伝えられている。圧雪路では、まるで舗装路のごとく安定し、パワーが有効に路面に伝わっていた。DSC(ダイナミックスタビリティコントロール)をオンにしていても介入はほとんど起こらず、タイヤが路面をグリップしていることがわかる。
しかしコーナーのアプローチでは注意が必要だ。山岳路でのコーナーはR(半径)が小さい。直線区間での加速性、安定性に優れているだけにコーナー手前では減速を確実に行う必要がある。どんなに優れた4WD車でも旋回能力は2輪駆動とほとんど変わらない。加えて2トンを超える巨体の慣性力が加わるので減速をしっかり行うのが鉄則といえる。
幸い、ディフェンダーはATをSモードにしておくとシフトダウン制御がブレーキ踏力に応じて機能し、ABSを介入させずにしっかり減速してアプローチすることができる。
ステアリングの直径がやや大きく、ステアリングギア比も大きめなため操舵量は増える傾向にあるので、切り遅れ、戻し遅れにも注意したい。
◆歩行困難な深雪でも余裕で走破
標高の高いエリアに到達すると深雪が路面を覆い、20~30cmもの深さがある。最低地上高が標準で218mmもあるので深雪ならそのままでも雪をかき分けて進む推進力が得られる。エアサスペンションにはハイトアジャスト機能が備わっていて最大車高291mmに引き上げれば余裕で走破していける。
その作動は速く、路面状況に応じて短時間でスタンバイできるのはありがたい。この車高で深雪に踏み込み車両から降りると、そこは歩行困難なほどの深さで、流石の踏破性だと感心させられるのだった。
ちなみにディフェンダーの最大渡河水深は900mmもあり、それは人が歩くことは完全に出来ない深さだ。こうした踏破性の高さこそが災害時に「命を守る行動」を支えてくれるのだと改めて確信した。
◆エンジンブレーキ特性に助けられた下りのアイスバーン
帰路は長い圧雪及びアイスバーンの下りステージとなる。ヒルディセント(HDC)機能の作動を必要とする崖のような山下りは試さなかったが、圧雪路の下り区間はATのSモードのエンジンブレーキ特性に助けられ、ブレーキへの負担も最小限に2.1トンの巨体をスムーズに制御できた。
ちなみに、今回の走行ルートでの燃費は高速区間で8.6km/リットル。山岳路圧雪区間は登り下り平均で8.1km/リットルでメーカー公表値のWLTCモード8.3km/リットルにほぼ準拠する水準で走ることが示された。100km/h巡航が8速で1750回転と低い設定だったことも高速燃費には貢献したはずだ。
ディフェンダーのスタイリングと悪路性能の高さに、改めて魅力を感じさせられる試乗となった。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★★★
中谷明彦|レース&テストドライバー/自動車関連コンサルタント
大学在学中よりレーサー/モータージャーナリストとして活動。1988年全日本F3選手権覇者となるなど国内外で活躍。1997年よりドライビング理論研究会「中谷塾」を開設、2009年より東京大学と自動車新技術の共同研究に取組む。自動車関連の開発、イベント運営など様々な分野でのコンサルタントも行っている。
今冬も北陸や北海道などでホワイトアウト現象に見舞われ、有料の高速道路でさえも立ち往生して数日間を車内で過ごさなければならないような状況が報道された。
そんな現代では「積極的に命を守る行動」としてクロスカントリー系SUVを選択することも重要と考えられる。実際、筆者は日本カー・オブ・ザ・イヤーの選考委員メンバーの一人として、毎年その年を代表するクルマを選出しているが、2019~2020年にはジープ『ラングラー』に、2020~2021年度の昨年はランドローバー『ディフェンダー』に最高点数を配してきた。
市街地ユースに主眼をおいたクロスオーバー系SUVがブームとなっているが、クロスカントリー系SUVの真の実力を知ると、その魅力と頼もしさに魅了され、改めて存在意義に気付かされるのだ。
◆2.1トンにおよぶ巨体が2リットルのエンジンで十分なのか
そこで、今回は『ディフェンダー110 SE』で豪雪地域の雪道走破性を試してみることにした。
ディフェンダーはスタイリッシュで逞しさが表現された外観が魅力的だ。110 SEは4ドアのロングボディ仕様で、そのディメンションは全長4945mm、全幅1995mm、全高1970mmという巨体だ。ホイールベース(車軸間距離・HB)は3020mm、車両重量は2.1トンにおよぶ。
ランドローバー社には上位カテゴリーにレンジローバーがラインアップされているが、そのディメンションは全長5005mmと僅かに長いが、全幅は1985mm、全高は1965mm、HB2910mmで、ディフェンダーの方が寸法的に上回っている。
