【ルノー ルーテシア E-TECH 新型試乗】このハイブリッド、もはやライバルは存在しない…野口優

  • ルノー ルーテシア E-TECH
欧州の激戦クラスであるBセグメントにおいて6年連続ナンバーワンに輝いた4代目から、大きく進化を果たした現行型ルノー『ルーテシア』。都市部でも扱いやすいコンパクトサイズながらも実用的な後部座席を備え、高速域でも安定した走行性を見せるとあって、2020年のデビュー時から高く評価されている。

そのルーテシアに先ごろ日本上陸を果たしたフルハイブリッドモデルの『アルカナ』と同一のパワートレインを搭載する『ルーテシア E-TECH HYBRID(Eテック・ハイブリッド)』がラインアップに加わった。

静粛性と驚くほどシームレスな加速は、摩訶不思議な感触
このE-TECH ハイブリッドは、F1で培ったノウハウを活かしてルノーが独自で開発したことで話題になった輸入車では唯一のフルハイブリッドユニット。メインモーターとHSG(ハイボルテージスターター&ジェネレーター)に1.6リットル4気筒自然吸気エンジンを組み合わせ、トランスミッションは電子制御ドッグクラッチによって変速を行うが、モーター側に2つ、エンジン側に4つのギアを備えることで12通りの変速比をもつのが特徴。しかもクラッチやシンクロナイザーを省いたことで小型軽量化まで行い、効率化を徹底している。

それぞれの出力値は、メインモーターが49ps(36kW)&205Nm、HSGは20ps(15kW)&50Nm、そして4気筒エンジンは91ps(67kW)&144Nmと記されている。アルカナと比較すると、エンジンの出力値が3ps&4Nmほど、わずかに下回るのみ。もちろん、駆動用に1.2kWh(250V)のリチウムイオンバッテリーが搭載されているから、ルノーが謳う“クラス最高レベルの低燃費”を実現するアプローチは現実的であると同時に極めて実用的だと思えた。

実際、発進時から60km/h程度までは電気モーターのみで走行し、その加速力は俊敏そのもの。しかも軽快! モーター特有の加速感ということもあるが、以前乗ったアルカナよりも車重の軽さと重心の低さもあって、従来のルーテシアの良さもあまり損なわれていない印象だった。とはいえ、実質ルーテシア同士で比較すると110kgもE-TECH ハイブリッドのほうが重い。しかし、意外にもその自重を感じさせないのは、やはりモーターによる効果なのだろう、ほとんど違和感はなかった。まったく同じ条件で乗り比べなければ分からないと思う。

その後、エンジンが始動してもほとんど気づくことのないレベルで、しかも変速自体も驚くほどシームレスだから加速感だけで例えるとフルEVにも近いのだが、何故か不思議とダイレクト感が得られるという、摩訶不思議な感触だ。ましてや、エンジンで走行しているのか、モーターによる走行なのか、メーターパネルの表示を見ない限り分からないほど。ルノーによれば、走行状況によってその時もっとも良い効率を割り出し、エンジンとモーターを組み合わせるなど、排ガスの削減なども考慮しているというが、ここまで分からないとは、お見事としか言いようがない。

クラス最高レベルの低燃費に“楽しさ”が加わった唯一無二
エンジンのレスポンスも良く、息の長い加速が続くが、思いっきりアクセルを踏み込んだ場合は、エンジンの唸り音が気になるのも事実。正直、ちょっとうるさいくらいだが、しかし、ルーテシア E-TECH ハイブリッドは、そんな走らせ方をするクルマではない。ただ、あまりにもシャシー性能が優れているだけに、腕に覚えのあるドライバーなら、そういう走り方をしたくなるのも確かだ。それゆえにパドルシフトが欲しくなるのも本音。しかし、パドルはおろか、マニュアル操作による変速も不可能。セレクターレバーにはその設定すらない。

つまり、こうして心が揺らいでしまうのは、レーンセンタリングアシストの精度を高める狙いで、やや足まわりが硬く設定されているためだが、その正確性が秀逸なのも特筆すべき点。このボディサイズで、ここまで正確にレーンの中央をキープするとは驚異的だ。高速道路などでは、ACC(アダプティブクルーズコントロール)と共に目的地まで楽にドライブできるのは間違いない。

そして、ハイブリッドとなれば気になるのは燃費。ルーテシア E-TECH ハイブリッドは、WLTCモードで25.2km/リットルと、さすがに優秀。当然、同じパワートレインを積むアルカナよりも軽量なぶん、サイズさえ気にしなければルーテシアのほうが優位なのは言うまでもない(アルカナは22.8km/リットル)。減速時にはエネルギー回生も行い、ギアポジションにはBレンジも用意されているが、すべては最善の効率で導く車両側の判断に委ねて目的地に向かうのみ、というのがルーテシア E-TECH ハイブリッドの使い方だろう。

これに“楽しさ”が加わったと解釈すれば、もはやライバルは存在しない。まさに唯一無二のコンパクトハッチである。

野口 優|モータージャーナリスト
1967年 東京都生まれ。1993年に某輸入車専門誌の編集者としてキャリアをスタート。後に三栄書房に転職、GENROQ編集部に勤務し、2008年から同誌の編集長に就任。2018年にはGENROQ Webを立ち上げた。その後、2020年に独立。25年以上にも渡る経験を活かしてモータージャーナリスト及びプロデューサーとして活動中。


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