【プジョー 308 海外試乗】ついに『ゴルフ』を超えた? PHEVもICEも甲乙つけがたい完成度…南陽一浩

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キア『EV6』が2022年の欧州COTYを韓国車として初めて獲得したことは既報の通り。2位ルノー『メガーヌE-テック』と3位ヒュンデ『アイオニック5』という3台のBEVが、わずか18点以内の得票差の中に収まっており、BEVが票を集めやすかった雰囲気はあっただろう。

トップのキアEV6とは87点差ながら、4位で非BEVとしては首位、7人の審査員から最高得票を集めたのが、昨年の秋口よりフランス本国でデリバリーが始まったプジョーの新しい『308』だ。

あくまでBEVもひとつの選択肢、というスタンス
2世代目は2014年の欧州COTY受賞モデルで、今回のフルモデルチェンジで3世代目を数える308。ステランティス・グループとなった旧PSAが掲げてきた「パワー・オブ・チョイス」のポリシー通り、PHEVとガソリン、ディーゼルという3種類のパワートレインを用意してユーザーの選択に任せるが、2023年にBEVを追加することをアナウンスしている。今のところ純BEVのみの上位3車種と異なり、あくまでBEVもひとつの選択肢というデビュー戦略は、今どきの欧州車ながら珍しい、というか、はっきり異なる。

新しい308の開発コンセプトは、「魅力的なサルーン性」「ハイパーな表現性」「飽くなきエフィシェンシー追求」「リアル品質」など多岐にわたる一方で、ラインナップ構成は明快だ。当初よりハッチバックとステーションワゴンたる「SW」というふたつの車型を揃えた。

日本導入の可能性がある8速ATパワートレインは、ハイブリッドが225ps仕様と180ps仕様の2種類、ガソリンは1.2リットルターボの「ピュアテック130」、ディーゼルは1.5リットルの「BlueHDi 130」となる。PHEVは「GT」というハイエンド版として225ps仕様が濃厚だろう。いずれも上位モデルの『508ハイブリッド』や従来の308で既出のパワートレインだが、最新世代だけにリチウムイオンバッテリー容量は12.4kWhへ拡大され、ICE版もユーロ6cまたは6.3と呼ばれる最新の規制に対応している。

ハッチバック&SWのパッケージング
まずハッチバックだが先代比でホイールベースは+55mm拡大し、2675mmとなった。この数値はグループ内の兄弟モデルである『DS 4』と同じで、PHEV用バッテリーを後車軸の真上に収められただけでなく、2世代目308の数少ない欠点とされた後席の足元スペースの狭さを改善するためでもある。

また本国での認証値での外寸は、全長4367×全幅1852×全高1441mm。ロングホイールベース化で伸びやかなプロポーションに。現行308は全幅1805mmなので、かなりワイド化したようだがボディパネルを構造骨格に可能な限り寄せることで、肥大化を避けつつ筋肉質なデザインにまとめたと、商品開発担当のヴェラ・シャルパンティエ氏は胸を張る。

ステーションワゴン版である308SWの外寸は4636×1852×1444mm、ホイールベース2732mmで、ルーフレール分だけハッチバックより高い程度で、ホイールベース拡張分が荷室容量にも充てられている。PHEVモデルでも荷室フロア高が上がらず、ハッチバックで361リットル、SWで548リットルの荷室容量を実現しており、ICE版ならフロア下までどちらも+50リットル強ほど容量増、といった具合だ。

しかもSWのリアシートは4・2・4分割式が採用されている。今世代の308のプラットフォームは、「EMP2 evo.3(エヴォ・トロワ)」と呼ばれ、先代の用いたEMP2の延長線上にあるが、パッケージング上で守るべき機能性は確保しつつ、刷新すべきは大幅に刷新されているのだ。

アタマふたつ抜きん出た車載インフォテイメント
その最たるものはインテリア。プジョーの代名詞ともなったi-コクピットの最新世代は、アーキテクチャごと改め、「AQS(エア・クオリティ・システム)」という温度だけでなく空気の質まで最適化コントロールするエアコンを備えるに至った。ダッシュボードからセンターコンソールにかけての意匠も、配置は先代308をどことなく踏襲しながら、より近未来的に洗練され、精緻な質感を高めている。シフトレバーは消え、代わりにe-トグルと呼ばれるスライド式シーケンシャルのシフトとなった。

