SL史上初となる「4駆」「後輪操舵」「4人乗り」
メルセデス・ベンツは新型の『SL』を2021年10月28日に世界初公開した。ガルウイングの『300SL(W198)』を初代とすれば、新型(R232)は8代目のSLということになる。
白紙の状態から開発はスタートし、プラットフォームも新設した新型には見るべきところが多数存在する。中でも注目すべきは、「AMG」ブランドのみの展開となる点である。
これは「メルセデス・ベンツ」ではない。「メルセデスAMG」である。
『AMG GT』をはじめ、近年のAMGはオリジナルのプロダクトも手掛けてきた。それでも基本的にはメルセデスのプロダクトをベースにスポーティな仕様に仕立てることを生業としている。ところが新型SLには「メルセデス・ベンツ」名義のモデルはなく、正式な車名は「メルセデスAMG SL」となった。公式には、SLの元祖ともいうべき「W194」は市販予定のないレーシングプロトタイプで、新型では原点回帰ともいうべきリアルスポーツカーとして生まれ変わり、だからAMG名義としたとされている。
しかし実際にはいわゆる“お家事情”的なものもあったようだ。プレミアムクラスの2シーターのオープンモデルはメディアで多く取り上げられるほど実際には数が多く出る商品ではなく、大きな利益は見込めない。加えてAMGがGTにコンバーチブルモデルもラインナップしたことで、SLとの差別化が図りにくくなった。一時はメルセデス社内で先代のR231をもってSLは終了するという方向性も打ち出されていたようである。
一方で、メルセデスのアイコンとも言うべきモデルを消滅させることに反対があったのも事実で、結果としてAMG GTロードスターの後継的位置づけとして、SLの存続が正式に決まったと言われている。よって近いうちにAMG GTのロードスターはカタログから落ちるだろうと予想している。
SL史上初となる「4駆」「後輪操舵」「4人乗り」
新型SLはスペースフレーム構造のまったく新しいプラットフォームを使用している。AMG GTが採用するトランスアクスル形式ではなく、エンジンとトランスミッションを締結したFRレイアウトだが、駆動形式はSL史上初となる4輪駆動である。SL史上初といえば、2+2の4人乗りも同様だ。ルーフはハードトップのバリオルーフをやめてソフトトップに変更している。機能性と商品力の観点から、2シーターよりも2+2のほうがいいだろうということで2+2ありきで開発が始まり、プラットフォームの新設やソフトトップの採用もそれを実現するためだったようである。
現時点でのラインナップは『SL63 4MATIC+』と『SL55 4MATIC+』の2バリエーションで、ともに4LのV8ツインターボエンジンを搭載する。パワースペックは585ps/800Nmと476ps/700Nmで、ターボのブースト圧とソフトウエアによってこの差が生じている。トランスミッションはいずれのエンジンにも湿式多板クラッチを用いた「AMGスピードシフトMCT 9G」が組み合わされている。
サスペンションは前後ともにダブルウイッシュボーンをベースにしたマルチリンク式で、SL55には「AMGライドコントロールサスペンション」、SL63には「AMGアクティブライドコントロールサスペンション」が標準となる。SL55は、ダンパーにふたつのバルブが装着されていて、ひとつは伸び側を、もうひとつは縮み側をコントロールする電子制御式。SL63はこれに加えて油圧式のアクティブアンチロールバーも備わり、積極的にロール方向の動きを抑える働きを持っている。後輪操舵が標準装備されたのも、SL史上初めてのことである。
「SL55」と「SL63」の違い
SL55とSL63の違いは、その舞台が公道である限り動力性能面において大差はない。500ps/600Nmを超えるともう、公道でそのポテンシャルを引き出すのは難しく手に余る。ただ、4MATIC+は前後のトルク配分が随時可変なので、どのような状況でも前後輪に最適なトラクションがかかっており、エンジンパワーのロスは相当抑えられているように感じた。
そして、ハンドリングと乗り心地に関しては両車で明らかな違いがある。後輪操舵の制御が秀逸で極めて自然な回頭性を示す点はどちらも同じ。ステアリングレスポンスもどちらもよく、転舵初期からクルマがそれを見逃さずスッと頭が動く。両車の違いはこの後で、SL63のほうがヨーゲインの立ち上がりが早くフロントノーズがインに向けてグイグイと入っていく。アクティブアンチロールバーによってばね上の動きが抑えられ、ヨー慣性モーメントが小さいからだろう。いわゆるスポーツカーらしいハンドリングである。SL55のほうがヨーゲインの立ち上がりが若干ゆるやかなので、そこまでスポーティでなくてもいいという方にはSL55のほうがしっくりくるかもしれない。そうはいっても従来のSLと比べたらずっとスポーティになっている。
