レーサー猪爪杏奈が新型『シビックタイプR』を試乗、イカつい走り味に「こうでなくちゃ!」
今年は、20歳からはじまった私のレースキャリアにおいて最も飛躍した一年でした。それは、TCR Japan Seriesでドライブしたホンダ『シビックタイプR』のおかげであることは間違いありません。
サーキットの過酷な現場で手足のように操り誰よりも早くゴールするため、愛情をもって対話してきたシビックタイプR。走りも見た目も威厳がありますが、通称は「シビ子ちゃん」。私にとってはかけがえのない相棒なので、ここでは「シビ子ちゃん」と呼んでもいいですか?
◆奥ゆかしさとプレミアム感ある新型のエクステリア
最近の新型車には車種名に数字がついているイメージがありますが、昔から変わらない「シビック」とレーシングを彷彿とさせる「タイプR」のネーミングは良いですよね。私も「シビ子ちゃん」と名前で呼ぶようになってから更に愛着が湧きましたから。
新型のエクステリアは、パッと見ただけで先代より角が取れて肉感が増したのが分かり、全体的に奥ゆかしさや艶やかだなという印象を受けました。空力性能を考慮したローアンドワイドなボディはプレミアム感が漂い、ポルシェ『911』のようにも見えました。それだけデザインは美しく一新されていましたが、私は先代に馴染み深いためか、少し寂しくも感じました。
ちなみに、先代はフェンダーが外付けだったのが、新型はホワイトボディからワイドなフェンダーを開発されたそうで、更に言うとベースのシビックと外観で共通しているのは、フロントドアとルーフくらいだそうです。
◆一面の赤色はまるでレッドカーペットのよう
インテリアについてですが、乗り込むとまずあたり一面に広がる赤色は、まるでこれからレッドカーペットを歩くような高揚を感じられ、「タイプRといえば赤でしょ」というファンの期待を裏切らないところが素敵です。偏光ガンメタリック塗装のインストルメントパネルも特徴的で、個人的にカッコ良いなと思いました。
ここまで書くと派手にみえますが、インテリアには黒色が多く採用されているし、スイッチも必要最低限が揃い非常にシンプルだから、コックピットに座ると問題なく運転に集中できました。
セミバケットシートは腰深く座れて、遠くを見通せるポジションがGOOD!見切りも良く、車幅も分かりやすいです。後席にも座ってみましたが、足を十分伸ばせて居住性も文句なしです。
◆イカつい走り味に「こうでなくちゃ!」
ドライブモードは、COMFORT、SPORT、+R、INDIVIDUALの4モードが用意されていて、まずはベーシックなCOMFORTにして走り出しました。すると間もなく、「おぉ、これはだいぶ硬い!」と思わず口にするほど、クルマの骨格から足回りまでの重厚感をハンドリングで感じました。エクステリアの女性的な美しさとは相反するイカつい走り味に、「やっぱりシビ子ちゃんはこうでなくちゃ!」という安心感がありました。
ドライブモードの中でCOMFORTは乗り心地重視設定で、路面の凸凹の突き上げが一番マイルドなため、疲れにくさはNo.1。普段乗りは全部COMFORTがベストですが、エンジンサウンドだけレーシングを感じたいので、私ならINDIVIDUALで音だけ+Rで楽しみたいですね。
SPORTにすると一気に乗り心地が変わり、減衰がハードになっていることは確かですが、「バネも変わった?」と思うほど足回りの硬さに違いがありました。高速道路や、一般道路をSPORT以上で走るのは、私はちょっと疲れてしまいました。
+Rは、サーキット専用モード。ステアリングも更に重くなるので、軽い方が安心という人は+Rから引き算で、INDIVIDUALモードを活用してステアリングのみ軽くしても良いかもしれませんね。
◆高速コーナーが連続するサーキットで本領発揮しそう
レーシングスピードで走行する時のことを想像してみました。シビ子ちゃんは、鈴鹿サーキットやオートポリスなどの高速コーナーが連続するサーキットで本領発揮しそうです。
路面との接地感はしっかりありますが、重心点が高く、操作に対して車の動きが遅れて出てくるので、筑波サーキットの各ヘアピンなどを突っ込み気味で飛び込むと、進入から跳ねてしまってコントロールが難しそう。走るとしたら、低速コーナーの動きを良くするため、足回りのセッティングを煮詰めたいですね。
ちなみにACCは全速度域では効きませんから(MTなので)、速度が落ちてきたらシフトダウンが必要です。「タイプRを買ったなら自分で運転しなさいね」ということです。
また、タイプR専用のデータロガー「Honda LogR」は標準装備で、ドライビングスキルにスコアがつきます。国内13箇所のサーキットを走行する時は、GPSで測位して自動でスピードリミッターを解除してくれるみたいです。
◆シビ子ちゃん、本当にありがとう!
