【アウディ e-Tron GT 新型試乗】電気嫌いの私でも、金さえあれば欲しいと思った1台…中村孝仁
侮れないのはやはりBEVの瞬発力
390kw、640Nmというカタログ表記の性能。読む方のイメージとしてはそれほど超が付くほどのパフォーマンスではないなぁ…というのが感想かもしれない。
確かに最近のハイパーカーのパフォーマンスは底抜けで、今やps表記にして530psくらいだと誰も驚かない。今回試乗したアウディ『e-Tron GT』は、まあ超高性能ではあるけれど、驚くレベルではないと誰もが思うだろう。だがしかし、侮れないのはやはりBEVの瞬発力だった。
一般道で40km/h程度から床までとは言わないまでもアクセルを踏みつけると、ステアリングを握るドライバーですら、したたかヘッドレストに頭をぶつける強烈な加速が味わえる。もちろん、時間にして恐らくはコンマ数秒の話。だから、スピードだって精々50km/hを少し超える程度だから、幹線道路では完全に流れに乗れる速度域である。前を少しだけ空けてこれをやると、その凄まじさがわかる。
4日ほどお借りして返す前に女房が乗ってみたいというので、隣に乗せてこれをやってみた。まさしく瞬間芸ではあるのだが、すぐさま「もうやめて!」と悲痛な声を上げた。隣に乗っているパッセンジャーからしたら、やはりこの加速は脅威以外の何物でもないと思う。そんな性能を秘めつつ、普通に流すとその静粛性とともに、快適なことこの上ないスムーズな走りに魅了される。音もなく加速するその様は、まさに風と友達になった印象だった。
スポーツセダンと呼ぶに相応しい鋭敏な走り
先進的なBEVながら、インパネにはウォールナットのウッドパネルが採用されているあたり、時代が変わっても高級車に採用される素材に変わりはないのかなぁ?と思う反面、サスティナビリティを考慮してか、レザーフリーパッケージという皮革を一切使わないパッケージオプションが用意されている点は時代の変革を感じさせた。
BEVというとなんとなく特別感があるが、前述した強烈な瞬間芸の加速感以外は至って普通のクルマである。というよりもガソリンエンジン車との差別感はほぼゼロ。バッテリーを床下に積んで、特にプラットフォームをはじめとして40%ほどのパーツはポルシェ『タイカン』と共有していることも手伝ってか、その走りの印象はスポーツセダンと呼ぶに相応しい鋭敏なものである。乗り心地も十分にフラット感が高く、まあ重心の低さが大きな効果を生んでいると思うが、まさに一般道では意のままの走行を楽しむことができる。
ステアリングにはパドルが付くがこれは回生ブレーキの強さを変えるもの。3段階とされているが、体感できる顕著なブレーキフィールは感じ取れない。まぁ少しだけ減速感が強くなるかなあ?といった程度だ。一方でドライブセレクトで「スポーツ」をチョイスすると、何となく聞こえていたそれらしいスポーツサウンドが俄然大きくなる。これ、無音ではつまらないということなのだろうが、いわゆるエンジン音ではないが疑似サウンドを加速感に併せてスピーカーから出しているサウンドのこと。カタログにはエモーショナルな体験やドライビングプレジャーをもたらすと書かれているが、個人的にはどうもその音が寒々しく聞こえてしまった。
ポルシェ・タイカンとパーツを共有していると書いたが、フロントのボンネット(この表現で正しいかどうかわからない)を開けると、中央にチャージ用ケーブルを収めた小さなカバンがあり、その両サイドには牽引フックと工具が収まっているのだが、その工具セットのケースには見事にPORSCHEの文字が入っていて、ポルシェ好きにはなんとくなく得をした気分が味わえる。
金さえあれば欲しいと思った車の1台
ドライブセレクトにはエフィシェンシー/ダイナミック/コンフォート/インディビデュアルの4つのモードが備わる。最後のインディビデュアルは個人設定をしなかったので除くとして、エフィシェンシー/ダイナミック/コンフォートではそれを切り替えるごとに航続距離が変わる。同じところで測って、ダイナミックで303kmの時、エフィシェンシーでは325kmを表示した。ちなみにコンフォートは311kmである。この程度なら積極的にダイナミックモードを使いたいところだが、こいつを使うとやはり減り具合も早く、BEVのある種のトラウマがある私はほとんどの場合エフィシェンシーで走ってしまった。そもそも、エフィシェンシーでも十分に速く、よほど空いたワインディングか、高速走行をしない限り、性能的にはエフィシェンシーで十分である。
WLTCモードでは満充電で534km走行できることになっているが、そもそも借り出した時点で402km。適当に走って我が家で一晩充電した結果は380km、その翌日はさらに航続距離が短くなっていた。800Vシステムは充電時間短縮を目的としているはずだが、家庭用3kw だと5.5時間で100km分走れる充電ができると書かれているが、どうもそううまくはいかないようである。ホームページの充電シミュレーターを使ってみたところ、自宅で405kmの充電を完了させるには28時間50分必要だと出たから、まあ1日半近くは繋いでおく必要があるようだ。
電気嫌いの私だが、この流麗なスタイルや快適な走りのこのクルマは金さえあれば欲しいと思った車の1台である。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度 ★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来44年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。
