【メルセデスAMG EQS 海外試乗】AMGがいかようにBEVと向き合ったのか…渡辺慎太郎
メルセデスは現在、メルセデスベンツ、メルセデスAMG、メルセデス・マイバッハ、そしてメルセデスEQという4つのブランドを展開している。メルセデスAMG『EQS 53 4MATIC+』は、いわばAMGとEQのクロスオーバーのようなモデルである。
ご存知のようにこれまでのAMGは、メルセデスをベースにスポーティな仕様を開発してきた。特にエンジンに関しては「ワンマン・ワンエンジン」を掲げ、熟練工ひとりが1機のエンジンを組み上げて最後にネームプレートを貼り付けるというしきたりを大切にしてきた。EQは電気自動車(BEV)のブランドであり、当然のことながらエンジンは存在しないわけで、AMGがいかようにBEVと向き合ったのかが、このクルマから見てとれる。
特製のエンジンの代わりに、ハイスペックなモーターを搭載
もちろんベースとなるのは『EQS』である。ボディサイズは基本的に変わらず、フロントグリルに縦方向のバーを入れたり、トランクリッドにリップスポイラーとリヤバンパー下にディフュザーを設けている。タイヤはミシュラン・パイロットスポーツEVと呼ばれる専用の銘柄で、サイドウォールの表面をホイールと面イチにすることにより空力性能の向上を図るなどの設計が施されている。インテリアは内燃機搭載のAMGと同様に、シート/ステアリング/ペダル/トリムをオリジナルとし、メーターのグラフィックも作り替えている。
AMGライドコントロール+と呼ばれるサスペンションは、EQSのエアサスを踏襲しているものの、電子制御式ダンパーはAMG GTの4ドアと同等のタイプだという。後輪操舵は標準装備で60km/hを境に逆位相と同位相を切り替える。最大の切れ角は9度で、これはパーキングスピード時のみ。EQSの10度よりも少なくなっているのは22インチという大きなタイヤを装着したことによるそうだ。ブレーキはオプションでセラミックコンポジットのディスクブレーキが選べて、フロントは415×33mmから440×40mmに拡大される。
内外装や足まわりやブレーキの調理法はこれまでのAMGのやり方と大きく変わらない。特製のエンジンを積む代わりに彼らがやったのは、ハイスペックなモーターへの交換である。「EQS 580」のパワースペックは523ps/855Nm。これに対してEQS 53は658ps/950Nmとなっていて、出力もトルクもそれぞれおよそ100ps/100Nmの上乗せとなった。しかし、実はAMGダイナミックプラスパッケージと呼ばれるオプションがあって、これを選ぶと最高出力/最大トルクが761ps/1020Nmまでさらに引き上げられる。駆動方式は4輪駆動で、前後の駆動力配分は常時可変のタイプとなる。
3210mmもホイールベースがあるとは思えない回頭性
AMGダイナミックプラスパッケージを装着した試乗車のドライバーズシートに収まり、スタートボタンを押してハイパースクリーンにグラフィックが浮かび上がるも、BEVだからウンともスンとも言わないままDレンジに入れてスタート。すぐにEQSよりも若干硬めの乗り心地であることに気付く。AMGダイナミックセレクトはコンフォートを選んでいたけれど、感覚的にはEQSのスポーツに相当する感じである。
それでも不快な乗り心地ではないからやがてほとんど気にならなくなった。全長5216×全幅1926×全高1512mmのボディが大きいと思わないのはアメリカの道と景色のせいだろう。市街地を抜けてワインディングロードに入り道幅も狭くなったから取り回しに気を遣うようになるかと思ったらまったくそんなことはなかった。それが後輪操舵と4MATIC+のおかげであることは容易に想像が付く。
3210mmもホイールベースがあるとは思えないくらいの回頭性のよさに加え、前後の最適な駆動力配分による盤石なトラクションにより、EQS 53は想定以上のコーナリングスピードで安定した旋回姿勢を保つ。ステアリングを切ってからのタイヤのコーナリングフォースとヨーゲインの立ち上がりが素早く、ここがハンドリングの観点でノーマルのEQSと大きく異なる点である。スポーティなハンドリングにちゃんと仕立てられていた。
