【アウディ Q4 e-tron 新型試乗】「まごうかたなきアウディの走り」BEVが面白くなってきた…渡辺慎太郎
◆BEV発展期に登場したアウディの第三弾『Q4 e-tron』
アウディが最初に“e-tron”と呼ぶモデルをお披露目したのは確か2009年のフランクフルトモーターショーだったと記憶している。『R8』を少し小ぶりにした、ミッドシップスポーツカーを模したスタイリングのBEVだった。以来、アウディはe-tronと名付けたコンセプトモデルを継続的に発表し、これをもってBEV開発の進捗状況を世界に発信してきたという経緯がある。
量産型BEVとして2018年についに登場したアウディ『e-tron』は、それまでのコンセプトモデルのようなスポーツカールックではなくSUVだった。その理由についてアウディは、構造的に天地方向にスペースの余裕があるSUVは床下にバッテリーを搭載しても室内への侵食が最小限で済む、高い重心を床下のバッテリーによって下げることができる、何よりSUVは依然として人気のボディタイプであることなどを挙げた。
同時期に登場したメルセデスの『EQC』がSUVだったのも同様の理由による。その当時は、とにかくとりあえずさっさと量産型のBEVを発売して世間の認知度を高めると同時に反応を窺うことが重要で、開発期間を短くするためにプラットフォームも既存のそれを流用し、内燃機(ICE)からBEVへコンバートするやり方が(テスラを除けば)主流だった。
その頃をBEVの創生期とすると、2022年のいまはBEV専用のプラットフォームが少しずつ増え始めた発展期に入ったと言える。これまでアウディが日本で展開してきたBEVはe-tron(+e-tronスポーツバック)と『e-tron GT』で、このうちe-tron GTはポルシェ『タイカン』と共有するBEV専用のプラットフォームだった。そして今回、第三弾のBEVとして追加導入されたのがアウディ『Q4 e-tron/Q4 スポーツバック e-tron』である。
◆BEV専用プラットフォームを活かしたパッケージング
アウディQ4 e-tronの最大の特徴は、“MEB”と呼ばれるBEV専用のプラットフォームを使用している点にある。これはフォルクスワーゲンが『ID.3』で初採用しており、日本での販売が開始されたばかりの『ID.4』も共有している。MEBは言ってみればICE用としてVW『ゴルフ』やアウディ『A3』などで使われてきたMQBのBEV版という位置付けとなる。全幅やホイールベースに設計の自由度が持たされている他、パワートレインはモーターやリダクションギヤ、制御ユニットなどを一体化した駆動用モジュールとし、前にも(=FF)後ろにも(=RR)前後にも(=4WD)搭載可能となっている。
Q4 e-tronは全長4590mm、全幅1860mm、全高1610mm(いずれも車検証値)で、ボディサイズは『Q3』と『Q5』のちょうど間にすっぽり収まるものの、室内の前後方向の全長はQ5よりも長いという。これこそが、BEV専用プラットフォームを使った恩恵のひとつである。
BEVのパワートレインではICEで必須の吸排気系やトランスミッションが必要ないので、エンジンルームをコンパクトに出来る。実際、Q4 e-tronのボンネット長はe-tronよりも短い。これにより、いわゆるキャブフォワードのパッケージが成立しやすくなり、キャビンを前後方向に伸ばしやすくなるわけだ。
日本仕様には「Q4 40 e-tron」(599万円)、「Q4 40 e-tron advanced」(662万円)、「Q4 40 e-tron S line」(689万円)、「Q4 Sportback 40 e-tron advanced」(688万円)、「Q4 Sportback 40 e-tron S line」(716万円)の計5タイプが用意されている。車名に“quattro”(クワトロ)の文字がないように、日本仕様のQ4 e-tronはすべてモーターをリヤに置くRRの駆動形式となる。400Vのシステム電圧と82kWhの駆動用バッテリーを採用し、最大航続距離は516km(欧州値)と公表されている。もちろん、普通充電と急速充電の両方に対応する。
◆まごうかたなきアウディだった
