【日産 4WDモデル 氷上試乗】電動パワートレインはいずれガソリン車を凌駕する…中谷明彦

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日産自動車が冬のシーズンに開催する、長野県立科町の「女神湖」における氷上テストドライブが久々に開催された。昨年はコロナ禍の影響で延期となり、また以前も温暖化の影響で女神湖の結氷が充分な厚さに足らず開催されなかった事もあり、久々の氷上試乗会となった。

前編ではノートシリーズのレポートをお届けしたが、後編ではガソリンエンジンモデルの『スカイライン 400R(FR)』『GT-R』をはじめ、4WDモデルの比較をお届けする。

ガソリン車×氷上はドライバーのスキルを磨く
『ノート e-POWER』シリーズの試乗に続いて、ガソリンエンジンモデルとして「スカイライン 400R FRモデル」に試乗する。

エンジンのパワーが高いものの、氷上ではそれを路面に伝えることは非常に難しい。だがスカイラインはサスペンションが優れていて、発進性において電動車に大きな引け目を感じることがない。同じくDSCオンでトラクションコントロールを生かしていれば、ガソリンエンジンを細かく制御して有効なパワーだけが引き出されてスムーズに発進させることができるようになる。

スラロームでのターンイン、また運動性能もFRらしく軽快で、車の重さをあまり感じさせない。ただ徐々に車速が上がり、スキッド、大きな滑りを発生してしまうとそれを収めるのがかなり難しい。定常円旋回や八の字旋回などではアンダーステアを出してしまうと、車が止まるほどにまで減速しなければ、改めてヨーを立ち上がらせることは至難の技である。

DSCやトラクションコントロールをオフにし、極めて繊細なアクセルワークを駆使すれば、意のままにコントロールすることができるのだが、そのためにはドライバーがスキルを磨き上げていく必要がある。電動車が万能向けでドライバーを選ばない完成度の高い走りを氷上という難しいコンディションの中でも簡単に引き出せるのに対し、ガソリン車はドライバーのスキルを求めてくるところが、今で言えばもはや古典的といえる部分なのかもしれない。

欧州の自動車メーカー各社は、こうしたドライバーのスキルを上げることが電子制御やトラクションコントロールなどの安全装備を搭載するのと同等の優位性があるということを経験的に学んでいて、冬場にはアイストレーニングなる試乗イベントを数多く開催している。日本国内においてはほとんど例が無いようなアイストレーニングを一般のドライバーに経験させておくことが、冬季の交通安全を確立する上では非常に重要であると考えている。今後、電動車が増え、ガソリン車は減少する方向にあるといっても、やはりドライバーのスキルを磨くことの重要性が高いことは変わらないといえるだろう。

ノート e-POWERとGT-R、4WDを比較
次はステージを変えてハンドリング路を試す。ここでは「ノート e-POWER 4WDモデル」、「ノート オーテック クロスオーバー 4WDモデル」、そして「GT-R」を試すことができた。

「ノート e-POWER 4WDモデル」はハンドリング路においても極めて優れた走りや特性を示した。まず加速のトラクションの優秀さ、そしてコーナーへの侵入でワンペダルを使った減速の正確性と安定性、またステアリングを切りこむのに対し、回生のブレーキ制御が前後で変化し、ターンがしやすく、ちょうど後輪ブレーキがかかるような感じでターンインできる特性だ。さらにコーナーから脱出する時には、横Gを感知して後輪寄りの駆動特性となってアクセルコントロールで四輪パワースライドさせながら立ち上がることができる。三菱『ランサーエボリューション』やアウディクワトロなどのスポーツ4WDが長年培ってきた操縦安定性技術をいとも簡単に手に入れているという意味においても驚きである。

「ノート e-POWER 4WDモデル」は実用モデルであり決してスポーティーカーではないが、こうしたスポーツ4WD車が得意とするような場面、あるいは走行パターンもこなせる実力を秘めているということが分かった。

次に「ノート オーテック クロスオーバー 4WDモデル」を試す。基本的には「ノート e-POWER 4WDモデル」と同じパワートレインで、クロスオーバーSUVとしてやや車高が高められ特徴づけられていることを除けば、同じ車と考えてもいい。車高が上がった事でピッチング変化がより大きく発生する為、コーナリングへの駆動配分もその分大きくなる。また旋回中は重心のロールモーメントが変わるので、その辺においても駆動力配分が変化するようだ。ともすればピーキーになりがちな特性でアンダー/オーバーを引き出しやすいが、高められた車高と路面の見晴らしの良さなどから走破性の高さは高まっている。

