【日産 リーフ 冬季1900km試乗】寒冷地でBEVは使い物にならないのか? 氷点下での充電、電費は[前編]
ここ数年、ウィンターシーズンに各地で記録的降雪が頻発するなかで話題にのぼったのが冬季のバッテリー式電気自動車(BEV)のパフォーマンス。BEVが内燃機関車に比べて適応温度範囲が狭く、とりわけ低温側に弱いことは、クルマへの関心が高い層にはある程度知られるところとなっている。
が、実際にパフォーマンスの低下が使い勝手にどのような影響があるのかということは、実際に旅をしてみないとわからない。ということで、寒波が到来するタイミングを意図的に狙って日産のBEV、第2世代『リーフ』で厳寒期の東北ツーリングを行ってみた。
ロードテスト車は総容量62kWhの大容量電池パックを積んだ『リーフe+』。タイヤはブリヂストンの最新鋭スタッドレスモデル「ブリザック VRX3」。ちなみに筆者、まったく同じ個体で温暖期に横浜~鹿児島ツーリングを行っており、その時には往路1417.2kmを高速な200アンペア充電器(公称出力90kW)のみを使うことで途中充電6回で乗り切っている。
ドライブルートは横浜を出発し、国道4号線、東北自動車道、東北中央自動車道などを経由して山形、秋田と進み、途中山形の肘折温泉、青森の酸ヶ湯温泉の2大豪雪温泉に立ち寄りながら青森市へ。帰路は八戸から先般全線開通した三陸道、国道6号線などを通って横浜に帰着、というもので、総走行距離は1886.1km。
道路種別の大まかな割合は市街地1、郊外路4、三陸道や東北中央道新直轄区間などの無料区間を含めた高速4、山岳路1。路面コンディションはドライ6、ウェット1、圧雪orシャーベット路3。気温は出発後に埼玉東部で0度を下回って以降、帰路に茨城に到達するまで昼夜問わず氷点下で、最低気温は秋田・大館のマイナス12.3度。全区間1名乗車、エアコンはAUTOとデフロスター暖房を適宜使い分けた。またツーリング中、暖房およびシートヒーター使用でのオーバーナイトを3回こなし、ビバークにどのくらいの消費電力量が必要かもみてみた。
まず、リーフe+での冬季ロングツーリングの印象を簡単に箇条書きにしてみよう。
1. 電力消費率は氷点下3度あたりを境に落ち込みが大きくなる。
2. 走行抵抗が増大する圧雪路では航続性能に神経を使う。
3. 急速充電のスピード自体は夏季と大して変わらないくらい出る。
4. クルマに熱源がほぼないためか、普通のクルマに比べて着氷が甚だしい。
5. 暖房ONでのビバークの消費電力は6時間あたり推定4.4kWと意外に少ない。
6. 電動パワートレインのトラクションコントロールは雪上、アイスバーンで絶大な威力。
寒冷地でBEVは使い物にならないのか
ではインプレッションに入っていこう。寒冷地におけるリーフe+の使い勝手だが、温暖期と同じような感覚で走ることは到底できないものの、事前に予想していたよりはずっと使えるという印象だった。
ドライブ前、最大の逆風要因になると考えていたのは充電。筆者は今回ほどの低温環境ではなかったが過去に第1世代リーフ後期型で1200km、三菱『i-MiEV(アイミーブ)』で650km、第2世代リーフの40kWh版で3300kmと3度、寒冷期にBEVでの長距離ドライブを試しているが、いずれも温暖期に比べて充電速度の低下が顕著だった。が、今回は少なくとも気温マイナス11度までの範囲においては同じ車両で温暖期に横浜~鹿児島ツーリングを行ったときと比較しても下落幅は数%。苦戦を予想していただけに拍子抜けした気分であった。
ここ数年頻発している豪雪での立往生事案で懸念の声が上がっているBEVでのビバークについてもテストしてみたが、これも予想よりはるかに負荷が小さくてすんだ。24時間の推定消費電力量はバッテリーのSOC(ステートオブチャージ=電池の実際の使用範囲)のおよそ30%ぶん。除雪が追い付かないほどの豪雪に見舞われたり雪崩で道がふさがれたりといった目に遭っても、バッテリー残量をしっかりコントロールしておきさえすれば1日、うまくすれば2日持ちこたえられるものと思われた。
