【ルノー キャプチャー E-TECH 海外試乗】「宵越しの電気はもたねぇ」気風のよさに見たルノーHVの底力…南陽一浩
ルノーのストロング・ハイブリッド「E-TECH」
欧州の急進的なEVコンバート政策が頻繁に報じられるが、むしろ伝統的に環境性能や排ガス規制の厳しいのはアメリカのカリフォルニア州で、EU経済圏内は国内に自動車や部品関連の産業や工場、つまり雇用があるかないかで、カーボンニュートラルに対する態度は千差万別といっていい。
1月末日に行われたルノー・日産・三菱のアライアンス会見にて、2026~30年までの中長期的な見通しを述べる中、ルノーのルカ・デ・メオ社長は、EVは推進するが2030年までに販売全車両のEV化を急ぐということではなく、市場の求めに応じてそれに近いことができる態勢を整えておくことが大切、と述べた。
SDGs文脈で機関投資筋のお眼鏡に適うことは、自動車のように巨大な運転資金の要る業界では生命線だが、ルノー・グループとしては全ラインナップの100%EV化や急速充電インフラの構築よりも、バッテリー・リサイクルを含む循環型モデルの構築に重きがあるようだ。要は欧州の自動車メーカーも、BEVだけがソリューションであるという単純化されたシナリオに傾いている訳ではない。
それらを前提に、ルノーのストロング・ハイブリッド第1弾である『キャプチャー E-TECH ハイブリッド145』への試乗は、なかなか示唆に満ちたものだった。日本市場へは生産順とロジスティックの関係で、東京オートサロンで発表された『アルカナ』が先にE-TECH(E-テック)採用車種として上陸するが、欧州ではキャプチャーとハッチバックの『ルーテシア』(欧州名クリオ)が先にE-テック化された。いずれハッチバック、SUVクロスオーバー、SUVクーペだが、Bセグメントという欧州市場でも量販ボリュームゾーンを担うセグメントだ。
ドグクラッチのノウハウを生かしたメカニズム
E-テックというルノー独自のハイブリッド方式は、すでに2019年のフランクフルトモーターショー(IAA)で発表されていた。当時、現場に居合わせたエンジニアは、大小2基の電気モーターをトランスミッションに組み合わせ、いわゆるダブルクラッチ式トランスミッションのように、エンジンと電気モーターのいずれか片方が動力源になっている間は他方がスタンバイし、アクチュエーターで切り替える、そう説明してくれた。実際のトランスミッションのカットモデルを前に、コンパクトであることに驚いたが、2基もモーターが追加されているため、複雑そうに思えた。
2年半後、ようやく試乗の機会を得て、その仕組みの明快さに初めて合点がいった。E-テックというハイブリッドは、ICE側1.6リットルエンジンのクランク軸に駆動用の大きな電気モーター、そして並列の軸でスターターを兼ねる小さなモーターと4速ギアが、主な構成要素となる。クランク軸そのものはハイブリッド化のために最適化・再設計されている。
電気とICEの切り替え、そして速度域ごとのギアの連結や切り離しは、各ギア・各速の間に配されたドグクラッチを介し、アクチュエーター制御される。側面の歯で噛み合わされるドグギア式クラッチは高効率だが、繋いだ時の衝撃やギア鳴りの大きさゆえ、ほぼレースの世界でしか使われてこなかったのは周知の通り。だがルノーには旧ルノー・スポールで蓄積したドグクラッチのノウハウがあり、今や油圧アクチュエーターとプログラム制御によって素早く正確に操れ、しかもスターターを兼ねる小モーターでギア間の速度差やトルク・ギャップも埋め合わせられる。
本国では「E-TECH ハイブリッド リチャージャブル160」を名のるPHEVモデルも用意されるが、ハイブリッドのモジュール自体は今回試乗したストロングHVと限りなく一緒。違いは左リアフェンダーに充電口側のリッドがあり、システム電圧が230Vに対し400Vで、バッテリー容量も1.2kWhに対し9.8kWh。結果的にシステム総出力も145psに対し160psと、上回る。
電気だけで走れる距離はわずか2km
スペックだけではいかにもE-テック 145は物足りなさそうに見える。たった1.2kWhしかない駆動用バッテリーは、システム全体を動かすデフォルト分のリザーブ容量にも喰われ、前輪を駆動するのに充てられるのは何と0.85kWhでしかない。
ところがキャプチャー E-テック 145は、本国値で車重1461kgに収まる。ICE版より約+200kg増とはいえ、それでも乗る前の予想を大きく上回るほど、電気モーターによる加速の息は長い。電気だけで走れる距離は2kmほどしかないが、街乗りの80%をモーターだけでカバーできるとルノー公言する通り、約45km/hまではほぼゼロエミ状態のモーター領域。信号停止時に回生で貯めた分を躊躇せず吐き出し、積極的に電気だけ走ろうとする。悪い意味でなく、一見して静かなようで、忙しないくらい饒舌で、気風がいい。そんなグイグイ来るような活発キャラは、日常使いのHVとはいえ、やはりフランス的だ。
