【アルピーヌ A110 GT 新型試乗】欲求を満たすためだけに走りたくなる…中村孝仁
純粋に走りを楽しみたいユーザーがいる
ケーターハム『スーパーセブン』を筆頭としたいわゆる走りに特化したモデルを所有するユーザーからよく聞く言葉が「走りに行く」である。
自動車とは、本来はA地点からB地点に人や物を移動させる道具。求められているのは物や人を収容する積載能力だったり快適性だったりといった項目の優先順位が高い。しかし冒頭に記したモデル、即ちケーターハムセブンのようなクルマの場合、そうした能力はほぼゼロである。こうしたクルマは純粋に走りの醍醐味というか、運動能力。そしてそれを操るドライバーの技量を含め、ただひたすら走らせる面白さや爽快感を味わうための自動車であって前述した機能は全く持ち合わせていない。しかし、自動車が人々の生活に彩りを持たせるためにはある意味必要不可欠な存在だと思う。
そうしたクルマたちは言わば「大人のおもちゃ」的存在だ。もっともそれを日常の足として使うユーザーが私の友人にはいる。セブンは対候性ゼロと言って過言ではない。彼が持つもう1台は60年代に一世を風靡したこれまた運動能力には長けるが、やはり収容能力や快適性は二の次で、まあ屋根がついているので対候性は問題ないが、そもそも誕生してから既に60年近くがたつクラシックカー。信頼性という点で非常に心許ないわけだが、その2台しか所有していない。そうしたカーライフというのもあるわけである。
何を言いたいかというと、純粋に走りを楽しみたい、即ち自動車に求める要素がこれ、というユーザーが少なからずいる、ということである。しかし、彼のように割り切った考えを持つことはなかなか難しい。少なくとも最低限の安心と対候性、それに多少なりとも物の積める積載能力が私のクルマ選びの中では必要である。そうした要求にすべて応えてくれたのがアルピーヌ『A110 GT』である。
紆余曲折の末に誕生したA110、そして「GT」の実力
現在のアルピーヌ誕生までには紆余曲折があり、冒頭に話をしたケーターハムとは一時合弁事業を立ち上げ、共同でスポーツカーを開発することを発表したこともある。しかしそれは消滅し結果として親会社であったルノーはアルピーヌ事業を独立させ、さらにルノースポールを取り込んでスポーツカーブランドとしてわかり易い構成としたのである。
A110は2017年に誕生し、その姿は往年の名車でその名も同じA110を彷彿させるスタイルを持つが、レイアウトは昔のリアエンジンからミッドシップへと様変わりしてより現代的志向を強めている。そしてエンジンはメガーヌのルノースポール版から移植されたもので、横置きの直列4気筒を搭載するが、GTと呼ばれるモデルはそれをパワーアップしたバリエーションである。
ラインナップにあるハンドリングマシンとして特化した『A110 S』と呼ばれるグレードよりも、より快適性を求めたシャシーチューニングと室内の豪華さを持ち、ノーマルA110に対してはパフォーマンス的に48psのアドバンテージを持っている。パワーは300psだから『メガーヌRSトロフィー』のそれと同じだ。
欲求を満たすためだけに箱根へ
そんなクルマだから横浜でクルマを借り出して、実はその足で箱根までドライブしてしまった。いわゆる「走りに行く」というやつで、箱根で何かをするために行ったわけではなく純粋にワインディングロードをこのクルマで走ってみたいという欲求を満たすためである。どんなにあれこれと能書きを並べてみたところでただ純粋に「楽しかった!」という表現をするのが一番適当なような気がする。
でもそれで終わってしまってはレポートにならないので、あれこれと能書きを並べさせていただくと、脚のしなやかさは予想したよりもはるかに快適で段差などで進入する突き上げ感はスポーツカーの足としては最小に抑えられている。2420mmという短めのホイールベースであるにもかかわらず、ぴょこぴょこと跳ねる印象は皆無。見事に路面を往なしていく秀逸な滑らかさを持つ。2年前に試乗した「リネージ」と呼ばれた当時の豪華仕様と比較して、乗り心地がより快適さを増した印象でかつパワフルになっているのだから文句のつけようがない。
トランスミッションはゲトラク製7速DCTである。Dに放り込んでおけば街中だろうが高速だろうが、あるいはワインディングだろうが常に的確なギアを選択してくれるのだが、やはりパドルを使って少し高めのギアを使えばより楽しくなる。これにステアリングに付くスポーツボタンを押せば、その楽しさはさらに倍加され、ダウンシフトの際はきちっとレブマッチングしてくれて、シフトのたびにボッボッボッと特有のサウンドを発するあたりもスポーツモードの特徴である。
パワーと快適性を両立させたGTはイチ押しグレード
センター出しのマフラーを挟んで左右にディフューザーが顔をのぞかせるリア。腹下をのぞき込むとそのディフューザーがボディの中央付近まで伸びていてボディ下面がきちんと整流されているのがわかる。
リアエンドのラゲッジスペースはごく僅か。一方フロントは深さこそ乏しいがかなりのスペースがあるので、まあ2泊3日程度のカップル旅行なら十分賄えるサイズのスペースを持つ。パワーと快適性を両立させたGT、アルピーヌのイチ押しグレードである。そして思わず走りに行きたくなること請け合いだ。
■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来45年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。
