【マツダ MX-30 EV 新型試乗】実質航続200km以下のBEVをファーストカーにできるか…中村孝仁
2021年3月に登場した『MX-30』のBEV(電気自動車)モデル。デビュー当時に試乗はしたのだが、電気自動車はやはり数日使ってみてナンボということで、再度試乗した。
電気自動車を内燃機関車と同等に扱うことはできない
とかく我々はメーカーの代弁者になりがちである。理由はメーカーの提供してくれる資料に基づいて原稿を書くからだ。もちろんメーカーの発表することに嘘偽りがあるわけではないが、クルマの仕様はメーカーの都合によって決められ、最終的にそれを使うユーザーの都合にはあまり触れていないところもある。その最たる乗り物が今は電気自動車のような気が、最近はしている。
どういうことかというと、今、そもそも電気自動車を内燃機関車と同等に扱うことはできない。その理由は燃料、即ち電気を充電する際の時間、および充電施設が内燃機関車と比べると圧倒的に不利だからだ。例えば充電。家庭に充電設備があるところはまだよい。集合住宅に住んでいるユーザーは、自分で勝手に充電設備をつけるわけにもいかず、もし乗るとしたら、市中の充電施設に頼らざるを得ない。だが、急速充電を使ったところで80%充電するのに40分かかるという。
それに急速充電が可能な場所はおいそれとは見つからないし、仮にあっても先客がいれば当然その待ち時間を考慮しなくてはならないから、内燃機関車と違って、急いで出かけなくてはならない時に充電量が十分でなければ使えないということになる。血液型がA型の人(一般的な話)のように、あらかじめ計画的に物事が進められる人なら良いが、私のようにちゃらんぽらんで思い付きで行動する人間にとっては全く不向きである(ちなみに私はAB型だ)。
メーカーの都合によって決められた仕様というのは、このクルマのバッテリー容量である。35.5kwhは、決して大容量とは言えないがマツダの説明はディーゼル車並みのCO2排出量とするためにはこのサイズのバッテリー容量に抑えないと駄目だから、という。確かに環境コンシャスなのかもしれないが、それを使うのはユーザーだ。初めて試乗した時はその説明に納得して賛同はしてみたものの、それからほぼ1年近くたって、急速に登場してきた他銘柄の電気自動車に乗ると、良いところや悪いところが見えてくる。
「MX-30」の○と×
まずは良いところから行こう。クルマの出来はすこぶる良いと感じる。トーションビームアクスルという形式のリアサスペンションを持つプラットフォームは同じ形式の他のマツダ車と比べて群を抜いて乗り心地が良く、独特なフリースタイルドアという、後部ドアが後ろヒンジで開く機構を持つボディは剛性感が高くソリッドな運転感覚をもたらしてくれる。1650kgに対して、145ps、270Nmというモーターの性能はまあ平均的というか必要にして十分なもの。何よりほかのマツダ車と比べてそのハンドリングがシャープに感じられるところもよい。
内装の作りは独特でマツダの前身、東洋コルク工業で作っていたコルクを内装材に使うなどの特徴を見せているのは個人的には大いに評価したい。それにスタイリングも好感が持てる。
では一方で負の側面はというと、やはり航続距離の問題だ。クルマをマツダからお借りした時点で走り出す前は航続距離202kmを指していた。ところがものの2~3kmほど走ったところで確認すると、いきなり170kmである。一気に30km減ってしまった。一応WLTCの航続距離は256kmとされているが、それは到底無理としてせめて200km程度はと思っていたが、どうやらそれも無理そうだ。撮影のために30kmほど走って確認するとすでに航続距離は135kmに落ちていた。これだと心穏やかではない。
せっかちな日本人の性格にBEVは合わない?
最近はだいぶこの電気自動車の航続距離に慣れてきて、以前ほどの焦りは感じなくなったが、135kmといえばガソリン車ならそろそろ燃料計が赤枠に入るレベル。これがセカンドカーで、日常の買い物などに使うクルマだと考えれば必要十分だが、このクルマのお値段は税込みで495万円。試乗車は特別色塗装分を加えて506万円の正札が付く。
確かに補助金も出るし、マツダの残価設定ローンを使えばだいぶお安く買えるのだが、それでもこれはファーストカーに支払う対価ではないかと思う。それがたまのお休みに遠出をしたいと思っても、かなり計画的に出かけないと下手をすると帰ってこられないとなると問題である。
日本でBEVが普及しない背景にはこのインフラの問題と充電時間の長さが、せっかちな日本人の性格にマッチしていないからではないかと思う。それに日本の電源構成を考えても、いきなりBEVは無理な相談だ。やはり最低限、レンジエクステンダーで最寄りも充電施設まで安心して走行できる保険をかけておかないと、航続距離が実質200km以下のBEVはファーストカーとしては使えない。
クルマが良くできているだけに悩ましい選択である。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来44年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。
電気自動車を内燃機関車と同等に扱うことはできない
とかく我々はメーカーの代弁者になりがちである。理由はメーカーの提供してくれる資料に基づいて原稿を書くからだ。もちろんメーカーの発表することに嘘偽りがあるわけではないが、クルマの仕様はメーカーの都合によって決められ、最終的にそれを使うユーザーの都合にはあまり触れていないところもある。その最たる乗り物が今は電気自動車のような気が、最近はしている。
どういうことかというと、今、そもそも電気自動車を内燃機関車と同等に扱うことはできない。その理由は燃料、即ち電気を充電する際の時間、および充電施設が内燃機関車と比べると圧倒的に不利だからだ。例えば充電。家庭に充電設備があるところはまだよい。集合住宅に住んでいるユーザーは、自分で勝手に充電設備をつけるわけにもいかず、もし乗るとしたら、市中の充電施設に頼らざるを得ない。だが、急速充電を使ったところで80%充電するのに40分かかるという。
