【三菱 eKクロスEV 新型試乗】i-MiEVから13年、ついに軽EVの時代が来た…御堀直嗣
三菱自動車工業にとって、『eKクロスEV』は、『i-MiEV(アイミーブ)』に続く軽乗用電気自動車(EV)の第2弾となる。今日では、国内外の各自動車メーカーからEVが次々に発売されるようになったが、そのなかでもeKクロスEVは、強い印象をもたらし、EVの価値を改めて実感させる一台であることを確認した。
軽自動車であることを忘れさせる乗り味
EVである以上、静粛性に優れ、力強く滑らかな加速性能、重厚な乗り心地など、車体の大小を問わず共通した価値を得られるのはeKクロスEVも同様だ。しかし、i-MiEVから13年を経て新たに開発されたeKクロスEVは、それ以上に、軽自動車であることを忘れさせる乗り味であった。
理由の一つは、ハイトワゴンである『eKクロス』を基にしていることにより、i-MiEVより室内空間がより広く感じられることだ。EVならではの静粛性や重厚な乗り心地とあわさって、居住性をいっそう高めている。
続いて、EV共通の価値である静粛性が、直列3気筒エンジンを基本とする今日の軽自動車とは一線を画した静寂な室内空間をもたらす。高速道路へ入ればタイヤ騒音が耳に届くが、それはほかのEVでも共通する難点だ。日産『アリア』は、その対策として、タイヤ騒音を軽減する技術を採用したタイヤ選択をしているが、軽自動車ではなかなかそこまで原価を掛けた標準タイヤ装着は難しいかもしれない。だが、購入後に自分でタイヤ選びをするなら、上級車種向けに静粛性を特徴するタイヤを選んでみる価値はある。今日では、軽自動車用のサイズも用意されているだろう。
ガソリン車の約2倍のトルクが効いている
リチウムイオンバッテリーを車載することで車両重量が増し、小刻みな振動を伝えてきにくい点も、eKクロスEVを軽自動車と思わせない要因の一つだ。これは、i-MiEVでも同様だった。また、ハイトワゴンやスーパーハイトワゴンは、後席の前後位置調整を大きくとれる設定とし、それによってストレッチリムジン的な空間の広さも味わえるが、そこはeKクロスEVも同じだ。ただし、乗り心地の点で、後席調整を前寄りにしたほうがより上質になる。もっとも後ろへ下げると、後輪の真上に座るような位置関係になるので、タイヤの上下振動が体に直接伝わりやすくなる。
今回の試乗では、大人4人乗りとなったが、それでも高速道路を含め苦も無く走ったのは、モーター駆動であるためだ。軽自動車のガソリンターボエンジンの約2倍のトルク(195Nm)が効いている。
加えて、前車追従型のクルーズコントロール(ACC)の制御もきめ細かく行われ、違和感は覚えにくい。これも、エンジンの約100分の1といわれる応答性能の高さが、きめ細かな速度調節をもたらしているからだろう。
i-MiEVから13年を経て価格はおよそ半分に
i-MiEVから13年を経ての新型軽乗用EVの誕生に、開発者は「感慨深い」と話す。実際、今回の価格設定(239万8000円から)を見れば、性能開発はもちろん、原価低減による車両価格への挑戦は苦労が多かったはずだ。2009年にi-MiEVが発売されたときの車両価格は、459万9000円したのである。
それを半額近くにまで値下げできたのは、「日産との共同開発と、NMKVの存在が大きい」と、i-MiEVの開発にも携わったエンジニアの貴志誠氏は振り返る。駆動用モーターは、『アウトランダーPHEV』の後輪駆動用の応用であり、リチウムイオンバッテリーは日産『リーフ』のものを流用する。生産は、i-MiEVの製造実績を持つ三菱の水島工場で行う。三菱自と日産とNMKVという3社の総力を結集してはじめて、高い性能と、価値に見合った価格が実現できたのだ。
「10数年にわたって日産と三菱の両社が歩んできたEVへの取り組みの成果が活かされている」との言葉は重い。ほかの自動車メーカーがこれから開発したのでは、競争力のある価格で軽EVを生み出すのは難しいだろう。
