【ランボルギーニ ウラカン STO 新型試乗】これが公道モデル?後輪駆動、ノーマルタイヤでも信じられない高性能…中谷明彦
今回は『ランボルギーニ ウラカン』のニューモデル『STO(スーパートロフェオホモロゲート)』に試乗した。試乗した場所は富士スピードウェイ。国際格式の本格的なサーキットである。この車はまだナンバーも取得できていない卸したての特別な仕様だが、ほとんどレース仕様と変わりないスペックを誇っているという。
実は、私は数年前にランボルギーニのワンメイクレースシリーズ「スーパートロフェオ」に参戦したことがあり、韓国や中国、ここ富士スピードウェイのレースに参戦し優勝したことがある。
ランボルギーニの説明によれば、STOは現行のレース仕様「GT3 EVO」にスリックタイヤを装着したモデルと速さを比べても、アメリカのデイトナサーキットでは2~3秒落ち程度のラップタイムで走れるという。しかもSTOは純正指定タイヤのブリヂストン・ポテンザタイヤ装着だったというから驚きだ。
ランボルギーニといえば、私も含めて多くの人にとってほとんど縁のないような夢の車だろう。ただ、スーパーカーとしてはフェラーリに並ぶイタリアのビッグネームとして多くの人の憧れの対象となっているに違いない。かつてそのイメージだけでスーパーカーは語られていたが、現在のスーパーカーは本当の速さを備えた、実力のある非常に技術レベルの高度な車となっているのである。
◆後輪二輪駆動である理由
ランボルギーニ ウラカンSTOは5.2リットルのV型10気筒エンジンを搭載し、640ps以上の最高出力を発揮する。もちろん、ミッドシップレイアウトで2人乗りのスーパーカーである。
上位モデルにV型12気筒エンジンを搭載する『アヴェンタドール』シリーズもあるが、ウラカンはV10エンジンを初搭載した『ガヤルド』の進化モデルとして、登場以来全世界で高い人気を誇っているモデルである。
もともとベースのウラカンは四輪駆動システムを採用しており、ハイパワーをあますところなく路面に伝えることができ、圧倒的な運動性能と走破性、コントロール性の高さを誇っていた。一方で、世界のモータースポーツの流れは四輪駆動があまりにも速すぎるために、二輪駆動へと規制する動きが主流であり、人気のある「GT3カテゴリー」も後輪二輪駆動のみ参戦が許されるというレギュレーションへと制限されてしまっていた。
そのためにウラカンも後輪二輪駆動への対応が余儀なくされ、GT3やスーパートロフェオのワンメイクレース仕様も「後輪駆動ウラカン」として登場させられることになってしまっていた。
市販モデルにおいてもウラカンはRWD(リアホイールドライブ)が選択できるようにバリエーションを拡充し、四輪駆動一辺倒だったラインナップに二輪駆動モデルが追加されたという経緯がある。
四輪駆動モデルを特に得意とする私としては、実はウラカンがリアホイールドライブの後輪二輪駆動となったことにいささかガッカリしていたのも否めない。ウラカンが四輪駆動を採用していた『ペルフォルマンテ』などは本当に素晴らしく速くコントローラブルで、まさしく公道を走るレーシングカーとしての速さ、ステータス、信頼性、そして操縦性の高さを高次元に確立したような車だったからだ。
リアホイールドライブとなってからは、やはり600psオーバーの最高出力を制御するのが大変であり、ドライバーにとっては運転操作が難しくなる。そうした中でも年々進化と改良が加えられ、今回のウラカンSTOは後輪駆動モデルとして大きく進歩したと言われているのである。
◆レース仕様をそのまま公道モデルに作り替えたイメージ
その外観は従来の裏側とはかなりイメージが異なる。最も目を引くのはルーフエンドに備えられたエアインダクションポッドだ。また、ルーバーが切り込まれたリアのエンジンフードなどはGT3のレースマシンとほとんど変わらない。その後方には3段階に調節可能なリアウィングスポイラーが装備され、さまざまなスピード領域に対応している。
フロント周りも見た目はウラカンGT3 EVOのような流れを汲んでいる。実はフェンダー周りとボンネットフードは一体成型され、レーシングカーと同じ一体構造のフロントセクションボディーが採用されているのである。こうしたパーツは全てカーボンを採用しており、非常に軽量化が施されていて、車両重量は1339kg。ペルフォルマンテより43kgほどの軽量化が図られているという。
また、これまで「ピレリ P-ZEROタイヤ」を標準装着していたウラカンだが、今回のSTOから「ブリヂストン ポテンザ」が新規採用されている。このポテンザにはサーキット走行にマッチした溝の少ない「Race」と、ウエット路面にも対応するセミウェットタイプのパターンを持つ「Sport」の2つのトレッドパターンが用意されている。どちらも公道を走れる認証取得済みタイヤだ。
