【フィアット 500e 新型試乗】走りだけならアバルトの代わりになる…中村孝仁
ヨーロッパ人は一つのものを長く作り続ける技に長けている。自動車の世界では古いミニは40年以上。VW『ビートル』は60年以上も生産された。
イタリアの足として親しまれたフィアット『500』はトポリーノの愛称を持った初代が19年。チンクェチェントとして親しまれた2代目が18年間、いずれの場合もほぼ姿を変えずに作り続けられている。要するに、デザインに飽きが来ないということと、それを維持するためのセンスの良い改良を繰り返しているということだろうか。
今市販されている500も15年目のモデルイヤーに突入し、ほぼそのスタイルを変えることなく作り続け、そして日本においてはこのところその販売も伸びてきている。そして今回新たに登場したのが『500e』。トポリーノから2代目のチンクェチェントに姿を変えた時、当時のフィアットはこの500を“nuova500”と呼んだ。nuovaはイタリア語でニューを意味する。そして今回500eの登場に合わせ、フィアットは再びこの nuovaという呼称を用いた。つまりニュー500なのだそうである。
勿論そうは言っても姿形はほとんど同じ。要するに末尾の“e”が示すように電気自動車に変わっただけだ(もっとも全長、全幅はいずれも拡大している)。因みにフィアットにとって(というか当時のFCAにとって)初のBEVであった。ヨーロッパでのワールドプレミアは2020年のことだから、日本にやってくるまではかなりの間があったが、その間に会社はFCAからステランティスに変わっている。色々な諸事情から導入が遅れたと解釈したい。
ツインエアの3倍近いトルクは圧倒的
というわけで、この500eが一体どんな車か、ざっとお話しする。まずパフォーマンスは最高出力118ps、最大トルク220Nmだから、ガソリンエンジン搭載の500と比べるとまあ圧倒的にパワフル。特に最大トルクに関して言えば、高性能なツインエアですら77Nmでしかないから、3倍近いトルクを持っていることになる。
満充電からの可能走行距離はWLTCで335km。ガソリン車の場合WLTCモードで19.2km/リットルで、燃料タンクは35リットルなのでかけ合わせれば数値上は672kmの走行が可能で、こちらは半分ほどの走行しかできないが、まあ東京から御殿場あたりまでの往復ができると考えれば、必要十分と思える。
外観はさして変わらないものの(大きさを除いて)、インテリアは大きく変わっている。特にダッシュボードの造形は非常に近代的かつ質感の高いものに変わった。今風と言ってしまえばそれまでかもしれないがアダプティブクルーズコントロール(ACC)の装備に始まり、ADAS関係の装備もガソリン車では無かったものがすべて装備された(ベースグレードのPOPを除く)。
タイヤもほぼ2サイズは大きな195もしくは205サイズで、ホイール径も16インチもしくは17インチ(ガソリンは14インチもしくは15インチ)と2サイズ大きなものが付くといった違いがある。このタイヤのおかげかその佇まいというかどっしり感がだいぶガソリンとは異なっていて、一言で言って固まり感とどっしり感がずいぶん異なって見える。
EV補助金を使えば300万円台から買える?