航続距離180kmでも旅に出たくなる
WLTCで最大180kmという一充電走行距離(航続距離)によって、日常的に用いるうえで最適な軽乗用EVと位置付けられているが、こうして試乗を終えてみると、eKクロスEVで旅にも出てみたくなるはずだ。それほど、快適で楽な移動をもたらす。
それに際し、一充電走行距離が短いことを気にする人があるかもしれない。だが、旅とは、短時間に移動する価値だけではなく、逆に、日常を離れのんびりとした空間を楽しむ嬉しさがあるはずだ。途中の30分の急速充電も、そうした時間の楽しみ方として、新たな出会いがあったり、地域の新たな産物の発見につながったりするだろう。それこそが、旅の醍醐味ではないか。
仕事を含め、急ぐ旅をしたいなら、ほかの大容量バッテリーを車載したEVを選べばいいし、新幹線や特急で移動したほうが速いのはもちろん、二酸化炭素(CO2)排出量も少ないはずだ。そのうえで、目的地でカーシェアリングのEVを借りればよい。
適正なバッテリー容量で日々十分に利用でき、余暇の旅に出るなら、時間をぜいたくに使う本来の旅を味わわせてくれるのが軽EVだと思う。自然のなかへ分け入れば、EVの静粛性が、自然の営みの音を聴かせてくれる。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★★
御堀直嗣|フリーランス・ライター
玉川大学工学部卒業。1988~89年FL500参戦。90~91年FJ1600参戦(優勝1回)。94年からフリーランスライターとなる。著書は、『知らなきゃヤバイ!電気自動車は市場をつくれるか』『ハイブリッドカーのしくみがよくわかる本』『電気自動車は日本を救う』『クルマはなぜ走るのか』『電気自動車が加速する!』『クルマ創りの挑戦者たち』『メルセデスの魂』『未来カー・新型プリウス』『高性能タイヤ理論』『図解エコフレンドリーカー』『燃料電池のすべてが面白いほどわかる本』『ホンダトップトークス』『快走・電気自動車レーシング』『タイヤの科学』『ホンダF1エンジン・究極を目指して』『ポルシェへの頂上作戦・高性能タイヤ開発ストーリー』など20冊。
軽自動車であることを忘れさせる乗り味
EVである以上、静粛性に優れ、力強く滑らかな加速性能、重厚な乗り心地など、車体の大小を問わず共通した価値を得られるのはeKクロスEVも同様だ。しかし、i-MiEVから13年を経て新たに開発されたeKクロスEVは、それ以上に、軽自動車であることを忘れさせる乗り味であった。
理由の一つは、ハイトワゴンである『eKクロス』を基にしていることにより、i-MiEVより室内空間がより広く感じられることだ。EVならではの静粛性や重厚な乗り心地とあわさって、居住性をいっそう高めている。
続いて、EV共通の価値である静粛性が、直列3気筒エンジンを基本とする今日の軽自動車とは一線を画した静寂な室内空間をもたらす。高速道路へ入ればタイヤ騒音が耳に届くが、それはほかのEVでも共通する難点だ。日産『アリア』は、その対策として、タイヤ騒音を軽減する技術を採用したタイヤ選択をしているが、軽自動車ではなかなかそこまで原価を掛けた標準タイヤ装着は難しいかもしれない。だが、購入後に自分でタイヤ選びをするなら、上級車種向けに静粛性を特徴するタイヤを選んでみる価値はある。今日では、軽自動車用のサイズも用意されているだろう。
ガソリン車の約2倍のトルクが効いている
リチウムイオンバッテリーを車載することで車両重量が増し、小刻みな振動を伝えてきにくい点も、eKクロスEVを軽自動車と思わせない要因の一つだ。これは、i-MiEVでも同様だった。また、ハイトワゴンやスーパーハイトワゴンは、後席の前後位置調整を大きくとれる設定とし、それによってストレッチリムジン的な空間の広さも味わえるが、そこはeKクロスEVも同じだ。ただし、乗り心地の点で、後席調整を前寄りにしたほうがより上質になる。もっとも後ろへ下げると、後輪の真上に座るような位置関係になるので、タイヤの上下振動が体に直接伝わりやすくなる。
