【ランドローバー ディスカバリー 新型試乗】今どきのSUVと一線を画す乗り味に、心揺さぶられる…中村孝仁
1991年、ランドローバー『ディスカバリー』が初めて日本に導入された。ランドローバー社として初めて、ファミリー層を狙ったモデルの誕生であった。そのディスカバリーの試乗会はオーストラリアのクィーンズランドで開催され、まだオフローダーの何たるかを知らなかった私は、生まれて初めて手痛い洗礼を浴びることになるのであった。
呆れんばかりの走破性能に魅了され、初代のオーナーに
まあ、ランドローバー社の人々からすればきっと大した難易度のものではなかったのかもしれないが、精々俗にいうダート程度しか走ったことのなかった私にとって、そのコースはまさに断崖絶壁から突き落とされる心境で、コースの入り口で「えっ?ここ下るんですか?」と思わず同乗していたインストラクターに訊いてしまった。彼は無造作に「はい、そのかわり絶対にブレーキとクラッチは踏まないように」と一言告げて、さあ行きましょう…と。コース上には行くべき方向を示すインストラクターが他に立っているのだが、道ではない。岩とむき出しの凹凸が激しい崖である。
その後は水没するのではないかと思えるような、入水した瞬間に水がボンネットの上までくる渡河や、超が付く急な登りなどを体験。その呆れんばかりの走破性能にすっかり魅了された私は、帰国後すぐにこのクルマの注文書を書き、晴れて初代ランドローバー・ディスカバリーのオーナーになった。
あれからもう30年の月日が流れたが、今のランドローバー・ディスカバリーはすっかり様変わりして、とてもこの美しいボディをあの当時の異様な崖に突き落とす気にはなれない。まあ、それでも走破性能は恐らく当時と何ら変わりはないのだろうが、それでも美しいボディに傷をつけたくはないし、使い倒すサバイバルツール的な面影は皆無である。
エンジンらしさを前面に押し出した直6ディーゼル
性格的にもだいぶ変わった。それは何もディスカバリーが変わったのではなく、ランドローバー社そのものが変わり、今ではいわゆるハイエンドの高級SUVの生産会社となって、オフロード走破性は高いものの、およそオフローダーとは言い難い、清楚な身なりとなっている。それでも3列7シーターは初代と変わらず、一応社内的にもファミリー層向けのモデルという位置づけも変わっていないように思える。
当時私が購入したのは4気筒のターボディーゼルを搭載したモデル。トランスミッションはマニュアルであったが、そのターボディーゼルであるという点も、今回試乗したディスカバリーは同じである。ただし4気筒ではなく、同社が力を入れて開発した「インジニウム」という名を持つ直6のターボディーゼルである。しかも48VのISG付きマイルドハイブリッド仕様だから、時代は変わったものである。
ディーゼルゲート以来、全世界的にすっかりディーゼルに人気がなくなってしまったが、個人的には今も電気よりもガソリンよりもこの熱効率の高いディーゼルエンジンが好きだ。決してガソリンのようなシャープで高レスポンスというわけにはいかないが、近年特にスピードレンジが下がった日本の交通状況では、怒涛のトルクと高い燃費性能は間違いなく合っていると思う。
最近直6エンジンが各メーカーで回帰しているが、メルセデスやBMWの直6と比較した時、ランドローバーのインジニウムはよりアグレッシブで、エンジンらしさを前面に押し出した作りとでも言おうか、機械的印象が強い。と言って振動があるわけでもスムーズさがスポイルされているわけでもなく、要はモーターのような回り方をしないというわけで、インテリアでも加速時などは確実にエンジンの鼓動を聞き取ることができる。
今どきのきびきびSUVとは明確に一線を画す乗り味
乗り味は初期の『レンジローバー』を彷彿させるゆったり感やロール感など懐かしいランドローバー社のイメージがそのまま残されていて、今どきのきびきびSUVとは明確に一線を画す乗り味が大いに心揺さぶられる。間違いなく個性的だ。それだけに賛否は別れると思うが、個人的にはもちろん賛の方である。
上にレンジローバー、下に『ディフェンダー』を配するラインナップとさらにスポーツの名を関したスポーティーモデルやコンパクトな『イヴォーク』『ディスカバリースポーツ』などラインナップも拡大する中でやや存在感が薄い印象も否定できない。それは初代のコンセプトから離れてすっかり様変わりしたことで、レンジローバーと大差ない存在となったためかもしれない。まあ、思えばずいぶん様変わりしたものである。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度 ★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来44年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。
