【シボレー カマロSS 新型試乗】クルマらしいクルマの最後の姿、“ガラパゴスのピンクイグアナ”だ…中村孝仁
絶滅危惧種の代表格、ガラパゴスのピンクイグアナ。最近ガラパゴス島のウォルフ山が噴火して、生態系への影響が懸念された。
絶滅危惧種といえば、自動車の世界にもそれは存在し、さしずめセダンといわれたクルマの車型はそろそろ危険水域に入ったのではないかと思われるが、それ以上に絶滅危惧種なのが、アメリカンマッスルと呼ばれるガソリンぶち撒き系のモデルだ。
絶滅危惧種のアメリカンマッスル
このアメリカンマッスル、現在日本市場に正規で導入されているのはシボレー『カマロ』だけ(コルベットは別)。フォード・ジャパンが消滅して右ハンドルで導入予定だったフォード『マスタング』は、試乗会まで開催しながら突然の導入中止。そしてダッジ『チャレンジャー』は、端っから日本市場は並行輸入車のみの市場であった。
この3種が今もアメリカンマッスルとして現存するモデルである。いずれのモデルも古き良き時代の(つまりはゴールデンエイジといわれた60年代のアメリカ)デザインモチーフを巧みに用いたスタイリングを持ち、最上位に位置するモデルはマスタングを除きいずれもOHVのV8エンジンを搭載する。そのキャパシティー、カマロの場合は6168cc。ダウンサイズが叫ばれ、年を追うごとに排気量と気筒数の減少が著しい自動車業界にあって、それをあざ笑うような野放図なサイズである。
ただ、熱狂的なアメリカンマッスルの信奉者ならずとも、その反逆児的な魅力は少なからず気になる存在でもあって、一度でいいからあの巨大かつ強大なパワーのモデルに乗ってみたいという憧れがあるようだ。
自動車らしい自動車の最後の姿
それと同時にアメリカンマッスルのスタイリングは紛れもない古き良き時代の自動車らしさを保っていて、かつて(今回の試乗ではない)このクルマで街を流していたら、およそ自動車には遠い存在の小学生から「お~!カッコイイ!」と言われたことがある。フェラーリでもなければランボルギーニでもない、シボレー・カマロがこう言われた。きっとわかりやすい自動車の格好なのだと思う。昔は子供に自動車の絵を描かせたらすぐにセダンの絵を描いたが、きっと今の子はミニバンの絵を描くのだろうなぁと思う。
女性がファッションで頑張る時は、それなりに犠牲を払って決めるという話を聞いたことがある。つまり、我慢を強いられるということ。真冬にミニスカートをはけば当然寒さに襲われるだろうし、ピンヒールをはけば絶対に歩くのが大変だと思うわけだ。そうした犠牲を覚悟して決めるのである。カマロの場合もファッションというかそのスタイルは犠牲の上に成り立っている。例えば、いわゆるチョップドルーフのグリーンハウスは当然ながら視界を犠牲にしているし、窓から顔を出して少し離れたパーキングチケットを取るなどという技はまず不可能だ。
近頃のクルマはやれ環境だ、やれ安全だと制約だらけ。自由奔放さなどどこにもないが、このクルマはまさに自由奔放を絵にかいたようなクルマだと思う。それがアメリカンマッスルの良いところで、自動車らしい自動車の最後の姿といっても過言ではないような気もするわけである。
6.2リットルV8は昔からスムーズでよく回る
GMジャパンのある品川から車を借り出して都会の雑踏を流してみる。全長こそ大したことはないがやはり1900mmの全幅はそれなりに気を使うし、何よりもチョップドルーフの上下に狭い視界は慣れるまではかなり閉所感を感じさせる。
6.2リットルV8は昔からスムーズでよく回るエンジンだということを多くの読者は知らないだろう。個人的にはかつて4.5リットルのV8を積んだキャデラックを所有していて、そのスムーズネスは堪能済みだから今更驚かないが、なんと10速もあるオートマチックのスムーズさには舌を巻いた。街中で細かくシフトしているはずなのだが、変速はほとんど感じられないほどスムーズである。
そして、少し右足に力を込めると、首根っこを掴まれて後ろに引っ張られるようなトルク感のある加速を始める。つい最近もパワフルな電気自動車で強烈な加速感を味わったが、それとは全く異なる腕っぷしの強さみたいなものを感じさせる加速だ。
足はそれなりに固められているのだろうが、意外といっては失礼だが予想よりは間違いなく快適でスムーズな乗り味を持っている。まあ、617Nmのトルクを試してみるほど度胸はないし、そもそも街中では不可!ということで、試乗はあくまでも大人しく、時々踏み込んでを繰り返した。
ライバルに遅れ、どうしたカマロ?
というわけで、アメリカ的無駄は大いにそそられて一度はこの手に…などと思うのだが、たぶん一生そんなことにはなりそうもない。何せ絶滅危惧種である。そういえば比較的最近、2021年の世界での販売成績がでて、アメリカンマッスル3台の成績も発表された。トップに輝いたのは一番モデルチェンジしていないダッジチャレンジャーで5万4314台を販売した。続いてマスタングの5万2414台。拮抗している。これに対してカマロはというと、何故か2万1893台と大きく遅れを取った。どうしたカマロ??頑張れ!
