【トヨタ プリウス 新型試乗】HEVにはまだまだ伸びしろも化けしろもある、驚くべき新プリウスの境地…渡辺敏史
初代10系『プリウス』が登場したのは1997年のこと。「21世紀に間にあいました」というキャッチフレーズが印象的だった世界初の量産ハイブリッドカーは、実はそんなどころではない〆切を抱えていたという。
それは同年12月、京都で開催された気候変動枠組条約第3回締約国会議=COP3の前になんとしても間に合わせろという当時のアツい経営陣の意向というか、追い込みだ。開発当初から抱えに抱えた無理難題をひとつひとつ解きほぐしながら、初代プリウスはその年の10月に発表にこぎつけた。
12月からは納車が始まり、発表とともに現物をみることなく注文を入れた僕の元にも12月28日の御用納めにモノが届いたことは鮮明に覚えている。ヒーンというインバータノイズと共にゆるゆると動き始める水色のずんぐりした塊。今では考えられないほどモーターのアシスト感は弱く、モーターのみでの走行は微妙なアクセルワークで引っ張り出すようなクルマだったが、それまでのクルマとはまったく異なる振る舞いに、21世紀が我が家にやってきた的喜びはひしひしと感じられた。
そこから四半世紀の時が経ち、プリウスは5代目へと進化した。5代目なのに60系なのは、間に『プリウスα』が40系を名乗ってしまったからだ。この間、全世界で販売されたプリウスは600万台に近く、トヨタのxHEV(ICE+HEVユニット)の全数は2000万台を突破している。欧米の自動車メーカーはBEV(バッテリー式EV)で環境スコアのスキップを図ろうとしているフシもあるが、この四半世紀にトヨタがxHEVで削減してきたCO2量や環境への貢献はファクトとして揺るぎない。
そんな経緯もあって、個人的には今でもプリウスは、トヨタが環境メッセージを発進する上での総代的な位置づけにあると思っている。今や日産やホンダも独自性の高いHEVを用意し、身内でも『アクア』や『カローラ』が内ゲバを仕掛けるなど、もう30系の時代ほど数的な存在感を示すことはないだろうが、まずもってエコカーの知名度においては、プリウスの右に出るクルマはない。
◆「プリウスルック」からの脱却
そんな中で新型が目指したのは愛車として慈しめる存在だ。既報の通り、企画当初は豊田章男社長がタクシー専用車両のようなコモディティ化を容認する姿勢をみせたのに対して、開発陣はパーソナルカーとしての可能性を突き詰めるという抗いがあったという。
そこで愛車の価値として特に志したのは「スタイリング」と「走り」の2点。2~4代目は多分に空力要件から編み出された「プリウスルック」にある意味縛られてもいたわけだが、新型では天頂部をBピラー付近に後退させることでスリークなフォルムへと昇華させた。グラフィカルな灯火類や唐突なキャラクターラインなどの加飾要素が少なく、塊感ですっきりとみせている辺りもデザイナーの自信が窺える。1800mmを下回る全幅ながら痩せ感を感じさせない辺りもその手腕がなせるところだろう。
このデザインによってCd値は前型の0.24から0.27へと後退したと聞いた時は納得がいかない気もしたが、タイヤ幅を細くするなど下方の抵抗低減を加えることで現実的なCdA値は前型と同等レベルをキープしたという。19インチのタイヤサイズは現状では新型プリウス専用ではないかと思うが、今後、電動化に伴って大径化と転がり抵抗低減を両立したい自動車メーカーの採用が増えるかもしれない。早速スタッドレスタイヤも各社から用意されている辺りは、さすがトヨタの看板商品だ。
もうひとつ懸念されるのが乗降性や居住性だ。前席については181cmの筆者でも乗り込みや収まりに大きな不満はない。気持ち窮屈な気もしなくはないが、ウインドウの傾斜による圧迫感は思いのほか気にならない。但し、運転席から後方側の視界はデザインに振り込んだ弊害が感じられる。同様に、後席の収まりも足元はともあれ天井側のクリアランスは大柄な筆者ではギリギリといったところ。室内パッケージやルーミーさという点は、前型の方が優れている。
◆PHEVプロトタイプにショート試乗
もうひとつの売りである走りを支えるのは3つのパワートレインだ。KINTO専用グレードとなる「U」は現行『ノア&ヴォクシー』の搭載を機に刷新された1.8リットルHEV、一般販売の「G」と「Z」は2リットルHEVを搭載。そして3月以降の発売を予定している2リットルPHEVというラインナップになる。
