【BMW iX 新型試乗】約1400万円でも納得、新鮮さを味わえるEVだ…中村孝仁
40数年前にドイツに住んでいたことがある。それもBMWのお膝元、ミュンヘンだ。ここで感じたことは、バイエルンの人は他のドイツ人と少し異質だということだった。
ヨーロッパに住むと色々と変わったことを耳にする。北イタリアの人はローマより南はアフリカだというし、イタリアのみならずフランス人もドイツ人は田舎モンだとコケにする。同じドイツ人でも“正統派”の北ドイツの人はバイエルンの人を田舎モンだという。それがもっともよく表されていたのは映画『マイフェアレディ』で、田舎モンのオードリー・ヘップバーンがバイエリッシュと呼ばれるバイエルン地方の方言を話し、レックス・ハリソンがハノーバーあたりの俗にホッホドイチュと呼ばれるドイツ語の標準語を話していたことである。
それはともかくとして、ミュンヘンに居を構えるBMWはやはり他のドイツメーカーとは一線を画しているように当時から思えた。少なくともデザインやクルマ作りのセンスはメルセデスとはまるで違うし、VWなどとも全然違う。唯一同じバイエルンのアウディが少し似ていたように感じたが、所詮それはVWが影響力を行使する前の話である。
そんなわけだから、BMWが電気自動車(EV)を作ろうとするとやはりだいぶアプローチが違うのか、彼らは他のメーカーとは異なり、いきなり専用プラットフォームを持ったBEVの『i3』を作り上げてきた。
退路を断ったクルマ作り
今回の『iX』にしてもカーボンにサポートされたアルミスペースフレームという、専用のアーキテクチャを作り上げて市場投入しているあたりはi3と同じで、ある意味では退路を断ったクルマ作りである。
もちろんBMWとて既存モデルを電動化した『iX3』のようなモデルも存在するが、やはり乗ってみるとまるで違うことがよくわかる。基本的アプローチはi3と全く同じで、とにかくバッテリー以外の部分、即ちボディであったりシャシーであったりを極力軽く作る手法で、ボディもアルミ、高張力鋼板、プラスチック、カーボンなどを適材適所に使っている。
大きな特徴の一つとしてこのクルマが用いているモーターは電気励磁型同期モーターというたぐいのもので、一般的な永久磁石を使わない構造を持っている。モーター自体が軽量でパワーは必要に応じてコントロールできるようになっているそうだが、何よりも希土類を使わずに済むので、ネオジムなどが使えなくなっても(中国の嫌がらせ?)大丈夫というわけだ。モーターにレアアースを使わないというだけで、すごく新鮮な印象の電気自動車になる。
ガソリン車並みと言っても過言ではない航続距離
その新鮮な印象はスタイルからも、乗り味からも、そしてデザインからも感じられる。相変わらずキドニーグリルは使っているが、まあ、これはBMWの顔ということで許そう。しかし、『iNext』と呼ばれたパリサロンに出品したコンセプトカーの流れを汲むデザインは、BMWとしてはかなり新しく新鮮である。インテリアも同様である。
さすがにバッテリーにはリチウムイオンを用いているから完全にレアアースがなくなったわけではない。ネットエネルギー容量105.105.2kWhという巨大なバッテリーセルはキャビンの冷暖房と同様に効率的なヒートポンプで温度管理がなされ、バッテリーの動作温度を常に最適化するという。
とりあえず、静粛性は極めて高い。加速時に意図的な疑似音をつけることもできるが、まあできればないほうが良いので試乗中は切ってしまった。借り出した時の航続距離は540km。一応650kmと言われる航続距離だが、現実的には540km程度だと思う。ただ、往復300km程度を走ってもなお、残り可能走行距離が300kmほど出ていたので、とにかく航続距離は長い。ここまでくればガソリン車並みと言っても過言ではない。
相変わらず加速はバカげて速いが、瞬発力はiX3と比べた時少し抑え気味の印象で、走りはこちらの方がはるかにスムーズである。静かだから音楽を楽しみたい向きにはもってこいで、試乗車についていたBowers&Wilkinsのダイヤモンド・サラウンド・サウンドシステムという奴が凄い。これは一度体験して嵌まってしまった。
約1400万円でも納得の価格
最後に「iX xDrive50」にはエアサスが標準で装備されるが、車重が重い電気自動車には極めて効果的だと思えた。2.5トンもあると、どうしてもそれなりにダンパーやらスプリングを固くする必要がある。結果として多くの電気自動車にフラットライドを求めにくいのはそのためだと思うのだが、エアサスならそのあたりの加減がうまくいっているようで、これまでに乗った電気自動車で最も快適な乗り心地を提供してくれた。
価格的にも相当にリーズナブルに思えた。車両本体価格(1116万円)にオプション273万8000円も載っているが、それでも1389万8000円で補助金で100万円ほど還元されるようだから、勿論高い金額だが、ハイエンドのモデルとしては納得の価格なのではないかと思う。
とにかく、乗り味から出来から走りに至るまで何もかもBMWとして新鮮であった。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来44年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。