さて、ここまでNewシビ子ちゃんの試乗レポートを語らせていただきましたが、SDGsやカーボンニュートラルが急速に推進される中、自動車産業は最も難しい変革期を迎えています。モータースポーツ業界も同じく課題に直面しています。
そう遠くない未来、きっと私が生きている間に、シビ子ちゃんのようなガソリンエンジンのピュアスポーツカーは今のクラシックカーのような存在になってしまうかもしれません。
ですが、私はスポーツカーが大好きです。高鳴るエンジンサウンドやガソリンの匂い、マニュアル車を手足のように操れた瞬間など、スポーツカーの全ての要素を常に感じて運転していたいです。
私を大きく飛躍させてくれたシビ子ちゃん、本当にありがとう!私と同じように心の底からのファンに愛していただけますように。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★★
猪爪杏奈|レーシングドライバー
元全日本ジムカーナチャンピオンの父の影響を受け、19歳で免許を取得後レースの世界に飛び込む。20歳で参戦した全日本電気自動車レースシリーズを皮切りに、ロードスター・パーティレース、スーパー耐久レース、JAF-F4選手権などで頭角を現す。2022年、TCR JAPAN Seriesでは9戦連続表彰台を獲得し、WEC世界耐久選手権併催の第5戦Sunday Seriesでは、全ラップにおいてFastest Lapを記録しパーフェクトウィン。鈴鹿サーキットで行われた第6戦では、Wポールポジションを獲得し、Saturday Seriesはポール・トゥ・ウィン。世界初の女性ドライバー限定カテゴリーKYOJO CUPでは、唯一全戦表彰台を獲得しトップランカーとして安定した強さをみせた。両レースとも、持ち味のファイティングスピリット溢れるバトルを繰り広げ、チャンピオン争いを展開するが、惜しくもシリーズ2位で閉幕した。目標はスーパーGTドライバー。今後の活躍が楽しみな女性ドライバーである。
サーキットの過酷な現場で手足のように操り誰よりも早くゴールするため、愛情をもって対話してきたシビックタイプR。走りも見た目も威厳がありますが、通称は「シビ子ちゃん」。私にとってはかけがえのない相棒なので、ここでは「シビ子ちゃん」と呼んでもいいですか?
◆奥ゆかしさとプレミアム感ある新型のエクステリア
最近の新型車には車種名に数字がついているイメージがありますが、昔から変わらない「シビック」とレーシングを彷彿とさせる「タイプR」のネーミングは良いですよね。私も「シビ子ちゃん」と名前で呼ぶようになってから更に愛着が湧きましたから。
新型のエクステリアは、パッと見ただけで先代より角が取れて肉感が増したのが分かり、全体的に奥ゆかしさや艶やかだなという印象を受けました。空力性能を考慮したローアンドワイドなボディはプレミアム感が漂い、ポルシェ『911』のようにも見えました。それだけデザインは美しく一新されていましたが、私は先代に馴染み深いためか、少し寂しくも感じました。
ちなみに、先代はフェンダーが外付けだったのが、新型はホワイトボディからワイドなフェンダーを開発されたそうで、更に言うとベースのシビックと外観で共通しているのは、フロントドアとルーフくらいだそうです。
◆一面の赤色はまるでレッドカーペットのよう
インテリアについてですが、乗り込むとまずあたり一面に広がる赤色は、まるでこれからレッドカーペットを歩くような高揚を感じられ、「タイプRといえば赤でしょ」というファンの期待を裏切らないところが素敵です。偏光ガンメタリック塗装のインストルメントパネルも特徴的で、個人的にカッコ良いなと思いました。
ここまで書くと派手にみえますが、インテリアには黒色が多く採用されているし、スイッチも必要最低限が揃い非常にシンプルだから、コックピットに座ると問題なく運転に集中できました。
セミバケットシートは腰深く座れて、遠くを見通せるポジションがGOOD!見切りも良く、車幅も分かりやすいです。後席にも座ってみましたが、足を十分伸ばせて居住性も文句なしです。
◆イカつい走り味に「こうでなくちゃ!」