45km/h以上になるとICE駆動が大体2速から叩きこまれ、介入してくる。とはいえ感覚的には通常の3速か4速相当で、E-テックの4速は普通のトランスミッションなら6速のようなものだ。そのマナーは、キャプチャーが元々もつ遮音性とボディ剛性の高さも手伝って、かなり静かだ。アクセルオフではひとまず回生よりコースティングしたがる体で、ブレーキに足を乗せたときの抵抗の出方にも不自然さがない。そのまま2速で回生して停止直前までの刹那とはいえリチャージ、バッテリーが貯め込む。回生を優先させるには、フローティングのシフトコンソールとはいえ通常位置のシフトレバーを引くだけで、手動でのD/Bモード切り替えはたやすい。
車重がICE版より重い分、ステアリングフィールはMySenseで「スポーツ」設定にして締めておく方が、中立付近が緩過ぎず、初期ロールによるフロント・サスの沈み込みも急過ぎず、扱いやすい気がした。ごく微低速で乗り心地がやや跳ねるが、あくまでICE版と比べての話。あまりエコを意識しない運転でかなりの距離を乗ったにも関わらず、燃費は18km/リットルと、とにかく大崩れしないE-テックの方に分がある。
ハイブリッドならではの不利も、ゼロではない。トランク容量では2段式フロア側、スペアタイヤ用のスペースが失われ、燃料タンク容量も10リットルほど少ない。だが実用上はほとんど差がない削られ方といえる。
フランス流の合理的なハイブリッドだ
いずれ、ルノーとして初出のハイブリッドとは思えないほど、強いダイレクト感と軽快なフットワークが印象的なストロングHVだ。ホンダやBMWと違ってイメージが沸きづらいかもしれないが、今や元鞘の(ルノー・)アルピーヌに回帰したとはいえ、ルノーは70年代にF1にターボを初めてもたらした通り、じつは新しいテクノロジーには前のめりな「エンジン屋」でもある。そう考えると、E-テックはルノーならではのノウハウというか、いい意味で刹那主義、割り切れているというか合理的なハイブリッドだ。
トランスミッションもバッテリーもコンパクトで車重も滅法軽く、貯めた電気もすぐに使ってしまう気前よさで、ハンドリングやフットワークは軽快きわまりない。少し大げさに言うが、この軽さと自由さの感覚こそ、電動化の時代のニューモデルで失われつつあった何かであったことを、思い出させてくれる一台だ。
本国では約2万7000ユーロという、ハイブリッドにしては控え目な価格設定で注目されているので、日本でも300万円強に収まることを期待したい。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度 ★★★★★
南陽一浩|モータージャーナリスト
1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。
欧州の急進的なEVコンバート政策が頻繁に報じられるが、むしろ伝統的に環境性能や排ガス規制の厳しいのはアメリカのカリフォルニア州で、EU経済圏内は国内に自動車や部品関連の産業や工場、つまり雇用があるかないかで、カーボンニュートラルに対する態度は千差万別といっていい。
1月末日に行われたルノー・日産・三菱のアライアンス会見にて、2026~30年までの中長期的な見通しを述べる中、ルノーのルカ・デ・メオ社長は、EVは推進するが2030年までに販売全車両のEV化を急ぐということではなく、市場の求めに応じてそれに近いことができる態勢を整えておくことが大切、と述べた。
SDGs文脈で機関投資筋のお眼鏡に適うことは、自動車のように巨大な運転資金の要る業界では生命線だが、ルノー・グループとしては全ラインナップの100%EV化や急速充電インフラの構築よりも、バッテリー・リサイクルを含む循環型モデルの構築に重きがあるようだ。要は欧州の自動車メーカーも、BEVだけがソリューションであるという単純化されたシナリオに傾いている訳ではない。
それらを前提に、ルノーのストロング・ハイブリッド第1弾である『キャプチャー E-TECH ハイブリッド145』への試乗は、なかなか示唆に満ちたものだった。日本市場へは生産順とロジスティックの関係で、東京オートサロンで発表された『アルカナ』が先にE-TECH(E-テック)採用車種として上陸するが、欧州ではキャプチャーとハッチバックの『ルーテシア』(欧州名クリオ)が先にE-テック化された。いずれハッチバック、SUVクロスオーバー、SUVクーペだが、Bセグメントという欧州市場でも量販ボリュームゾーンを担うセグメントだ。
ドグクラッチのノウハウを生かしたメカニズム
E-テックというルノー独自のハイブリッド方式は、すでに2019年のフランクフルトモーターショー(IAA)で発表されていた。当時、現場に居合わせたエンジニアは、大小2基の電気モーターをトランスミッションに組み合わせ、いわゆるダブルクラッチ式トランスミッションのように、エンジンと電気モーターのいずれか片方が動力源になっている間は他方がスタンバイし、アクチュエーターで切り替える、そう説明してくれた。実際のトランスミッションのカットモデルを前に、コンパクトであることに驚いたが、2基もモーターが追加されているため、複雑そうに思えた。
2年半後、ようやく試乗の機会を得て、その仕組みの明快さに初めて合点がいった。E-テックというハイブリッドは、ICE側1.6リットルエンジンのクランク軸に駆動用の大きな電気モーター、そして並列の軸でスターターを兼ねる小さなモーターと4速ギアが、主な構成要素となる。クランク軸そのものはハイブリッド化のために最適化・再設計されている。