SL63はスポーツカーと呼べるハンドリングを実現しているので、乗り心地もやはりやや硬め。減衰が早く強靱なボディには振動の残像がまったく残らないから不快感はない。これはスポーツカーだと思えばむしろ許容範囲内の乗り心地である。SL55のほうが乗り心地はよく、ハンドリングと合わせてこれまでのSLが持っていたエレガントなGTという乗り味にかなり近いと感じた。
SLには今後、AMGが独自開発した「E PERFORMANCE」と呼ぶハイブリッドを含むいくつかの仕様が追加されるとのこと。日本導入は2022年内だが、どの仕様がやってくるのかは現時点で未定だそうである。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★
渡辺慎太郎|ジャーナリスト/エディター
1966年東京生まれ。米国の大学を卒業後、自動車雑誌『ル・ボラン』の編集者に。後に自動車雑誌『カーグラフィック』の編集記者と編集長を務め2018年から自動車ジャーナリスト/エディターへ転向、現在に至る。
白紙の状態から開発はスタートし、プラットフォームも新設した新型には見るべきところが多数存在する。中でも注目すべきは、「AMG」ブランドのみの展開となる点である。
これは「メルセデス・ベンツ」ではない。「メルセデスAMG」である。
『AMG GT』をはじめ、近年のAMGはオリジナルのプロダクトも手掛けてきた。それでも基本的にはメルセデスのプロダクトをベースにスポーティな仕様に仕立てることを生業としている。ところが新型SLには「メルセデス・ベンツ」名義のモデルはなく、正式な車名は「メルセデスAMG SL」となった。公式には、SLの元祖ともいうべき「W194」は市販予定のないレーシングプロトタイプで、新型では原点回帰ともいうべきリアルスポーツカーとして生まれ変わり、だからAMG名義としたとされている。
しかし実際にはいわゆる“お家事情”的なものもあったようだ。プレミアムクラスの2シーターのオープンモデルはメディアで多く取り上げられるほど実際には数が多く出る商品ではなく、大きな利益は見込めない。加えてAMGがGTにコンバーチブルモデルもラインナップしたことで、SLとの差別化が図りにくくなった。一時はメルセデス社内で先代のR231をもってSLは終了するという方向性も打ち出されていたようである。
一方で、メルセデスのアイコンとも言うべきモデルを消滅させることに反対があったのも事実で、結果としてAMG GTロードスターの後継的位置づけとして、SLの存続が正式に決まったと言われている。よって近いうちにAMG GTのロードスターはカタログから落ちるだろうと予想している。
SL史上初となる「4駆」「後輪操舵」「4人乗り」
新型SLはスペースフレーム構造のまったく新しいプラットフォームを使用している。AMG GTが採用するトランスアクスル形式ではなく、エンジンとトランスミッションを締結したFRレイアウトだが、駆動形式はSL史上初となる4輪駆動である。SL史上初といえば、2+2の4人乗りも同様だ。ルーフはハードトップのバリオルーフをやめてソフトトップに変更している。機能性と商品力の観点から、2シーターよりも2+2のほうがいいだろうということで2+2ありきで開発が始まり、プラットフォームの新設やソフトトップの採用もそれを実現するためだったようである。
現時点でのラインナップは『SL63 4MATIC+』と『SL55 4MATIC+』の2バリエーションで、ともに4LのV8ツインターボエンジンを搭載する。パワースペックは585ps/800Nmと476ps/700Nmで、ターボのブースト圧とソフトウエアによってこの差が生じている。トランスミッションはいずれのエンジンにも湿式多板クラッチを用いた「AMGスピードシフトMCT 9G」が組み合わされている。
サスペンションは前後ともにダブルウイッシュボーンをベースにしたマルチリンク式で、SL55には「AMGライドコントロールサスペンション」、SL63には「AMGアクティブライドコントロールサスペンション」が標準となる。SL55は、ダンパーにふたつのバルブが装着されていて、ひとつは伸び側を、もうひとつは縮み側をコントロールする電子制御式。SL63はこれに加えて油圧式のアクティブアンチロールバーも備わり、積極的にロール方向の動きを抑える働きを持っている。後輪操舵が標準装備されたのも、SL史上初めてのことである。