もちろんそれをもってドライブの障害なしとすることはできない。低温環境下では電費が大きく落ちるため、航続距離は大幅に短くなる。とくに走行抵抗の大きな圧雪路では、標準的な性能の急速充電器での30分充電1回分で走れるのは80km前後と、温暖期の6割程度にとどまった。程度の差こそあれ、圧雪路において燃費が大きく落ちるのは普通のクルマも同じだが、仮に航続800kmのクルマが雪道で480kmしか走れなかったとしても大した支障にはならない。が、航続400kmのクルマが240kmしか走れなくなると問題が大きくなってくる。何しろ地方部は日常生活における移動距離が都会に比べてはるかに長いのだ。リーフe+くらいの航続距離や急速充電受け入れ性があればまだいいが、シティカーのようなBEVは現状の性能では相当の不便を強いられるだろう。
それでも北国では使い物にならないというのはBEVの宿命で解決不能というわけではなさそうだというのが筆者の印象。現時点ではバッテリーの性能が低く、コストが高いから無理が生じるのであって、技術革新によって性能不足が埋まればおそらく解消に向かうであろう性質のものだ。リチウムイオン電池BEVの黎明期に散々酷評されたバッテリーの低温特性の悪さがまがりなりにも相当の改善をみていたという一点を取っても、今後のさらなる進歩に期待したいという気にさせられるものがあった。
冬の平均電費はおよそ1割落ち?
では、ドライブの詳細について述べていこう。
横浜の日産自動車グローバル本社で車両を充電率100%で借り受け、自宅がある東京・葛飾区で準備を整えた後、夜の10時に長旅をスタートさせた。
南国・鹿児島出身の筆者は雪国の暮らしについては言うまでもなくズブの素人だ。が、若い頃にスキーや冬山が好きだったことから、耐寒装備についての知識は少しはある。着氷を落とすためのスコップ、ゴムハンマー、ワイパーの3点セット、古くてかさばるが適応温度マイナス20度の冬山用寝袋、ウィンタートレッキング用のウェア…一人旅なのに結構荷物がかさばるが、転ばぬ先の何とやらだ。
まずは国道4号線奥州街道を栃木・宇都宮までひたすら北上。リーフe+は新世代の高速な200A充電器に対応しているのだから、充電ウェイポイントはそのスペックの充電器があるところを選びたい。夏季なら横浜から380km先の山形まで十分届くであろうが、冬であれば300km以内の福島・郡山あたりかと目星をつけた。
真夜中の4号線は交通量が少なく、流れがとても良い。寒波の襲来に旅程を合わせたのだが、期待通り利根川を渡って茨城県に入る前にすでに気温は氷点下に低落した。宇都宮の気温は氷点下2度で、ここまでの平均電費は6.2km/kWh。夏に比べて概ね1割落ちといったところだろう。
宇都宮インターチェンジから東北自動車道に乗る。ここから郡山の手前までは気温がマイナス5度~マイナス7度で推移。天気はまだ良好で、満点の星空だ。電動車はハイブリッドカーからBEV、FCEV(燃料電池電気自動車車)までもれなく平均車速の上昇とエネルギー消費量の増大の正の相関関係が非常に強い傾向がある。平均電費計値はどんどん落ちていくが、低温のせいばかりでなく、きっちり実速度100km/hでクルーズしたことも影響したものと考えられる。
マイナス5度で初の充電、「出力制限中」に翻弄される
郡山のルノー=日産ショールームに着いたときの走行距離は263.0kmで、電費計値は5.5km/kWh。バッテリーの充電率は10%。夏季に新東名やバイパスなどを使って横浜から370.0km走行して7%残だったのに対して、航続は概ね4分の3といったところだ。この郡山の200A急速充電器は馴染み深い新電元の公称90kW機(450V×200A)ではなく、シグネットというメーカーの公称100kW機だった。が、リーフe+の充電電圧はおおむね350~390Vくらいなので、最高電圧が違っても充電速度は変わらないはずだ。