電気とICEの切り替え、そして速度域ごとのギアの連結や切り離しは、各ギア・各速の間に配されたドグクラッチを介し、アクチュエーター制御される。側面の歯で噛み合わされるドグギア式クラッチは高効率だが、繋いだ時の衝撃やギア鳴りの大きさゆえ、ほぼレースの世界でしか使われてこなかったのは周知の通り。だがルノーには旧ルノー・スポールで蓄積したドグクラッチのノウハウがあり、今や油圧アクチュエーターとプログラム制御によって素早く正確に操れ、しかもスターターを兼ねる小モーターでギア間の速度差やトルク・ギャップも埋め合わせられる。
本国では「E-TECH ハイブリッド リチャージャブル160」を名のるPHEVモデルも用意されるが、ハイブリッドのモジュール自体は今回試乗したストロングHVと限りなく一緒。違いは左リアフェンダーに充電口側のリッドがあり、システム電圧が230Vに対し400Vで、バッテリー容量も1.2kWhに対し9.8kWh。結果的にシステム総出力も145psに対し160psと、上回る。
電気だけで走れる距離はわずか2km
スペックだけではいかにもE-テック 145は物足りなさそうに見える。たった1.2kWhしかない駆動用バッテリーは、システム全体を動かすデフォルト分のリザーブ容量にも喰われ、前輪を駆動するのに充てられるのは何と0.85kWhでしかない。
ところがキャプチャー E-テック 145は、本国値で車重1461kgに収まる。ICE版より約+200kg増とはいえ、それでも乗る前の予想を大きく上回るほど、電気モーターによる加速の息は長い。電気だけで走れる距離は2kmほどしかないが、街乗りの80%をモーターだけでカバーできるとルノー公言する通り、約45km/hまではほぼゼロエミ状態のモーター領域。信号停止時に回生で貯めた分を躊躇せず吐き出し、積極的に電気だけ走ろうとする。悪い意味でなく、一見して静かなようで、忙しないくらい饒舌で、気風がいい。そんなグイグイ来るような活発キャラは、日常使いのHVとはいえ、やはりフランス的だ。
45km/h以上になるとICE駆動が大体2速から叩きこまれ、介入してくる。とはいえ感覚的には通常の3速か4速相当で、E-テックの4速は普通のトランスミッションなら6速のようなものだ。そのマナーは、キャプチャーが元々もつ遮音性とボディ剛性の高さも手伝って、かなり静かだ。アクセルオフではひとまず回生よりコースティングしたがる体で、ブレーキに足を乗せたときの抵抗の出方にも不自然さがない。そのまま2速で回生して停止直前までの刹那とはいえリチャージ、バッテリーが貯め込む。回生を優先させるには、フローティングのシフトコンソールとはいえ通常位置のシフトレバーを引くだけで、手動でのD/Bモード切り替えはたやすい。
車重がICE版より重い分、ステアリングフィールはMySenseで「スポーツ」設定にして締めておく方が、中立付近が緩過ぎず、初期ロールによるフロント・サスの沈み込みも急過ぎず、扱いやすい気がした。ごく微低速で乗り心地がやや跳ねるが、あくまでICE版と比べての話。あまりエコを意識しない運転でかなりの距離を乗ったにも関わらず、燃費は18km/リットルと、とにかく大崩れしないE-テックの方に分がある。
ハイブリッドならではの不利も、ゼロではない。トランク容量では2段式フロア側、スペアタイヤ用のスペースが失われ、燃料タンク容量も10リットルほど少ない。だが実用上はほとんど差がない削られ方といえる。
フランス流の合理的なハイブリッドだ
いずれ、ルノーとして初出のハイブリッドとは思えないほど、強いダイレクト感と軽快なフットワークが印象的なストロングHVだ。ホンダやBMWと違ってイメージが沸きづらいかもしれないが、今や元鞘の(ルノー・)アルピーヌに回帰したとはいえ、ルノーは70年代にF1にターボを初めてもたらした通り、じつは新しいテクノロジーには前のめりな「エンジン屋」でもある。そう考えると、E-テックはルノーならではのノウハウというか、いい意味で刹那主義、割り切れているというか合理的なハイブリッドだ。
トランスミッションもバッテリーもコンパクトで車重も滅法軽く、貯めた電気もすぐに使ってしまう気前よさで、ハンドリングやフットワークは軽快きわまりない。少し大げさに言うが、この軽さと自由さの感覚こそ、電動化の時代のニューモデルで失われつつあった何かであったことを、思い出させてくれる一台だ。
本国では約2万7000ユーロという、ハイブリッドにしては控え目な価格設定で注目されているので、日本でも300万円強に収まることを期待したい。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
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1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。
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