ヨーロッパに住むと色々と変わったことを耳にする。北イタリアの人はローマより南はアフリカだというし、イタリアのみならずフランス人もドイツ人は田舎モンだとコケにする。同じドイツ人でも“正統派”の北ドイツの人はバイエルンの人を田舎モンだという。それがもっともよく表されていたのは映画『マイフェアレディ』で、田舎モンのオードリー・ヘップバーンがバイエリッシュと呼ばれるバイエルン地方の方言を話し、レックス・ハリソンがハノーバーあたりの俗にホッホドイチュと呼ばれるドイツ語の標準語を話していたことである。
それはともかくとして、ミュンヘンに居を構えるBMWはやはり他のドイツメーカーとは一線を画しているように当時から思えた。少なくともデザインやクルマ作りのセンスはメルセデスとはまるで違うし、VWなどとも全然違う。唯一同じバイエルンのアウディが少し似ていたように感じたが、所詮それはVWが影響力を行使する前の話である。
そんなわけだから、BMWが電気自動車(EV)を作ろうとするとやはりだいぶアプローチが違うのか、彼らは他のメーカーとは異なり、いきなり専用プラットフォームを持ったBEVの『i3』を作り上げてきた。
退路を断ったクルマ作り
今回の『iX』にしてもカーボンにサポートされたアルミスペースフレームという、専用のアーキテクチャを作り上げて市場投入しているあたりはi3と同じで、ある意味では退路を断ったクルマ作りである。
もちろんBMWとて既存モデルを電動化した『iX3』のようなモデルも存在するが、やはり乗ってみるとまるで違うことがよくわかる。基本的アプローチはi3と全く同じで、とにかくバッテリー以外の部分、即ちボディであったりシャシーであったりを極力軽く作る手法で、ボディもアルミ、高張力鋼板、プラスチック、カーボンなどを適材適所に使っている。
大きな特徴の一つとしてこのクルマが用いているモーターは電気励磁型同期モーターというたぐいのもので、一般的な永久磁石を使わない構造を持っている。モーター自体が軽量でパワーは必要に応じてコントロールできるようになっているそうだが、何よりも希土類を使わずに済むので、ネオジムなどが使えなくなっても(中国の嫌がらせ?)大丈夫というわけだ。モーターにレアアースを使わないというだけで、すごく新鮮な印象の電気自動車になる。
ガソリン車並みと言っても過言ではない航続距離
その新鮮な印象はスタイルからも、乗り味からも、そしてデザインからも感じられる。相変わらずキドニーグリルは使っているが、まあ、これはBMWの顔ということで許そう。しかし、『iNext』と呼ばれたパリサロンに出品したコンセプトカーの流れを汲むデザインは、BMWとしてはかなり新しく新鮮である。インテリアも同様である。
さすがにバッテリーにはリチウムイオンを用いているから完全にレアアースがなくなったわけではない。ネットエネルギー容量105.105.2kWhという巨大なバッテリーセルはキャビンの冷暖房と同様に効率的なヒートポンプで温度管理がなされ、バッテリーの動作温度を常に最適化するという。
とりあえず、静粛性は極めて高い。加速時に意図的な疑似音をつけることもできるが、まあできればないほうが良いので試乗中は切ってしまった。借り出した時の航続距離は540km。一応650kmと言われる航続距離だが、現実的には540km程度だと思う。ただ、往復300km程度を走ってもなお、残り可能走行距離が300kmほど出ていたので、とにかく航続距離は長い。ここまでくればガソリン車並みと言っても過言ではない。
相変わらず加速はバカげて速いが、瞬発力はiX3と比べた時少し抑え気味の印象で、走りはこちらの方がはるかにスムーズである。静かだから音楽を楽しみたい向きにはもってこいで、試乗車についていたBowers&Wilkinsのダイヤモンド・サラウンド・サウンドシステムという奴が凄い。これは一度体験して嵌まってしまった。
約1400万円でも納得の価格
最後に「iX xDrive50」にはエアサスが標準で装備されるが、車重が重い電気自動車には極めて効果的だと思えた。2.5トンもあると、どうしてもそれなりにダンパーやらスプリングを固くする必要がある。結果として多くの電気自動車にフラットライドを求めにくいのはそのためだと思うのだが、エアサスならそのあたりの加減がうまくいっているようで、これまでに乗った電気自動車で最も快適な乗り心地を提供してくれた。
価格的にも相当にリーズナブルに思えた。車両本体価格(1116万円)にオプション273万8000円も載っているが、それでも1389万8000円で補助金で100万円ほど還元されるようだから、勿論高い金額だが、ハイエンドのモデルとしては納得の価格なのではないかと思う。
とにかく、乗り味から出来から走りに至るまで何もかもBMWとして新鮮であった。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
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1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来44年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。
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