気温マイナス5度(オンボード表示マイナス4度)という低温で、第1回目の充電を開始してみた。新電元の装置と異なり、シグネットの装置は電圧、電流の値ではなく、結果としての電力と充電済み電力量が表示される。最高値は充電率が10%から16%に回復したときの72.6kW。かりにこの出力で30分フルに充電されるとしたらロスを考慮しても充電電力量は35kWhくらいになるのだが、充電率回復とともに電流が絞られていくので実際にはもっと低い値になる。
それでも30kWhオーバーは十分に期待できると思ったが、異変が起こったのは充電開始後26分頃。それまで50kW以上の電力が維持されていたのが突然20kW台に落ち、出力制限中という表示が出たのだ。「管理者にご連絡ください」って真夜中にどうしようもないだろう、一体何が起こったのか…といぶかりつつ30分完走させた。充電電力量は28.6kWh。30kWhという目算には届かなかった。
充電を終え、さらに北を目指す。福島の手前、二本松あたりで雪がチラつきはじめた。雪国へと突入する実感が少しずつわいてくる。福島インターチェンジで東北自動車道に別れを告げ、山形、秋田へと向かう東北中央道に乗った。奥羽山脈を縦貫する全長9km近い栗子トンネルを抜けると、気候は一気に日本海側のものになる。ケッペンの気候区分では東北は温帯に属するのだが、日本海で十分に湿気を蓄えた季節風が奥羽山脈に吹き付けるため、平地でも降雪量は一般的な気候区分に当てはまらないほど多い。いよいよウィンタードライブの本番である。
と言っても、米沢~山形あたりまではまだ雪が本降りになっていなかったこともあって、路面はウェット。気温はマイナス4度だが、融雪剤や道路の解氷システムが効果を発揮していた。それでもBEVはウェットでも電費は顕著に低下する傾向があり、郡山から山形までの区間は電費5.2km/kWhに悪化した。郡山から山形までの走行距離は137.4kmで電力残は11%。郡山で28.6kWhも充電したことを考えるとさすがに厳しさが増してきたという感があった。
山形市の日産ディーラーに設置されていた200A充電器も郡山と同じシグネットというブランドの公称100kW機。気温は福島と同じく実測マイナス5度。今度はうまく行ってくれよ…10分経過、OK。20分経過、OK。ところがである、やはり20分台半ばで異常が起こる。今度は電力がわずか0.4kWに落ちた。コードレス掃除機を充電するんじゃないんだよと半分呆れながら、今度は30分を待たずして充電を終了させた。ディスプレイに表示された充電電力量は27.1kWだった。
トラクションコントロールの優秀さに感動
山形市を出てからは徐々に圧雪路が増えてきた…というより、この時点では青森まで行くかどうか迷っており、山形で低温&大雪時のドライブを完結させられれば、それはそれでいいかと思っていたので、意図的に圧雪路になっていそうなルートを走ったのだった。まずは松尾芭蕉の「閑かさや岩にしみ入る蝉の声」の句で超有名な山寺。筆者は知らなかったのだが、何と厳冬期でも登山道は閉鎖されておらず、参拝可能なのだそうだ。しまった、こんなことならもっと早くスタートして睡眠十分な状態でたどり着くべきだったか。冬参拝のリベンジを誓いつつその場を離れた。