このタイヤは、イタリアを拠点として北欧や欧州で製造され日本では生産されていないため、実はタイヤ単体での購入は不可能となっている。実際このSTOが納車されてからはディーラーを通して購入することになるだろう。
室内の雰囲気は、バケット風のシートだがリクライニング機構が備わり、また、前後のスライドもレーシングカーのようなガッチリとしたラチェット構造で適切なドライビングポジションがとれる。シートベルトは4点式でウエスト、そして両肩をしっかりとサポートすることができ、ベルトを締め上げていく操作はレーシングカーのそれと全く変わりない。
また、運転席の後ろには無骨なロールゲージが組み込まれ、ルームミラーを通しての後方視界はほとんどない。これはおそらくGT3のレース仕様をベースに作り込まれたものだと言えるだろう。従来、市販車がまずあって、それをチューニングしたレース仕様のGT3モデルなどが派生するものだが、このSTOに関して言えば、先にGT3レース仕様があり、それを公道仕様の市販車に作り替えたというようなイメージの方が強く表れている。
ボディカラーは様々な組合せが用意されており、STOの存在感を一層引き立たせるものとなっていた。
◆あっという間に100km/hを超える
さて、いよいよ走行し始める。コクピットの雰囲気はこれまでのウラカンと同様だが、ブレーキの温度表示やタイヤの内圧表示などもモニターに映し出され、ハイパフォーマンス車としての雰囲気を漂わせている。
3本スポークのステアリングのちょうど真下の位置にドライブモードのセレクトスイッチがあり、走りながらそれを切り替える事も可能だ。ドライブモードは、上から「STO」「トロフェオ」「PIOGGIA(ウエット)」と3段階用意されており、サーキットを走行する場合は「トロフェオ」を選択することが勧められている。これを選択してもESCは解除されず、最大スリップ領域までESCが介入を許容して、ドライバーに車両姿勢をコントロールさせる制御が取られている。
変速は7速ギアをパドルでシフト操作するが、ステアリングコラム式のパドルは操作性に優れ、もっともスポーツ走行に適したレイアウトである。
スタートストップボタンを押してエンジンを目覚めさせると、V10エンジンで自然吸気の心地よい音が聞こえてくる。アクセルをブリッピングすればシャープに鋭く吹き上がり迫力のあるサウンドとなる。「トロフェオモード」を選択すると、マフラーのフラップが変更され、より低音で迫力のあるサウンドへと切り替わった。
加速は強力だが、リアの後輪をホイールスピンさせるほどではなく、トラクションコントロールが適度に介入し四輪駆動モデルと遜色のない強力な加速Gが発揮された。
1速はあっという間に吹け切り、パドルで2速3速へとシフトアップしてくるとあっという間に100km/hを超える。こんな高性能の車を走らせるのは本格的なサーキット以外考えられないというわけだ。
◆公道を走る車としては信じられないような高性能
コーナーに差し掛かりブレーキングを開始するとストッピングパワーも強力に発揮されていることがわかる。四輪にカーボンディスクブレーキを装着しているが、今回その能力が大幅に引き上げられストッピングパワーを増したことがアナウンスされている。さらにペダルの踏み心地なども煮詰めることが行われ、レーシングカーのようなしっかりとしたペダルフィールで安心感を持ってブレーキングを開始することができた。
Aコーナー、100Rと富士スピードウェイ特有の高速で難しいコーナーを非常にアジリティーの高い軽快なハンドリングですり抜け、ヘアピンコーナーに差し掛かる頃にはタイヤのウォームアップも済んでグリップがさらに強力に発揮されるようになった。
このSTOには後輪操舵も採用されており、軽いパワーステアリングのセッティングとあいまって非常に軽快に操作することが可能だ。ともすれば、ややフロントタイヤのゲインが強すぎて不安定になりがちだが、リアタイヤのウォームアップが済んでタイヤの温度が上がってくると適度なバランスとなっているのがわかる。
ストレートでは3速4速5速と加速していくと、あっという間に270km/hをオーバーする。今回は試乗会ということでそこから先は試すことができなかったが、ペルフォルマンテがメーター読みながら295km/hの最高速をマークしていたことを思い起こすと、このSTOの実力ならメーター読みでも300km/hを超えるのは確実だろう。
富士スピードウェイのラップタイムは、GT3 EVOがスリックタイヤを履いて1分39~40秒ほどである。デイトナサーキットでのテスト結果を鑑みれば、このSTOはノーマルタイヤのままでも富士スピードウェイで1分42~43秒ほどをマークすることができる勘定となり、それは公道を走る車としては信じられないような高性能と言わざるを得ない。
実際にそのタイムが出るかどうかは試すことができなかったが、機会があればぜひ試してみたいと思う。