怒濤の加速はまるで車両重量が半分になったよう
ドライブモードをスポーツやスポーツ+に切り替えるとトルクカーブが急勾配のとなり、右足にわずかに力を込めただけで途端にちょっとした恐怖感を覚えるほどの加速を披露するようになる。タウンスピードでは実際2655kgもあるので質量を終始感じながら運転しているのだけれど、怒濤の加速のその様はまるで車両重量が半分になったようで世界が一気に劇変する。
バッテリーのせいで重くなるものの、パワーによって一瞬で相殺されてしまうのである。これこそがEVの真骨頂だと痛感したし、AMGとEVとの関係に懐疑的だった気持ちを、こういうのもアリかもしれないと改めた。スポーツやスポーツ+を選んでいる時には、圧倒的加速感の他にもいままでにない体験ができる。
エンジン音でもモーター音でもないオリジナルサウンド
「AMGサウンドエクスペリエンス」と呼ばれる仕掛けは、スピーカーからオリジナルのサウンドを出力するというもの。「クォーン」とか「クィーン」といったエンジン音でもモーター音でもない疑似音が耳に届くのである。スピーカーは室内だけでなく室外にもあって、外でもどうやら同じように聞こえているらしい。音の感じ方は人によって様々なので、この音色がEQS 53に本当に合っているのかどうかは、機会があればぜひご自身で確かめてみてほしい。個人的にはアニメに出てくる宇宙船のような音だと思った。
EVが蔓延る世界がやってきたとしても、AMGのようなブランドもどうにか生き残っていけそうである。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★
渡辺慎太郎|ジャーナリスト/エディター
1966年東京生まれ。米国の大学を卒業後、自動車雑誌『ル・ボラン』の編集者に。後に自動車雑誌『カーグラフィック』の編集記者と編集長を務め2018年から自動車ジャーナリスト/エディターへ転向、現在に至る。
ご存知のようにこれまでのAMGは、メルセデスをベースにスポーティな仕様を開発してきた。特にエンジンに関しては「ワンマン・ワンエンジン」を掲げ、熟練工ひとりが1機のエンジンを組み上げて最後にネームプレートを貼り付けるというしきたりを大切にしてきた。EQは電気自動車(BEV)のブランドであり、当然のことながらエンジンは存在しないわけで、AMGがいかようにBEVと向き合ったのかが、このクルマから見てとれる。
特製のエンジンの代わりに、ハイスペックなモーターを搭載
もちろんベースとなるのは『EQS』である。ボディサイズは基本的に変わらず、フロントグリルに縦方向のバーを入れたり、トランクリッドにリップスポイラーとリヤバンパー下にディフュザーを設けている。タイヤはミシュラン・パイロットスポーツEVと呼ばれる専用の銘柄で、サイドウォールの表面をホイールと面イチにすることにより空力性能の向上を図るなどの設計が施されている。インテリアは内燃機搭載のAMGと同様に、シート/ステアリング/ペダル/トリムをオリジナルとし、メーターのグラフィックも作り替えている。
AMGライドコントロール+と呼ばれるサスペンションは、EQSのエアサスを踏襲しているものの、電子制御式ダンパーはAMG GTの4ドアと同等のタイプだという。後輪操舵は標準装備で60km/hを境に逆位相と同位相を切り替える。最大の切れ角は9度で、これはパーキングスピード時のみ。EQSの10度よりも少なくなっているのは22インチという大きなタイヤを装着したことによるそうだ。ブレーキはオプションでセラミックコンポジットのディスクブレーキが選べて、フロントは415×33mmから440×40mmに拡大される。
