【マツダ CX-60 新型試乗】高級移行なるか? マツダ、一世一代の賭け…中村孝仁

  • マツダ CX-60 XD ハイブリッド(プレミアムモダン)
マツダ、一世一代の賭けに出たモデル
待望のマツダ、ラージプラットフォームモデルの第1弾として『CX-60』がデビューした。ある意味でマツダにとっては「一世一代の賭け」に出たともいえるモデルである。

何故それが一世一代の賭けに見えるかというと、まず電動化が叫ばれてヨーロッパメーカーの多くは内燃機関の開発を凍結したところが多いのに、新開発の6気筒エンジンを開発。それもディーゼル。しかも大排気量の3.3リットルである。プラットフォームにしてもラージはFR、即ちフロントエンジン、リアドライブのレイアウトでマツダで同じレイアウトと言えば特殊な『ロードスター』だけ。あとはすべてFWD(前輪駆動)レイアウトである。

もちろん電動化されていないわけではなく、48Vのマイルドハイブリッド仕様やガソリン4気筒と組み合わせたPHEVの存在もある。しかし、そうは言ってもBEVは今のところ存在せず、同時にこれまでのマツダにはなかった500万円オーバーという高価格帯にMHEVやPHEVのモデルが並ぶ。もちろんエントリー価格は200万円台だからかなりのワイドレンジである。そんなバラエティー豊かな商品構成とされているのが新しいCX-60だ。

サイズ的にもかなり大きく3サイズは全長4740×全幅1890×全高1685mm。あと一歩で全幅1900mmである。こうした要素を見ると、傍から見る限りはかなりチャレンジングで一世一代の賭けに出たと感じてしまうのだが、マツダ的には当然勝算あってのチャレンジだから、ここは素直に応援したくなる。

トルコンなしATのメリットは
既にテストコースでの試乗は多くのジャーナリストが済ませているが、私の場合はそれをスルーしていきなり完成モデルの公道試乗となった。今回試乗できたのは48Vマイルドハイブリッド仕様の3.3リットルターボディーゼル搭載車で、グレードは最上級の「プレミアムモダン」である。グレード構成は4タイプあるが、いずれもこの「XD ハイブリッド」になると500万円以下はない。

新開発のエンジンに新開発のトランスミッション、新たなFRプラットフォーム、さらにダブルウィッシュボーン/マルチリンクとメカニズムはこれまでになかった全く新しいものである。8速のトランスミッションは内製とされた。短絡的に考えると何故サプライヤーから調達しなかったのだろうか?と考える。餅は餅屋なのだから…と。

しかし話を聞くとまずトルクコンバーターを使わず、クラッチを使用している特徴がある。どういう利点があるかというと、もちろん繋がりのダイレクト感も大事だろう。しかし、エンジンとの間にクラッチが入ることでエンジンが完全に駆動系とセパレートすることができる。

これによるメリットはフリクションの低減。負荷の小さな時にコースティングさせるのだが、その際にエンジンが切り離されていることでフリクションが低減され、燃費に対する貢献は切り離していない時の倍になるという。さらに内製のもう一つの恩恵は、8速の大きなトランスミッションケースを極力スリムに作り、ドライビングポジションの適正化、即ちマツダが提唱しているステアリングに正対してペダルレイアウトができるようにしている。これが内製ゆえのメリットである。

「3.3リットル」の理由
エンジンをかけた瞬間から3.3リットルターボディーゼルは明確にその存在を主張する。マツダ曰く、音には拘りがあり音やリズムが人の感性に大きな影響を与えるということで意図して心地よい音を聞かせるチューニングとしているそうだ。だから、低回転域でも高回転域でもそのサウンドは確実にドライバーに届く。勿論心地よく。この辺りは音の存在をとことん消そうとしたメルセデスの姿勢と真逆であった。

何故、3.3リットルというやや中途半端なサイズになったのかを尋ねてみた。ライバルのDセグメントSUVはメルセデスもBMWも3リットルだ。答えはいっぱいいっぱいのパフォーマンスとしていないということ。つまり、本来ならもっとパワフルにできるものを絞って、500Nm以上のトルクを余裕をもって出すために僅かながら大きなキャパシティーにしているのだという。しかも低燃費で。

WLTC燃費は驚異的な21.0km/リットル。この数値は1.8リットルターボディーゼルを積む『CX-3』よりも良い。かなり攻め込んで走ったにもかかわらず、撮影時は15.1km/リットルを記録していたから省燃費運転をすればWLTCに近い数値を出せるのではないかと思う。

高速などでパーシャルから加速する際に踏み込んでいくと、まさに怒涛のトルク感を感じさせる力強さはこれまでのマツダ車では味わえなかった異次元のもの。そして大柄で重い(1940kg)車体にもかかわらず、運動性能も一級品である。室内の設えなども華美過ぎずとても居心地が良い。

チャレンジングな価格
と、ここまでは良いことずくめではあるのだが、車両本体価格552万7500円に加え、オプションを追加した合計価格は572万7700円とかなりチャレンジング。もちろん輸入車を含めたDセグメントSUVとしては割安だが、このクルマに試乗する前に極上の乗り心地を提供してくれたシトロエン『C5 X』に試乗し、その残像が残った中での試乗ということもあって、乗り心地という点ではあまり良い点をつけられない。特にリアからの突き上げ感をやや顕著に感じてしまった。

それに価格もそのシトロエンとほぼ同等である。勿論あちらはたかだか1.6リットルの普通のガソリン仕様。対するこちらは48Vマイルドハイブリッド仕様のディーゼルでしかも4WDである。まあ比較するのも無理があるのだが、要するにCX-60が、ヨーロッパDセグメントモデルと並んで検討材料の中に飛び込んできたことだけは間違いない。それだけの押し出し感や性能、そして出来の良さを感じたクルマであった。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来45年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。


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