今回試したのはいわゆる一般的なSUVルックのほうのQ4 40 e-tron S line。試乗時間と場所が限られていたので高速道路は走れず、一般道のみのインプレッションとなることをご容赦いただきたい。
走り出した直後から「?」と感じ、その後いろいろ試すも結局最後まで「?」が取れなかったのは乗り心地だった。S lineは専用のスポーツサスペンションと20インチの偏平タイヤが装着されていて、ばね上の動きを積極的に抑えようと減衰が早く、路面からの入力が頻繁に身体を揺らした。走行距離が1000kmちょっとのほぼ新車状態だったので、距離を積めばもう少し和らぐかもしれないし、高速巡航時のスタビリティは高いかもしれないが、タウンスピードでの乗り心地は少し厳しいと思った。
アウディはそもそもペダルやステアリングの操作荷重がドイツ車の中では軽めで、パワートレインや車重によっては操作荷重と実際のクルマの動きに差が生じる場合もある。しかしQ4 e-tronではそれがピタリ合っていた。すぐに立ち上がるトルクと共に2100kgもの車体をスッと動かす動力性能だけでなく、48:52という前後の重量差がほとんどない重量配分と後輪駆動らしいスッキリとしたステアリングフィールや回頭性は、いずれも軽快感溢れるもので、軽めの操作荷重に見合う走りだった。
クルマを返却する時にバッテリー残量を確認したら、思っていた以上に残っていてちょっと驚いた。市街地中心の試乗でブレーキを踏む頻度が多く、加えて回生ブレーキの効率がずいぶんいいようだった。
BEVが出始めた頃は正直、どれも似たような乗り味であまり興味を惹かれなかった。ところが最近のBEVは各ブランドの乗り味がきちんと反映されていて、だんだん面白くなってきたと感じている。Q4 e-tronも、まごうかたなきアウディだった。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★
渡辺慎太郎|ジャーナリスト/エディター
1966年東京生まれ。米国の大学を卒業後、自動車雑誌『ル・ボラン』の編集者に。後に自動車雑誌『カーグラフィック』の編集記者と編集長を務め2018年から自動車ジャーナリスト/エディターへ転向、現在に至る。
アウディが最初に“e-tron”と呼ぶモデルをお披露目したのは確か2009年のフランクフルトモーターショーだったと記憶している。『R8』を少し小ぶりにした、ミッドシップスポーツカーを模したスタイリングのBEVだった。以来、アウディはe-tronと名付けたコンセプトモデルを継続的に発表し、これをもってBEV開発の進捗状況を世界に発信してきたという経緯がある。
量産型BEVとして2018年についに登場したアウディ『e-tron』は、それまでのコンセプトモデルのようなスポーツカールックではなくSUVだった。その理由についてアウディは、構造的に天地方向にスペースの余裕があるSUVは床下にバッテリーを搭載しても室内への侵食が最小限で済む、高い重心を床下のバッテリーによって下げることができる、何よりSUVは依然として人気のボディタイプであることなどを挙げた。
同時期に登場したメルセデスの『EQC』がSUVだったのも同様の理由による。その当時は、とにかくとりあえずさっさと量産型のBEVを発売して世間の認知度を高めると同時に反応を窺うことが重要で、開発期間を短くするためにプラットフォームも既存のそれを流用し、内燃機(ICE)からBEVへコンバートするやり方が(テスラを除けば)主流だった。
その頃をBEVの創生期とすると、2022年のいまはBEV専用のプラットフォームが少しずつ増え始めた発展期に入ったと言える。これまでアウディが日本で展開してきたBEVはe-tron(+e-tronスポーツバック)と『e-tron GT』で、このうちe-tron GTはポルシェ『タイカン』と共有するBEV専用のプラットフォームだった。そして今回、第三弾のBEVとして追加導入されたのがアウディ『Q4 e-tron/Q4 スポーツバック e-tron』である。
◆BEV専用プラットフォームを活かしたパッケージング