ケーターハム『スーパーセブン』を筆頭としたいわゆる走りに特化したモデルを所有するユーザーからよく聞く言葉が「走りに行く」である。
自動車とは、本来はA地点からB地点に人や物を移動させる道具。求められているのは物や人を収容する積載能力だったり快適性だったりといった項目の優先順位が高い。しかし冒頭に記したモデル、即ちケーターハムセブンのようなクルマの場合、そうした能力はほぼゼロである。こうしたクルマは純粋に走りの醍醐味というか、運動能力。そしてそれを操るドライバーの技量を含め、ただひたすら走らせる面白さや爽快感を味わうための自動車であって前述した機能は全く持ち合わせていない。しかし、自動車が人々の生活に彩りを持たせるためにはある意味必要不可欠な存在だと思う。
そうしたクルマたちは言わば「大人のおもちゃ」的存在だ。もっともそれを日常の足として使うユーザーが私の友人にはいる。セブンは対候性ゼロと言って過言ではない。彼が持つもう1台は60年代に一世を風靡したこれまた運動能力には長けるが、やはり収容能力や快適性は二の次で、まあ屋根がついているので対候性は問題ないが、そもそも誕生してから既に60年近くがたつクラシックカー。信頼性という点で非常に心許ないわけだが、その2台しか所有していない。そうしたカーライフというのもあるわけである。
何を言いたいかというと、純粋に走りを楽しみたい、即ち自動車に求める要素がこれ、というユーザーが少なからずいる、ということである。しかし、彼のように割り切った考えを持つことはなかなか難しい。少なくとも最低限の安心と対候性、それに多少なりとも物の積める積載能力が私のクルマ選びの中では必要である。そうした要求にすべて応えてくれたのがアルピーヌ『A110 GT』である。
紆余曲折の末に誕生したA110、そして「GT」の実力
現在のアルピーヌ誕生までには紆余曲折があり、冒頭に話をしたケーターハムとは一時合弁事業を立ち上げ、共同でスポーツカーを開発することを発表したこともある。しかしそれは消滅し結果として親会社であったルノーはアルピーヌ事業を独立させ、さらにルノースポールを取り込んでスポーツカーブランドとしてわかり易い構成としたのである。
A110は2017年に誕生し、その姿は往年の名車でその名も同じA110を彷彿させるスタイルを持つが、レイアウトは昔のリアエンジンからミッドシップへと様変わりしてより現代的志向を強めている。そしてエンジンはメガーヌのルノースポール版から移植されたもので、横置きの直列4気筒を搭載するが、GTと呼ばれるモデルはそれをパワーアップしたバリエーションである。
ラインナップにあるハンドリングマシンとして特化した『A110 S』と呼ばれるグレードよりも、より快適性を求めたシャシーチューニングと室内の豪華さを持ち、ノーマルA110に対してはパフォーマンス的に48psのアドバンテージを持っている。パワーは300psだから『メガーヌRSトロフィー』のそれと同じだ。
欲求を満たすためだけに箱根へ
そんなクルマだから横浜でクルマを借り出して、実はその足で箱根までドライブしてしまった。いわゆる「走りに行く」というやつで、箱根で何かをするために行ったわけではなく純粋にワインディングロードをこのクルマで走ってみたいという欲求を満たすためである。どんなにあれこれと能書きを並べてみたところでただ純粋に「楽しかった!」という表現をするのが一番適当なような気がする。
でもそれで終わってしまってはレポートにならないので、あれこれと能書きを並べさせていただくと、脚のしなやかさは予想したよりもはるかに快適で段差などで進入する突き上げ感はスポーツカーの足としては最小に抑えられている。2420mmという短めのホイールベースであるにもかかわらず、ぴょこぴょこと跳ねる印象は皆無。見事に路面を往なしていく秀逸な滑らかさを持つ。2年前に試乗した「リネージ」と呼ばれた当時の豪華仕様と比較して、乗り心地がより快適さを増した印象でかつパワフルになっているのだから文句のつけようがない。
トランスミッションはゲトラク製7速DCTである。Dに放り込んでおけば街中だろうが高速だろうが、あるいはワインディングだろうが常に的確なギアを選択してくれるのだが、やはりパドルを使って少し高めのギアを使えばより楽しくなる。これにステアリングに付くスポーツボタンを押せば、その楽しさはさらに倍加され、ダウンシフトの際はきちっとレブマッチングしてくれて、シフトのたびにボッボッボッと特有のサウンドを発するあたりもスポーツモードの特徴である。
パワーと快適性を両立させたGTはイチ押しグレード
センター出しのマフラーを挟んで左右にディフューザーが顔をのぞかせるリア。腹下をのぞき込むとそのディフューザーがボディの中央付近まで伸びていてボディ下面がきちんと整流されているのがわかる。
リアエンドのラゲッジスペースはごく僅か。一方フロントは深さこそ乏しいがかなりのスペースがあるので、まあ2泊3日程度のカップル旅行なら十分賄えるサイズのスペースを持つ。パワーと快適性を両立させたGT、アルピーヌのイチ押しグレードである。そして思わず走りに行きたくなること請け合いだ。
■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★
中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来45年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。
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