ドライブモードは、COMFORT、SPORT、+R、INDIVIDUALの4モードが用意されていて、まずはベーシックなCOMFORTにして走り出しました。すると間もなく、「おぉ、これはだいぶ硬い!」と思わず口にするほど、クルマの骨格から足回りまでの重厚感をハンドリングで感じました。エクステリアの女性的な美しさとは相反するイカつい走り味に、「やっぱりシビ子ちゃんはこうでなくちゃ!」という安心感がありました。
ドライブモードの中でCOMFORTは乗り心地重視設定で、路面の凸凹の突き上げが一番マイルドなため、疲れにくさはNo.1。普段乗りは全部COMFORTがベストですが、エンジンサウンドだけレーシングを感じたいので、私ならINDIVIDUALで音だけ+Rで楽しみたいですね。
SPORTにすると一気に乗り心地が変わり、減衰がハードになっていることは確かですが、「バネも変わった?」と思うほど足回りの硬さに違いがありました。高速道路や、一般道路をSPORT以上で走るのは、私はちょっと疲れてしまいました。
+Rは、サーキット専用モード。ステアリングも更に重くなるので、軽い方が安心という人は+Rから引き算で、INDIVIDUALモードを活用してステアリングのみ軽くしても良いかもしれませんね。
◆高速コーナーが連続するサーキットで本領発揮しそう
レーシングスピードで走行する時のことを想像してみました。シビ子ちゃんは、鈴鹿サーキットやオートポリスなどの高速コーナーが連続するサーキットで本領発揮しそうです。
路面との接地感はしっかりありますが、重心点が高く、操作に対して車の動きが遅れて出てくるので、筑波サーキットの各ヘアピンなどを突っ込み気味で飛び込むと、進入から跳ねてしまってコントロールが難しそう。走るとしたら、低速コーナーの動きを良くするため、足回りのセッティングを煮詰めたいですね。
ちなみにACCは全速度域では効きませんから(MTなので)、速度が落ちてきたらシフトダウンが必要です。「タイプRを買ったなら自分で運転しなさいね」ということです。
また、タイプR専用のデータロガー「Honda LogR」は標準装備で、ドライビングスキルにスコアがつきます。国内13箇所のサーキットを走行する時は、GPSで測位して自動でスピードリミッターを解除してくれるみたいです。
◆シビ子ちゃん、本当にありがとう!
さて、ここまでNewシビ子ちゃんの試乗レポートを語らせていただきましたが、SDGsやカーボンニュートラルが急速に推進される中、自動車産業は最も難しい変革期を迎えています。モータースポーツ業界も同じく課題に直面しています。
そう遠くない未来、きっと私が生きている間に、シビ子ちゃんのようなガソリンエンジンのピュアスポーツカーは今のクラシックカーのような存在になってしまうかもしれません。
ですが、私はスポーツカーが大好きです。高鳴るエンジンサウンドやガソリンの匂い、マニュアル車を手足のように操れた瞬間など、スポーツカーの全ての要素を常に感じて運転していたいです。
私を大きく飛躍させてくれたシビ子ちゃん、本当にありがとう!私と同じように心の底からのファンに愛していただけますように。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★★
猪爪杏奈|レーシングドライバー
元全日本ジムカーナチャンピオンの父の影響を受け、19歳で免許を取得後レースの世界に飛び込む。20歳で参戦した全日本電気自動車レースシリーズを皮切りに、ロードスター・パーティレース、スーパー耐久レース、JAF-F4選手権などで頭角を現す。2022年、TCR JAPAN Seriesでは9戦連続表彰台を獲得し、WEC世界耐久選手権併催の第5戦Sunday Seriesでは、全ラップにおいてFastest Lapを記録しパーフェクトウィン。鈴鹿サーキットで行われた第6戦では、Wポールポジションを獲得し、Saturday Seriesはポール・トゥ・ウィン。世界初の女性ドライバー限定カテゴリーKYOJO CUPでは、唯一全戦表彰台を獲得しトップランカーとして安定した強さをみせた。両レースとも、持ち味のファイティングスピリット溢れるバトルを繰り広げ、チャンピオン争いを展開するが、惜しくもシリーズ2位で閉幕した。目標はスーパーGTドライバー。今後の活躍が楽しみな女性ドライバーである。
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