390kw、640Nmというカタログ表記の性能。読む方のイメージとしてはそれほど超が付くほどのパフォーマンスではないなぁ…というのが感想かもしれない。
確かに最近のハイパーカーのパフォーマンスは底抜けで、今やps表記にして530psくらいだと誰も驚かない。今回試乗したアウディ『e-Tron GT』は、まあ超高性能ではあるけれど、驚くレベルではないと誰もが思うだろう。だがしかし、侮れないのはやはりBEVの瞬発力だった。
一般道で40km/h程度から床までとは言わないまでもアクセルを踏みつけると、ステアリングを握るドライバーですら、したたかヘッドレストに頭をぶつける強烈な加速が味わえる。もちろん、時間にして恐らくはコンマ数秒の話。だから、スピードだって精々50km/hを少し超える程度だから、幹線道路では完全に流れに乗れる速度域である。前を少しだけ空けてこれをやると、その凄まじさがわかる。
4日ほどお借りして返す前に女房が乗ってみたいというので、隣に乗せてこれをやってみた。まさしく瞬間芸ではあるのだが、すぐさま「もうやめて!」と悲痛な声を上げた。隣に乗っているパッセンジャーからしたら、やはりこの加速は脅威以外の何物でもないと思う。そんな性能を秘めつつ、普通に流すとその静粛性とともに、快適なことこの上ないスムーズな走りに魅了される。音もなく加速するその様は、まさに風と友達になった印象だった。
スポーツセダンと呼ぶに相応しい鋭敏な走り
先進的なBEVながら、インパネにはウォールナットのウッドパネルが採用されているあたり、時代が変わっても高級車に採用される素材に変わりはないのかなぁ?と思う反面、サスティナビリティを考慮してか、レザーフリーパッケージという皮革を一切使わないパッケージオプションが用意されている点は時代の変革を感じさせた。
BEVというとなんとなく特別感があるが、前述した強烈な瞬間芸の加速感以外は至って普通のクルマである。というよりもガソリンエンジン車との差別感はほぼゼロ。バッテリーを床下に積んで、特にプラットフォームをはじめとして40%ほどのパーツはポルシェ『タイカン』と共有していることも手伝ってか、その走りの印象はスポーツセダンと呼ぶに相応しい鋭敏なものである。乗り心地も十分にフラット感が高く、まあ重心の低さが大きな効果を生んでいると思うが、まさに一般道では意のままの走行を楽しむことができる。
ステアリングにはパドルが付くがこれは回生ブレーキの強さを変えるもの。3段階とされているが、体感できる顕著なブレーキフィールは感じ取れない。まぁ少しだけ減速感が強くなるかなあ?といった程度だ。一方でドライブセレクトで「スポーツ」をチョイスすると、何となく聞こえていたそれらしいスポーツサウンドが俄然大きくなる。これ、無音ではつまらないということなのだろうが、いわゆるエンジン音ではないが疑似サウンドを加速感に併せてスピーカーから出しているサウンドのこと。カタログにはエモーショナルな体験やドライビングプレジャーをもたらすと書かれているが、個人的にはどうもその音が寒々しく聞こえてしまった。
ポルシェ・タイカンとパーツを共有していると書いたが、フロントのボンネット(この表現で正しいかどうかわからない)を開けると、中央にチャージ用ケーブルを収めた小さなカバンがあり、その両サイドには牽引フックと工具が収まっているのだが、その工具セットのケースには見事にPORSCHEの文字が入っていて、ポルシェ好きにはなんとくなく得をした気分が味わえる。
金さえあれば欲しいと思った車の1台
ドライブセレクトにはエフィシェンシー/ダイナミック/コンフォート/インディビデュアルの4つのモードが備わる。最後のインディビデュアルは個人設定をしなかったので除くとして、エフィシェンシー/ダイナミック/コンフォートではそれを切り替えるごとに航続距離が変わる。同じところで測って、ダイナミックで303kmの時、エフィシェンシーでは325kmを表示した。ちなみにコンフォートは311kmである。この程度なら積極的にダイナミックモードを使いたいところだが、こいつを使うとやはり減り具合も早く、BEVのある種のトラウマがある私はほとんどの場合エフィシェンシーで走ってしまった。そもそも、エフィシェンシーでも十分に速く、よほど空いたワインディングか、高速走行をしない限り、性能的にはエフィシェンシーで十分である。
WLTCモードでは満充電で534km走行できることになっているが、そもそも借り出した時点で402km。適当に走って我が家で一晩充電した結果は380km、その翌日はさらに航続距離が短くなっていた。800Vシステムは充電時間短縮を目的としているはずだが、家庭用3kw だと5.5時間で100km分走れる充電ができると書かれているが、どうもそううまくはいかないようである。ホームページの充電シミュレーターを使ってみたところ、自宅で405kmの充電を完了させるには28時間50分必要だと出たから、まあ1日半近くは繋いでおく必要があるようだ。
電気嫌いの私だが、この流麗なスタイルや快適な走りのこのクルマは金さえあれば欲しいと思った車の1台である。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度 ★★★★★
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