次に訪れたのは豪雪温泉として知られる肘折温泉。秘境国道458号線は寒河江~肘折間は冬季閉鎖となっているが、新庄~肘折間は通年除雪されており、スタッドレスタイヤを履いていれば十分通行可能だ。山寺、肘折ともアクセスロードは圧雪だったが、天候は肘折到着までは小雪がチラつく程度で晴れ間ものぞく穏やかな状態。リーフはFWD(前輪駆動)のみでAWD(4輪駆動)がラインナップされていないが、普通の圧雪路ならFWDでも困ることはない。途中、強風による地吹雪で軽くホワイトアウトという局面もあったが、難なく肘折温泉にたどり着くことができた。
ぬるめの温泉にゆっくりと浸り、湯上りに酒粕を混ぜてあるというこってり味のきのこ汁を食べてさらに温まり、さあドライブの続きだと外に出てみたら、状況は来るときとは一変していた。公共浴場から駐車場まで歩く間に真っ白になってしまうような雪で、路面を粉雪がどんどん覆っていく。肘折温泉はカルデラで、そこから脱出するには急勾配の坂を登らなければいけない。「雪質はパウダー」などと深夜ラジオのスキー場情報を耳にするとときめくタチだが、果たして登り坂で前輪への荷重のかかりが小さくなるFWDで問題なく登れるのか。
ここで感動したのがリーフのトラクションコントロールの優秀さだ。エンジンパワーとの混合がない純電気モーター駆動は駆動力を高精度にコントロールできるのが特徴のひとつだが、リーフはFWDであるにもかかわらず、アクセルペダルを踏みこむだけで車輪が空転するかしないかギリギリのところを維持して自動的にアイスバーン+パウダースノーの急坂を登って行った。トヨタ自動車の豊田章男社長は電動化に関する会見でBEVのメリットが発揮されるであろう分野のひとつにオフロードを挙げていたが、さもありなんという感じだった。
充電、電費ともに先代リーフとは雲泥の差
これまでは雪国ドライブのほんのプロローグにすぎなかったのかと、青森まで足を伸ばすことに決めた。不安は充電と航続距離のみ。何となれば、東北は当然のことながらBEVの販売台数が少なく、強力な200A充電器の設置数も少ないからだ。
山形市での充電から123.9km走行後、バッテリーの充電残10%で山形県北部の新庄で充電。ここの充電器は最大電流125Aの公称50kWと高速型ではないが、実測マイナス4度の中30分間にわたって電流121Aが維持され、充電電力量表示は温暖期とほぼ同等の21.7kWhを確保。寒冷時にアンペア数が絶望的に低くなることもままあった昔のリーフとはまさしく雲泥の差である。
平均電費計値は4.8km/kWhだったが、前回の郡山~山形、今回の山形~新庄と2回続けて実際よりプラスに表示された。温暖期は信頼性が高かったのだが、寒冷地ではこういう癖なのではないかという可能性を視野に入れてドライブを続けることにした。ちなみにここまでの3回の充電から推定される寒冷時のバッテリーSOCは54~55kWh。温暖期が推定58kWh程度だったのに対して6%程度の減少。こちらも昔に比べると落ち幅はずっと少ない。課題は内燃機関車に比べて寒冷時の下落幅が大きい電費をどう向上させるかだ。それだけでも雪国でのパフォーマンスは劇的に改善されるだろう。
新庄を出発するときはすでにナイトセッションに入っていた。昼間より雪雲の間隔が詰まってきて軽く吹雪きはじめ、東北中央道も全面圧雪となっていた。狭い日本とよく言われるが、本州、九州、四国、北海道の四島ではそれぞれ雰囲気がまるで異なるし、県境、さらには江戸時代の国境を越えるときも風土、気質、景観がガラっと変わる。ロングドライブレポートのたびにそれを実感するのだが、今回は滅多に行く機会のない真冬の出羽路。県境近くの夜の東北中央道は交通量は僅少。除雪でできた雪壁の上に路肩を示す緑のランプが吹雪を透かして明滅する中を走っていると、同じ雪国でも羽前、羽後と国が変わると空気もまた変わるのだということをことさら強く実感させられた次第だった。
(後編へ続く)
が、実際にパフォーマンスの低下が使い勝手にどのような影響があるのかということは、実際に旅をしてみないとわからない。ということで、寒波が到来するタイミングを意図的に狙って日産のBEV、第2世代『リーフ』で厳寒期の東北ツーリングを行ってみた。