インターフェイス面で最大の変化は、クアルコムとハーマン・インターナショナルが開発に関わった、まったく新世代のインフォテイメント・システムとOSだ。メインの10インチワイドのタッチスクリーンと手前のタッチ式トグルは当然、ステアリング上から視認するメーターパネルの3Dデジタル表示と連携する。しかも今世代からすべての機能が日本語にも完全対応する予定だ。

タッチスクリーンに3本指で触れれば、アプリ一覧が呼び出せる。それらを長押ししてドラッグし、ホーム+5つの機能が割り当てられるタッチ式トグル上にリリースすれば、タスクローンチャーとしての編集も簡単だ。アプリだけでなく、自宅や勤め先など特定の電話番号に発信するとか、ナビ上の住所を設定することも可能。ホームボタンはドライバーにもっとも近い位置で、タッチ式トグル列の下にはハザードランプなど物理的ボタンのトグル列もあり、きわめて直観的で扱いやすい。

他社の車載インフォテイメントを見渡してみても、現時点でアタマふたつほど抜きん出た、直観的で扱い易いインターフェイスといえる。当然、ダッシュボード周りの扱い易さは、ドライバーがさらにドライビングに集中することを可能ならしめる。

PHEV、ガソリン、ディーゼル、それぞれに強い個性
ハッチバックのハイブリッド225、GT仕様は、PHEVゆえに車重は1633kgと、フランス車としてはかなり重いので、乗る前は心配した。ところがいざ走り出すと、重さで鈍くなりそうなところが電気モーターの強大で鋭いレスポンスに補われ、1.6リットル直4ターボの伸びを、ここぞという場面で解き放てる、そんなパワーバンドの広さが際立っていた。

電気もICEも前輪を駆動するが、どちらのトルクにのっているかは、ドライブモードがノーマルでもスポーツでも、境目を感じづらいほど自然。低速域のステアリング応力はずいぶん軽いが、徹頭徹尾、ニュートラル感が高い。プジョーらしさを、角のないストローク豊かな足さばきと、鋭くもしなやかな動的質感、さらにスポーティながら居住性の高いインテリアに求めるなら、ハイブリッド225のGTは、これぞまさしく、という出来映えだ。

鼻先の動きの軽さとコーナリングの愉しさという点では、1.2リットルターボ、ガソリン3気筒のピュアテック130がすこぶるいい。そう確信した次にDV5ことBlueHDi 130に乗り換えると、ディーゼルらしからぬノーズの軽さと鋭いキレ、そしてディーゼルならではの太いトルクによるパンチ力が俄然、魅力的になってくる。要はどのパワートレインにも固有の魅力どころか、プラスアルファ以上の何かが付きもので、ベストを選ぶのに迷ってしまうのだ。

今回はSWでも、Hybrid225とディーゼルのBlueHDi 130を試した。ハッチバックより穏やかでスタビリティ優先のキャラはSWの基本といえるが、静粛性に優れる前者と、巡航時の乗り心地の優しさで上回る後者の間で、甲乙つけがたい。PHEVの最大レンジは約60kmとなっているが、おそらくは省燃費性で選ばれるディーゼルかつアリュール仕様の比率が、SWでは高まるだろう。プジョー自体は成熟市場におけるハッチバック/SWの比率を、65/35と予想している。

どのパワートレインを選んでも、セミオートの車線変更機能を含む「ドライブアシスト2.0」と名づけられた最新鋭ADASや、バックモニターなどセンシングによる補助機能は充実している。

VWゴルフをはっきり超えている部分すらある完成度
新しい308は今起きている市場やユーザーの好みの変化を、単なるEV化やスマホ的デジタル化志向ではなく、パワートレインの多様化と移動体験の質を高めることと、じつに生真面目に捉えている。自分が「どう使う/どう走りたいか」を知っている乗り手にとっては、新しい308はすこぶる完成度の高い一台となるし、欧州市場で長年のライバルであるVW『ゴルフ』、とくに8世代目を、はっきり超えている部分すらある。「まさか」と思う人こそ、実際に体験してみるべきだ。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★

南陽一浩|モータージャーナリスト
1971年生まれ、静岡県出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーランスのライターに。2001年より渡仏し、パリを拠点に自動車・時計・服飾等の分野で日仏の男性誌や専門誌へ寄稿。現在は活動の場を日本に移し、一般誌から自動車専門誌、ウェブサイトなどで活躍している。

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