ディフェンダー110SEのパワートレインは2リットル直4直噴ガソリンターボに8速ATが組み合わされている。パワースペックは最高出力300ps/5500回転、最大トルクは400Nm/2000回転だ。ジープ・ラングラーの2リットルターボもそうだったが、これほどの巨体がターボ過給されているとはいえ僅か2リットルのエンジンで十分なのか、いよいよ雪山に踏み入れる。
◆舗装路のごとく安定し、パワーが有効に路面に伝わる
今回、試乗車が装着しているのは日本ではあまり馴染みのない北欧フィンランドのノキアン社製スタッドレスタイヤ「ハッカペリッタR2SUV」だ。275/55R20という同社のカタログにも掲載のないディフェンダーの20インチ専用タイヤでスノーフレークの刻印を受けた高速道路でのスノータイヤ規制下でも走行可能な仕様のものだ。
雪山の常で、まずは登りステージから山奥に進んでいく。ATはロックアップが作動しトルコンのスリップロスが感じられずトルクを有効に伝えていく。フルタイム4WDシステムはセンターとリアデフに電子制御デファレンシャルロック機能が備わっていて、路面の状況変化にきめ細かく反応しロック、アンロック、中間拘束力を繰り返しているのがモニターからも伝えられている。圧雪路では、まるで舗装路のごとく安定し、パワーが有効に路面に伝わっていた。DSC(ダイナミックスタビリティコントロール)をオンにしていても介入はほとんど起こらず、タイヤが路面をグリップしていることがわかる。
しかしコーナーのアプローチでは注意が必要だ。山岳路でのコーナーはR(半径)が小さい。直線区間での加速性、安定性に優れているだけにコーナー手前では減速を確実に行う必要がある。どんなに優れた4WD車でも旋回能力は2輪駆動とほとんど変わらない。加えて2トンを超える巨体の慣性力が加わるので減速をしっかり行うのが鉄則といえる。
幸い、ディフェンダーはATをSモードにしておくとシフトダウン制御がブレーキ踏力に応じて機能し、ABSを介入させずにしっかり減速してアプローチすることができる。
ステアリングの直径がやや大きく、ステアリングギア比も大きめなため操舵量は増える傾向にあるので、切り遅れ、戻し遅れにも注意したい。
◆歩行困難な深雪でも余裕で走破
標高の高いエリアに到達すると深雪が路面を覆い、20~30cmもの深さがある。最低地上高が標準で218mmもあるので深雪ならそのままでも雪をかき分けて進む推進力が得られる。エアサスペンションにはハイトアジャスト機能が備わっていて最大車高291mmに引き上げれば余裕で走破していける。
その作動は速く、路面状況に応じて短時間でスタンバイできるのはありがたい。この車高で深雪に踏み込み車両から降りると、そこは歩行困難なほどの深さで、流石の踏破性だと感心させられるのだった。
ちなみにディフェンダーの最大渡河水深は900mmもあり、それは人が歩くことは完全に出来ない深さだ。こうした踏破性の高さこそが災害時に「命を守る行動」を支えてくれるのだと改めて確信した。
◆エンジンブレーキ特性に助けられた下りのアイスバーン
帰路は長い圧雪及びアイスバーンの下りステージとなる。ヒルディセント(HDC)機能の作動を必要とする崖のような山下りは試さなかったが、圧雪路の下り区間はATのSモードのエンジンブレーキ特性に助けられ、ブレーキへの負担も最小限に2.1トンの巨体をスムーズに制御できた。
ちなみに、今回の走行ルートでの燃費は高速区間で8.6km/リットル。山岳路圧雪区間は登り下り平均で8.1km/リットルでメーカー公表値のWLTCモード8.3km/リットルにほぼ準拠する水準で走ることが示された。100km/h巡航が8速で1750回転と低い設定だったことも高速燃費には貢献したはずだ。
ディフェンダーのスタイリングと悪路性能の高さに、改めて魅力を感じさせられる試乗となった。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★★★
中谷明彦|レース&テストドライバー/自動車関連コンサルタント
大学在学中よりレーサー/モータージャーナリストとして活動。1988年全日本F3選手権覇者となるなど国内外で活躍。1997年よりドライビング理論研究会「中谷塾」を開設、2009年より東京大学と自動車新技術の共同研究に取組む。自動車関連の開発、イベント運営など様々な分野でのコンサルタントも行っている。
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