ロードテスト車は総容量62kWhの大容量電池パックを積んだ『リーフe+』。タイヤはブリヂストンの最新鋭スタッドレスモデル「ブリザック VRX3」。ちなみに筆者、まったく同じ個体で温暖期に横浜~鹿児島ツーリングを行っており、その時には往路1417.2kmを高速な200アンペア充電器(公称出力90kW)のみを使うことで途中充電6回で乗り切っている。
ドライブルートは横浜を出発し、国道4号線、東北自動車道、東北中央自動車道などを経由して山形、秋田と進み、途中山形の肘折温泉、青森の酸ヶ湯温泉の2大豪雪温泉に立ち寄りながら青森市へ。帰路は八戸から先般全線開通した三陸道、国道6号線などを通って横浜に帰着、というもので、総走行距離は1886.1km。
道路種別の大まかな割合は市街地1、郊外路4、三陸道や東北中央道新直轄区間などの無料区間を含めた高速4、山岳路1。路面コンディションはドライ6、ウェット1、圧雪orシャーベット路3。気温は出発後に埼玉東部で0度を下回って以降、帰路に茨城に到達するまで昼夜問わず氷点下で、最低気温は秋田・大館のマイナス12.3度。全区間1名乗車、エアコンはAUTOとデフロスター暖房を適宜使い分けた。またツーリング中、暖房およびシートヒーター使用でのオーバーナイトを3回こなし、ビバークにどのくらいの消費電力量が必要かもみてみた。
まず、リーフe+での冬季ロングツーリングの印象を簡単に箇条書きにしてみよう。
1. 電力消費率は氷点下3度あたりを境に落ち込みが大きくなる。
2. 走行抵抗が増大する圧雪路では航続性能に神経を使う。
3. 急速充電のスピード自体は夏季と大して変わらないくらい出る。
4. クルマに熱源がほぼないためか、普通のクルマに比べて着氷が甚だしい。
5. 暖房ONでのビバークの消費電力は6時間あたり推定4.4kWと意外に少ない。
6. 電動パワートレインのトラクションコントロールは雪上、アイスバーンで絶大な威力。
寒冷地でBEVは使い物にならないのか
ではインプレッションに入っていこう。寒冷地におけるリーフe+の使い勝手だが、温暖期と同じような感覚で走ることは到底できないものの、事前に予想していたよりはずっと使えるという印象だった。
ドライブ前、最大の逆風要因になると考えていたのは充電。筆者は今回ほどの低温環境ではなかったが過去に第1世代リーフ後期型で1200km、三菱『i-MiEV(アイミーブ)』で650km、第2世代リーフの40kWh版で3300kmと3度、寒冷期にBEVでの長距離ドライブを試しているが、いずれも温暖期に比べて充電速度の低下が顕著だった。が、今回は少なくとも気温マイナス11度までの範囲においては同じ車両で温暖期に横浜~鹿児島ツーリングを行ったときと比較しても下落幅は数%。苦戦を予想していただけに拍子抜けした気分であった。
ここ数年頻発している豪雪での立往生事案で懸念の声が上がっているBEVでのビバークについてもテストしてみたが、これも予想よりはるかに負荷が小さくてすんだ。24時間の推定消費電力量はバッテリーのSOC(ステートオブチャージ=電池の実際の使用範囲)のおよそ30%ぶん。除雪が追い付かないほどの豪雪に見舞われたり雪崩で道がふさがれたりといった目に遭っても、バッテリー残量をしっかりコントロールしておきさえすれば1日、うまくすれば2日持ちこたえられるものと思われた。
