【アウディ RS3セダン 新型試乗】昭和世代に刺さる、ド派手な“羊の皮をかぶった狼”…野口優

  • アウディ RS3セダン 新型
都会的かつコンサバティブなイメージが特長のアウディ。極度な主張をせず、本質で勝負するという姿勢を貫き続け、今やドイツ車の中でも支持率は非常に高い。

そんなアウディには、トップグレードとして超弩級のパフォーマンスをウリにするRSシリーズが存在するが、その末っ子が先ごろフルモデルチェンジを実施。5ドアの『RS3スポーツバック』は三世代目に、そして同時にコンパクトサルーンの4ドアモデル『RS3セダン』が二世代目へと進化した。

受け継がれた2.5リットル直列5気筒ターボ
その見た目も従来のアウディとは一味違って、小さいながらもやや強面。フロントにはハイグロスブラックに塗られたハニカムグリルとワイドな専用のRSバンパーが与えられ、フロントのホイールアーチ後方にはエアアウトレットを備えるなど、やる気満々の仕上がりだ。フロントトレッドが先代比で30mm拡大されているから尚さらたくましく感じられる。

エンジンは、先代から受け継がれた9年連続でインターナショナル・エンジン・オブ・ザ・イヤーを受賞した2.5リットル直列5気筒ターボユニットを搭載。最高出力は400ps、最大トルクは先代から20Nm上乗せされ遂に500Nmに到達した。RSシリーズの末っ子とはいえ、ちょっとやりすぎな気もするが、これがまた上手いことまとめられているから、最新アウディは実に良い仕事をすると感心してしまった。

ニュルではコンパクトサイズ最速の7分40秒748をマーク
今回、試乗の機会に恵まれたのは、RS3セダン。しかも舞台は富士スピードウェイである。試乗時間として満足できるほどではなかったものの、それでもRS3セダンの魅力は十分に分かった。何しろ今作は、アウディとしてはクワトロシステム(AWDシステム)に、リア側の左右間で駆動トルクを可変で分配するRSトルクスプリッターをはじめて装備し、その気にさえなれば、旋回時にリアの外輪に100%トルクを集中させることが可能、即ちドリフトに持ち込ませるのも容易と謳われているから期待大。

しかも、セミスリックタイヤにも対応するRSパフォーマンスと呼ばれるモードも追加され、これを使用すれば、アンダー&オーバーステアが抑えられ、タイムアタックにもチャレンジできるというから頼もしい。その結果、世界一過酷と称されるニュルブルクリンク・ノルドシェライフェでコンパクトサイズ最速の7分40秒748をマーク!これを聞いたら俄然、やる気にさせられた。

慣れてしまえばペースは上がるばかり
さすがに今回はプレス向けの試乗会ゆえ、全開で試すことは許されなかったが、富士スピードウェイのコーナーをクリアしていく度に優れた制御を実感、特に高速コーナーでは徐々に膨らんでいきそうな速度でも上手く車両側がコントロールしてアンダーステアを抑え込み、インに戻しやすいよう促す。逆に言えばニュートラルステアが容易とも例えられるだろう。だから慣れてしまえばペースは上がるばかりで、基本的には安定志向だから攻めやすい印象だ。実によく調教されていると思う。

しかも、専用に開発されたRSダンピングコントロールサスペンションが4輪を個別に制御するおかげで、荒々しい乗り心地にもならないどころか、適度なロール量で旋回していくからコントロール性にも優れている。今回、富士スピードウェイでは試せなかったが、恐らくこれならコンパクトサイズということもあって、タイトコーナーも相当楽しめるはず。腕さえあれば、上級モデルを追いかけ回すのも容易いだろう。

昭和世代には刺さる“羊の皮をかぶった狼”
もちろん、ストレートスピードもこのサイズからは考えられないほどの速さを見せる。公表値の0-100km/h加速3.8秒というのも信用できる数字だし、ダイナミックモード(いわゆるスポーツモード)であれば、エンジンのフィーリングがエモーショナルになるうえ、7速Sトロニックの変速も素早く行うようになるため、この上ない高揚感まで味わえる。

昭和世代には刺さる、その昔憧れた“羊の皮をかぶった狼”というには見た目は派手だが、かつてそんな存在に惹かれた人や、100%車両のパフォーマンスを引き出して楽しみたいと思う向きには、このRS3セダンはお奨めの1台だろう。

■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★

野口 優|モータージャーナリスト
1967年 東京都生まれ。1993年に某輸入車専門誌の編集者としてキャリアをスタート。後に三栄書房に転職、GENROQ編集部に勤務し、2008年から同誌の編集長に就任。2018年にはGENROQ Webを立ち上げた。その後、2020年に独立。25年以上にも渡る経験を活かしてモータージャーナリスト及びプロデューサーとして活動中。

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