今回は「Icon」と呼ばれるグレードのハッチバックモデルと、最上級となる「Open」の2モデルを試乗した。いずれも駆動系は変わらないから性能的にもまるで同じだ。ただし、タイヤはどちらも17インチだが、オープンはコンチネンタルタイヤを装着し、ハッチバックはグッドイヤーを装着していて、このタイヤの差が乗り心地に変化をもたらしていた。その点から話をすると、グッドイヤーの方が少し上下方向の跳ね感が強く、乗り心地としては落ち着きがない。
ベースモデルで16インチタイヤを装着する「Pop」というグレードは受注生産だそうだから、事実上IconとOpenの2モデルと考え、価格的にも485万円もしくは495万円と考えた方がよさそうだ。因みにPopは450万円。EVに長年乗ってその道には最も詳しいと思われる知り合いのジャーナリストによれば、自治体によっても異なるが、補助金の合計は100万円近くに達するはずだから、300万円台後半と考えて良いのではないかという。となると実は案外現実的だったりもする。
3つの走行モードで全く違う個性
ガソリン車と大きく違うのは走行モードが3つ選べること。ノーマル、レンジ、そしてシェルパと名付けられている。ノーマルではアクセルオフ時の回生がほとんど効いていないのか、制動感が全くなくアクセルを離すとクルマは滑るように空走する。これはこれで気持ちが良い。流石にパワフルだから、高速道路などでも結構我が物顔で走ることができる。
一方のレンジはそもそも航続距離を示す意味合いを持つので、てっきり俗にいうエコモードなのかと思っていたら、そうではなく単に回生ブレーキが強烈にかかる日産風に言うならワンペダルモードであった。アクセルオフ時の制動感は相当なもので、停車までそのままにしておくとクリープがなく、完全停車し、しかもブレーキを踏まずともそのまま停車している。この所作はシェルパに入れても同じ。
ところがシェルパというモードはそれを設定するスピード域で異なる動きを示す。まず高速80km/h以上でシェルパに設定すると、制動力のみが保たれ、レンジと同じ動きをするのだが、ひとたびスピードが80km/h以下まで落ちると、今度はそれ以上のスピードには上がらない。一方で、80km/h以下で設定をすると、やはり80km/hでスピードリミットがかかってしまう。因みにシェルパに入れるとアクセルレスポンスやエアコンなどにも制御が入るエコモードのようで、入れた途端に航続距離がぐんと伸びる。ただ、このシェルパモードのことをよく理解しておかないと、突然セーフモードに入ったようにスピードが上がらなくなるので要注意である。
走りだけならアバルトの代わりになる
電気自動車としてはかなり軽いほう(1330kgもしくは1360kg)で、走り全体の印象が常にすいすいと颯爽とした印象だし、そもそも初期加速の印象がなかなか強烈でパフォーマンスカーのような感触で乗ることができる。走りだけを考えれば、アバルトの代わりになると思えた。それでも、電費を気にするケースでは結局のところ我慢を強いる運転が必須となり、この辺りがまだまだ電気自動車で要解決問題のような気がするが、個人的にはお値段を除けばこのクルマは相当に気に入った。
■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来44年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。
イタリアの足として親しまれたフィアット『500』はトポリーノの愛称を持った初代が19年。チンクェチェントとして親しまれた2代目が18年間、いずれの場合もほぼ姿を変えずに作り続けられている。要するに、デザインに飽きが来ないということと、それを維持するためのセンスの良い改良を繰り返しているということだろうか。
今市販されている500も15年目のモデルイヤーに突入し、ほぼそのスタイルを変えることなく作り続け、そして日本においてはこのところその販売も伸びてきている。そして今回新たに登場したのが『500e』。トポリーノから2代目のチンクェチェントに姿を変えた時、当時のフィアットはこの500を“nuova500”と呼んだ。nuovaはイタリア語でニューを意味する。そして今回500eの登場に合わせ、フィアットは再びこの nuovaという呼称を用いた。つまりニュー500なのだそうである。
勿論そうは言っても姿形はほとんど同じ。要するに末尾の“e”が示すように電気自動車に変わっただけだ(もっとも全長、全幅はいずれも拡大している)。因みにフィアットにとって(というか当時のFCAにとって)初のBEVであった。ヨーロッパでのワールドプレミアは2020年のことだから、日本にやってくるまではかなりの間があったが、その間に会社はFCAからステランティスに変わっている。色々な諸事情から導入が遅れたと解釈したい。
ツインエアの3倍近いトルクは圧倒的
というわけで、この500eが一体どんな車か、ざっとお話しする。まずパフォーマンスは最高出力118ps、最大トルク220Nmだから、ガソリンエンジン搭載の500と比べるとまあ圧倒的にパワフル。特に最大トルクに関して言えば、高性能なツインエアですら77Nmでしかないから、3倍近いトルクを持っていることになる。
満充電からの可能走行距離はWLTCで335km。ガソリン車の場合WLTCモードで19.2km/リットルで、燃料タンクは35リットルなのでかけ合わせれば数値上は672kmの走行が可能で、こちらは半分ほどの走行しかできないが、まあ東京から御殿場あたりまでの往復ができると考えれば、必要十分と思える。
外観はさして変わらないものの(大きさを除いて)、インテリアは大きく変わっている。特にダッシュボードの造形は非常に近代的かつ質感の高いものに変わった。今風と言ってしまえばそれまでかもしれないがアダプティブクルーズコントロール(ACC)の装備に始まり、ADAS関係の装備もガソリン車では無かったものがすべて装備された(ベースグレードのPOPを除く)。
タイヤもほぼ2サイズは大きな195もしくは205サイズで、ホイール径も16インチもしくは17インチ(ガソリンは14インチもしくは15インチ)と2サイズ大きなものが付くといった違いがある。このタイヤのおかげかその佇まいというかどっしり感がだいぶガソリンとは異なっていて、一言で言って固まり感とどっしり感がずいぶん異なって見える。
EV補助金を使えば300万円台から買える?