もちろんそれをもってドライブの障害なしとすることはできない。低温環境下では電費が大きく落ちるため、航続距離は大幅に短くなる。とくに走行抵抗の大きな圧雪路では、標準的な性能の急速充電器での30分充電1回分で走れるのは80km前後と、温暖期の6割程度にとどまった。程度の差こそあれ、圧雪路において燃費が大きく落ちるのは普通のクルマも同じだが、仮に航続800kmのクルマが雪道で480kmしか走れなかったとしても大した支障にはならない。が、航続400kmのクルマが240kmしか走れなくなると問題が大きくなってくる。何しろ地方部は日常生活における移動距離が都会に比べてはるかに長いのだ。リーフe+くらいの航続距離や急速充電受け入れ性があればまだいいが、シティカーのようなBEVは現状の性能では相当の不便を強いられるだろう。
それでも北国では使い物にならないというのはBEVの宿命で解決不能というわけではなさそうだというのが筆者の印象。現時点ではバッテリーの性能が低く、コストが高いから無理が生じるのであって、技術革新によって性能不足が埋まればおそらく解消に向かうであろう性質のものだ。リチウムイオン電池BEVの黎明期に散々酷評されたバッテリーの低温特性の悪さがまがりなりにも相当の改善をみていたという一点を取っても、今後のさらなる進歩に期待したいという気にさせられるものがあった。
冬の平均電費はおよそ1割落ち?
では、ドライブの詳細について述べていこう。
横浜の日産自動車グローバル本社で車両を充電率100%で借り受け、自宅がある東京・葛飾区で準備を整えた後、夜の10時に長旅をスタートさせた。
南国・鹿児島出身の筆者は雪国の暮らしについては言うまでもなくズブの素人だ。が、若い頃にスキーや冬山が好きだったことから、耐寒装備についての知識は少しはある。着氷を落とすためのスコップ、ゴムハンマー、ワイパーの3点セット、古くてかさばるが適応温度マイナス20度の冬山用寝袋、ウィンタートレッキング用のウェア…一人旅なのに結構荷物がかさばるが、転ばぬ先の何とやらだ。
まずは国道4号線奥州街道を栃木・宇都宮までひたすら北上。リーフe+は新世代の高速な200A充電器に対応しているのだから、充電ウェイポイントはそのスペックの充電器があるところを選びたい。夏季なら横浜から380km先の山形まで十分届くであろうが、冬であれば300km以内の福島・郡山あたりかと目星をつけた。
真夜中の4号線は交通量が少なく、流れがとても良い。寒波の襲来に旅程を合わせたのだが、期待通り利根川を渡って茨城県に入る前にすでに気温は氷点下に低落した。宇都宮の気温は氷点下2度で、ここまでの平均電費は6.2km/kWh。夏に比べて概ね1割落ちといったところだろう。
宇都宮インターチェンジから東北自動車道に乗る。ここから郡山の手前までは気温がマイナス5度~マイナス7度で推移。天気はまだ良好で、満点の星空だ。電動車はハイブリッドカーからBEV、FCEV(燃料電池電気自動車車)までもれなく平均車速の上昇とエネルギー消費量の増大の正の相関関係が非常に強い傾向がある。平均電費計値はどんどん落ちていくが、低温のせいばかりでなく、きっちり実速度100km/hでクルーズしたことも影響したものと考えられる。
マイナス5度で初の充電、「出力制限中」に翻弄される
郡山のルノー=日産ショールームに着いたときの走行距離は263.0kmで、電費計値は5.5km/kWh。バッテリーの充電率は10%。夏季に新東名やバイパスなどを使って横浜から370.0km走行して7%残だったのに対して、航続は概ね4分の3といったところだ。この郡山の200A急速充電器は馴染み深い新電元の公称90kW機(450V×200A)ではなく、シグネットというメーカーの公称100kW機だった。が、リーフe+の充電電圧はおおむね350~390Vくらいなので、最高電圧が違っても充電速度は変わらないはずだ。
気温マイナス5度(オンボード表示マイナス4度)という低温で、第1回目の充電を開始してみた。新電元の装置と異なり、シグネットの装置は電圧、電流の値ではなく、結果としての電力と充電済み電力量が表示される。最高値は充電率が10%から16%に回復したときの72.6kW。かりにこの出力で30分フルに充電されるとしたらロスを考慮しても充電電力量は35kWhくらいになるのだが、充電率回復とともに電流が絞られていくので実際にはもっと低い値になる。
