【アウディ e-tron 新型試乗】自動車の一つの形としてEVを楽しみたい…中村孝仁

  • アウディ e-tron 50クワトロ アドバンスト
最近、自動車の世界に限らず「サスティナブル」という言葉がよく使われる。持続可能な…という意味である。

要するに地球が危ない…というか人類が生きていけなくなる…といった危機感からやらなくてはならない地球環境保護の目的から使われるようになったという気がする。自動車の場合、だから電気自動車(EV)…という短絡的な結論になっている気がするのだが、既にそこに向けてヨーロッパの自動車メーカーは大きく舵を切っている印象がある。

一方でそれに異を唱える人もたくさんいて、すべての自動車を電気自動車にすることが果たして本当にサスティナブルなのかは疑問も残る。ただ、こうした切羽詰まった状況が急速に良質な電気自動車を生み出していることは確かなような気がする。今回試乗したアウディ『e-tron 50クワトロ』もそうした1台だ。このところアウディに限らずVWグループはかなり積極的に電気自動車を投入していて、それはある意味自らディーゼルゲートを引き起こした責任の禊のようにも映ってしまう。

ネガ要素を理解し、納得した人が購入すれば良いと思う
ご存じの通りクリーンディーゼル車はガソリン車と比較してCO2排出量は少ない。単純な比較は出来ないが、日本のように電力を作り出すために火力発電に多くを頼る国ではむしろ電気自動車のほうが、最終的なCO2排出量はディーゼル車より多いというデータも存在する。色々調べてみても、今のところ「正解はない」というのが結論だと思うが、それでも世の中的には電気自動車への移行というベクトルが強い。

電気自動車に乗っていつも思うことは、まず静か、そしてパワフル、という走りの優位性だ。もちろん車重が重いから全能ではないし、ヒラリヒラリとした爽快で軽快な走りは期待できない。そして何よりも現状では充電に時間がかかり、どこへでも自由に行けるという自動車本来が持つ移動の楽しみがガソリン車やディーゼル車と比べると阻害される点が大きい。

というわけで、現状の電気自動車はそうしたいくつかのネガ要素を理解し、納得した人が購入すれば良いと思うわけである。

航続距離は335kmだが
e-tron 50クワトロの満充電による走行可能距離は335kmとされている。ただし、これはガソリン車のWLTCモード燃費同様、まず一般のドライバーがそれを達成するのは不可能に近い数値。今回の試乗でも大した距離を走ったわけではないが、まあ、良くて200km台後半の航続距離というのが妥当と思われた。今どきのガソリン車ならこの倍近くは走る(まあ車種によるが)。ディーゼルなら間違いなく倍以上は走る。

ガソリン車やディーゼル車なら、燃料残が少なくなり、例えば警告灯が点灯してもいつでも燃料が入れられるという安心感からストレスを感じることはあまりないが、個人的にある種のトラウマがある私の場合は電気自動車に乗ると常に残存走行距離が気になって精神的ストレスが大きい。

一戸建てで自宅に給電機能があれば、夜のうちに充電すればよいと簡単に言う人がいるが、近頃の大型バッテリーを搭載する電気自動車のケースではおいそれと満充電にできないことは身をもって体験している。要するに電気自動車はまだまだ発展途上にある乗り物だということを十分に理解する必要があるということだ。

アウディらしいスムーズで素晴らしい走り
そのうえで純粋にe-tron 50クワトロの走りや乗り味について話をすると、近頃投入するアウディの電気自動車すべてに共通することだが、至ってスムーズで素晴らしい走りを披露する。やはり自動車メーカーの作る電気自動車はこの走りという点に力点を置いて開発されているのだということがよくわかる。

もっともe-tron 50クワトロの場合はゼロベースで作られた電気自動車ではなく、既存のガソリン車用プラットフォーム「MLB evo」がベース。前後アクスルにモーターを配置した4WD、すなわちクワトロで、リアアクスルのモーターのほうが若干パワフルな設定になっている。このクルマの場合アダプティブエアサスを標準装備しているから、その乗り味はより快適でスムーズな印象を与えているのは道理だと思う。

先進性を感じるのはカメラによるサイドミラーやメーターパネルのディスプレイ等々。それらを除けばガソリン車との違いはなく至って当たり前のSUVであり、荷室やキャビンスペースが阻害されていることも全くない。まあ、カメラのサイドミラーはオプションだという。

自動車の一つの形としての電気自動車
いずれにせよ、電気自動車を購入するにはその覚悟と、従来自動車に持っていたお決まりの概念を捨て去る必要はある。個人的にはガソリン、ディーゼル、PHEV、FCV、BEVが共存して好きなものを選べる環境(今だ)が一番良いと思うし、自動車の一つの形として電気自動車が楽しめる社会であれば有難い。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来44年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。

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