四輪パワースライドなどももちろん出来るが、軽快さは標準モデルである「ノート e-POWER 4WDモデル」の方が上といえる。だがSUVブームの中、クロスオーバー系の特徴を与えた「ノート オーテック クロスオーバー 4WDモデル」の外観的な印象の違いによる魅力、そして走りの特性の違いなども感じられて面白いものだった。

電動4WDモデルに劣らない“スーパーカーGT-R”をあたらめて実感
次に「GT-R」だ。570psというハイパワーをいかに低ミュー路である氷上で制御するのかが最大の焦点となる。

スタートは四輪を空転させながらも、幅広いタイヤでしっかりと加速させることが出来る。もちろん乾燥舗装路のような強烈な加速Gは得られないが、電動車の4WDモデルに負けず劣らずスピード乗せていくことができる。さらに高速コーナーへの到達スピードも圧倒的に高いので、そこは“スーパーカーGT-R”としての名誉を保っている。

続いて、減速ターンインを見ると、フットブレーキとエンジンブレーキのみに頼るGT-Rは制御が難しいところだ。特にカーボンブレーキを装着している試乗車において、この非常に低温な領域で微小な制動をコントロールするのは難しい。だがGT-Rのブレーキはうまく作り込まれていて、軽い踏力で瞬間的に、特にリアブレーキを中心にブレーキ力がかかる。

例えば、左足ブレーキで右足がパワーをコントロールしながら瞬間瞬間で左足でブレーキを踏むと、リアがブレーキ力によってスライドを引き起こし、その結果ヨーレートが立ち上がる。こうした特殊な技を使うことができるのもGT-Rの魅力だ。スキルのあるドライバーがそれを最大限に発揮してさまざまな路面コンディション、コーナーのRに合わせて操る自由度が高まればGT-Rはそれに答えてくれるだけのポテンシャルを与えられている。

もちろん一般ドライバーがこれを全てできるとは思わない。我々プロドライバーのように十分な経験とキャリアを積み、スキルを向上させた者のみが知り得る特別な運転領域なのだが、そういったところを目指しスキルを高めたいというドライバーも多くいるはず。そういう意味でも氷上での走行経験は大いに役立つし、GT-Rのような車の存在がそのスキルを引き出すこと上で存在感を示してくれている。

今回ラップタイムは測らなかったものの、感覚的にいえば、最速車はやはり「GT-R」。次に速かったのは「ノート e-POWER 4WDモデル」だった。

電動パワートレインはいずれガソリン車を凌駕する
今後、電動化がますます進んでいくと予測されている。ガソリンエンジン車が減る一方で、制御自体もブレーキに頼る事が時代遅れとなりつつある。エンジンの制御はスロットルや燃料噴射点火タイミングなどで行うが、その緻密さは電動モーターにはかなわない。さらに時代が進めば電動車の方が優位な事はもう疑いようがない。特にこのような低ミュー路で制御の難しい場面では電動車が圧倒的に有利になるといえると思う。

僕は基本的には「BEV(完全的自動車)」の将来性には現状否定的だが、ガソリンエンジンで発電し、その電気エネルギーで電動モーターを動かすことは大いに賛成である。それは電動モーターの方がより細かな制御が可能であり、0回転から最大トルクを引き出せるという特性が様々な制御に大きな幅を与えてくれるからだ。またパワーのピックアップレスポンスに電動車は優れていて、ドライバーのアクセル操作に対して非常に応答性に優れたものとする事が出来る。

ガソリンエンジンで発電するのは環境負荷が大きいというのであれば、水素やバイオ燃料など環境負荷の低いエネルギーを利用した内燃機関を発電機として搭載することも将来的には可能だろう。電気自動車だけであれば現状はあまりにもバッテリーが重く、また発電や給電に対する設備の不足や発電所の電力不足等も地域によっては大きな問題となり得るので賛成できないのである。

女神湖の今回の試乗では、電動のパワートレインは低ミュー路の氷上で極めて優れた走行特性を発揮できるということが改めて示された。後輪に大きな出力のモーターを搭載することで、よりガソリン車に肉薄し、あるいはそれを凌駕する走行性能を手に入れる事が可能となると確信できる1日となった。

中谷明彦|レース&テストドライバー/自動車関連コンサルタント
大学在学中よりレーサー/モータージャーナリストとして活動。1988年全日本F3選手権覇者となるなど国内外で活躍。1997年よりドライビング理論研究会「中谷塾」を開設、2009年より東京大学と自動車新技術の共同研究に取組む。自動車関連の開発、イベント運営など様々な分野でのコンサルタントも行っている。

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