それでも30kWhオーバーは十分に期待できると思ったが、異変が起こったのは充電開始後26分頃。それまで50kW以上の電力が維持されていたのが突然20kW台に落ち、出力制限中という表示が出たのだ。「管理者にご連絡ください」って真夜中にどうしようもないだろう、一体何が起こったのか…といぶかりつつ30分完走させた。充電電力量は28.6kWh。30kWhという目算には届かなかった。
充電を終え、さらに北を目指す。福島の手前、二本松あたりで雪がチラつきはじめた。雪国へと突入する実感が少しずつわいてくる。福島インターチェンジで東北自動車道に別れを告げ、山形、秋田へと向かう東北中央道に乗った。奥羽山脈を縦貫する全長9km近い栗子トンネルを抜けると、気候は一気に日本海側のものになる。ケッペンの気候区分では東北は温帯に属するのだが、日本海で十分に湿気を蓄えた季節風が奥羽山脈に吹き付けるため、平地でも降雪量は一般的な気候区分に当てはまらないほど多い。いよいよウィンタードライブの本番である。
と言っても、米沢~山形あたりまではまだ雪が本降りになっていなかったこともあって、路面はウェット。気温はマイナス4度だが、融雪剤や道路の解氷システムが効果を発揮していた。それでもBEVはウェットでも電費は顕著に低下する傾向があり、郡山から山形までの区間は電費5.2km/kWhに悪化した。郡山から山形までの走行距離は137.4kmで電力残は11%。郡山で28.6kWhも充電したことを考えるとさすがに厳しさが増してきたという感があった。
山形市の日産ディーラーに設置されていた200A充電器も郡山と同じシグネットというブランドの公称100kW機。気温は福島と同じく実測マイナス5度。今度はうまく行ってくれよ…10分経過、OK。20分経過、OK。ところがである、やはり20分台半ばで異常が起こる。今度は電力がわずか0.4kWに落ちた。コードレス掃除機を充電するんじゃないんだよと半分呆れながら、今度は30分を待たずして充電を終了させた。ディスプレイに表示された充電電力量は27.1kWだった。
トラクションコントロールの優秀さに感動
山形市を出てからは徐々に圧雪路が増えてきた…というより、この時点では青森まで行くかどうか迷っており、山形で低温&大雪時のドライブを完結させられれば、それはそれでいいかと思っていたので、意図的に圧雪路になっていそうなルートを走ったのだった。まずは松尾芭蕉の「閑かさや岩にしみ入る蝉の声」の句で超有名な山寺。筆者は知らなかったのだが、何と厳冬期でも登山道は閉鎖されておらず、参拝可能なのだそうだ。しまった、こんなことならもっと早くスタートして睡眠十分な状態でたどり着くべきだったか。冬参拝のリベンジを誓いつつその場を離れた。
次に訪れたのは豪雪温泉として知られる肘折温泉。秘境国道458号線は寒河江~肘折間は冬季閉鎖となっているが、新庄~肘折間は通年除雪されており、スタッドレスタイヤを履いていれば十分通行可能だ。山寺、肘折ともアクセスロードは圧雪だったが、天候は肘折到着までは小雪がチラつく程度で晴れ間ものぞく穏やかな状態。リーフはFWD(前輪駆動)のみでAWD(4輪駆動)がラインナップされていないが、普通の圧雪路ならFWDでも困ることはない。途中、強風による地吹雪で軽くホワイトアウトという局面もあったが、難なく肘折温泉にたどり着くことができた。
ぬるめの温泉にゆっくりと浸り、湯上りに酒粕を混ぜてあるというこってり味のきのこ汁を食べてさらに温まり、さあドライブの続きだと外に出てみたら、状況は来るときとは一変していた。公共浴場から駐車場まで歩く間に真っ白になってしまうような雪で、路面を粉雪がどんどん覆っていく。肘折温泉はカルデラで、そこから脱出するには急勾配の坂を登らなければいけない。「雪質はパウダー」などと深夜ラジオのスキー場情報を耳にするとときめくタチだが、果たして登り坂で前輪への荷重のかかりが小さくなるFWDで問題なく登れるのか。