内外装や足まわりやブレーキの調理法はこれまでのAMGのやり方と大きく変わらない。特製のエンジンを積む代わりに彼らがやったのは、ハイスペックなモーターへの交換である。「EQS 580」のパワースペックは523ps/855Nm。これに対してEQS 53は658ps/950Nmとなっていて、出力もトルクもそれぞれおよそ100ps/100Nmの上乗せとなった。しかし、実はAMGダイナミックプラスパッケージと呼ばれるオプションがあって、これを選ぶと最高出力/最大トルクが761ps/1020Nmまでさらに引き上げられる。駆動方式は4輪駆動で、前後の駆動力配分は常時可変のタイプとなる。
3210mmもホイールベースがあるとは思えない回頭性
AMGダイナミックプラスパッケージを装着した試乗車のドライバーズシートに収まり、スタートボタンを押してハイパースクリーンにグラフィックが浮かび上がるも、BEVだからウンともスンとも言わないままDレンジに入れてスタート。すぐにEQSよりも若干硬めの乗り心地であることに気付く。AMGダイナミックセレクトはコンフォートを選んでいたけれど、感覚的にはEQSのスポーツに相当する感じである。
それでも不快な乗り心地ではないからやがてほとんど気にならなくなった。全長5216×全幅1926×全高1512mmのボディが大きいと思わないのはアメリカの道と景色のせいだろう。市街地を抜けてワインディングロードに入り道幅も狭くなったから取り回しに気を遣うようになるかと思ったらまったくそんなことはなかった。それが後輪操舵と4MATIC+のおかげであることは容易に想像が付く。
3210mmもホイールベースがあるとは思えないくらいの回頭性のよさに加え、前後の最適な駆動力配分による盤石なトラクションにより、EQS 53は想定以上のコーナリングスピードで安定した旋回姿勢を保つ。ステアリングを切ってからのタイヤのコーナリングフォースとヨーゲインの立ち上がりが素早く、ここがハンドリングの観点でノーマルのEQSと大きく異なる点である。スポーティなハンドリングにちゃんと仕立てられていた。
怒濤の加速はまるで車両重量が半分になったよう
ドライブモードをスポーツやスポーツ+に切り替えるとトルクカーブが急勾配のとなり、右足にわずかに力を込めただけで途端にちょっとした恐怖感を覚えるほどの加速を披露するようになる。タウンスピードでは実際2655kgもあるので質量を終始感じながら運転しているのだけれど、怒濤の加速のその様はまるで車両重量が半分になったようで世界が一気に劇変する。
バッテリーのせいで重くなるものの、パワーによって一瞬で相殺されてしまうのである。これこそがEVの真骨頂だと痛感したし、AMGとEVとの関係に懐疑的だった気持ちを、こういうのもアリかもしれないと改めた。スポーツやスポーツ+を選んでいる時には、圧倒的加速感の他にもいままでにない体験ができる。
エンジン音でもモーター音でもないオリジナルサウンド
「AMGサウンドエクスペリエンス」と呼ばれる仕掛けは、スピーカーからオリジナルのサウンドを出力するというもの。「クォーン」とか「クィーン」といったエンジン音でもモーター音でもない疑似音が耳に届くのである。スピーカーは室内だけでなく室外にもあって、外でもどうやら同じように聞こえているらしい。音の感じ方は人によって様々なので、この音色がEQS 53に本当に合っているのかどうかは、機会があればぜひご自身で確かめてみてほしい。個人的にはアニメに出てくる宇宙船のような音だと思った。
EVが蔓延る世界がやってきたとしても、AMGのようなブランドもどうにか生き残っていけそうである。
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渡辺慎太郎|ジャーナリスト/エディター
1966年東京生まれ。米国の大学を卒業後、自動車雑誌『ル・ボラン』の編集者に。後に自動車雑誌『カーグラフィック』の編集記者と編集長を務め2018年から自動車ジャーナリスト/エディターへ転向、現在に至る。
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