アウディQ4 e-tronの最大の特徴は、“MEB”と呼ばれるBEV専用のプラットフォームを使用している点にある。これはフォルクスワーゲンが『ID.3』で初採用しており、日本での販売が開始されたばかりの『ID.4』も共有している。MEBは言ってみればICE用としてVW『ゴルフ』やアウディ『A3』などで使われてきたMQBのBEV版という位置付けとなる。全幅やホイールベースに設計の自由度が持たされている他、パワートレインはモーターやリダクションギヤ、制御ユニットなどを一体化した駆動用モジュールとし、前にも(=FF)後ろにも(=RR)前後にも(=4WD)搭載可能となっている。
Q4 e-tronは全長4590mm、全幅1860mm、全高1610mm(いずれも車検証値)で、ボディサイズは『Q3』と『Q5』のちょうど間にすっぽり収まるものの、室内の前後方向の全長はQ5よりも長いという。これこそが、BEV専用プラットフォームを使った恩恵のひとつである。
BEVのパワートレインではICEで必須の吸排気系やトランスミッションが必要ないので、エンジンルームをコンパクトに出来る。実際、Q4 e-tronのボンネット長はe-tronよりも短い。これにより、いわゆるキャブフォワードのパッケージが成立しやすくなり、キャビンを前後方向に伸ばしやすくなるわけだ。
日本仕様には「Q4 40 e-tron」(599万円)、「Q4 40 e-tron advanced」(662万円)、「Q4 40 e-tron S line」(689万円)、「Q4 Sportback 40 e-tron advanced」(688万円)、「Q4 Sportback 40 e-tron S line」(716万円)の計5タイプが用意されている。車名に“quattro”(クワトロ)の文字がないように、日本仕様のQ4 e-tronはすべてモーターをリヤに置くRRの駆動形式となる。400Vのシステム電圧と82kWhの駆動用バッテリーを採用し、最大航続距離は516km(欧州値)と公表されている。もちろん、普通充電と急速充電の両方に対応する。
◆まごうかたなきアウディだった
今回試したのはいわゆる一般的なSUVルックのほうのQ4 40 e-tron S line。試乗時間と場所が限られていたので高速道路は走れず、一般道のみのインプレッションとなることをご容赦いただきたい。
走り出した直後から「?」と感じ、その後いろいろ試すも結局最後まで「?」が取れなかったのは乗り心地だった。S lineは専用のスポーツサスペンションと20インチの偏平タイヤが装着されていて、ばね上の動きを積極的に抑えようと減衰が早く、路面からの入力が頻繁に身体を揺らした。走行距離が1000kmちょっとのほぼ新車状態だったので、距離を積めばもう少し和らぐかもしれないし、高速巡航時のスタビリティは高いかもしれないが、タウンスピードでの乗り心地は少し厳しいと思った。
アウディはそもそもペダルやステアリングの操作荷重がドイツ車の中では軽めで、パワートレインや車重によっては操作荷重と実際のクルマの動きに差が生じる場合もある。しかしQ4 e-tronではそれがピタリ合っていた。すぐに立ち上がるトルクと共に2100kgもの車体をスッと動かす動力性能だけでなく、48:52という前後の重量差がほとんどない重量配分と後輪駆動らしいスッキリとしたステアリングフィールや回頭性は、いずれも軽快感溢れるもので、軽めの操作荷重に見合う走りだった。
クルマを返却する時にバッテリー残量を確認したら、思っていた以上に残っていてちょっと驚いた。市街地中心の試乗でブレーキを踏む頻度が多く、加えて回生ブレーキの効率がずいぶんいいようだった。
BEVが出始めた頃は正直、どれも似たような乗り味であまり興味を惹かれなかった。ところが最近のBEVは各ブランドの乗り味がきちんと反映されていて、だんだん面白くなってきたと感じている。Q4 e-tronも、まごうかたなきアウディだった。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★
渡辺慎太郎|ジャーナリスト/エディター
1966年東京生まれ。米国の大学を卒業後、自動車雑誌『ル・ボラン』の編集者に。後に自動車雑誌『カーグラフィック』の編集記者と編集長を務め2018年から自動車ジャーナリスト/エディターへ転向、現在に至る。
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