ここで感動したのがリーフのトラクションコントロールの優秀さだ。エンジンパワーとの混合がない純電気モーター駆動は駆動力を高精度にコントロールできるのが特徴のひとつだが、リーフはFWDであるにもかかわらず、アクセルペダルを踏みこむだけで車輪が空転するかしないかギリギリのところを維持して自動的にアイスバーン+パウダースノーの急坂を登って行った。トヨタ自動車の豊田章男社長は電動化に関する会見でBEVのメリットが発揮されるであろう分野のひとつにオフロードを挙げていたが、さもありなんという感じだった。
充電、電費ともに先代リーフとは雲泥の差
これまでは雪国ドライブのほんのプロローグにすぎなかったのかと、青森まで足を伸ばすことに決めた。不安は充電と航続距離のみ。何となれば、東北は当然のことながらBEVの販売台数が少なく、強力な200A充電器の設置数も少ないからだ。
山形市での充電から123.9km走行後、バッテリーの充電残10%で山形県北部の新庄で充電。ここの充電器は最大電流125Aの公称50kWと高速型ではないが、実測マイナス4度の中30分間にわたって電流121Aが維持され、充電電力量表示は温暖期とほぼ同等の21.7kWhを確保。寒冷時にアンペア数が絶望的に低くなることもままあった昔のリーフとはまさしく雲泥の差である。
平均電費計値は4.8km/kWhだったが、前回の郡山~山形、今回の山形~新庄と2回続けて実際よりプラスに表示された。温暖期は信頼性が高かったのだが、寒冷地ではこういう癖なのではないかという可能性を視野に入れてドライブを続けることにした。ちなみにここまでの3回の充電から推定される寒冷時のバッテリーSOCは54~55kWh。温暖期が推定58kWh程度だったのに対して6%程度の減少。こちらも昔に比べると落ち幅はずっと少ない。課題は内燃機関車に比べて寒冷時の下落幅が大きい電費をどう向上させるかだ。それだけでも雪国でのパフォーマンスは劇的に改善されるだろう。
新庄を出発するときはすでにナイトセッションに入っていた。昼間より雪雲の間隔が詰まってきて軽く吹雪きはじめ、東北中央道も全面圧雪となっていた。狭い日本とよく言われるが、本州、九州、四国、北海道の四島ではそれぞれ雰囲気がまるで異なるし、県境、さらには江戸時代の国境を越えるときも風土、気質、景観がガラっと変わる。ロングドライブレポートのたびにそれを実感するのだが、今回は滅多に行く機会のない真冬の出羽路。県境近くの夜の東北中央道は交通量は僅少。除雪でできた雪壁の上に路肩を示す緑のランプが吹雪を透かして明滅する中を走っていると、同じ雪国でも羽前、羽後と国が変わると空気もまた変わるのだということをことさら強く実感させられた次第だった。
(後編へ続く)
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「めっちゃカッコいい」新型レクサス『ES』のデザインにSNSで反響
2024.11.21
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光岡、話題の55周年記念車『M55』を市販化、100台限定で808万5000円
2024.11.21
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日本発の「ペダル踏み間違い防止装置」、世界標準へ…国連が基準化
2024.11.21
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MORIZO on the Road