中谷明彦|レース&テストドライバー/自動車関連コンサルタント
大学在学中よりレーサー/モータージャーナリストとして活動。1988年全日本F3選手権覇者となるなど国内外で活躍。1997年よりドライビング理論研究会「中谷塾」を開設、2009年より東京大学と自動車新技術の共同研究に取組む。自動車関連の開発、イベント運営など様々な分野でのコンサルタントも行っている。
実は、私は数年前にランボルギーニのワンメイクレースシリーズ「スーパートロフェオ」に参戦したことがあり、韓国や中国、ここ富士スピードウェイのレースに参戦し優勝したことがある。
ランボルギーニの説明によれば、STOは現行のレース仕様「GT3 EVO」にスリックタイヤを装着したモデルと速さを比べても、アメリカのデイトナサーキットでは2~3秒落ち程度のラップタイムで走れるという。しかもSTOは純正指定タイヤのブリヂストン・ポテンザタイヤ装着だったというから驚きだ。
ランボルギーニといえば、私も含めて多くの人にとってほとんど縁のないような夢の車だろう。ただ、スーパーカーとしてはフェラーリに並ぶイタリアのビッグネームとして多くの人の憧れの対象となっているに違いない。かつてそのイメージだけでスーパーカーは語られていたが、現在のスーパーカーは本当の速さを備えた、実力のある非常に技術レベルの高度な車となっているのである。
◆後輪二輪駆動である理由
ランボルギーニ ウラカンSTOは5.2リットルのV型10気筒エンジンを搭載し、640ps以上の最高出力を発揮する。もちろん、ミッドシップレイアウトで2人乗りのスーパーカーである。
上位モデルにV型12気筒エンジンを搭載する『アヴェンタドール』シリーズもあるが、ウラカンはV10エンジンを初搭載した『ガヤルド』の進化モデルとして、登場以来全世界で高い人気を誇っているモデルである。
もともとベースのウラカンは四輪駆動システムを採用しており、ハイパワーをあますところなく路面に伝えることができ、圧倒的な運動性能と走破性、コントロール性の高さを誇っていた。一方で、世界のモータースポーツの流れは四輪駆動があまりにも速すぎるために、二輪駆動へと規制する動きが主流であり、人気のある「GT3カテゴリー」も後輪二輪駆動のみ参戦が許されるというレギュレーションへと制限されてしまっていた。
そのためにウラカンも後輪二輪駆動への対応が余儀なくされ、GT3やスーパートロフェオのワンメイクレース仕様も「後輪駆動ウラカン」として登場させられることになってしまっていた。
市販モデルにおいてもウラカンはRWD(リアホイールドライブ)が選択できるようにバリエーションを拡充し、四輪駆動一辺倒だったラインナップに二輪駆動モデルが追加されたという経緯がある。
四輪駆動モデルを特に得意とする私としては、実はウラカンがリアホイールドライブの後輪二輪駆動となったことにいささかガッカリしていたのも否めない。ウラカンが四輪駆動を採用していた『ペルフォルマンテ』などは本当に素晴らしく速くコントローラブルで、まさしく公道を走るレーシングカーとしての速さ、ステータス、信頼性、そして操縦性の高さを高次元に確立したような車だったからだ。
リアホイールドライブとなってからは、やはり600psオーバーの最高出力を制御するのが大変であり、ドライバーにとっては運転操作が難しくなる。そうした中でも年々進化と改良が加えられ、今回のウラカンSTOは後輪駆動モデルとして大きく進歩したと言われているのである。
◆レース仕様をそのまま公道モデルに作り替えたイメージ
その外観は従来の裏側とはかなりイメージが異なる。最も目を引くのはルーフエンドに備えられたエアインダクションポッドだ。また、ルーバーが切り込まれたリアのエンジンフードなどはGT3のレースマシンとほとんど変わらない。その後方には3段階に調節可能なリアウィングスポイラーが装備され、さまざまなスピード領域に対応している。
フロント周りも見た目はウラカンGT3 EVOのような流れを汲んでいる。実はフェンダー周りとボンネットフードは一体成型され、レーシングカーと同じ一体構造のフロントセクションボディーが採用されているのである。こうしたパーツは全てカーボンを採用しており、非常に軽量化が施されていて、車両重量は1339kg。ペルフォルマンテより43kgほどの軽量化が図られているという。
また、これまで「ピレリ P-ZEROタイヤ」を標準装着していたウラカンだが、今回のSTOから「ブリヂストン ポテンザ」が新規採用されている。このポテンザにはサーキット走行にマッチした溝の少ない「Race」と、ウエット路面にも対応するセミウェットタイプのパターンを持つ「Sport」の2つのトレッドパターンが用意されている。どちらも公道を走れる認証取得済みタイヤだ。