今回は「Icon」と呼ばれるグレードのハッチバックモデルと、最上級となる「Open」の2モデルを試乗した。いずれも駆動系は変わらないから性能的にもまるで同じだ。ただし、タイヤはどちらも17インチだが、オープンはコンチネンタルタイヤを装着し、ハッチバックはグッドイヤーを装着していて、このタイヤの差が乗り心地に変化をもたらしていた。その点から話をすると、グッドイヤーの方が少し上下方向の跳ね感が強く、乗り心地としては落ち着きがない。
ベースモデルで16インチタイヤを装着する「Pop」というグレードは受注生産だそうだから、事実上IconとOpenの2モデルと考え、価格的にも485万円もしくは495万円と考えた方がよさそうだ。因みにPopは450万円。EVに長年乗ってその道には最も詳しいと思われる知り合いのジャーナリストによれば、自治体によっても異なるが、補助金の合計は100万円近くに達するはずだから、300万円台後半と考えて良いのではないかという。となると実は案外現実的だったりもする。
3つの走行モードで全く違う個性
ガソリン車と大きく違うのは走行モードが3つ選べること。ノーマル、レンジ、そしてシェルパと名付けられている。ノーマルではアクセルオフ時の回生がほとんど効いていないのか、制動感が全くなくアクセルを離すとクルマは滑るように空走する。これはこれで気持ちが良い。流石にパワフルだから、高速道路などでも結構我が物顔で走ることができる。
一方のレンジはそもそも航続距離を示す意味合いを持つので、てっきり俗にいうエコモードなのかと思っていたら、そうではなく単に回生ブレーキが強烈にかかる日産風に言うならワンペダルモードであった。アクセルオフ時の制動感は相当なもので、停車までそのままにしておくとクリープがなく、完全停車し、しかもブレーキを踏まずともそのまま停車している。この所作はシェルパに入れても同じ。
ところがシェルパというモードはそれを設定するスピード域で異なる動きを示す。まず高速80km/h以上でシェルパに設定すると、制動力のみが保たれ、レンジと同じ動きをするのだが、ひとたびスピードが80km/h以下まで落ちると、今度はそれ以上のスピードには上がらない。一方で、80km/h以下で設定をすると、やはり80km/hでスピードリミットがかかってしまう。因みにシェルパに入れるとアクセルレスポンスやエアコンなどにも制御が入るエコモードのようで、入れた途端に航続距離がぐんと伸びる。ただ、このシェルパモードのことをよく理解しておかないと、突然セーフモードに入ったようにスピードが上がらなくなるので要注意である。
走りだけならアバルトの代わりになる
電気自動車としてはかなり軽いほう(1330kgもしくは1360kg)で、走り全体の印象が常にすいすいと颯爽とした印象だし、そもそも初期加速の印象がなかなか強烈でパフォーマンスカーのような感触で乗ることができる。走りだけを考えれば、アバルトの代わりになると思えた。それでも、電費を気にするケースでは結局のところ我慢を強いる運転が必須となり、この辺りがまだまだ電気自動車で要解決問題のような気がするが、個人的にはお値段を除けばこのクルマは相当に気に入った。
■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来44年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。
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