それに急速充電が可能な場所はおいそれとは見つからないし、仮にあっても先客がいれば当然その待ち時間を考慮しなくてはならないから、内燃機関車と違って、急いで出かけなくてはならない時に充電量が十分でなければ使えないということになる。血液型がA型の人(一般的な話)のように、あらかじめ計画的に物事が進められる人なら良いが、私のようにちゃらんぽらんで思い付きで行動する人間にとっては全く不向きである(ちなみに私はAB型だ)。
メーカーの都合によって決められた仕様というのは、このクルマのバッテリー容量である。35.5kwhは、決して大容量とは言えないがマツダの説明はディーゼル車並みのCO2排出量とするためにはこのサイズのバッテリー容量に抑えないと駄目だから、という。確かに環境コンシャスなのかもしれないが、それを使うのはユーザーだ。初めて試乗した時はその説明に納得して賛同はしてみたものの、それからほぼ1年近くたって、急速に登場してきた他銘柄の電気自動車に乗ると、良いところや悪いところが見えてくる。
「MX-30」の○と×
まずは良いところから行こう。クルマの出来はすこぶる良いと感じる。トーションビームアクスルという形式のリアサスペンションを持つプラットフォームは同じ形式の他のマツダ車と比べて群を抜いて乗り心地が良く、独特なフリースタイルドアという、後部ドアが後ろヒンジで開く機構を持つボディは剛性感が高くソリッドな運転感覚をもたらしてくれる。1650kgに対して、145ps、270Nmというモーターの性能はまあ平均的というか必要にして十分なもの。何よりほかのマツダ車と比べてそのハンドリングがシャープに感じられるところもよい。
内装の作りは独特でマツダの前身、東洋コルク工業で作っていたコルクを内装材に使うなどの特徴を見せているのは個人的には大いに評価したい。それにスタイリングも好感が持てる。
では一方で負の側面はというと、やはり航続距離の問題だ。クルマをマツダからお借りした時点で走り出す前は航続距離202kmを指していた。ところがものの2~3kmほど走ったところで確認すると、いきなり170kmである。一気に30km減ってしまった。一応WLTCの航続距離は256kmとされているが、それは到底無理としてせめて200km程度はと思っていたが、どうやらそれも無理そうだ。撮影のために30kmほど走って確認するとすでに航続距離は135kmに落ちていた。これだと心穏やかではない。
せっかちな日本人の性格にBEVは合わない?
最近はだいぶこの電気自動車の航続距離に慣れてきて、以前ほどの焦りは感じなくなったが、135kmといえばガソリン車ならそろそろ燃料計が赤枠に入るレベル。これがセカンドカーで、日常の買い物などに使うクルマだと考えれば必要十分だが、このクルマのお値段は税込みで495万円。試乗車は特別色塗装分を加えて506万円の正札が付く。
確かに補助金も出るし、マツダの残価設定ローンを使えばだいぶお安く買えるのだが、それでもこれはファーストカーに支払う対価ではないかと思う。それがたまのお休みに遠出をしたいと思っても、かなり計画的に出かけないと下手をすると帰ってこられないとなると問題である。
日本でBEVが普及しない背景にはこのインフラの問題と充電時間の長さが、せっかちな日本人の性格にマッチしていないからではないかと思う。それに日本の電源構成を考えても、いきなりBEVは無理な相談だ。やはり最低限、レンジエクステンダーで最寄りも充電施設まで安心して走行できる保険をかけておかないと、航続距離が実質200km以下のBEVはファーストカーとしては使えない。
クルマが良くできているだけに悩ましい選択である。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来44年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。
最新ニュース
-
-
ホンダ『プレリュード』、米国でも25年ぶりに復活へ…次世代ハイブリッド車として2025年投入
2024.12.22
-
-
-
名機・A型エンジン搭載の歴代『サニー』が集結…オールサニーズ・ミーティング
2024.12.22
-
-
-
軽自動車サイズの布製タイヤチェーン「モビルシュシュ」が一般販売開始
2024.12.22
-
-
-
スバル「ゲレンデタクシー」5年ぶり開催へ、クロストレックHVが苗場を駆ける
2024.12.22
-
-
-
「カスタマイズは人生に彩りを与える」、東京オートサロン2025のブリッツは『MFゴースト』推し
2024.12.22
-
-
-
ヒョンデの新型EV『インスター』、東京オートサロン2025で日本初公開へ
2024.12.22
-
-
-
スズキ『スイフト』新型のツートンカラーが「オートカラーアウォード2024」特別賞に
2024.12.21
-
最新ニュース
-
-
ホンダ『プレリュード』、米国でも25年ぶりに復活へ…次世代ハイブリッド車として2025年投入
2024.12.22
-
-
-
名機・A型エンジン搭載の歴代『サニー』が集結…オールサニーズ・ミーティング
2024.12.22
-
-
-
軽自動車サイズの布製タイヤチェーン「モビルシュシュ」が一般販売開始
2024.12.22
-
-
-
スバル「ゲレンデタクシー」5年ぶり開催へ、クロストレックHVが苗場を駆ける
2024.12.22
-
-
-
「カスタマイズは人生に彩りを与える」、東京オートサロン2025のブリッツは『MFゴースト』推し
2024.12.22
-
-
-
ヒョンデの新型EV『インスター』、東京オートサロン2025で日本初公開へ
2024.12.22
-
MORIZO on the Road