■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度 ★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来44年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。
絶滅危惧種といえば、自動車の世界にもそれは存在し、さしずめセダンといわれたクルマの車型はそろそろ危険水域に入ったのではないかと思われるが、それ以上に絶滅危惧種なのが、アメリカンマッスルと呼ばれるガソリンぶち撒き系のモデルだ。
絶滅危惧種のアメリカンマッスル
このアメリカンマッスル、現在日本市場に正規で導入されているのはシボレー『カマロ』だけ(コルベットは別)。フォード・ジャパンが消滅して右ハンドルで導入予定だったフォード『マスタング』は、試乗会まで開催しながら突然の導入中止。そしてダッジ『チャレンジャー』は、端っから日本市場は並行輸入車のみの市場であった。
この3種が今もアメリカンマッスルとして現存するモデルである。いずれのモデルも古き良き時代の(つまりはゴールデンエイジといわれた60年代のアメリカ)デザインモチーフを巧みに用いたスタイリングを持ち、最上位に位置するモデルはマスタングを除きいずれもOHVのV8エンジンを搭載する。そのキャパシティー、カマロの場合は6168cc。ダウンサイズが叫ばれ、年を追うごとに排気量と気筒数の減少が著しい自動車業界にあって、それをあざ笑うような野放図なサイズである。
ただ、熱狂的なアメリカンマッスルの信奉者ならずとも、その反逆児的な魅力は少なからず気になる存在でもあって、一度でいいからあの巨大かつ強大なパワーのモデルに乗ってみたいという憧れがあるようだ。
自動車らしい自動車の最後の姿
それと同時にアメリカンマッスルのスタイリングは紛れもない古き良き時代の自動車らしさを保っていて、かつて(今回の試乗ではない)このクルマで街を流していたら、およそ自動車には遠い存在の小学生から「お~!カッコイイ!」と言われたことがある。フェラーリでもなければランボルギーニでもない、シボレー・カマロがこう言われた。きっとわかりやすい自動車の格好なのだと思う。昔は子供に自動車の絵を描かせたらすぐにセダンの絵を描いたが、きっと今の子はミニバンの絵を描くのだろうなぁと思う。
女性がファッションで頑張る時は、それなりに犠牲を払って決めるという話を聞いたことがある。つまり、我慢を強いられるということ。真冬にミニスカートをはけば当然寒さに襲われるだろうし、ピンヒールをはけば絶対に歩くのが大変だと思うわけだ。そうした犠牲を覚悟して決めるのである。カマロの場合もファッションというかそのスタイルは犠牲の上に成り立っている。例えば、いわゆるチョップドルーフのグリーンハウスは当然ながら視界を犠牲にしているし、窓から顔を出して少し離れたパーキングチケットを取るなどという技はまず不可能だ。
近頃のクルマはやれ環境だ、やれ安全だと制約だらけ。自由奔放さなどどこにもないが、このクルマはまさに自由奔放を絵にかいたようなクルマだと思う。それがアメリカンマッスルの良いところで、自動車らしい自動車の最後の姿といっても過言ではないような気もするわけである。
6.2リットルV8は昔からスムーズでよく回る
GMジャパンのある品川から車を借り出して都会の雑踏を流してみる。全長こそ大したことはないがやはり1900mmの全幅はそれなりに気を使うし、何よりもチョップドルーフの上下に狭い視界は慣れるまではかなり閉所感を感じさせる。
6.2リットルV8は昔からスムーズでよく回るエンジンだということを多くの読者は知らないだろう。個人的にはかつて4.5リットルのV8を積んだキャデラックを所有していて、そのスムーズネスは堪能済みだから今更驚かないが、なんと10速もあるオートマチックのスムーズさには舌を巻いた。街中で細かくシフトしているはずなのだが、変速はほとんど感じられないほどスムーズである。
そして、少し右足に力を込めると、首根っこを掴まれて後ろに引っ張られるようなトルク感のある加速を始める。つい最近もパワフルな電気自動車で強烈な加速感を味わったが、それとは全く異なる腕っぷしの強さみたいなものを感じさせる加速だ。
足はそれなりに固められているのだろうが、意外といっては失礼だが予想よりは間違いなく快適でスムーズな乗り味を持っている。まあ、617Nmのトルクを試してみるほど度胸はないし、そもそも街中では不可!ということで、試乗はあくまでも大人しく、時々踏み込んでを繰り返した。
ライバルに遅れ、どうしたカマロ?
というわけで、アメリカ的無駄は大いにそそられて一度はこの手に…などと思うのだが、たぶん一生そんなことにはなりそうもない。何せ絶滅危惧種である。そういえば比較的最近、2021年の世界での販売成績がでて、アメリカンマッスル3台の成績も発表された。トップに輝いたのは一番モデルチェンジしていないダッジチャレンジャーで5万4314台を販売した。続いてマスタングの5万2414台。拮抗している。これに対してカマロはというと、何故か2万1893台と大きく遅れを取った。どうしたカマロ??頑張れ!
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