【メルセデスAMG EQE 海外試乗】良くも悪くも、小さい「AMG EQS」…渡辺慎太郎
メルセデスベンツのBEV戦略は着々と進んでいる。メルセデスEQというサブブランドを立ち上げ、既存のプラットフォームを流用した『EQC』や『EQA』に『EQB』、EVA2と呼ばれるBEV専用のプラットフォームを使った『EQS』と『EQE』、そして『EQS SUV』を矢継ぎ早に発表、気が付けばBEVでも『A』から『S』まで取り揃えるまでに至っている。
さらに昨年末にはAMG EQS、そして今年になってAMG EQEが登場した。わずか数年の間にBEVの商品群をここまで拡充するスピードは想像していたよりもかなり早く、「日本車はBEVで遅れをとっている」との印象を市場に与えた要因のひとつとも考えられる。
電動になっても「メルセデスのルーティン」は変わらない
メルセデスのクルマの作り方はいくつかのルーティンがある。もっともコストがかかる新規プラットフォームは、その分の予算が計上しやすい高額モデルの『Sクラス』と同時開発し、のちに下位モデルへ広げていく。現行Sクラスと『Cクラス』、EQSとEQEがまさしくこのやり方だ。メルセデスとAMGの関係も同様で、ノーマルのメルセデスのパワートレインとサスペンションをAMG専用のセットに置き換え、内外装のお化粧を部分的にやり直す。これはBEVになっても変わらず、AMG EQSにはAMG専用のモーターとサスペンションが組み込まれ、今回試乗したAMG EQEもそれを踏襲する。
AMG EQEには「AMG EQE 43 4MATIC」と「AMG EQE 53 4MATIC+」の2モデルが用意されている。AMG EQSは「53 4MATIC+」のみだったので「43」は初登場となる。EQE 53のパワートレインのハードウエアは基本的にEQS 53と同じである。専用のモーターを(4MATICなので)前後に置き、ソフトウエアを変更してパワースペックに差を付けている。
AMG EQSの761ps/1020Nmに対してAMG EQEは687ps/1000Nm(いずれもオプションのAMGダイナミックパッケージ装着時)なので若干控え目な設定となる。空気ばねと電子制御式ダンパーを組み合わせたノーマルのエアサスペンションは、AMG専用の制御マップで動くようになっていて、これも考え方はAMG EQSと大きく変わらない。このエアサスと後輪操舵はAMG EQEでも標準で装備される。
乗り味にはAMG EQSとの「劇的な違い」なし
ボディサイズやボディ形状(EQSは5ドアの2ボックス、EQEは4ドアの3ボックス)、バッテリー容量が違うとはいえ、パワートレインと足まわりはほぼ同じだから、AMG EQSとAMG EQEの乗り味に劇的な違いはなく、AMG EQEは良くも悪くも「小さいAMG EQS」だった。特に今回の試乗車は53だけだったので、以前試乗したEQS 53との比較ができるもののその差は諸条件の違いに準じた妥当なものであり、43だったらひょっとするとAMG EQEならではの独特な乗り味があるのかもしれない。ただ経験値から言って、それでも「全然違う」とはならないだろう。
フロントバンパー下部の意匠変更、リヤのリップスポイラーやディフュザーの装着などは、パワートレインの種類を問わずAMGのいつものやり方である。強いて言うなら、内燃機モデルと比べるとEQのほうがより空力を重視した形状になっている点が特徴だ。試乗車の室内にはメルセデスご自慢のMBUXハイパースクリーンが装着されていた。EQSやAMG EQSでは標準装備のこれも、EQEやAMG EQEではオプション扱いとなっている。EQEは「ビジネスサルーン」とメルセデスが公言しているように、フリート客を主なターゲットに据えているから、企業の都合に応じて車両本体価格に自由度を持たせているのである。
モーターで「AMG」の差別化はまだ難しい?
正直なところ、AMG EQSとAMG EQEの差は、公道を法定速度で走る限りまったく体感できない。トルクは発進直後から潤沢で、これがきれいな線形を描きながらその後も発生しつづけるので、極めてスムーズかつ強力な加速感が味わえる。アクセルペダルを放せば回生ブレーキにより減速するものの、再び踏み込んだ際のレスポンスも抜群にいいので、約2.5トンの車両重量はこのパワーとレスポンスにより相殺される。動力性能に関するこれらの印象は予想通りだったが、AMGダイナミックセレクトのモードによってアウトプットをいかように制御しているのか、今回はその詳細が明らかにされた。
スリッパリーでは50%、コンフォートでは80%、スポーツでは90%、スポーツ+では100%とのこと。さらにAMGダイナミックプラスパッケージ装着車はレーススタートモードで瞬間的に110%を発生するという。前述の687ps/1000Nmは110%時のスペックで、100%での最高出力は626psとなるそうだ。90.6kWhのバッテリーを積んだEQE53の航続距離は444~518kmと公表されているものの、モードによって出力差がずいぶんあって、さらにはドライバーの走り方にも大きく左右されるから、実電費は400km強くらいと思っていたほうがよさそうだ。
AMGライドコントロール+と呼ばれるエアサスは、速度依存の少ない優れた乗り心地とばね上の無駄な動きの抑制を両立させている。快適性を担保しつつ、スポーティな動力性能と操縦性を兼ね備えている点は、内燃機を積むノーマルと『Eクラス』とAMGのEクラスとの関係性と同じである。しかし、EクラスのノーマルとAMGの乗り味の差がEQEにもあるかと問われたら、残念ながらそこまでには至っていないと思う。Eクラスで受ける印象の違いはエンジンに因るところが大きく、モーターではそこまでの差別化を図るのが依然として難しいということなのかもしれない。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★
渡辺慎太郎|ジャーナリスト/エディター