今回の試乗では、大人4人乗りとなったが、それでも高速道路を含め苦も無く走ったのは、モーター駆動であるためだ。軽自動車のガソリンターボエンジンの約2倍のトルク(195Nm)が効いている。
加えて、前車追従型のクルーズコントロール(ACC)の制御もきめ細かく行われ、違和感は覚えにくい。これも、エンジンの約100分の1といわれる応答性能の高さが、きめ細かな速度調節をもたらしているからだろう。
i-MiEVから13年を経て価格はおよそ半分に
i-MiEVから13年を経ての新型軽乗用EVの誕生に、開発者は「感慨深い」と話す。実際、今回の価格設定(239万8000円から)を見れば、性能開発はもちろん、原価低減による車両価格への挑戦は苦労が多かったはずだ。2009年にi-MiEVが発売されたときの車両価格は、459万9000円したのである。
それを半額近くにまで値下げできたのは、「日産との共同開発と、NMKVの存在が大きい」と、i-MiEVの開発にも携わったエンジニアの貴志誠氏は振り返る。駆動用モーターは、『アウトランダーPHEV』の後輪駆動用の応用であり、リチウムイオンバッテリーは日産『リーフ』のものを流用する。生産は、i-MiEVの製造実績を持つ三菱の水島工場で行う。三菱自と日産とNMKVという3社の総力を結集してはじめて、高い性能と、価値に見合った価格が実現できたのだ。
「10数年にわたって日産と三菱の両社が歩んできたEVへの取り組みの成果が活かされている」との言葉は重い。ほかの自動車メーカーがこれから開発したのでは、競争力のある価格で軽EVを生み出すのは難しいだろう。
航続距離180kmでも旅に出たくなる
WLTCで最大180kmという一充電走行距離(航続距離)によって、日常的に用いるうえで最適な軽乗用EVと位置付けられているが、こうして試乗を終えてみると、eKクロスEVで旅にも出てみたくなるはずだ。それほど、快適で楽な移動をもたらす。
それに際し、一充電走行距離が短いことを気にする人があるかもしれない。だが、旅とは、短時間に移動する価値だけではなく、逆に、日常を離れのんびりとした空間を楽しむ嬉しさがあるはずだ。途中の30分の急速充電も、そうした時間の楽しみ方として、新たな出会いがあったり、地域の新たな産物の発見につながったりするだろう。それこそが、旅の醍醐味ではないか。
仕事を含め、急ぐ旅をしたいなら、ほかの大容量バッテリーを車載したEVを選べばいいし、新幹線や特急で移動したほうが速いのはもちろん、二酸化炭素(CO2)排出量も少ないはずだ。そのうえで、目的地でカーシェアリングのEVを借りればよい。
適正なバッテリー容量で日々十分に利用でき、余暇の旅に出るなら、時間をぜいたくに使う本来の旅を味わわせてくれるのが軽EVだと思う。自然のなかへ分け入れば、EVの静粛性が、自然の営みの音を聴かせてくれる。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★★
御堀直嗣|フリーランス・ライター
玉川大学工学部卒業。1988~89年FL500参戦。90~91年FJ1600参戦(優勝1回)。94年からフリーランスライターとなる。著書は、『知らなきゃヤバイ!電気自動車は市場をつくれるか』『ハイブリッドカーのしくみがよくわかる本』『電気自動車は日本を救う』『クルマはなぜ走るのか』『電気自動車が加速する!』『クルマ創りの挑戦者たち』『メルセデスの魂』『未来カー・新型プリウス』『高性能タイヤ理論』『図解エコフレンドリーカー』『燃料電池のすべてが面白いほどわかる本』『ホンダトップトークス』『快走・電気自動車レーシング』『タイヤの科学』『ホンダF1エンジン・究極を目指して』『ポルシェへの頂上作戦・高性能タイヤ開発ストーリー』など20冊。
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