このタイヤは、イタリアを拠点として北欧や欧州で製造され日本では生産されていないため、実はタイヤ単体での購入は不可能となっている。実際このSTOが納車されてからはディーラーを通して購入することになるだろう。
室内の雰囲気は、バケット風のシートだがリクライニング機構が備わり、また、前後のスライドもレーシングカーのようなガッチリとしたラチェット構造で適切なドライビングポジションがとれる。シートベルトは4点式でウエスト、そして両肩をしっかりとサポートすることができ、ベルトを締め上げていく操作はレーシングカーのそれと全く変わりない。
また、運転席の後ろには無骨なロールゲージが組み込まれ、ルームミラーを通しての後方視界はほとんどない。これはおそらくGT3のレース仕様をベースに作り込まれたものだと言えるだろう。従来、市販車がまずあって、それをチューニングしたレース仕様のGT3モデルなどが派生するものだが、このSTOに関して言えば、先にGT3レース仕様があり、それを公道仕様の市販車に作り替えたというようなイメージの方が強く表れている。
ボディカラーは様々な組合せが用意されており、STOの存在感を一層引き立たせるものとなっていた。
◆あっという間に100km/hを超える
さて、いよいよ走行し始める。コクピットの雰囲気はこれまでのウラカンと同様だが、ブレーキの温度表示やタイヤの内圧表示などもモニターに映し出され、ハイパフォーマンス車としての雰囲気を漂わせている。
3本スポークのステアリングのちょうど真下の位置にドライブモードのセレクトスイッチがあり、走りながらそれを切り替える事も可能だ。ドライブモードは、上から「STO」「トロフェオ」「PIOGGIA(ウエット)」と3段階用意されており、サーキットを走行する場合は「トロフェオ」を選択することが勧められている。これを選択してもESCは解除されず、最大スリップ領域までESCが介入を許容して、ドライバーに車両姿勢をコントロールさせる制御が取られている。
変速は7速ギアをパドルでシフト操作するが、ステアリングコラム式のパドルは操作性に優れ、もっともスポーツ走行に適したレイアウトである。
スタートストップボタンを押してエンジンを目覚めさせると、V10エンジンで自然吸気の心地よい音が聞こえてくる。アクセルをブリッピングすればシャープに鋭く吹き上がり迫力のあるサウンドとなる。「トロフェオモード」を選択すると、マフラーのフラップが変更され、より低音で迫力のあるサウンドへと切り替わった。
加速は強力だが、リアの後輪をホイールスピンさせるほどではなく、トラクションコントロールが適度に介入し四輪駆動モデルと遜色のない強力な加速Gが発揮された。
1速はあっという間に吹け切り、パドルで2速3速へとシフトアップしてくるとあっという間に100km/hを超える。こんな高性能の車を走らせるのは本格的なサーキット以外考えられないというわけだ。
◆公道を走る車としては信じられないような高性能
コーナーに差し掛かりブレーキングを開始するとストッピングパワーも強力に発揮されていることがわかる。四輪にカーボンディスクブレーキを装着しているが、今回その能力が大幅に引き上げられストッピングパワーを増したことがアナウンスされている。さらにペダルの踏み心地なども煮詰めることが行われ、レーシングカーのようなしっかりとしたペダルフィールで安心感を持ってブレーキングを開始することができた。
Aコーナー、100Rと富士スピードウェイ特有の高速で難しいコーナーを非常にアジリティーの高い軽快なハンドリングですり抜け、ヘアピンコーナーに差し掛かる頃にはタイヤのウォームアップも済んでグリップがさらに強力に発揮されるようになった。
このSTOには後輪操舵も採用されており、軽いパワーステアリングのセッティングとあいまって非常に軽快に操作することが可能だ。ともすれば、ややフロントタイヤのゲインが強すぎて不安定になりがちだが、リアタイヤのウォームアップが済んでタイヤの温度が上がってくると適度なバランスとなっているのがわかる。
ストレートでは3速4速5速と加速していくと、あっという間に270km/hをオーバーする。今回は試乗会ということでそこから先は試すことができなかったが、ペルフォルマンテがメーター読みながら295km/hの最高速をマークしていたことを思い起こすと、このSTOの実力ならメーター読みでも300km/hを超えるのは確実だろう。
富士スピードウェイのラップタイムは、GT3 EVOがスリックタイヤを履いて1分39~40秒ほどである。デイトナサーキットでのテスト結果を鑑みれば、このSTOはノーマルタイヤのままでも富士スピードウェイで1分42~43秒ほどをマークすることができる勘定となり、それは公道を走る車としては信じられないような高性能と言わざるを得ない。
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