呆れんばかりの走破性能に魅了され、初代のオーナーに
まあ、ランドローバー社の人々からすればきっと大した難易度のものではなかったのかもしれないが、精々俗にいうダート程度しか走ったことのなかった私にとって、そのコースはまさに断崖絶壁から突き落とされる心境で、コースの入り口で「えっ?ここ下るんですか?」と思わず同乗していたインストラクターに訊いてしまった。彼は無造作に「はい、そのかわり絶対にブレーキとクラッチは踏まないように」と一言告げて、さあ行きましょう…と。コース上には行くべき方向を示すインストラクターが他に立っているのだが、道ではない。岩とむき出しの凹凸が激しい崖である。
その後は水没するのではないかと思えるような、入水した瞬間に水がボンネットの上までくる渡河や、超が付く急な登りなどを体験。その呆れんばかりの走破性能にすっかり魅了された私は、帰国後すぐにこのクルマの注文書を書き、晴れて初代ランドローバー・ディスカバリーのオーナーになった。
あれからもう30年の月日が流れたが、今のランドローバー・ディスカバリーはすっかり様変わりして、とてもこの美しいボディをあの当時の異様な崖に突き落とす気にはなれない。まあ、それでも走破性能は恐らく当時と何ら変わりはないのだろうが、それでも美しいボディに傷をつけたくはないし、使い倒すサバイバルツール的な面影は皆無である。
エンジンらしさを前面に押し出した直6ディーゼル
性格的にもだいぶ変わった。それは何もディスカバリーが変わったのではなく、ランドローバー社そのものが変わり、今ではいわゆるハイエンドの高級SUVの生産会社となって、オフロード走破性は高いものの、およそオフローダーとは言い難い、清楚な身なりとなっている。それでも3列7シーターは初代と変わらず、一応社内的にもファミリー層向けのモデルという位置づけも変わっていないように思える。
当時私が購入したのは4気筒のターボディーゼルを搭載したモデル。トランスミッションはマニュアルであったが、そのターボディーゼルであるという点も、今回試乗したディスカバリーは同じである。ただし4気筒ではなく、同社が力を入れて開発した「インジニウム」という名を持つ直6のターボディーゼルである。しかも48VのISG付きマイルドハイブリッド仕様だから、時代は変わったものである。
ディーゼルゲート以来、全世界的にすっかりディーゼルに人気がなくなってしまったが、個人的には今も電気よりもガソリンよりもこの熱効率の高いディーゼルエンジンが好きだ。決してガソリンのようなシャープで高レスポンスというわけにはいかないが、近年特にスピードレンジが下がった日本の交通状況では、怒涛のトルクと高い燃費性能は間違いなく合っていると思う。
最近直6エンジンが各メーカーで回帰しているが、メルセデスやBMWの直6と比較した時、ランドローバーのインジニウムはよりアグレッシブで、エンジンらしさを前面に押し出した作りとでも言おうか、機械的印象が強い。と言って振動があるわけでもスムーズさがスポイルされているわけでもなく、要はモーターのような回り方をしないというわけで、インテリアでも加速時などは確実にエンジンの鼓動を聞き取ることができる。
今どきのきびきびSUVとは明確に一線を画す乗り味
乗り味は初期の『レンジローバー』を彷彿させるゆったり感やロール感など懐かしいランドローバー社のイメージがそのまま残されていて、今どきのきびきびSUVとは明確に一線を画す乗り味が大いに心揺さぶられる。間違いなく個性的だ。それだけに賛否は別れると思うが、個人的にはもちろん賛の方である。
上にレンジローバー、下に『ディフェンダー』を配するラインナップとさらにスポーツの名を関したスポーティーモデルやコンパクトな『イヴォーク』『ディスカバリースポーツ』などラインナップも拡大する中でやや存在感が薄い印象も否定できない。それは初代のコンセプトから離れてすっかり様変わりしたことで、レンジローバーと大差ない存在となったためかもしれない。まあ、思えばずいぶん様変わりしたものである。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度 ★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来44年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。
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