このうち、発売前のPHEVはクローズドコースを数周という限られた環境での試乗となったが、223psというシステム総合出力の片鱗はしっかり感じられた。速さの面では文句はないが、そのパワーをタイトなコーナーでぐいぐい掛けていってもシャシー側がやすやすと音を上げない粘り腰に感心させられる。
件のナロートレッドなタイヤの、縦長のフットプリントをしっかり使えているから、立ち上がりのトラクションも逃げずにすっと前に押し出される感触が心地よい。荷室から後席下に移設された駆動用バッテリーは前型に対して50%容量を上げ、EV走行距離は三桁の大台を狙っているというから、日常的な用途のあらかたはエンジンを稼働させずにこなすことが出来そうだ。
◆1.8リットルと2リットル、2つのHEVの違いは
次いで短時間ながら公道で乗ることが出来たのはUだ。17インチタイヤを履くも、その肉厚感を巧く和らげるホイールカバーが装着されていることもあって、外観的にはGやZに対する見劣りはさほど感じない。が、室内側は真っ黒でさすがに無愛想かなと思うところもある。部品単位の質感も平準的だ。クラウンやアクアも然りだが、このところのトヨタ車は、内装を勝ち技に他社をねじ伏せる作り込みをみせてきた以前の面影が感じられない、そこが残念だ。
Uの走りは至って素直で軽快、そして快適だ。1.8リットルのHEVユニットはハードのみならずマネジメントの刷新もあって、モーターの使用域やエンジンの稼働率、その使用回転域が前型よりかなり洗練されている。限られた状況なので判りかねるところも多いが、動的質感については、これまでのプリウスに乗られてきたリピーターにも充分進化を感じ、納得してもらえる仕上がりだと感じた。
それを踏まえて2リットルのZに乗ると、Uに対して低中速域での乗り心地的な見劣りがあまり感じられない。微小入力域からダンパーの減衰やタイヤの縦バネ効果がしっかり快適性の側にも働いているということだろう。TNGAの初出しとなった前型の弱点を汲んでしっかりリファインしていることが伝わってくる。
システム総合出力はFFで196ps、四駆で199psと、前型に対して50%以上は高い。2リットルということを差し引いてもその伸び幅は大きく、モーター側が頑張ってパワーを積んでいることがわかる。走りはモーターの稼働域が確実に広がっており、充電状況次第ではタウンスピードでもスイスイとEV走行で走るほか、高速の100km/h巡航でも隙あらばの勢いでエンジンを休止させてモーター駆動で燃費を稼いでいる。
新型プリウスは四駆もアグレッシブに進化した。モーターのパワーは前型比で5倍以上の41ps。これを積極的に発進や加速時の蹴り出しに用いており、ドライ路でも乗ればFFとのダイナミクスの違いははっきりと伝わってくる。雪上を試せたわけではないが、この駆動力があれば腕利きならオーバーステアを巧く引き出すこともたやすいだろう。ちなみに足回りのセットアップはFFモデルと基本的に変わらないということだったが、乗り心地についてはちょっと張りの強い印象だった。走りの上質さという点ではFFの側に軍配があがるだろうか。
◆HEVにはまだまだ伸びしろも化けしろもある
カッコや走りが云々よりも、プリウスは燃費ホルダーの道をより実直に突き詰めるべきではないかという巷の評判も耳にするし、それについては僕も同意できるところはある。でも、この25年余を眺めてきて、プリウスがダイナミクス方向への進化の道を選べるほどHEVの可能性が広がるとは思いもよらなかったのもまた事実だ。
HEVにはまだまだ伸びしろも化けしろもある。燃費という今まで培ってきた軸足をずらさないようにしながら、フォームを変えて見たこともない球種を編み出そうとしている、新型プリウスはそんな境地にいるのではないだろうか。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ度:★★★★
渡辺敏史|自動車ジャーナリスト
1967年福岡生まれ。自動車雑誌やバイク雑誌の編集に携わった後、フリーランスとして独立。専門誌、ウェブを問わず、様々な視点からクルマの魅力を発信し続ける。著書に『カーなべ』(CG BOOK・上下巻)。
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