1966年東京生まれ。米国の大学を卒業後、自動車雑誌『ル・ボラン』の編集者に。後に自動車雑誌『カーグラフィック』の編集記者と編集長を務め2018年から自動車ジャーナリスト/エディターへ転向、現在に至る。
さらに昨年末にはAMG EQS、そして今年になってAMG EQEが登場した。わずか数年の間にBEVの商品群をここまで拡充するスピードは想像していたよりもかなり早く、「日本車はBEVで遅れをとっている」との印象を市場に与えた要因のひとつとも考えられる。
電動になっても「メルセデスのルーティン」は変わらない
メルセデスのクルマの作り方はいくつかのルーティンがある。もっともコストがかかる新規プラットフォームは、その分の予算が計上しやすい高額モデルの『Sクラス』と同時開発し、のちに下位モデルへ広げていく。現行Sクラスと『Cクラス』、EQSとEQEがまさしくこのやり方だ。メルセデスとAMGの関係も同様で、ノーマルのメルセデスのパワートレインとサスペンションをAMG専用のセットに置き換え、内外装のお化粧を部分的にやり直す。これはBEVになっても変わらず、AMG EQSにはAMG専用のモーターとサスペンションが組み込まれ、今回試乗したAMG EQEもそれを踏襲する。
AMG EQEには「AMG EQE 43 4MATIC」と「AMG EQE 53 4MATIC+」の2モデルが用意されている。AMG EQSは「53 4MATIC+」のみだったので「43」は初登場となる。EQE 53のパワートレインのハードウエアは基本的にEQS 53と同じである。専用のモーターを(4MATICなので)前後に置き、ソフトウエアを変更してパワースペックに差を付けている。
AMG EQSの761ps/1020Nmに対してAMG EQEは687ps/1000Nm(いずれもオプションのAMGダイナミックパッケージ装着時)なので若干控え目な設定となる。空気ばねと電子制御式ダンパーを組み合わせたノーマルのエアサスペンションは、AMG専用の制御マップで動くようになっていて、これも考え方はAMG EQSと大きく変わらない。このエアサスと後輪操舵はAMG EQEでも標準で装備される。
乗り味にはAMG EQSとの「劇的な違い」なし
ボディサイズやボディ形状(EQSは5ドアの2ボックス、EQEは4ドアの3ボックス)、バッテリー容量が違うとはいえ、パワートレインと足まわりはほぼ同じだから、AMG EQSとAMG EQEの乗り味に劇的な違いはなく、AMG EQEは良くも悪くも「小さいAMG EQS」だった。特に今回の試乗車は53だけだったので、以前試乗したEQS 53との比較ができるもののその差は諸条件の違いに準じた妥当なものであり、43だったらひょっとするとAMG EQEならではの独特な乗り味があるのかもしれない。ただ経験値から言って、それでも「全然違う」とはならないだろう。
フロントバンパー下部の意匠変更、リヤのリップスポイラーやディフュザーの装着などは、パワートレインの種類を問わずAMGのいつものやり方である。強いて言うなら、内燃機モデルと比べるとEQのほうがより空力を重視した形状になっている点が特徴だ。試乗車の室内にはメルセデスご自慢のMBUXハイパースクリーンが装着されていた。EQSやAMG EQSでは標準装備のこれも、EQEやAMG EQEではオプション扱いとなっている。EQEは「ビジネスサルーン」とメルセデスが公言しているように、フリート客を主なターゲットに据えているから、企業の都合に応じて車両本体価格に自由度を持たせているのである。
モーターで「AMG」の差別化はまだ難しい?
正直なところ、AMG EQSとAMG EQEの差は、公道を法定速度で走る限りまったく体感できない。トルクは発進直後から潤沢で、これがきれいな線形を描きながらその後も発生しつづけるので、極めてスムーズかつ強力な加速感が味わえる。アクセルペダルを放せば回生ブレーキにより減速するものの、再び踏み込んだ際のレスポンスも抜群にいいので、約2.5トンの車両重量はこのパワーとレスポンスにより相殺される。動力性能に関するこれらの印象は予想通りだったが、AMGダイナミックセレクトのモードによってアウトプットをいかように制御しているのか、今回はその詳細が明らかにされた。
スリッパリーでは50%、コンフォートでは80%、スポーツでは90%、スポーツ+では100%とのこと。さらにAMGダイナミックプラスパッケージ装着車はレーススタートモードで瞬間的に110%を発生するという。前述の687ps/1000Nmは110%時のスペックで、100%での最高出力は626psとなるそうだ。90.6kWhのバッテリーを積んだEQE53の航続距離は444~518kmと公表されているものの、モードによって出力差がずいぶんあって、さらにはドライバーの走り方にも大きく左右されるから、実電費は400km強くらいと思っていたほうがよさそうだ。
AMGライドコントロール+と呼ばれるエアサスは、速度依存の少ない優れた乗り心地とばね上の無駄な動きの抑制を両立させている。快適性を担保しつつ、スポーティな動力性能と操縦性を兼ね備えている点は、内燃機を積むノーマルと『Eクラス』とAMGのEクラスとの関係性と同じである。しかし、EクラスのノーマルとAMGの乗り味の差がEQEにもあるかと問われたら、残念ながらそこまでには至っていないと思う。Eクラスで受ける印象の違いはエンジンに因るところが大きく、モーターではそこまでの差別化を図るのが依然として難しいということなのかもしれない。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★
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1966年東京生まれ。米国の大学を卒業後、自動車雑誌『ル・ボラン』の編集者に。後に自動車雑誌『カーグラフィック』の編集記者と編集長を務め2018年から自動車ジャーナリスト/エディターへ転向、現在に至る。
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