「SL55」と「SL63」の違い
SL55とSL63の違いは、その舞台が公道である限り動力性能面において大差はない。500ps/600Nmを超えるともう、公道でそのポテンシャルを引き出すのは難しく手に余る。ただ、4MATIC+は前後のトルク配分が随時可変なので、どのような状況でも前後輪に最適なトラクションがかかっており、エンジンパワーのロスは相当抑えられているように感じた。
そして、ハンドリングと乗り心地に関しては両車で明らかな違いがある。後輪操舵の制御が秀逸で極めて自然な回頭性を示す点はどちらも同じ。ステアリングレスポンスもどちらもよく、転舵初期からクルマがそれを見逃さずスッと頭が動く。両車の違いはこの後で、SL63のほうがヨーゲインの立ち上がりが早くフロントノーズがインに向けてグイグイと入っていく。アクティブアンチロールバーによってばね上の動きが抑えられ、ヨー慣性モーメントが小さいからだろう。いわゆるスポーツカーらしいハンドリングである。SL55のほうがヨーゲインの立ち上がりが若干ゆるやかなので、そこまでスポーティでなくてもいいという方にはSL55のほうがしっくりくるかもしれない。そうはいっても従来のSLと比べたらずっとスポーティになっている。
SL63はスポーツカーと呼べるハンドリングを実現しているので、乗り心地もやはりやや硬め。減衰が早く強靱なボディには振動の残像がまったく残らないから不快感はない。これはスポーツカーだと思えばむしろ許容範囲内の乗り心地である。SL55のほうが乗り心地はよく、ハンドリングと合わせてこれまでのSLが持っていたエレガントなGTという乗り味にかなり近いと感じた。
SLには今後、AMGが独自開発した「E PERFORMANCE」と呼ぶハイブリッドを含むいくつかの仕様が追加されるとのこと。日本導入は2022年内だが、どの仕様がやってくるのかは現時点で未定だそうである。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★
渡辺慎太郎|ジャーナリスト/エディター
1966年東京生まれ。米国の大学を卒業後、自動車雑誌『ル・ボラン』の編集者に。後に自動車雑誌『カーグラフィック』の編集記者と編集長を務め2018年から自動車ジャーナリスト/エディターへ転向、現在に至る。
最新ニュース
-
-
トヨタ、ピックアップトラックにも高性能ハイブリッド「i-FORCE MAX」搭載!『タコマ TRDプロ』登場
2024.12.20
-
-
-
これで全部か? スバルが 東京オートサロン2025 出展概要を発表
2024.12.20
-
-
-
『フロンクス』がワイルドに変身!? “最後の“スイスポも登場、スズキ「東京オートサロン2025」出展
2024.12.20
-
-
-
日産『ノートオーラ』、新グレード「AUTECH SPORTS SPEC」登場…パフォーマンスダンパーをヤマハと共同開発
2024.12.20
-
-
-
トヨタ『bZ4X』、最大6000ドル価格引き下げ…EV初の「ナイトシェード」も設定
2024.12.20
-
-
-
トムス、アルミ削り出し鍛造プレミアムホイール「TWF03」に60系『プリウス』サイズを追加
2024.12.20
-
-
-
トヨタ『タコマ』のオフロード性能さらにアップ! 冒険志向の「トレイルハンター」2025年モデルに
2024.12.19
-
最新ニュース
-
-
トヨタ、ピックアップトラックにも高性能ハイブリッド「i-FORCE MAX」搭載!『タコマ TRDプロ』登場
2024.12.20
-
-
-
これで全部か? スバルが 東京オートサロン2025 出展概要を発表
2024.12.20
-
-
-
『フロンクス』がワイルドに変身!? “最後の“スイスポも登場、スズキ「東京オートサロン2025」出展
2024.12.20
-
-
-
日産『ノートオーラ』、新グレード「AUTECH SPORTS SPEC」登場…パフォーマンスダンパーをヤマハと共同開発
2024.12.20
-
-
-
トヨタ『bZ4X』、最大6000ドル価格引き下げ…EV初の「ナイトシェード」も設定
2024.12.20
-
-
-
トムス、アルミ削り出し鍛造プレミアムホイール「TWF03」に60系『プリウス』サイズを追加
2024.12.20
-
MORIZO on the Road