【ランドローバー ディフェンダー 90SE 新型試乗】“サクサク”なショートホイールベースも有りだ…中村孝仁

  • ランドローバー ディフェンダー 90SE
ディフェンダーの原点は「農民のための車」
ランドローバーが産声を上げたのは1947年のこと。最初のプロトタイプはセンターステアと呼ばれ、車体中央にステアリングコラムが存在した。このクルマはジープのアクスルやシャシーを用いたものだったから、ランドローバーの成り立ちはまさにジープにその源を辿ることができるというわけである。

センターステアの由来は元々、このクルマを農民のための働く車と位置付けたことによるもので、トラクターの運転に慣れた農民はステアリングが車体中央にあった方が良いという考え方からだそうだが、それによってレッグスペースが大幅に狭められる弊害により、ごく早期に却下されたようだ。

初期のランドローバーはホイールベースが80インチでモノグレードのモデルであった。ランドローバーという会社の名前がそのまま車両の名前として使われるのは85年まで。既に83年からホイールベースの長さをとって、「ランドローバー90」、もしくは「ランドローバー110」と呼ばれていた。

というわけで、1990年になってランドローバーはこの90と110に名前を与え、それが『ディフェンダー』の誕生となるのである。もっとも名前が与えられたといっても実質的にはそれ以前のモデルとほぼ変わるところはなく、やや長いボンネットと新たなグリルが与えられたぐらいの差でしかなく、エンジンやアルミのボディパネルなどはほぼ同じものだったという。つまり2代目のディフェンダーが誕生する2020年までは1949年に誕生した初代ランドローバー以後、ほとんど変わりなく作り続けられてきたということなのである。

また、シリーズ3、即ち90や110と呼ばれるようになったランドローバーからディフェンダーが誕生するまでには5年ほどの間があり、初代ディフェンダーからコードネームL663のディフェンダーに切り替わるまでにも4年のブランクがある。この間の取り方はランドローバー独特のものというか、ミニの誕生がそうであったようにイギリス特有のものなのかもしれない。

「サクサク」と動く90の運動性能
というわけで前置きが長くなってしまったが、新しいディフェンダーのショートホイールベースモデル、90に試乗した。グレードは最上級の「SE」であるが、110と違ってチョイスできるエンジンは2リットル直4ユニットのみで、これに8速ATを組み合わせた仕様である。

「大は小を兼ねる」は、クルマの仕様を決める際には大きなファクターとなって、特にSUVやワゴンといったある程度のユーティリティーが必要なモデルでは特にその傾向が強いように感じるが、今回ショートホイールベースのディフェンダーに乗って改めて運動性能の違いを痛感し、ショートホイールベースも有りだなということを実感した。

一言でいえば、コンピューターではないが「サクサク」と動く。決して軽快とは言えないが敏捷であることは110のはるか上を行く。そして70年以上の歴史の中で大まかに言えばたった1回のドラスチックな変更しか遂げていないこのクルマのモデルチェンジは、誕生当時とはまるで異なるクルマ社会になっていたものだから、その変貌ぶりは極端な話ではなくまさに時空を超えてきたクルマに置き換わっていたというほどの変容を見せた。

リベット打ちっぱなしの波打ったボディ外板は見事に美しい表面に仕上がり、エルゴノミクスの欠片も感じられなかったインパネ回りは整然とした現代風デザインとエルゴノミクスを感じさせるレイアウトに変わっている。

見た目そのままの『Gクラス』とは違う方向性
それだけではない。戦後間もないジープをお手本に作られた昔のディフェンダーは、その乗り心地だって決して褒められたものではなく、それでも多くの人々がこのクルマを愛してやまなかった理由はそのプリミティブさゆえの哀愁と、まさに頑固おやじ的な頑なさに惚れたからだと思うのだが、新しいディフェンダーはまさにランドローバー社の今を象徴する豪華さやアップグレード感を体現したディフェンダーに姿を変えている。

その点は中身を巧妙に変えながらでもスタイルは初期のモデルそのまま少しずつ近代化しているメルセデスの『Gクラス』とはだいぶ違う。似ているのは初期モデルと今のモデルの価格差で、泣きたくなるほど両車ともに高価格化している。

使い勝手に関しては、やはり110にその有利さを譲る。ただ、滅多なことでは後席は使わないという向きには十分過ぎるほどのラゲッジ空間とオケージョナルシートが用意されているから、まあ割り切りようではこの90のサクサク感は意外と嵌まる向きも多いだろう。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来44年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。

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